魔女が経営する雑貨屋さんの事件簿 1 金毛猫耳の女騎士と帝国の亡霊編 

星ふくろう

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第一章 春を買いませんか?

帝国の魔導士たち

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「お久しぶり、おばあ様。
 相変わらず喫茶店ですか?」
「そうよ、綾香。
 朝早くからお客様が来てくれるの。
 休みなく儲けさせてくれるなんて、素晴らしいことだわ」
「おばあ様。
 それブラック企業の経営者の思考ですよ‥‥‥?」
「ブラック上等よ?
 それで家族が食べれるならなんの文句があるの?
 お前、まさかあちらで店休日なんて設けてるんじゃないでしょうね?」

 設けてますよ?
 もちろん。開店から閉店までの時間だってきちんとありますよ?
 まっとうなお店ですから。
 でも、あちらの世界観からしたら休みがちな商人として相応しくない、なんて評価されてるみたいだけど。
 儲けることこそ、商人の本分、らしいから。

「まあ、そこは私が経営者ですから。
 おばあ様の口出しは控えて頂きたいですねー」
「好きにしなさい。
 奴隷たちも普通の身分の扱いをしてるんじゃないでしょうね?
 だめよ?
 平民と同列にしたら。
 あれは、あちらではモノなんだからね?」
「人道主義者が真っ青になって押しかけてきそうなこと、さらりと言わないでください。
 こっちに半世紀以上いるのに、まだそんな認識なんて綾香は悲しいですわ‥‥‥」
「両方の常識があるからそれぞれに合わせなさいよ、そう言ってるだけよ。
 日本の常識が全部、正しいとも良いこととも限らない。
 分かる?」
「分かりましたから、教えて下さい。
 彼女たちになにがあったの?」

 そうねえ、と我が祖母は小首を傾げていた。
 帝国時代、猫耳族の女騎士、金色の鎧。
 思い当たる時代が長すぎるわね、と。
 彼女は悩んでいた。

「獣人が帝国に参加、もしくはその名を歴史に登場させたのは約千年前だったと思うわ。
 当時の帝国には四大魔導士がいたわね」
「魔導士?
 魔法使いではなくて??」
「魔導士よ、綾香。
 私たち魔女や魔法使いっていうのは当時はまだ、地下に住んでいたかいまあなたが住んでいるアーハンルドのように、枢軸連邦の最北端にある湖畔に密やかに隠れ住んでいたの。
 あの当時より更に千年前。当時としては魔族の中でも最高の魔女だった一人の女性が、地上世界を望んで戦いを起こしたのよ」
「え?
 待っておばあ様?
 歴史が見えませんけど??」

 地下世界だの、地上世界だの、魔族だの。
 話がいきなり飛躍した感じ。
 だいたい、なんで魔導士なのか。
 そこすらもはっきりしていないのに‥‥‥。

「だからね、私たち魔女は魔族でしょ?」
「はい‥‥‥?
 え、嘘ですよね?」
「本当よ?
 あなたがあの、ワルプルギスの夜で出会った魔界の貴族たちとなんらひけを取らないわよ?
 まだ、地球のほうが魔女や魔法使いの立場は低いわね。
 だって、魔族や闇の聖霊の配下に収まっているんだから。情けない」
「情けないとか意味が分かりません!!」
「だから、エル・オルビスでは魔女はきちんとした魔族の一角なのよ、綾香?
 自信を持ちなさい?」

 と、どこまでも差別主義者の発言しか飛び出さないこの会話をさっさと終わらせたい衝動にかられながら、私は話を戻してくださいと祖母に頼むことになった。
 時代錯誤なのはどっちなのよ、本当にもう‥‥‥。

「で、その四大魔導士がいた時代からどう変化したの、おばあ様?」
「あら、話の腰を折るのはあなたの悪い癖ね? 誰に似たのかしら?」
「おばあ様と話していれば、誰でもそうなりますよ‥‥‥」
「まあ、いいわ。
 当時の皇帝に仕える大公家が五つあったの。
 そのうち、三つまでが魔導士だった」
「四人では?」
「時の皇帝陛下そのものが、優秀な魔導士だったのよ。 
 そして、あなたがいるアーハンルドを攻略した西の大公が最初に獣人を連れ込み部下にしていた。
 確か、側室にもしていた気がするけど」

 あ、ちょっとだけ線がつながった気がする‥‥‥。
 アーハンルドに西の大公様、ね。
 
「じゃあ、その中に猫耳族の女騎士が?
 何か英雄譚にのこるような戦果をのこしたとか?」
「いいえ、アーハンルドにいたのは蒼狼族の系譜のはずよ?
 猫耳族は皇帝自身がどこかから引き連れてきたのよ」

 また、話が複雑になった!?

