空のペットボトル

星ふくろう

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 七月が終わり、台風の季節に入った。
 彼女はさすがにこの時期にはいない。
 雨のせいで増水しているし、河川敷には誰も人影がない。
 数日続いた台風の中でも彼はトラックを走らしてそのコースを巡回する。
 台風が過ぎ去った頃のあう朝、彼はひさしぶりに彼女を見かけた。
「やあ、おはよう」
 軽く足踏みをしながら声をかける。
「‥‥‥おはようございます」
 少女はなにかに遠慮するかのように返事をくれた。
 なにか話しかけて欲しそうだったから、この際だ。
 そう思って声をかけてみた。
「なあ、毎朝見かけるんだけど。
 なにをそんなに熱心に記録してるんだい?」
 記録?
 その単語に少女は警戒心をあらわにした。
「別に、ただ‥‥‥趣味です」
 記録はしてるけど。
 そう小声で付け加える。
「趣味なんだ。
 そっか」
 ああ、まずったなあ。
 会話が続かないよ。
 もうこのままじゃあ、なんて挨拶走り抜けるか。
 変なおっさんに思われても嫌だしなあ。
 そう思いなおしていこうとした時だ。
「河のー河の流れを。
 調べてる」
 消え入りそうな声で、どことなく恥ずかしそうに。 
 でも、自分の秘密を共有することが何よりも楽しそうに。
 彼女は記録を見せてくれた。
「この河は、東側が工場が多くて。
 西側は農地とか山川だから。
 水流の流れがどうなるかって」
「それでペットボトルを?」
 コクン、と少女は日に焼けた顔でうなづく。
「本当は、上から下まで網で柵をして。
 お金があればビーコンのついた浮きを数百本流してGPSでそのデータを取れば。
 それを数日やればどういう流れが起きてるかわかるけど」
 そんなお金ないから‥‥‥そう悔しそうにいう彼女がどこか真剣に取り組んでいることを分からせてくれていて。
 その姿勢は大学時代に、自分が打ち込んで諦めた研究に対する姿勢に通じるものを彼は感じてしまった。
「そっか。
 研究って資金いるもんな。
 でもなんでこの範囲だけなんだ?
 もっと上流からすれば?」
 少女はフルフルと首を横にふる。
「あまり距離があると、もつれるの。
 草とか、そんなのに。
 回収するできないとゴミになるから嫌なの。
 分かる範囲でやりたいから」
「そっか‥‥‥まあ、頑張りなよ。
 あ、名前なんて言うの?」
 ついつい聞いてしまった。
 教えるはずがないのに。
「にいな。
 相川にいな。
 お兄さんは?」
 俺?
 あ、そりゃそうだよな。
 聞かれたら答えなきゃ。
「ヒロキだよ。
 五島ヒロキ」
「そうなんだ、五島さん、か」
「よろしくな、相川さん‥‥‥高校生?」
「うん、商業の二年」
 あ、県立のか。頭いいんだな。
 ヒロキはそう思った。
 ということはさしずめ、夏休みの実験かなにかかな??
 実験?
 うまくいくことを祈ってるよ。
 ヒロキはそう言い、走り去っていく。
 にいながその背中に、初めて会話ができた。
 そんな満足感のある視線を送っているのも知らずに。


 
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