殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

文字の大きさ
29 / 79

秘密の聖女様、魔王と共謀する件 9

しおりを挟む

 ふん、この宰相殿。
 人間にしておくには惜しいほどに勘が良さそうではないか。
 さすが、前辺境国国王の側近‥‥‥
 手に入れれる駒は多いほど良い。 
 だが、知られるのだけは避けねばならん。
 もう、あの竜王と張り合えるほどの力など微塵もないことを‥‥‥
 知っていて選んだのだろうな、ハーミア殿を聖女にと。
 竜神に大地母神め。
 いや、精霊王の誰かも加担してのやり口か。
 最後は、地上、いや天界の神々総出で蓋をするつもりだ。

「あの子を生贄にか‥‥‥それだけは許さん」

 魔王はつい、そう呟いてしまっていた。
 怒りと彼自身の本性もあるのだろう。
 ここまで温和になれたのは、数百年という時間と王という経験が彼に忍耐を覚えさせたに過ぎない。
 現竜王と山を割り、大河を生み出したあの戦いの頃と、彼の本質はなにも変わってはいなかった。
 そして、生贄の一言はグランに少しばかりの光明を与えた。
 彼はふと、天井を見上げる。
 それはそこに何かがあるからではない。
 そのはるかな向こう。
 天の果てにいる存在が、これを見ているのではないか。
 そう、感じていたからだ。

「魔王様。
 この王城内に、神々の視線は‥‥‥?」

 ほう?
 魔王フェイブスタークはまったく、面白いやつが人間にもいるものだ。
 そう感心した。
 自分よりも数百歳も若いくせに、こやつ、我と同じことを考え、同じものを見ているわ、と。 
 その尺度ははるかに違いがあるが、見ている先にあることは同じだった。

「そうだな、宰相殿。
 どうあがき、どう結界を張ったところで全てではないにせよ。
 届いているだろうよ。
 そこのスィールズ殿。
 彼がこうしてここにいることも知った上での、大地母神の聖女を選んだわけだ。
 あの竜神はな」

 そうだな、隠していてもどうせ神々には筒抜けだ。
 我がこの魔都の結界を維持して数百年。
 力が尽き果てる頃を狙って、策謀を練って来たのだろう。
 ただ一点。
 大地母神の聖女を刺客代わりにしたことだけは失策だったろうがな‥‥‥
 魔王はそうほくそ笑む。
 視えない程度に、力を隠しておく術くらいは魔神から学んでいた。

「宰相殿。
 矢は折れた、そういうことだ。
 力足らずでな。
 ハーミア殿。
 第一の矢は折れた。 
 その侍女たちの誰かが第二、第三の矢かもしれん。
 それが放たれる前に話しておこう。
 皆も聞くがいい」

「父上、それはなりません!!」

 魔王の配下、四大将軍の数人が慌てて止めようとする。
 彼等、魔族の最高幹部だけが知る秘密をここで漏らすことはこの国の崩壊にもつながりかねない。
 そう案じていたからだ。

「良いのだ、お前たち。
 あそこに眠る我が息子であり、現魔族の最強と言ってもいい。
 あの子ですら、我の全盛期の足元にも及ばん。
 だが、それは恥ではない。
 その代わりに我らは世界に同胞を持つ文化を学んだ。
 地下世界にいる魔族は破壊と暴虐を好む。
 それを忌み嫌う心も、自らを統べる技も学んできた。
 恥じることは何もない。
 宰相殿。
 我が寿命はもうすぐ、あと数年も経たずに消えゆくだろう。
 神々は我が娘を生贄に蓋の維持を成す気だ。
 それだけは許さん。
 だが、そなたたちが持ってきてくれたこの債権目録。
 これだけのブラウディア鉱石があるならば、話は別だ」

「つまり、魔王様は眠られている姫君を生贄にしなくとも‥‥‥?
 それが可能、だと?
 しかし、亡くなられた後は?
 どなた様が跡継ぎになられるのですか?
 再生を終えた、ルゲル様ですか?」

「さあてな?
 それはまだ決めかねておるわー‥‥‥」

 魔王は誰がその栄誉に預かれるのか。
 そして、この魔族最大の危機を乗り越える?
 いや、責任を押し付けれるのは誰なのか。
 そんな顔で集まる、同族を見てため息をついていた。

しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

平民だからと婚約破棄された聖女は、実は公爵家の人間でした。復縁を迫られましたが、お断りします。

木山楽斗
恋愛
私の名前は、セレンティナ・ウォズエ。アルベニア王国の聖女である。 私は、伯爵家の三男であるドルバル・オルデニア様と婚約していた。しかし、ある時、平民だからという理由で、婚約破棄することになった。 それを特に気にすることもなく、私は聖女の仕事に戻っていた。元々、勝手に決められた婚約だったため、特に問題なかったのだ。 そんな時、公爵家の次男であるロクス・ヴァンデイン様が私を訪ねて来た。 そして私は、ロクス様から衝撃的なことを告げられる。なんでも、私は公爵家の人間の血を引いているらしいのだ。 という訳で、私は公爵家の人間になった。 そんな私に、ドルバル様が婚約破棄は間違いだったと言ってきた。私が公爵家の人間であるから復縁したいと思っているようだ。 しかし、今更そんなことを言われて復縁しようなどとは思えない。そんな勝手な論は、許されないのである。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

氷の公爵は、捨てられた私を離さない

空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。 すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。 彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。 アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。 「君の力が、私には必要だ」 冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。 彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。 レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。 一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。 「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。 これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

【完結】薬学はお遊びだと言われたので、疫病の地でその価値を証明します!

きまま
恋愛
薄暗い部屋の隅、背の高い本棚に囲まれて一人。エリシアは読書に耽っていた。 周囲の貴族令嬢たちは舞踏会で盛り上がっている時刻。そんな中、彼女は埃の匂いに包まれて、分厚い薬草学の本に指先を滑らせていた。文字を追う彼女の姿は繊細で、金の髪を揺らし、酷くここには場違いのように見える。 「――その薬草は、熱病にも効くとされている」 低い声が突然、彼女の背後から降ってくる。 振り返った先に立っていたのは、辺境の領主の紋章をつけた青年、エルンだった。 不躾な言葉に眉をひそめかけたが、その瞳は真剣で、嘲りの色はなかった。 「ご存じなのですか?」 思わず彼女は問い返す。 「私の方では大事な薬草だから。けれど、君ほど薬草に詳しくはないみたいだ。——私は君のその花飾りの名前を知らない」 彼は本を覗き込み、素直にそう言った。 胸の奥がかすかに震える。 ――馬鹿にされなかった。 初めての感覚に、彼女は言葉を失い、本を閉じる手が少しだけ震え、戸惑った笑みを見せた。 ※拙い文章です。読みにくい文章があるかもしれません。 ※自分都合の解釈や設定などがあります。ご容赦ください。 ※本作品は別サイトにも掲載中です。

処理中です...