彼に30歳の誕生日に捨てられた平凡OLですが人気俳優の絶倫ダーリンに溺愛されています

人妻あず。

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 蓮に抱かれてから、5日が過ぎた。

 その5日で、蓮からの連絡は一度もなかった。
 ――私からも、していない。

 それなのに。

 スマホが震えるたび、心臓が跳ねる。
 もしかして、今度こそ――なんて期待してしまって、すぐに自分で否定する。

(違う。違うって、わかってるのに)

 通知を確認して、違う名前だと知って、少しだけ肩の力が抜ける。
 それを、もう何度繰り返したかわからない。

 意味もなくLINEのトーク画面を開いては閉じる。
 最後に並んでいるのは、あの日のスタンプのまま。

(……5日、か)

 短いはずなのに、やけに長く感じる。

「ねえ、まどか。最近ちょっと変じゃない?」

 昼休み。
 職場近くのカフェで、向かいに座る真理がストローをくるくる回しながら言った。

「何してても、上の空っていうかさ」

「え、そうかな?」

 ドキリとして、私は慌てて笑ってみせる。

「気のせいだよ」

「無理しなくていいんだよ?」

 真理は、私の目をまっすぐ見て言った。

「新井君のこと、やっぱりショックだったんでしょ?」

 ――ああ、そう思われてるのか。

 その事実に、力がふっと抜けた。

 あのあと、翔太とは何度か顔を合わせた。
 仕事の話。天気の話。
 当たり障りのない会話だけ。

 それでも、彼が何か言いたげな目をしているのは、なんとなく感じていた。

「翔太のことは……いいの。本当に」

 自分でも驚くほど、はっきり言えた。

 心底、どうでもよかった。
 それよりも――

(蓮に期待してしまう自分の方が、ずっと情けない)

「……それならいいんだけど」

 真理はそう言って、一拍置いてから続ける。

「ねえ。私たち、もう三十じゃん?」

 その一言に、胸の奥がきゅっとなる。

「彼氏いないの、そろそろまずくない? 一緒に婚活パーティー行こうよ」

「婚活パーティー……」

 その響きを、頭の中で転がす。

(そうだよね)

 蓮のことばかり考えて、立ち止まってる場合じゃない。
 私はもう、三十歳なのだ。

「……いいかも」

 そう答えると、真理の表情がぱっと明るくなった。

「ほんと? じゃあ決まりね!」

「うん、行こっか。どこらへんがいいだろう?」

「銀座におすすめのパーティーあるっていうから申し込んどくね!」

「もう調べてたんだ」
 少し笑って、私はグラスに残っていたアイスラテを、一気に飲み干した。

 冷たい苦味が、喉を通って胸に落ちる。

(現実に戻らなきゃ、これが私の現実)

 そう思いながら――
 それでも、スマホが震えないか、どこかで待っている自分がいた。

 真理は、その日のうちにさっそく金曜夜の婚活パーティーに申し込んでくれた。

「勢い大事だから。悩む前に行動!」

 そう言い切るあたりが、いかにも真理らしい。

 当日の金曜日。
 私はいつもの無難な通勤服より、ほんの少しだけ気合いを入れたワンピースを選んだ。

 色は落ち着いたネイビー。
 膝丈で、ウエストがきれいに出るデザイン。
 素材は柔らかくて、動くたびにふわりと揺れる。

 その上に、薄手のコート。
 十一月後半の空気は、朝晩になるともう冬の匂いがする。

 鏡の前で一度深呼吸してから、会社へ向かった。

「まどか、いい感じじゃん!」

 出社するなり、真理が目を輝かせる。

「今日はハイスペかイケメン、絶対捕まえよ!」

 そう言う真理自身も、いつもより明らかに気合いが入っていた。
 淡い色のニットは胸元が少しだけ開いていて、身体のラインがはっきり出る。
 足元はヒールのあるショートブーツ。

「真理も気合入ってるじゃん」

「当然でしょ。戦場だよ、戦場」

 冗談めかして笑い合う。

「今日は定時で上がらなきゃね」

「うん。仕事なんてしてる場合じゃない」

 そんな軽口を叩きながらも、胸の奥は少しだけ落ち着かなかった。

 

 仕事を終えて、向かったのは銀座の一角。
 パーティー会場は、落ち着いた雰囲気のレストランを貸し切って行われていた。

 入口のガラス扉を開けると、ふわっと暖かい空気と、控えめな照明。
 ウッド調の内装に、間接照明がやさしく灯っている。
 窓の外には、夜の銀座らしいきらきらした街灯り。

 金曜の夜らしく、どこか浮き立った空気が漂っていた。

「ここかぁ……」

 思わず小さく呟くと、真理が腕を組んでくる。

「緊張してる?」

「ちょっとだけ」

「大丈夫大丈夫。みんな同じだから」

 受付で名前を告げると、スタッフに案内されてプロフィールカードを渡された。

 年齢、職業、休日の過ごし方、結婚観――
 無難な項目が並ぶ紙を前に、ペンを握る手が少しだけ重くなる。

(……婚活、してるんだな)

 改めて実感して、胸の奥がきゅっとした。

 このパーティーは、30代・正社員限定。
 最初は一対一で順番に話し、一定時間ごとに席を移動する。
 後半はフリータイムで、気になった相手と自由に話せる形式らしい。

 最後に番号を書いて投票し、カップル成立――
 そんな流れだと、スタッフが丁寧に説明してくれた。

 会場を見渡すと、
 スーツ姿の男性、きれいめなジャケットの人、
 女性も落ち着いたワンピースやニットにスカート姿が多い。

 派手すぎず、地味すぎず。
 「ちゃんとした大人」ばかりが集まっている印象だった。

(……ここで、ちゃんと現実に戻らなきゃ)

 そう思いながらも、
 胸のどこかが、まだ少しだけ落ち着かないままだった。

「……なんか、疲れた」

 一対一のトークがひと通り終わったタイミングで、私は椅子にもたれかかるようにして呟いた。

 思っていた以上に、消耗している。

「まあねー。三十人だもん」

 向かいの席で、真理も大きく息を吐いた。

「誰か、いい人いた?」

「うーん……正直、もう誰が誰だか……」

 自分でも情けない答えだと思う。

 思い返そうとしても、頭に浮かぶのは似たようなスーツ姿ばかり。
 同じくらいの年齢で、同じような仕事の話。
 休日の過ごし方も、趣味も、将来の話も――無難で、正解で、つまらない。

(……比べちゃ、いけないのに)

 わかっているのに、どうしても浮かんでしまう顔があった。

 蓮。

 あの声。
 あの距離感。
 あの熱。

 目の前にいた人たちの誰かに抱かれる自分を想像しようとして――
 なぜか、どうしても想像できなかった。

「まどか、顔死んでるよ」

 真理が苦笑しながら言う。

「私はね、五番かな~。お医者さんだし」

 投票用紙を見つめながら、指先で番号をなぞる。

「でも競争率、高そうなんだよね。
 十二番の研究職の人も、悪くなかったかも」

 その横顔は、真剣そのものだった。

(……真理は、ちゃんと現実を見てる)

 私は、まだここにいない。

「この後のフリータイムが勝負だからさ」

 真理は顔を上げて、にっと笑う。

「気合入れ直そ?」

「……うん」

 頷きながらも、胸の奥が重い。

 ここに来たはずなのに。
 前に進むために来たはずなのに。

(私、何しに来たんだろ)

 ざわざわと再び人が動き始める会場で、
 私はひとり、取り残されたみたいな気持ちになっていた。

やがてフリータイムが始まった。

 
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