10 / 48
第一章:パーティー追放
10、俺の力は誰がために
しおりを挟む星が流れて落ちた、なんて綺麗な言葉で終わったが、実際はそんな綺麗なものではなかった。
自分の取り分が減った野兎の串焼きをブツクサ言いながら食べ終えた頃。
さてそろそろ寝るかと横になろうとしたら、ライドが空を指さして言った。
「なあ、流れ星が落ちてくる」
「は? 流れ星は落ちるもんだろ」
「いや、そうじゃなくてだな……」
「本当ですわ、星が落ちてきますわ」
「ルルティエラまでなに言って……」
なぜか二人揃って俺の背後の空を指さしている。
なんじゃらほいと振り返って、俺もまた「本当だ、星が落ちてくる」と同じ言葉しか出なかった。
てか本気で星が落ちて来てるんですけど!? 人はそれを隕石と言う。って知らんがな。
「お、おい、逃げるか?」
「逃げるってどこに逃げるんですの!? 落ちてくる星から逃げることなんて……」
あわあわとパニくる二人。そりゃそうだ、大した経験せぬままダラダラ冒険者してきたライドと、初心者冒険者のルルティエラに落ちてくる星の対処法など知る由もない。
そして俺。
俺はまあそれなりに経験ある。星が落ちてくる経験なんてあんまりないだろうが、勇者一行は違うのだよ。
ただ、それは勇者がいたからこそ対処できた。
はたして今の俺に対処できるか?
兄貴に分けた能力は、まだまだ戻ってはこない。右手をグッパグッパと開いて閉じてをしながら確認をする。
「……ま、なんとかなるか?」
足の速さは戻って来てる。洞窟探索でライドに分けた能力は、とうに戻っている。一人なら余裕で走って逃げれるだろう。
でもそれじゃ面白くない。なぜって隕石の中ってのは宝箱みたいなものなのだから。経験ない者は知らないだろうが、俺は経験あるから知っている。
いつも力自慢のモンジーが隕石を腕で受け止め、動きがゆるくなったところにセハが魔法で完全に動きを止める。そこにミユの魔法で攻撃力を上げた兄貴──勇者が隕石に剣をふるう。それであっというまに隕石は粉々だ。
その中にあるお宝を除いて。
そしていつも見ているだけの俺以外で、お宝を山分けしていた。まあそれは仕方ないから別にいいんだけど。
さて、今この場には力自慢のモンジーはいない。
黒魔導士のセハも、白魔導士のミユもいないし、当然勇者の兄貴もいない。
いるのは役立たずな冒険者二人に、俺。無職の俺。
その状況でなんとかなるなんて発言する俺に、完全に変なもの見るような目をライドが向けてきた。
「お前、死んだら浮遊霊になりそうだな」
俺のことなんだと思ってんだ。もう駄目だと覚悟したのか、ライドがトンチンカンなことを言ってくる。
まあそりゃそうだよな、勇者パーティー追い出されて無職な俺。ライドより足が速いのは披露したが、それ以外は特に大した能力もなくて役立たず。ライドの中の俺なんてその程度のイメージだろう。
死を目前にして、なぜ俺の死後を予想するのかわからんが、どうでもいい。
だって俺は死ぬつもりないのだから。
グッパと手をもう一度握って開く。そこに力を感じたから。兄貴に分けた力が戻るのを感じたから。
それにと思う。俺が分け与えたのは、兄貴だけじゃない。モンジーにも、俺は分けたのだ。俺の勇者としての能力を、俺は多分に奴に分けたのだ。だからこそ、あいつは力自慢の戦士兼武闘家たりえたのだ。俺の力なくして、あいつのあの状態はありえなかった。
ただの筋肉ダルマになるはずだったモンジーを思い出し、俺はニヤリと笑う。
「モンジー、お前の力、確かに返してもらった」
まだ完全ではない、兄貴のそれはほとんどまだ戻って来ていない。戻ってるのはモンジーに分けたぶんだけ。
でもそれで充分だった。隕石を止めるには、それで充分。
だって俺、勇者だから。
規格外の能力、もってますから──!
「おい、ザクス!?」
隕石の前に立ちはだかる俺に、焦った様子のライドの声。俺の気がふれたとでも思ってるんだろうな。
だがその顔は意外にも心配そうな顔をしてる。
おや、と思う。
お前、俺のことを少なからず心配してくれるのか?
「ばか、やめろ! 命を無駄にするな!」
その言葉に、片眉を上げる俺。
へえ、実はけっこう優しいやつじゃないの、ライド。
そしてルルティアらもまた、目に涙を浮かべている。
「だめですわザクス! とにかく逃げるんです! もしかしたら万に一つの可能性で生き延びることができるかも──」
彼女もまた、心配してくれた。
瞬間、脳裏に浮かぶのはかつての仲間の嘲笑にも似た視線。そして言葉。
『ザクス、お前は本当に役立たずだな! 隕石を前にして何もしてないのお前だけじゃないか。そんなやつにお宝を分けてやらないからな!』
勇者な兄貴が笑って言う。
『本当にザクスはひょろっちいな。隕石どころか俺が投げる石も避けれないんじゃないか? お、当たった』
石を俺にぶつけて、やっぱり笑うモンジー。
『はあ……ザクス、あんたさあ、せめてもう少し……いや、もういいわ。何を言っても無駄ね』
呆れたようにため息をついて白い眼を向けるセハ。
『……』
かける言葉もないというように、俺を見ることもしないミユ。
みんなみんな冷たかった。そりゃ俺も何も言わなかったのが悪いのかもしれない。俺の力を分けてるんだって言えば良かったのに言わなかったんだから。
でも言ってどうなる? 力の分け与えを話したら、あいつらのことだ、クエストがうまくいかなければきっと俺を責めるだろう。俺の能力が悪いと責任をなすりつけるだろう。
人というのは根本は変わらない。あいつらの根本はそこにあった。俺を馬鹿にするという根本があったんだ。
「ザクス!」
対してライドにはそれがない。役に立たないと俺に言いながら、けれど心配して駆けてくるお人よしのライド。
「ザクス!」
ルルティエラもまた、泣きそうなくせに、共に駆けてくる。
そんな風に心配されたのはいつぶりだろうか。そんな風に俺のことを思って助けようとしてくれたことが、かつての仲間にあっただろうか。
出会ってからこれまで、初心者冒険者の頃から、かつての仲間たちは俺に冷たかった。一緒に冒険に出て頑張ろうと励ましあった兄貴でさえも、俺のことを馬鹿にした。
だから嬉しかった。
本当に嬉しかった。
ライドとルルティエラ、二人になら俺の真の力を見せてもいいと思った。自分でやるのは面倒だと思い続けてたのに、今俺は自分でやってもいいと、面倒だと思わないで動ける気がした。
ああそうか。
そこで俺は気付く。
面倒だと人に能力を分けていたのは。
面倒だからと動かなかったのは。
そう思えなかったからだ。そうしたいと思えなかったからだ。
俺を馬鹿にするやつらの為に動きたいとは思えない。
けれど俺を心配してくれる、優しいやつらのためなら。そのためなら。
「うおおおお!」
叫んで拳を隕石に向ける。
そのためなら。いい奴らのためなら。
俺は自分で動くことを面倒だとは思わないんだと。
いま、初めて知った。
61
あなたにおすすめの小説
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
二度目の勇者は救わない
銀猫
ファンタジー
異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。
しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。
それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。
復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?
昔なろうで投稿していたものになります。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる