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第四章 水の精霊女王は最後に不敵な笑みを浮かべる
炎の魔神の下剋上と涙する炎の女神様 7
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「ねえ、シェイラ様?
身分の差や神や人であっても、友人は友人だと思います。
あなたはイフリーテさんを守りたいの、それとも、おもちゃを取られた子供のように取り返したいの?
それとも、対等な親友として話をされたいの、どれなのですか?」
「それは、言わなくてもわかるだろ?
あれはどうあっても連れだけど、モノはモノだし‥‥‥。
こうやって旦那同士が話してる間に、忍んでやって来てるんだしさ。
それくらい、察しろよ、アリア様‥‥‥」
「贅沢ですねえ。
また、城内を不埒に嗅ぎまわっていたと牢に入れましょうか?
あなたも、エバーグリーンもわたしの、監督下にあるんですよ?」
「ひでぇ‥‥‥あんた、それでも神かよ!?」
ええ、神ですよ。
ひどいのはどっちよ?
人の祝宴をさんざん邪魔した挙げ句、エバースには城を守れない精霊王だって不名誉な二つ名までつけておいて。
そりゃ、嫌味も言いたくなるし、素直にああそうですか、なんて応じる気なんて起きないわよ。
おまけに、会って開口一番がイフリーテさんを返せ?
彼女はモノじゃないのよ!!
「神ですよ?
あなたの上位神に対して、その不敬かつ礼儀を知らない立ち居振る舞いはなんですか?
あなたの夫であるエバーグリーンの名が泣きますね。
妻の躾すらできていないなんて」
「旦那は関係ないだろ――!!!」
「だから、あなたの旦那様はあなたより格上でしょう?
一家の主は、エバーグリーン様なのですから。
そして、その主はわたしの第一の眷属。
さらに、イフリーテさんはわたしの第二の眷属。
どちらもあなたより格上なの!!
あれが欲しい、これが欲しいとわたしにねだるならともかく、指図する気ならわたしの上位神を連れておいでなさい!!」
この一言にはさすがに文句言えないだろうと思ったら、さすがに炎の豹人族。
我慢の限界も紙のように薄いらしい。
隙を見せていたわたしも悪いんだけど‥‥‥爪先を伸ばし、その切っ先は鋼でも裂いてしまいそうなほどに鋭く感じた。
耳元で唸る風の音に、迫りくる炎をまとった凶刃がわたしの喉元を狙っていた。
ただし‥‥‥
「嘘だろ!?
なんで止めれるんだよ!?」
「ですからねー‥‥‥。
シェイラ様?
あなたいま、単なる人間と変わらないんですよ、その能力。
まあ、亜人ですから人間よりは上でしょうけど。
わたしも腐っても水の精霊女王アリア。
この程度では――」
目の前には防護柵としてきちんと覚えるようにとリクウスにさんざん習わされた‥‥‥水の壁が彼女の炎とその切っ先を柔らかく押しとどめていた。
いきなりの攻撃に恐怖を感じて目を閉じそうになったけど――
(目を閉じるな、アリア!!)
なんて旦那様の声が心に届かなければ、へなへなとしゃがみ込んでいた気がする。
あの風の音は旦那様、エバースの能力だ。
やっぱり、どこかで見ていたのね‥‥‥そう思い、エバースに愛情を感じるわたしと不意打ちが失敗して客人から立場が一変。
騎士たちに周囲を囲まれて剣先を向けられ、不満げにその場にあぐらをかいて好きにしゃがれ!!
なんて、ふてぶてしいというかなんというか‥‥‥
「お前たち、ご苦労様でした。
その豹人、この場にて宴会の席に出す食材にしてやりましょう。
かつての親友であり部下ををモノと呼ぶのであれば、その主人も単なるモノ。
良き、料理に‥‥‥ねえ、ニーエさん?
料理長をお呼びして?」
「奥様!!
酔狂が過ぎます‥‥‥仮にもエバーグリーン様の御内儀ですよ!?」
「だって、負けたじゃない。
本人も好きにしろって言っているわよ?
好きにさせてもらおうじゃないの」
「奥様!!
そこをお怒りを‥‥‥」
「そうですよ、アリア様!!
それはあまりにもー‥‥‥こんな、長生きしている豹人などまともな味にすらなりません――」
どこから現れたのか、リクウスは一言多く嫌味を言い、シェイラ様を見下ろしていた。
あれ、なんで彼女はそんなに天敵に会ったような顔を‥‥‥?
