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ポイッ。
そうやって少女はペットボトルを河に投げ入れる。
まだ陽の上がる浅い時間のうちから片側の岸辺でそれを行い、昼からは夕方までそれを行う。
「こら、ゴミを捨てるんじゃない!!」
一度、見かけた時に散歩中の老人に彼女は注意を受けていた。
「えー?
ああ、問題ないですよー」
のんびりとした口調で、青いデニムに白いブラウス、炎天下の日よけの麦わら帽子。
少しだけ日に焼けた彼女がそう答えたのを彼は覚えている。
「なにが問題が無いんだ?
ほれ、もう流れていってるじゃないか。
この河はそこが深いから取りに行けとは言わんが、なんでそんなことをするんだ?」
老人は呆れ半分、いらだち半分で少女に言う。
「だって、これーー」
彼女は手元に巻いてある、あるものを彼にみせた。
「なんだそりゃ?」
「だからーー」
ちょいちょいと、まるでエサが食いついた時に竿を持ちあげるようにして彼女はそれを少しだけ引いて見せる。
「なんだそりゃ?
テグスを巻き付けとるのか?」
「はいー、だからちゃんと回収しますから。
あ、ゴミは持ち帰りますんで。
だめですか?」
「いやーだめとは言わんがなんでそんなことしとるんだ?」
まあ、ちょっと。
そう言い、彼女はなにも変化のない水面に視線を戻す。
なんだこの子は?
老人は不思議そうな納得のいかない、でも公共の迷惑ならないならまあ、いいか。
そう思い放っておくことにしたらしい。
そのまま、河川敷に整備された遊歩道の散歩に戻って行った。
「変な奴だな?
何歳だろ?」
不思議な面影がある少女だ。
そう、彼は思った。
夏場だというのにただひたすらじっとしていて、その傍らには何もない。
水分補給なんてどうしてるんだろ?
定期的に巡回しているから、その子を見るたびにそう思ってしまう。
今週はこちら側の岸辺でそれをするらしい。
先週は向こう側の、ほぼ対直線上の岸辺でやっていて、同じようにどこかのおばさんに叱られていた。
一日、数回、彼はこの橋の上をトラックで往復する。
覚えている限りでは朝の6時にはもう河川敷にいたし、夜は日暮れの17時までは座っていた。
二週間もたつと、彼女もこの暑さに対抗する策を考えたのか、クーラーボックスを持参するようになり、その上に腰かけていた。
昼休みに面白いなあと、河川敷にある駐車場にトラックを止めてそれを一時間ほど観察してみたりもする。
昼時になると、クーラーボックスからキンキンに冷やしたペットボトルにタオルを巻いて輪ゴムで上からぐるぐる巻きにしたのをまず取り出す。
その次に、たぶん、自作だろう。
不格好なオニギリを取り出して、それを頬ばりだす。
「あ、つめたー」
なんて声が聞こえて来そうなくらい渋い顔をしていたのを彼は覚えている。
それを食べ終わったら、今度はまた同じ作業だ。
ペットボトルを投げ込み、ある点からある位置まで行くと回収する。
その都度、タブレットになにかを入力していることを、二週間ほどチラチラ見ていて気付いた。
投げ込んで、辿りつき、回収する。
入れた時間、投げた距離、そして、辿りつくまでの時間。
どうやらそれを一日に何百回も、毎日継続しているらしい。
「なんであんなことしてんだろなー?」
見た目はまだ若い。
十代後半だった。
彼は今年、大学を卒業してこの仕事についたから、大学生か高校生。
まあ、どっちかだろうな。
そう思っていた。
「可愛いん、だよ、な‥‥‥」
二度ほど、彼が担当している場所に彼女は買い物に来ている。
品物を購入して戻って行くだけだが、いい感じに日焼けしていて。
年齢が近いなら、お近づきになりたいほどに可愛かったが、少なくとも自分のしている仕事で。
そしてこの年齢で、そんな若い子に妙な下心を持つようならまだ自由な身のほうが良かった。
ただ、相手は知らないだろうけど彼は一日に一度。
彼女に会って会話をしているのだ。
「まあ、毎朝のジョギングコースで、サングラスしてておはようしか言わないじゃ、気づくわけないよな」
自嘲気味に呟いて、さあ、昼休みも終わりだ。
午後のコースを巡回しようとトラックのエンジンをかける。
彼はこの時、気づいていなかった。
ある視線がこの二週間ほど、そのトラックの持ち主にそっと注がれていることに。
そうやって少女はペットボトルを河に投げ入れる。
まだ陽の上がる浅い時間のうちから片側の岸辺でそれを行い、昼からは夕方までそれを行う。
「こら、ゴミを捨てるんじゃない!!」
一度、見かけた時に散歩中の老人に彼女は注意を受けていた。
「えー?
