彼に30歳の誕生日に捨てられた平凡OLですが人気俳優の絶倫ダーリンに溺愛されています

人妻あず。

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 カップル発表が終わり、会場に小さなどよめきが広がった。

 真理は、十二番の男性の名前が呼ばれた瞬間、ぱっと顔を明るくした。 
 私の番号も、続けて読み上げられる。

 二十一番。

 拍手の音が、少し遠くで鳴っているみたいに聞こえた。

「じゃあ、この先は別行動だね」

 真理は私にそう言って、軽くウィンクする。

「楽しんで」

 そのまま、十二番の男性の手を自然につないで、人の流れの中へ消えていった。 
 迷いのない背中だった。

 取り残されたみたいな感覚が、じわりと足元から這い上がってきて居心地が悪い。

「……じゃあ、行きましょうか」

 隣から声がして、はっとする。

 二十一番の男性が、少し距離を詰めて立っていた。

「この近く、よく使う店があるんです」

 歩き出した拍子に、手の甲がかすかに触れた。

 ほんの一瞬。  
 でも反射的に、私は手を引っ込めていた。

 そのまま並んで歩く。 
 沈黙が、思ったよりも重い。

 夜の銀座は明るくて、通りには人も多いのに、なぜか、私たちの間だけ空気が薄い。

「……銀座、よく来るんですか?」

 耐えきれずに、無難な質問を投げた。

 彼は待っていました、と言わんばかりに口角を上げる。

「ええ。中央区役所なんで、すぐなんですよ」

 言いながら、少しだけ胸を張る。 
 ネクタイを指先で整える仕草が、やけにきっちりしていた。

「仕事帰りにも、よくこの辺で食べるんです。 便利で、落ち着いてて」

「そうなんですね」

 相槌を打ちながら、足取りがほんの少しだけ遅くなる。

 横顔は穏やかで、声も優しい。 条件だって、たぶん申し分ない。

 それでも。

 さっき触れた手の甲が、まだ落ち着かない。

 寒いわけでもないのに、コートの前を、無意識にきゅっと閉じていた。

 会場から歩いてほんの数分。  路地に面した階段を、二、三段降りた先に、その店はあった。

 半地下の扉を開けた瞬間、外の喧騒がすっと遠ざかる。

 照明は低く、琥珀色。 
 壁一面の濃い木目が光を吸い込んで、店内全体に重みのある静けさをつくっていた。  
 カウンターは磨き込まれた無垢材で、年月を経た艶がある。

 クラシックのBGM。  
   スーツ姿の客たちが、言葉を選ぶように低い声で話している。

(……銀座だ)

 そう思わせる、過不足のない空間だった。

「どうぞ」

 彼は迷いなくカウンター席を選び、自然な動きで奥を示す。 勝手知ったる、という歩き方。

 私は一つ空けて腰を下ろした。  
 革張りのスツールが、思ったより硬い。

「まどかさん、何にします?」

 メニューを手にしながら、彼がこちらを見る。

 黒地に金文字の、重たい一冊。  
  カクテル名が並んでいるのに、どれも急に現実味がなく感じた。

「……じゃあ、カシスオレンジで」

 無難な答えを選ぶ。

「かしこまりました」

 バーテンダーの低い声。

「俺は、シーバス水割りで」

 彼は即答だった。 

 カウンターの内側で、バーテンダーが静かに動く。 
 氷を掴む音。 
 グラスに触れる金属音。  
  カシスの赤が、オレンジに溶けていく様子が、目の端に映った。

 差し出されたカクテルは、背の高いグラス。
  深い赤が、間接照明を受けてゆらりと揺れる。

 グラスに触れると、ひんやりと冷たい。

 一方、彼の前には、低めのタンブラー。  透明な水の中で、氷がゆっくり回り、ウイスキーの色を淡く広げていく。

 彼はグラスを手に取り、軽く傾けた。

「乾杯、ですね」

 カツ、と小さく音が鳴る。

 口に含んだカシスオレンジは、甘くて、少しだけ薄い。  さっきまでの緊張が、表面だけ溶けていく感じ。

 落ち着いた空間。 
 悪くない店。  
    悪くない相手。

 それなのに。

 この場所に座っている自分が、  どこか借り物みたいに感じられて仕方なかった。

 ふと、スマホが震えているのに気がついた

 ——真理?何かあったの?

 「ちょっとすみません」

 LINEのトーク画面を開くと、蓮からのメッセージが入っていた。
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