「あ、そうか。
リクウスは水の精霊。
シェイラ様は炎の属性。
ふうん‥‥‥ねえ、リクウス?
あの沼はまだ冷たかったかしら?」
「は?
女王様‥‥‥?
それはまだ、というよりは底に深くなればそれはそれは寒いと思われますが‥‥‥」
「そう、ならいいことを思いついたわ。
少し待ちなさい。
あ、それを逃がすんじゃないわよ、騎士の皆様方?」
どこかで機会をみえ逃げ出そうとしているシェイラ様の行動、思考なんて読むのはたやすいのだ。
逃げようなんてする前に、さっさと周りを囲んで固めておくに限るのよねー‥‥‥はあ。
なんでこんな短慮な女性が、異世界の最高神の片方だったんだろ。
エリアル様といい、シェイラ様といい。
あちらの世界は皆さん、大変なんだろうなあ。
ついついそう思ってしまったわたしだった。
(ねえ、旦那様?
もう一、二時間。
エバーグリーン様を引き止めておいてくださいません?
シェイラ様は、できれば、無事に戻しますから)
心の声の風というのは都合がいい。
返事は、快諾したとすぐに帰ってきた。
ただし――
(悪友様とさらに悪事を企てたら城から追い出しますからね?)
そう忘れずに付け加えた言葉には、唸り声みたいな返事だけだったけど。
まあ、それは後から問いただすことにしましょう。
殿方は二人だけにすると、どうやら悪い過去を思い出すようですから。
さて、この美味しそうな女豹の始末なのだけど‥‥‥
「で、女王様。
どうなさいます?
このまま、沈めてしまいますので?」
その言葉に、シェイラ様はピクリと反応する。
あー、まあそうですよね。
炎の属性、水は苦手ですよねえ。
「まさ、か‥‥‥。
あんたたち、本気であたしを亡き者にする気なんじゃ!?
あたしはこれでも――」
「エバーグリーン様の妻、ですか、シェイラ様?
でも、残念ながらこの城でそんな報を聞いたものは――誰だけかわかります?
ここにいる一部だけの者と、旦那様だけなんですよ。
風の精霊王の城を竜王が訪れた際に、たまたま‥‥‥」
「たまたまー‥‥‥なんだよ!?」
「過去に建前上は眷属にしていた炎の魔神イフリーテがいた。
風の精霊王の妻、水の精霊女王の第二の眷属として、かつての炎の女神、ラズ・シェイラ様のあまりもの目に余る物言いと、侮辱に耐えかねて――」
そこでわたしはクスクス、意地悪く笑ってみせる。
まるで、あなたを殺そうとしたのはイフリーテであって、わたしは悪くないですよ?
過去の扱いに懺悔しなさいな、シェイラ様?
そう言っているように彼女には見えたらしい。
顔を青ざめてさせて、震えていた。
「まさか、そんな。
あの子にあたしをー‥‥‥!?
あんた、どんだけ性悪なんだよ!!??
それじゃ、あの噂も本当ー‥‥‥」
「性悪で結構ですけど、噂‥‥‥?
それは聞かせて頂きたいですわね、シェイラ様?」
「よくもまあ、ヌケヌケと。
エバースにすがって聖女になり、その上、王国を追われてその身体で‥‥‥水の精霊女王アリアにまで成りあがった思いあがった人間が‥‥‥」
わたしは、片指でリクウスに合図をする。
「ぶわっ!?
なにすんだよ!!!」
リクウスはかしこまりましたと、シェイラ様の頭上にそれなりの量の水を召喚していた。
さすがに炎の豹人なんて言われるだけあって、湯気が立つのは大したものだわ、そう感心したけど。
「頭を冷やしなさいな、シェイラ様。
例え、エバースに色仕掛けで迫ったところで‥‥‥あなたがかつて惚れた男性はそんなつまらないことで精霊女王アリアなんて立場を与えないと理解できていないが、エバースにとって可哀想。
あなたの旦那様にとっても。
あなたは――」
と、その言葉はある叫びで遮られる。
それはわたしにとって最も知りたくない言葉だった。
「そんなに余裕ぶってここにいるから下界のことを何も知らないんだね、水の精霊女王アリア様!?
