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最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】
十七話 「呼び戻し給え」
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二〇一四年六月八日、二十三時五十七分。
伍横町南部――。
「……心の準備は、オッケーかい」
夜の帳が下り、町はもう眠りについている。
高い建物の少ないこの町は、日付が変わる頃には殆どの家の明かりが消えていた。
僅かな街灯だけが、町の姿を露にするもので。
その街灯の下に、六人は円陣を作っていた。
「ええ。……大丈夫です」
新参のミイナが覚悟を決めたように言うのを聞き、マスミは頷く。そして、
「うん、安心したよ。……じゃあ、最後にもう一度だけ、確認だ」
彼は全員の顔を見回してから、改めての説明を始めた。
「これから、日付が変わるその瞬間に、ここで波出守と風見照の霊魂を呼び戻し、降霊術を暴走させる。ここは、ドールが考える特異点の、最後のポイント……犬飼家の前だから、もし彼の考えが正しいものだとすれば、暴走の規模は本当に、町を飲み込むほどのものになるだろう」
五行説の話が全て本当かまでは不明だが、少なくとも伍横町は確かに強い気の流れが通る場所だと伝えられているし、これまでに何度も降霊術が行われてきたことで、力が増幅しているということも考えられる。
ドールが出来ると踏んでいるなら、術式が成功する可能性は高いと見てもいいだろう。
「僕らが意識して発動する分には、町の人たちが巻き込まれる心配は薄いと思う。万が一のことがあったら、守ってあげないといけないけど。それから、町にいる霊は否応なしに現れてしまうはずだ。……みんな、気をつけるんだよ」
「ああ、勿論だぜ!」
「しっかりやります!」
まるでスポーツの試合前のように、マスミの激励に残るメンバーが大声で答えた。
「わ、私も頑張ります……!」
遅れて、控え目な声でそう言ったアキノにも、マスミは優しく微笑みかけ、
「うん、アキノちゃんも、自分の役割をしっかりね」
その言葉に、アキノは頬を赤らめて頷いた。
「……さあ、もうそろそろだ。ミオ、そっちはよろしく頼んだよ!」
「了解!」
この円陣は、一つの魔法円。
魂を呼び戻すための、地上の導。
腕時計の針が、天井で重なる。
六月八日が終わり、いよいよ六月九日が訪れる。
「……黄泉の亡者たちよ、聞き給え」
両極に立つマスミとミオが、術式の言霊を紡ぐ。
これまでの事件でも、唱えられてきた言霊を。
呼び戻す魂は、決まっている。
何れにせよ、この町は遍く霊の空間となるのだが。
二人が、円の中心に手をかざす。
仕組まれた霊脈が呼応するように、暗闇に光が生じ始めた。
「どうか波出守の御霊を」
「どうか風見照の御霊を」
「――呼び戻し給え」
術式が、発動される。
かつて無いほどの光が迸り。
世界は白に塗り潰されて。
六人は六人とも、その光に掻き消されるように、意識を失った。
最後の戦いが、ここに始まろうとしていた。
伍横町南部――。
「……心の準備は、オッケーかい」
夜の帳が下り、町はもう眠りについている。
高い建物の少ないこの町は、日付が変わる頃には殆どの家の明かりが消えていた。
僅かな街灯だけが、町の姿を露にするもので。
その街灯の下に、六人は円陣を作っていた。
「ええ。……大丈夫です」
新参のミイナが覚悟を決めたように言うのを聞き、マスミは頷く。そして、
「うん、安心したよ。……じゃあ、最後にもう一度だけ、確認だ」
彼は全員の顔を見回してから、改めての説明を始めた。
「これから、日付が変わるその瞬間に、ここで波出守と風見照の霊魂を呼び戻し、降霊術を暴走させる。ここは、ドールが考える特異点の、最後のポイント……犬飼家の前だから、もし彼の考えが正しいものだとすれば、暴走の規模は本当に、町を飲み込むほどのものになるだろう」
五行説の話が全て本当かまでは不明だが、少なくとも伍横町は確かに強い気の流れが通る場所だと伝えられているし、これまでに何度も降霊術が行われてきたことで、力が増幅しているということも考えられる。
ドールが出来ると踏んでいるなら、術式が成功する可能性は高いと見てもいいだろう。
「僕らが意識して発動する分には、町の人たちが巻き込まれる心配は薄いと思う。万が一のことがあったら、守ってあげないといけないけど。それから、町にいる霊は否応なしに現れてしまうはずだ。……みんな、気をつけるんだよ」
「ああ、勿論だぜ!」
「しっかりやります!」
まるでスポーツの試合前のように、マスミの激励に残るメンバーが大声で答えた。
「わ、私も頑張ります……!」
遅れて、控え目な声でそう言ったアキノにも、マスミは優しく微笑みかけ、
「うん、アキノちゃんも、自分の役割をしっかりね」
その言葉に、アキノは頬を赤らめて頷いた。
「……さあ、もうそろそろだ。ミオ、そっちはよろしく頼んだよ!」
「了解!」
この円陣は、一つの魔法円。
魂を呼び戻すための、地上の導。
腕時計の針が、天井で重なる。
六月八日が終わり、いよいよ六月九日が訪れる。
「……黄泉の亡者たちよ、聞き給え」
両極に立つマスミとミオが、術式の言霊を紡ぐ。
これまでの事件でも、唱えられてきた言霊を。
呼び戻す魂は、決まっている。
何れにせよ、この町は遍く霊の空間となるのだが。
二人が、円の中心に手をかざす。
仕組まれた霊脈が呼応するように、暗闇に光が生じ始めた。
「どうか波出守の御霊を」
「どうか風見照の御霊を」
「――呼び戻し給え」
術式が、発動される。
かつて無いほどの光が迸り。
世界は白に塗り潰されて。
六人は六人とも、その光に掻き消されるように、意識を失った。
最後の戦いが、ここに始まろうとしていた。
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