【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗

文字の大きさ
28 / 176
第一部【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】

二十五話 生きて帰るために

しおりを挟む
 あれから、どれくらいの時間が経っただろうか。
 ひとまず場所を食堂へと移し、俺たちは気持ちを落ち着かせることにした。
 時間は動かないので、時計もスマートフォンも見る意味はない。
 ただ、数十分くらいは五人でぼんやりと時間を過ごしていたはずだった。
 皆、当然ながら口数が減り、交わされた言葉は数えるほどだった。歩き回っていたのは俺くらいのもので、あとは全員、壁に寄りかかるか椅子に座っている。
 だから、この時点で気付いたのは俺だけだった。
 麻雀牌の『白』が、割れて倒れていたことに。

「……いくらか落ち着いた。悪かったな」

 それまで黙っていたソウシが、ようやく口を開いた。気持ちの整理などはつかないだろうが、いくらか切り替えることは出来たのだろう。彼は再び作戦会議を提案し、もちろん俺たちは同意した。

「やっぱり、玄関扉は開かなかったんだよねえ」

 マヤが溜め息を吐く。食堂への道中、彼は一応試しておきたいと、開扉を試みたのだ。
 結果は今言ったように芳しくなかったが。

「ナツノちゃんの遺体がどこにあるか不明である以上、まずはタカキの霊を鎮めてやるのが妥当だと俺は思う。元に戻ったタカキが何か情報を持っているかもしれねえしな」
「うん。私もそれでいいと思う。タカキくんの遺体なら、すぐ隣にあるんだしね」
「……そう簡単に聞き出せるかな?」

 今度もマヤは懐疑的だ。心なしかサツキもソウシの意見を素直に受け入れていない感じがする。
 さっきの件で精神的にだいぶ参っているだけかもしれないが、少しだけ違和感があった。

「留美さんを解放しても、状況は良くなってないんだ。とりあえず思いついた最善をやっていかなけりゃ、俺たちはずっと閉じ込められたまま、死んでいくのを待つだけになる。出来ることを、しなきゃいけねえ。せめて俺たちだけでも……生きて帰るためによ」

 俺たちだけでも。大切な人を失った彼の言葉は、重い。
 だから、誰も反論など出来なかった。

「ミツヤ、悪いがまた付き合ってくれるか。タカキのところへ行こう」
「ああ、分かってるさ」
「ハルナたちは全員で固まって待機しててくれ。万が一霊に襲われても、協力すれば逃げられるはずだ。……いいか、もう絶対に離れるんじゃねえぞ。誰か一人が取り残されるようなことは、あっちゃならねえんだからよ……」

 救える命が、取り落とされることなんてあってはならない。痛切なる訴えに、ハルナもマヤも神妙に頷く。

「……うん。勝手な行動は慎むことにする」
「私たちが大人しくしてれば……なんて今更だけど。ごめんなさい、もうこれ以上心配はかけないから。三人で、ミツヤたちの帰りを待ってるから……」
「落ち着かない気持ちは理解出来るさ。でも、そう……待っててくれ。必ず俺たちで、何とかしてみせる」

 根拠のない強がりではあったけれど。俺がそう言うのに、ハルナは出来る限りの笑顔を浮かべてくれる。
 希望の光は遠くて、出口にどれだけ近づけているのかは分からない。
 それでも、何とか生きて帰るために。
 今はやれる限りのことを、やるしかないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。 目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸 3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。 「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...