ああ、問題ないですよー」
のんびりとした口調で、青いデニムに白いブラウス、炎天下の日よけの麦わら帽子。
少しだけ日に焼けた彼女がそう答えたのを彼は覚えている。
「なにが問題が無いんだ?
ほれ、もう流れていってるじゃないか。
この河はそこが深いから取りに行けとは言わんが、なんでそんなことをするんだ?」
老人は呆れ半分、いらだち半分で少女に言う。
「だって、これーー」
彼女は手元に巻いてある、あるものを彼にみせた。
「なんだそりゃ?」
「だからーー」
ちょいちょいと、まるでエサが食いついた時に竿を持ちあげるようにして彼女はそれを少しだけ引いて見せる。
「なんだそりゃ?
テグスを巻き付けとるのか?」
「はいー、だからちゃんと回収しますから。
あ、ゴミは持ち帰りますんで。
だめですか?」
「いやーだめとは言わんがなんでそんなことしとるんだ?」
まあ、ちょっと。
そう言い、彼女はなにも変化のない水面に視線を戻す。
なんだこの子は?
老人は不思議そうな納得のいかない、でも公共の迷惑ならないならまあ、いいか。
そう思い放っておくことにしたらしい。
そのまま、河川敷に整備された遊歩道の散歩に戻って行った。
「変な奴だな?
何歳だろ?」
不思議な面影がある少女だ。
そう、彼は思った。
夏場だというのにただひたすらじっとしていて、その傍らには何もない。
水分補給なんてどうしてるんだろ?
定期的に巡回しているから、その子を見るたびにそう思ってしまう。
今週はこちら側の岸辺でそれをするらしい。
先週は向こう側の、ほぼ対直線上の岸辺でやっていて、同じようにどこかのおばさんに叱られていた。
一日、数回、彼はこの橋の上をトラックで往復する。
覚えている限りでは朝の6時にはもう河川敷にいたし、夜は日暮れの17時までは座っていた。
二週間もたつと、彼女もこの暑さに対抗する策を考えたのか、クーラーボックスを持参するようになり、その上に腰かけていた。
昼休みに面白いなあと、河川敷にある駐車場にトラックを止めてそれを一時間ほど観察してみたりもする。
昼時になると、クーラーボックスからキンキンに冷やしたペットボトルにタオルを巻いて輪ゴムで上からぐるぐる巻きにしたのをまず取り出す。
その次に、たぶん、自作だろう。
不格好なオニギリを取り出して、それを頬ばりだす。
「あ、つめたー」
なんて声が聞こえて来そうなくらい渋い顔をしていたのを彼は覚えている。
それを食べ終わったら、今度はまた同じ作業だ。
ペットボトルを投げ込み、ある点からある位置まで行くと回収する。
その都度、タブレットになにかを入力していることを、二週間ほどチラチラ見ていて気付いた。
投げ込んで、辿りつき、回収する。
入れた時間、投げた距離、そして、辿りつくまでの時間。
どうやらそれを一日に何百回も、毎日継続しているらしい。
「なんであんなことしてんだろなー?」
見た目はまだ若い。
十代後半だった。
彼は今年、大学を卒業してこの仕事についたから、大学生か高校生。
まあ、どっちかだろうな。
そう思っていた。
「可愛いん、だよ、な‥‥‥」
二度ほど、彼が担当している場所に彼女は買い物に来ている。
品物を購入して戻って行くだけだが、いい感じに日焼けしていて。
年齢が近いなら、お近づきになりたいほどに可愛かったが、少なくとも自分のしている仕事で。
そしてこの年齢で、そんな若い子に妙な下心を持つようならまだ自由な身のほうが良かった。
ただ、相手は知らないだろうけど彼は一日に一度。
彼女に会って会話をしているのだ。
「まあ、毎朝のジョギングコースで、サングラスしてておはようしか言わないじゃ、気づくわけないよな」
自嘲気味に呟いて、さあ、昼休みも終わりだ。
午後のコースを巡回しようとトラックのエンジンをかける。
彼はこの時、気づいていなかった。
ある視線がこの二週間ほど、そのトラックの持ち主にそっと注がれていることに。
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