‥‥‥あんたを追い出した王子たちが作った国は‥‥‥もう滅んだことすら知らないくせに!!」
「なん‥‥‥ですって‥‥‥」
だめだ、血がざわめく。
リクウスがいなければ‥‥‥わたしの水を操る能力はどこかで暴走していたかもしれなかった。
身分の差や神や人であっても、友人は友人だと思います。
あなたはイフリーテさんを守りたいの、それとも、おもちゃを取られた子供のように取り返したいの?
それとも、対等な親友として話をされたいの、どれなのですか?」
「それは、言わなくてもわかるだろ?
あれはどうあっても連れだけど、モノはモノだし‥‥‥。
こうやって旦那同士が話してる間に、忍んでやって来てるんだしさ。
それくらい、察しろよ、アリア様‥‥‥」
「贅沢ですねえ。
また、城内を不埒に嗅ぎまわっていたと牢に入れましょうか?
あなたも、エバーグリーンもわたしの、監督下にあるんですよ?」
「ひでぇ‥‥‥あんた、それでも神かよ!?」
ええ、神ですよ。
ひどいのはどっちよ?
人の祝宴をさんざん邪魔した挙げ句、エバースには城を守れない精霊王だって不名誉な二つ名までつけておいて。
そりゃ、嫌味も言いたくなるし、素直にああそうですか、なんて応じる気なんて起きないわよ。
おまけに、会って開口一番がイフリーテさんを返せ?
彼女はモノじゃないのよ!!
「神ですよ?
あなたの上位神に対して、その不敬かつ礼儀を知らない立ち居振る舞いはなんですか?
あなたの夫であるエバーグリーンの名が泣きますね。
妻の躾すらできていないなんて」
「旦那は関係ないだろ――!!!」
「だから、あなたの旦那様はあなたより格上でしょう?
一家の主は、エバーグリーン様なのですから。
そして、その主はわたしの第一の眷属。
さらに、イフリーテさんはわたしの第二の眷属。
どちらもあなたより格上なの!!
あれが欲しい、これが欲しいとわたしにねだるならともかく、指図する気ならわたしの上位神を連れておいでなさい!!」
この一言にはさすがに文句言えないだろうと思ったら、さすがに炎の豹人族。
我慢の限界も紙のように薄いらしい。
隙を見せていたわたしも悪いんだけど‥‥‥爪先を伸ばし、その切っ先は鋼でも裂いてしまいそうなほどに鋭く感じた。
耳元で唸る風の音に、迫りくる炎をまとった凶刃がわたしの喉元を狙っていた。
ただし‥‥‥
「嘘だろ!?
なんで止めれるんだよ!?」
「ですからねー‥‥‥。
シェイラ様?
あなたいま、単なる人間と変わらないんですよ、その能力。
まあ、亜人ですから人間よりは上でしょうけど。
わたしも腐っても水の精霊女王アリア。
この程度では――」
目の前には防護柵としてきちんと覚えるようにとリクウスにさんざん習わされた‥‥‥水の壁が彼女の炎とその切っ先を柔らかく押しとどめていた。
いきなりの攻撃に恐怖を感じて目を閉じそうになったけど――
(目を閉じるな、アリア!!)
なんて旦那様の声が心に届かなければ、へなへなとしゃがみ込んでいた気がする。
あの風の音は旦那様、エバースの能力だ。
やっぱり、どこかで見ていたのね‥‥‥そう思い、エバースに愛情を感じるわたしと不意打ちが失敗して客人から立場が一変。
騎士たちに周囲を囲まれて剣先を向けられ、不満げにその場にあぐらをかいて好きにしゃがれ!!
なんて、ふてぶてしいというかなんというか‥‥‥
「お前たち、ご苦労様でした。
その豹人、この場にて宴会の席に出す食材にしてやりましょう。
かつての親友であり部下ををモノと呼ぶのであれば、その主人も単なるモノ。
良き、料理に‥‥‥ねえ、ニーエさん?
料理長をお呼びして?」
「奥様!!
酔狂が過ぎます‥‥‥仮にもエバーグリーン様の御内儀ですよ!?」
「だって、負けたじゃない。
本人も好きにしろって言っているわよ?
好きにさせてもらおうじゃないの」
「奥様!!
そこをお怒りを‥‥‥」
「そうですよ、アリア様!!
それはあまりにもー‥‥‥こんな、長生きしている豹人などまともな味にすらなりません――」
どこから現れたのか、リクウスは一言多く嫌味を言い、シェイラ様を見下ろしていた。
あれ、なんで彼女はそんなに天敵に会ったような顔を‥‥‥?
