殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女様、魔王と共謀する件 8

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 ふっ。
 我が娘を置き去りにして、一族を救った王‥‥‥か。 
 何が王だ。
 あの子の人生を捨てさせてまで、あの蓋を守らねばならんとは、因果なものよ‥‥‥

「ハーミア殿。
 これで我が国と貴国との約束は、とりあえずの合意を得たように思うが。
 王、いや女王か。
 主としてそれで納得して頂けるかな?」

 控えさせていた書記に簡易的なものではあるが正式な証文として列記させたものをグランに手渡させる。
 グランはそれを一瞥し、ハーミアに裁可を仰いだ。

「グラン、代行権限を与えるわ‥‥‥取りまとめなさい。
 わたしには――」

 あの場所に行きたい。
 旦那様がいるあの場所へー‥‥‥。
 若き未亡人の少女はまだ愛する女の心の中から這い上がって来れないでいた。
 スィールズ。
 あなた‥‥‥本当に生きていられるの?
 ねえ、スィールズ‥‥‥
 ハーミアの心はその疑念と魔王の伝えた生きている。 
 その言葉への期待感で大きくゆらいでいた。

「かしこまりました、御主人様。
 わたしは魔王陛下は――」

 嘘をついてはいないように思います。
 そう、密やかにグランはハーミアにささやいた。
 いまは辺境国国王としての御自分を取り戻して下さい、とも。

「では、陛下。
 このグランが代行させていただきます。
 この場での、国交を成立なさいますか?
 それとも――」

「この場で、だ。
 宰相殿。
 我は時間がかかることを望まん。
 それに、時間がないだろう?
 いつまでも結界ももつまい?
 違うかな?」

 やれやれ、喰えない御仁だ。
 すでに帝都から騎士団は出ているだろう。
 辺境国軍がいかに人数が多いとはいえ、所詮は正規兵ではない。
 魔王軍の精鋭の駐屯は‥‥‥何よりも辺境国にとってのもぎ取りたい条件ではあった。
 ただし――

「追加事項などは言われない、と確約を頂きたい」

 グランはこれは譲れない。
 そういう姿勢を示した。
 追加事項?
 魔王は、おやそういう考えもあったな。
 そんな笑みを浮かべる。

「我が御主人様は、辺境国国王の夫はスィールズ様ただお一人。
 側室などには入りませぬ故‥‥‥」

「おや、我はまだ側室を頂いても良いのだがな?
 魔族と竜族、そして、帝国の上流貴族であり国王でもある。
 良い血筋になるとは思わんか?」

「いえいえ。
 まったく、思いません。
 それでしたら、既に帝国の皇族は手にされているではありませんか。
 あとは竜王と和睦なさってはいかがですか?
 それとも、四世紀前のあのいさかい、まだ根に持たれていると、でも?」

 グランは挑発するように魔王にひたすらに立ち向かう。
 ハーミアだけは生かして帰さねばならない。
 ここにいる、竜と自分たちが死んだとしてもだ。
 魔王は気分で即‥‥‥条約を破るだろう。
 あの古い時代のままの彼であるならば。

「ふん。
 竜王な。
 あれも若く、我も若かった。
 言い忘れていたが、グラン殿。
 我が国は、この大陸を除く多くの亜人、エルフ、竜族、人間国家とも同盟を結んでいる。
 帝国だけが盟主ではないのだよ。
 商業協定、軍事協定など。
 形は様々だが、な?」

 つまりこの場で調印したことを翻せば、魔王は世界を敵に回すのだ。
 そう、自分自身で暴露していた。
 なぜ、そこまで譲歩してあの土地を欲しがる?
 本当に蓋だの、娘だの。
 それだけが目的か?
 グランの心に、妙な暗雲がたちこめつつあった。

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