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秘密の聖女様、魔王と共謀する件 9
しおりを挟むふん、この宰相殿。
人間にしておくには惜しいほどに勘が良さそうではないか。
さすが、前辺境国国王の側近‥‥‥
手に入れれる駒は多いほど良い。
だが、知られるのだけは避けねばならん。
もう、あの竜王と張り合えるほどの力など微塵もないことを‥‥‥
知っていて選んだのだろうな、ハーミア殿を聖女にと。
竜神に大地母神め。
いや、精霊王の誰かも加担してのやり口か。
最後は、地上、いや天界の神々総出で蓋をするつもりだ。
「あの子を生贄にか‥‥‥それだけは許さん」
魔王はつい、そう呟いてしまっていた。
怒りと彼自身の本性もあるのだろう。
ここまで温和になれたのは、数百年という時間と王という経験が彼に忍耐を覚えさせたに過ぎない。
現竜王と山を割り、大河を生み出したあの戦いの頃と、彼の本質はなにも変わってはいなかった。
そして、生贄の一言はグランに少しばかりの光明を与えた。
彼はふと、天井を見上げる。
それはそこに何かがあるからではない。
そのはるかな向こう。
天の果てにいる存在が、これを見ているのではないか。
そう、感じていたからだ。
「魔王様。
この王城内に、神々の視線は‥‥‥?」
ほう?
魔王フェイブスタークはまったく、面白いやつが人間にもいるものだ。
そう感心した。
自分よりも数百歳も若いくせに、こやつ、我と同じことを考え、同じものを見ているわ、と。
その尺度ははるかに違いがあるが、見ている先にあることは同じだった。
「そうだな、宰相殿。
どうあがき、どう結界を張ったところで全てではないにせよ。
届いているだろうよ。
そこのスィールズ殿。
彼がこうしてここにいることも知った上での、大地母神の聖女を選んだわけだ。
あの竜神はな」
そうだな、隠していてもどうせ神々には筒抜けだ。
我がこの魔都の結界を維持して数百年。
力が尽き果てる頃を狙って、策謀を練って来たのだろう。
ただ一点。
大地母神の聖女を刺客代わりにしたことだけは失策だったろうがな‥‥‥
魔王はそうほくそ笑む。
視えない程度に、力を隠しておく術くらいは魔神から学んでいた。
「宰相殿。
矢は折れた、そういうことだ。
力足らずでな。
ハーミア殿。
第一の矢は折れた。
その侍女たちの誰かが第二、第三の矢かもしれん。
それが放たれる前に話しておこう。
皆も聞くがいい」
「父上、それはなりません!!」
魔王の配下、四大将軍の数人が慌てて止めようとする。
彼等、魔族の最高幹部だけが知る秘密をここで漏らすことはこの国の崩壊にもつながりかねない。
そう案じていたからだ。
「良いのだ、お前たち。
あそこに眠る我が息子であり、現魔族の最強と言ってもいい。
あの子ですら、我の全盛期の足元にも及ばん。
だが、それは恥ではない。
その代わりに我らは世界に同胞を持つ文化を学んだ。
地下世界にいる魔族は破壊と暴虐を好む。
それを忌み嫌う心も、自らを統べる技も学んできた。
恥じることは何もない。
宰相殿。
我が寿命はもうすぐ、あと数年も経たずに消えゆくだろう。
神々は我が娘を生贄に蓋の維持を成す気だ。
それだけは許さん。
だが、そなたたちが持ってきてくれたこの債権目録。
これだけのブラウディア鉱石があるならば、話は別だ」
「つまり、魔王様は眠られている姫君を生贄にしなくとも‥‥‥?
それが可能、だと?
しかし、亡くなられた後は?
どなた様が跡継ぎになられるのですか?
再生を終えた、ルゲル様ですか?」
「さあてな?
それはまだ決めかねておるわー‥‥‥」
魔王は誰がその栄誉に預かれるのか。
そして、この魔族最大の危機を乗り越える?
いや、責任を押し付けれるのは誰なのか。
そんな顔で集まる、同族を見てため息をついていた。
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