弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

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第二章:新旧パーティーのクエスト

8、目指す場所

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 そこで兄貴達と別れて終わり、ではなかった。最悪な再会にはまだ続きがある。
 川に水浴びに向かったはずの兄貴が、去ろうとする俺達の元へまた戻ってきたのだ。
 生い茂る草をかき分け、その憎たらしい顔を覗かせる。

「おいザクス、お前魔王城を目指せ」
「は?」

 いきなり何を言い出しやがると睨めば、兄貴がニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。

「そこの生意気な男の言うことなんざ信じないけどよ。本当に隕石破壊したっつーんなら、お前の真の力は凄いってことになるだろ? ならその能力を世のため人のために使えよ」
「信じてないくせに、なにを……」
「つべこべ言ってねえで魔王を倒す旅に出ろ。そして俺らと……いや、俺と競え。魔王を先に倒すのは俺か、お前か」

 言いたいことを勝手に言って、背を向ける兄貴。

「結果は見えている。だがどんな幸運だか知らんが、僧侶を仲間にしてるんだ。貴重な能力を無駄にするな」
「……」
「かりにも俺のパーティーにいたやつが、ただの平凡な、無職の冒険者で終わるんじゃねえよ」

 でもって、と一度振り返った兄貴は「魔王城に辿り着いてみろ」と言うのだった。
 それはかつて冒険者になると言っていた時の表情に似ていた。幼く懐かしい記憶の中にある兄が、一瞬目の前に姿を見せる。
 けれどそれは一瞬。
 次の瞬間には、

「せいぜいあがけ。ま、最後は俺が魔王を倒すんだけどな。お前はその踏み台にでもなってろ」

 いつもの歪んだ笑みを浮かべる兄貴に戻っている。
 それで話は終わりと、兄貴はまた茂みの向こうへと消えた。もう戻ってくる気配はない。

「なんだありゃ、勝手なこと言いやがって」
「本当ですわ。気分が悪いったら……」

 呆れたようなライドは、また俺の肩に肘を置く。視線の先は、兄貴が去って揺れる茂みだ。
 ムスッと不機嫌そうなルルティエラの肩には、俺の懐に隠れていたミュセルが飛んでとまった。

「あれはそうとうじれておるのう」

 ミュセルの言葉に、俺は苦笑するしかなかった。
 ふう、と一つ息を吐いて目を閉じる。目の前が暗闇に包まれる。
 ふっと目を開けば、まばゆい陽の光が目をついた。

「さて、帰るか。もう街の門は開いてるだろ」
「だな」
「ですわね」
「うむ」

 俺の言葉に仲間がそれぞれ頷いて答える。一度振り返るも、川のせせらぎが聞こえるだけ。

「魔王、か……」


・ ・ ・


 無事にクエストを終わらせた俺達は、ようやく街へと戻った。そのまま冒険者ギルドに行って結果を報告する。
 そこへやってきた依頼者の学者が、幽霊とゾンビをせん滅させたという報告に随分喜んでくれて、当初の報酬を増額してくれた。あんまり期待してなかったんだろうな。

「へっへっへ~、苦労したかいがあったってもんだ」
「まるで盗賊みたいな下品な言い方だな」
「いや俺盗賊なんですけど」
「じゃ、野盗か」
「俺は人を襲わねえよ。これでも冒険者だ」
「俺の財布をすったのに?」
「過去は振り返らない主義なので忘れました」

 なんだそれはと苦笑しつつ、俺は均等に分けた報酬を確認して、財布を懐に入れた。兄貴達の時は不公平な配分で、かなり取り分が少なかったことを思うと、なんだか重みが違って感じる。

「ところでよお、ザクス」
「ん~?」

  久々に財布が潤った。さてなにを買おうかとあれこれ思案をめぐらせていたので、ライドの呼びかけには生返事だ。

「お前、本気で魔王城目指すのか」

 ピクリと俺の手が震える。

「お前のクソ兄貴の言いなりになるのはしゃくだが、冒険者たるもの一度は憧れ目指す魔王城ってか」
「ライドは魔王を倒したいのか?」
「そんなん目指す奴がスリすると思うか? パーティーも組まず、まともに冒険もしないで街でブラブラしてるとでも?」
「そうだよな」

 ライドには俺と同じモノを感じるのは今に始まったことではない。

 片や冒険者資格だけ持って冒険しないライド。
 片やダルい、面倒と、能力分けて他人に戦ってもらってた俺。

 そんな最低冒険者たる俺らが打倒魔王を目標にするわけがない。
 そもそも俺は、ライド達に出会わなければ冒険者やめるつもりだったんだぞ? 魔王なんて嫌すぎる、めんどい。
 兄貴の挑発にのる義理も義務もないのだ。

「俺は面倒なことは嫌いだ。自由気ままにクエストクリアして、適当に稼いでほどほどに楽な生活をする冒険者になる」
「うっわ、最低だな」
「お前はどうなんだよ、ライド」
「ザクスとは気が合うと最初から思ってました」
「最低じゃねえか」

 お互いの最低発言に思わず笑ってしまった。
 さて、ライドの意見は聞いた。あとはルルティエラの意見なのだが……

「ルルティエラはどうしたい? 僧侶としては打倒魔王といきたいか?」

 俺の問いに、顎に人差し指を当て思案するルルティエラ。だが思考時間は一瞬だった。

「いいえ」

 ほぼ即答である。

「わたくしは、ザクスと一緒であればどこでもいいですわ」
「え、ルルちゃん、俺は?」
「ライドはザクスが許可するのであれば、一緒でかまいません」
「なんだ、ルルちゃんはザクスに惚れ……あんがっ!」
「……手がすべりました」