「あ、そうか。
リクウスは水の精霊。
シェイラ様は炎の属性。
ふうん‥‥‥ねえ、リクウス?
あの沼はまだ冷たかったかしら?」
「は?
女王様‥‥‥?
それはまだ、というよりは底に深くなればそれはそれは寒いと思われますが‥‥‥」
「そう、ならいいことを思いついたわ。
少し待ちなさい。
あ、それを逃がすんじゃないわよ、騎士の皆様方?」
どこかで機会をみえ逃げ出そうとしているシェイラ様の行動、思考なんて読むのはたやすいのだ。
逃げようなんてする前に、さっさと周りを囲んで固めておくに限るのよねー‥‥‥はあ。
なんでこんな短慮な女性が、異世界の最高神の片方だったんだろ。
エリアル様といい、シェイラ様といい。
あちらの世界は皆さん、大変なんだろうなあ。
ついついそう思ってしまったわたしだった。
(ねえ、旦那様?
もう一、二時間。
エバーグリーン様を引き止めておいてくださいません?
シェイラ様は、できれば、無事に戻しますから)
心の声の風というのは都合がいい。
返事は、快諾したとすぐに帰ってきた。
ただし――
(悪友様とさらに悪事を企てたら城から追い出しますからね?)
そう忘れずに付け加えた言葉には、唸り声みたいな返事だけだったけど。
まあ、それは後から問いただすことにしましょう。
殿方は二人だけにすると、どうやら悪い過去を思い出すようですから。
さて、この美味しそうな女豹の始末なのだけど‥‥‥
「で、女王様。
どうなさいます?
このまま、沈めてしまいますので?」
その言葉に、シェイラ様はピクリと反応する。
あー、まあそうですよね。
炎の属性、水は苦手ですよねえ。
「まさ、か‥‥‥。
あんたたち、本気であたしを亡き者にする気なんじゃ!?
あたしはこれでも――」
「エバーグリーン様の妻、ですか、シェイラ様?
でも、残念ながらこの城でそんな報を聞いたものは――誰だけかわかります?
ここにいる一部だけの者と、旦那様だけなんですよ。
風の精霊王の城を竜王が訪れた際に、たまたま‥‥‥」
「たまたまー‥‥‥なんだよ!?」
「過去に建前上は眷属にしていた炎の魔神イフリーテがいた。
風の精霊王の妻、水の精霊女王の第二の眷属として、かつての炎の女神、ラズ・シェイラ様のあまりもの目に余る物言いと、侮辱に耐えかねて――」
そこでわたしはクスクス、意地悪く笑ってみせる。
まるで、あなたを殺そうとしたのはイフリーテであって、わたしは悪くないですよ?
過去の扱いに懺悔しなさいな、シェイラ様?
そう言っているように彼女には見えたらしい。
顔を青ざめてさせて、震えていた。
「まさか、そんな。
あの子にあたしをー‥‥‥!?
あんた、どんだけ性悪なんだよ!!??
それじゃ、あの噂も本当ー‥‥‥」
「性悪で結構ですけど、噂‥‥‥?
それは聞かせて頂きたいですわね、シェイラ様?」
「よくもまあ、ヌケヌケと。
エバースにすがって聖女になり、その上、王国を追われてその身体で‥‥‥水の精霊女王アリアにまで成りあがった思いあがった人間が‥‥‥」
わたしは、片指でリクウスに合図をする。
「ぶわっ!?
なにすんだよ!!!」
リクウスはかしこまりましたと、シェイラ様の頭上にそれなりの量の水を召喚していた。
さすがに炎の豹人なんて言われるだけあって、湯気が立つのは大したものだわ、そう感心したけど。
「頭を冷やしなさいな、シェイラ様。
例え、エバースに色仕掛けで迫ったところで‥‥‥あなたがかつて惚れた男性はそんなつまらないことで精霊女王アリアなんて立場を与えないと理解できていないが、エバースにとって可哀想。
あなたの旦那様にとっても。
あなたは――」
と、その言葉はある叫びで遮られる。
それはわたしにとって最も知りたくない言葉だった。
「そんなに余裕ぶってここにいるから下界のことを何も知らないんだね、水の精霊女王アリア様!?
‥‥‥あんたを追い出した王子たちが作った国は‥‥‥もう滅んだことすら知らないくせに!!」
「なん‥‥‥ですって‥‥‥」
だめだ、血がざわめく。
リクウスがいなければ‥‥‥わたしの水を操る能力はどこかで暴走していたかもしれなかった。
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