「簡潔に、お願いします‥‥‥」
「簡単に話してるわよ、綾香?
 皇帝がどこかから引き連れてきたって気にならない?」
「そりゃ、魔法で転移もできないような‥‥‥」
「出来るわよ?」
「は?」
「だから、私たちのように媒介する何かがなくてもそれを行える存在が魔法使いや魔女でしょ?」
「ああ、だから魔導士なのは理解してますけど。
 転移魔法が転移魔導になるわけですか?」
「魔法陣をあらかじめ描いておくなどすれば、魔法陣を持っている訳だから。
 体内に魔力がなくても使えるでしょ?
 魔法と魔導の最大の違いをはき違えてるわねー綾香」

 祖母はまた会話を闇の中に葬ろうとしていた。
 そんな講義、誰も受けたくないのだ。
 厄介事がさっさと解決できればそれでいいだけなのに。

「で、なんですか、その違いは?」
「体内で魔力を作れる、もしくは貯め込んでおけるか。
 そうでなく、補助の道具が必要かどうか。
 それだけよ。
 こんな初歩も知らないなんて呆れた子」
「その初歩は魔女の秘術だと思いますけど?
 いまの地球に存在する魔界でもそこまでの定義なんて誰も考えていないと思いますよ?
 人間が魔力を作れるなんて‥‥‥。ようやく地球の裏側を手にできた魔族が黙ってないわ」
「あんなの、ほっておけばいいのよ、綾香」
「差別発言は忘れますわ、おばあ様。
 で、その皇帝が連れてきたのが猫耳族、と?
 彼らはどこに移り住んだのですか?」
「だからそこよ?」
「そこ‥‥‥?
 まさか、アーハンルドに?」

 正解、と祖母は手を叩いていた。
 まさかの‥‥‥都市ごと移動させたというあの伝説は真実?
 そんな大規模な魔法を使えるなら、それはもはや大魔導士ではなく大魔法使いじゃない。
 唖然とする私を見捨てて、祖母の会話は続いていく。

「そうよ、でも蒼狼族と猫耳族は仲が悪くてね。
 猫耳族の王国は、南方大陸の北部にあったのよ。
 西、東、南の三つの大陸の北部を牛耳るように枢軸連邦が存在していたから、彼らはそこを経由して来たというのが正解じゃないかしら?
 いまも猫耳族の王国は大陸の北部にあるでしょ?」
「数年前に滅ぼされたって報告は上げたはずでしょ、おばあ様」
「東ではなく、南の大陸の本家のほうの話よ綾香?」
「そんな遠方の土地の事情なんて知りません」
「まあ、呆れた子。
 もう二年以上行き来していながら、あちらの事情すら知らないなんて‥‥‥」
「話を戻して、おばあ様!」

 耳元でわめかないでよ、うるさいなあとエレノアが銀色の翼で耳を覆い隠してしまった。
 そんなに大きくなかったと思うんだけど。

「ごめん、エレノア。
 ねえ、おばあ様。
 時間が無いんです、もう学校の準備だって‥‥‥」
「時間が無いなんて言葉は、時間を効率的に扱えていない無能の言うセリフよ、綾香?
 まあ、いいわ。
 蒼狼族と仲が悪い猫耳族の移住者のために皇帝は内陸にあった、当時としては田舎の城塞都市を南の海湾部に移築した。そういう話」
「つまり、南方大陸に対する要衝として移動させた、ということ?」
「まあ、正解ではないけど正解ね。
 猫耳族の主要な道具。
 運搬や移動方法に使われていたのは馬車ではなかったのも大きかったかもね?」
「ああ、ルバーブですね?
 飛行船と言うべき?
 でも、ラーズは六百年前にあの都市ができたって言ってたけど??」
「ラーズ?
 あなたの雇っている保証人さん?
 彼の見識は間違っていないわよ。
 城塞都市の建造の最盛期は帝国の衰退期だったから。
 でも――」
「アーハンルドが転移さされたのは千年前なのね?
 そして、金翼の竜師団も?」

 金翼。
 この単語に、エレノアが反応した。
 多分、自分の翼が銀翼だからだと思う。
 そして、祖母はそこまで理解しているならあとは自分で調べなさい、そう言って通話を切ってしまった。
 何も情報になってないのに。

「なによ、もう‥‥‥」
「もう、はいいけど。
 金翼の竜って言った?」
「なによ、エレノア。
 寝るんじゃなかったの?」

 エレノアがくるりっと一回転してコウモリから人間の姿へと変身した。
 そんなに金色に敵対心があるの?
 金髪に私より緑がかった瞳。
 背中にあるはずの翼はみえないけど、たたんでいるのかもしれない。
 全裸でなければ、まだまともなのに。

「飽きた。
 ボクも行くからね、懐かしのエル・オルビスに。
 ところで、あの世界はいつからイルベルになったの、綾香?」

 勝手に世界の名前を変えたらだめだよ?
 見た目が十五歳前後にしか見えない彼女は眠たそうにあくびをしながらそう言ったのだった。
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