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しおりを挟むカップル発表が終わり、会場に小さなどよめきが広がった。
真理は、十二番の男性の名前が呼ばれた瞬間、ぱっと顔を明るくした。
私の番号も、続けて読み上げられる。
二十一番。
拍手の音が、少し遠くで鳴っているみたいに聞こえた。
「じゃあ、この先は別行動だね」
真理は私にそう言って、軽くウィンクする。
「楽しんで」
そのまま、十二番の男性の手を自然につないで、人の流れの中へ消えていった。
迷いのない背中だった。
取り残されたみたいな感覚が、じわりと足元から這い上がってきて居心地が悪い。
「……じゃあ、行きましょうか」
隣から声がして、はっとする。
二十一番の男性が、少し距離を詰めて立っていた。
「この近く、よく使う店があるんです」
歩き出した拍子に、手の甲がかすかに触れた。
ほんの一瞬。
でも反射的に、私は手を引っ込めていた。
そのまま並んで歩く。
沈黙が、思ったよりも重い。
夜の銀座は明るくて、通りには人も多いのに、なぜか、私たちの間だけ空気が薄い。
「……銀座、よく来るんですか?」
耐えきれずに、無難な質問を投げた。
彼は待っていました、と言わんばかりに口角を上げる。
「ええ。中央区役所なんで、すぐなんですよ」
言いながら、少しだけ胸を張る。
ネクタイを指先で整える仕草が、やけにきっちりしていた。
「仕事帰りにも、よくこの辺で食べるんです。 便利で、落ち着いてて」
「そうなんですね」
相槌を打ちながら、足取りがほんの少しだけ遅くなる。
横顔は穏やかで、声も優しい。 条件だって、たぶん申し分ない。
それでも。
さっき触れた手の甲が、まだ落ち着かない。
寒いわけでもないのに、コートの前を、無意識にきゅっと閉じていた。
会場から歩いてほんの数分。 路地に面した階段を、二、三段降りた先に、その店はあった。
半地下の扉を開けた瞬間、外の喧騒がすっと遠ざかる。
照明は低く、琥珀色。
壁一面の濃い木目が光を吸い込んで、店内全体に重みのある静けさをつくっていた。
カウンターは磨き込まれた無垢材で、年月を経た艶がある。
クラシックのBGM。
スーツ姿の客たちが、言葉を選ぶように低い声で話している。
(……銀座だ)
そう思わせる、過不足のない空間だった。
「どうぞ」
彼は迷いなくカウンター席を選び、自然な動きで奥を示す。 勝手知ったる、という歩き方。
私は一つ空けて腰を下ろした。
革張りのスツールが、思ったより硬い。
「まどかさん、何にします?」
メニューを手にしながら、彼がこちらを見る。
黒地に金文字の、重たい一冊。
カクテル名が並んでいるのに、どれも急に現実味がなく感じた。
「……じゃあ、カシスオレンジで」
無難な答えを選ぶ。
「かしこまりました」
バーテンダーの低い声。
「俺は、シーバス水割りで」
彼は即答だった。
カウンターの内側で、バーテンダーが静かに動く。
氷を掴む音。
グラスに触れる金属音。
カシスの赤が、オレンジに溶けていく様子が、目の端に映った。
差し出されたカクテルは、背の高いグラス。
深い赤が、間接照明を受けてゆらりと揺れる。
グラスに触れると、ひんやりと冷たい。
一方、彼の前には、低めのタンブラー。 透明な水の中で、氷がゆっくり回り、ウイスキーの色を淡く広げていく。
彼はグラスを手に取り、軽く傾けた。
「乾杯、ですね」
カツ、と小さく音が鳴る。
口に含んだカシスオレンジは、甘くて、少しだけ薄い。 さっきまでの緊張が、表面だけ溶けていく感じ。
落ち着いた空間。
悪くない店。
悪くない相手。
それなのに。
この場所に座っている自分が、 どこか借り物みたいに感じられて仕方なかった。
ふと、スマホが震えているのに気がついた
——真理?何かあったの?
「ちょっとすみません」
LINEのトーク画面を開くと、蓮からのメッセージが入っていた。
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