彼に30歳の誕生日に捨てられた平凡OLですが人気俳優の絶倫ダーリンに溺愛されています

人妻あず。

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(……まだ、現実じゃないみたい)

 帰りの電車に揺られながら、私はぼんやりと窓の外を眺めていた。
 ガラスに映る自分の顔が、どこか夢見心地に見える。

 昨日から今朝にかけて起きた出来事を、頭の中で何度もなぞってしまう。
 思い出そうとしなくても、勝手に浮かんできてしまうのが困りものだ。

 タクシー代を出すと言われたのを、私は必死に断った。
 現実に戻れなくなるのが怖くて、電車に逃げ込むみたいに乗り込んだ。

 結局――
 あのあと、一回で終わるはずもなくて。
 
(……三回、だもんね)

 細くて、どこか儚げに見える身体の、いったいどこにあんな熱を隠していたんだろう。
 思い出すだけで、子宮が疼いた。

 出発時間がぎりぎりで、シャワーを浴びる余裕すらなかった。
 そのせいか、彼の精液がまだ身体に残ってるみたいだ

(……期待しないって、決めたのに)

 そんな気持ちとは裏腹に、帰り際の彼はあまりにも自然に言ったのだ。

――連絡先、交換しよ。

 断る理由なんて、見つからなかった。
 流されるままにLINEを交換して、気づけばスタンプを送り合っていて。

 画面に残るやりとりを思い出して、胸がきゅっとする。

(……また、会えるかな)

 そんな甘い考えが浮かんでは、もう一人の自分が慌てて首を振る。

(違う。あれは夢)

 誕生日に、神様がほんの気まぐれで見せてくれた、現実感のない夢。
 地味で、取り柄もない私は――

(明日からまた、堅実に生きなくちゃ)

 電車が次の駅に滑り込む。
 アナウンスの声が、容赦なく現実を告げていた。
 
 それでも、胸の奥に残った残り火だけは、なかなか消えてくれそうになかった。
 
「まどか! 三上さん、結婚するって知ってた!?
 しかも営業の新井君とだって!」

月曜の朝、出社するなり同期の岡田真理(おかだ・まり)が小走りで駆け寄ってきた。
開口一番のその一言に、心臓が一瞬だけ跳ねる。

「あー……なんか、噂では……」

私は曖昧に笑って、言葉を濁した。

「え、でもさ。まどか、新井君と付き合ってなかったっけ?
 ……大丈夫なの?」

そうだった。
私は、翔太と付き合っていた。

「少し前に別れたの。もう大丈夫だよ、ありがとう」

そう答えると、真理は何か言いたげに口を開いて――
結局、何も言わずに、いたたまれないような目で私を見た。

大丈夫。
これは強がりじゃない。

週末の出来事が、あまりにも衝撃的すぎて。
翔太と過ごした日々が、ずっと前のことみたいに遠く感じられただけ。

「あ、まどか先輩、真理先輩」

噂をすれば、だった。
三上里奈が、明るい声と一緒にフロアへ入ってくる。

その左手に、見慣れない光がきらりと反射した。

「三上さん、それ……」

真理の視線が、自然と指輪へ向かう。

「あ、これですか? 土曜日にプロポーズされたんです!」

里奈は、少し照れたように笑う。

「実は……赤ちゃんも授かってて。
 これから産休に入ると思うんですけど、よろしくお願いします!」

幸せそうな報告。
祝福されて当然の未来。

――そうか。

翔太は、私を振った翌日に、彼女にプロポーズしたんだ。

あの土曜日に。
あの夜の、すぐあとに。

胸の奥が、ほんの一瞬だけひりついた。
でもそれ以上に、なぜか現実味がなかった。

その土曜日、私は蓮と溺れるくらい行為をしていたのだ。
あの強烈な快感を思い出して思わず下半身がきゅっとなる。

「……まどか?」

真理が、こっそり耳打ちしてくる。

「やっぱり、ショックなんじゃない?」

その声で、はっと我に返る。

「ううん、ちょっとぼーっとしてただけ」

私は笑って、里奈に向き直った。

「おめでとう、三上さん」

その言葉に、里奈はぱっと表情を明るくする。

「ありがとうございます!」

背中越しに、真理が小さく呟いた。

「……あんた、ほんといい子すぎ」

私は聞こえないふりをして、デスクに向かった。

 ふと、里奈のデスクに目が留まった。
 パソコンの脇に、小さな写真立てが置かれている。

(……あれ?)

 視線を凝らして、思わず息を呑んだ。

 ――翔太じゃない。
 そこに写っていたのは、蓮だった。

「……これって」

 思わず口にしてしまうと、里奈は少し照れたように笑う。

「俳優の佐伯蓮くんです。特撮の頃からずっとファンなんですよ」

 あっけらかんとした声。

「彼氏と推しは別物ですよね~?」

 胸の奥が、ひくりと跳ねた。

「……そうなんだ」

 それ以上、何も言えなくて。
 余計な一言が零れないように、必死で口元を引き結ぶ。

「先輩は、推しとかいないんですか?」

「推しかぁ……」

 一瞬だけ、脳裏に浮かぶ顔。
 でも――それを“推し”と呼ぶのは、どこか違う気がした。

「特に、いないかな」

 そう答えながら、私は視線を逸らす。

(……推し、じゃない)

 あれは、もっと――
 近くて、熱を持った存在だった。

「それより」

 私は話題を切り替えるように、声を少しだけ強めた。

「先週頼んでた書類、もうできてる?」

「え、あ、はい! 今すぐ持ってきます!」

 里奈が慌てて立ち上がるのを見送りながら、私はそっと息を吐いた。

 胸の奥に残るざわめきを、誰にも気づかれないように押し隠して。
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