 手がすべって、室内に飾ってある花瓶がライドの顎をヒットするものだろうか。なんてことは追及しないほうがいいのだろうな。
 ルルティエラの意見も聞いたところで、俺はテーブルの上にだらしなく大の字で横になってる小さい存在を見た。

「ミュセル、とりあえず大きな森がある場所に向かおうと思う。そこで仲間と合流すればいい」
「なぜじゃ?」

 妖精は希少で特殊能力をもっている。それゆえ人に狙われ捕まったら、もうその時点で人生……じゃない、妖精生は終わったも同然。だからこそ妖精は大きな森の、人が入れぬほどの奥地で生息すると聞いている。ミュセル以外の妖精を見たことないから分からんが。それくらい人目につかない場所で彼らは生息してるのだ。
 いまだ大きな森を通らなかったのでミュセルは一緒にいるが、本来はありえぬ状況なのだ。ミユの不穏な言葉も思い出されて、とりあえずの目的地として森を掲げた。
 だからこその発言だったのだが、ミュセルは即答で問い返して来た。首を傾げて。

「なぜって……俺らと一緒じゃ狙われるし、危ないから」
「おぬしは守ってくれぬのか?」
「え? いやあ……どうだろ」
「そこは『俺が守ってやるよ』ではないのか。まったく、情けない男じゃのう。放っておけん」
「はい?」

 妖精に情けないとか言われちゃいましたよ。

「我は我のしたいようにする。結論、我はザクス、おぬしと共に行く」
「ええ!? いやしかし……」
「異論も反対も受け付けぬ」

 驚き戸惑う俺をギロッと睨みつけるミュセル。その目には確固たる決意と覚悟が見て取れた。
 う~ん、だいぶ勇者の能力が戻ってるとはいえ、大丈夫かなあ。
 能力が戻ったイコール使いこなせるわけではない。守りながらの戦いをはたしてやり遂げることができるかどうか……。
 その時、不安に顔を引きつらせる俺の首に、背後から腕が回される。ライドだ。

「まあまあ、あんま難しく考えんなよザクス。ちっこい妖精なんざ簡単に人の目から隠せるさ。なによりミュセルはいろんな能力があって強い。あれこれ悩んでる暇があるなら、まずは行動だ!」
「お前は気楽だよなあ」

 そのあまりに物事を簡単に考える性格は、時に面倒ごとを引き起こす。だが今は、少し救われてるのは確かだ。言ったら調子に乗るから言わないけれど。

「そうですわ、きっとなんとかなりますわよ」

 ニコリと頷くルルティエラを見て、俺の揺らいでいた覚悟は決まる。

「そうだな。ま……なんとかなる、かな?」

 アンバランスのようでバランスのとれてるパーティーだと苦笑し、俺もまた頷いた。
 そうだな、息がつまるようなパーティーからようやく解放されたんだ。難しいことは考えないで、今後は気楽に行こう。

「じゃ、ミュセルも宜しくってことで」

 俺の言葉にミュセルは満足げに頷いた。そして

「女体が嫌だというのなら、男体になるから安心せい」
「……え?」

 今なんて言った? と問い返す間もなく、ミュセルの体がまたでかくなった。
 俺より少しでかい身長、ライドよりすらっとした体躯の、みごとなまでの男性の姿となったミュセル。
 髪も瞳も変わらない、少しばかり顔つきは凛々しくなり、そして当然のように身にまとっていた布は床に落ちて……
 背に羽が生えた素っ裸の男が、腰に手を当てふんぞり返るように俺の前に仁王立ち。
 直後、ルルティエラの甲高い悲鳴と、頬を打つ鈍い音が宿屋に響き渡るのであった。


* * *

 それからしばらく後の勇者一行。

「おいセハ、ザクス達はどうなってる?」
「あたしが知るわけないでしょ」
「モンジー、魔王城はこっちで合ってるんだよな!?」
「合ってるとは思うが、何年かかるか知らねーよ」
「そんなのはどうでもいい! おいミユ、ザクス達もこっちに向かってるはずだよな!?」
「知らないですう」
「くそ!」

 相変わらずクエストが思うようにこなせず、勇者のイライラは増すばかり。パーティーの空気は最悪だ。
 そんな中で、小休止の宿屋でふと思い出されるはザクスのこと。
 兄である勇者は弟の顔を思い出した。
 セハやミユに言われるでもない。最後に会った弟の容姿の変貌に、自分も気付いていた。だが認めたくなかった。弟の髪が綺麗な金髪になってきているなんて。顔つきが変わってきてるなんて。
 だってそれは自分の色だったはずなのに。その美貌は自分が持っていたはずなのに。
 嫌な気分になるので最近は鏡を見なかった。だが視界の端に見て取れる、自身のくすんだ茶色の髪。水に映る変貌した自身の顔。

──兄ちゃん!

 不意に声が聞こえた気がした。
 思い出されるは幼い頃のザクス。だが記憶の中のザクスを、兄は……勇者はハッキリ思い出すことができない。

(あいつが生まれた時、どんな容姿だった? あいつの幼い頃はどんなだった? ……なにより、俺はどんな容姿をしていた? いつから勇者の能力に目覚めた? ザクスが生まれる前からあったか?)

 三歳下の弟の、たった三歳しか変わらない弟の幼い頃が思い出せない。自分の過去を思い出せない。
 俺は一体どうしたんだと手で顔を押さえるも、それはひどい頭痛のせいで苦悶に歪む。

「ザクス、早く追いかけて来い。追いかけて魔王の前までたどり着け。そのとき、魔王と共にお前を八つ裂きにしてくれる……」

 指の隙間から見える目は暗く濁っていた。
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