7 / 9
聖女、皇帝陛下と対決する 3
しおりを挟む「そうかー‥‥‥。
アリスはそう申していたかーー」
最高神エリアルは冠を被った乙女からの報告を受け、しばし沈黙した。
人間族のためになれば、魔族やその他の彼らには無い強大な力をもつ種族に虐げられることなくひっそりとでも生きてくれるのならば。
エリアルは最初、そう考えて聖女を出す決意をした。
帝国で人類の盟主たる皇帝に皇妃を選ばせ、その女性を自らの代理人として聖女とする。
それが人類のためになるだろう。
そう思ったからだった。
「人類も最初は少なかったな?
亜人や妖精の方が数が多かった。
魔神殿の守護する魔族、竜神殿の守護する竜族。
妖精王殿の守護する亜人や妖精族。
そのどれよりも矮小で、非力だった」
エルアル神はため息をつく。
その非力で矮小な種族は知恵をつけ、文化を創造し、武器を持ち、魔法すら魔族に比肩するほどの存在になってきた。
たった千年経たない間に‥‥‥五つの大陸全てに広がり、人口は億を越えているだろう。
いまでは、どの種族とも互角に渡り合えるほどには力を付けたはずだ。
「人間とは、素晴らしいものだな」
ふと、エルアル神はそんな一言を漏らしていた。
冠を被った乙女は不思議そうな顔をする。
そう言った主の顔は、言葉とは裏腹に寂し気に見えたからだ。
「なぜ、そうおっしゃるのですか、主よ?
あの聖女の言い分も最もですがーーあれは身分をわきまえておりません。
主に共に皇帝に会えなどと、よくもまあ、言えたものです、人間の分際でー‥‥‥」
すでに数千年を生きる冠を被った乙女はそうぼやいていた。
主の選んだ人間でなければ、あの場で殺していただろう。
それほどまでに、アリスの懇願は‥‥‥神に仕える側からすれば不快だった。
「そう言うでない。
人間は、可能性が大きすぎる。
このまま、最高神たるわたしの守護があればどの種族もかなわないようになるだろう。
そうなれば、待っているのは、そう。
あの、アリスの境遇と同じだ。
支配する人間と、支配される他の種族。
その大義名分は、わたしの守護をえている種族だから。
そんな未来が‥‥‥見えるようだな」
アリスは本当に意味での、全種族に対する聖女になるのかもしれない。
エリアル神はそう思い始めていた。
「金貨一枚の聖女、か。
なかなか、良い響きではないか。
なら、金貨一枚の帝国とさせてもらうか‥‥‥出るぞ、用意をしろ」
「まっ、まさか‥‥‥降臨なさるおつもりですか!?
あのような下賤な民のために!?」
冠を被った乙女はそう悲愴に叫んだ。
だが、エリアル神は別の答えを彼女に与えた。
「違う。
全種族の為にだ。
アリスの元に案内しなさい」
こうして、初代の聖女の時に地上に降臨して以来、千年に近い歳月をえて最高神はその身を地上世界に現した。
帝都の港で待つアリスの。
自らの選んだ、最高神エリアルの聖女と伴い、 ウィンダミア帝国の皇帝にある決断を伝えるために。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
217
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる