殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女様、魔王と共謀する件 10

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「まったく、己から名乗り出る勇気すら持たぬ、か。
 ところで、辺境国国王殿。
 いつまで宰相殿に船のかじ取りを任せる気かな?
 我にはどこまで行ってもそなたが船長としての任を手放そうとはしていないように見えるのだがな?」

 魔王はその仮面をいつ脱ぎ捨てるのだ、ハーミア殿?
 そんな一言を、少女に投げかけていた。
 この似ても焼いても食えない女傑め。
 まるであの頃の、竜王にそっくりではないか、と。
 しかし、それに返事をしたのはグランだった。

「魔王陛下。
 我が主は、スィールズ様の件など心が焦燥しております。
 今宵の件はここに国交も樹立したことにて――
 我らは早々に、この場から去りたいと願いますな。
 こうしている間にも、帝国正規兵は迫っておりますのでー‥‥‥」

 グランは頭を深々と下げて挨拶を魔王にする。
 その視線のさきにあるのはハーミアではなく、レベッカだ。
 あれを抑えて置けよ、我が未来の妻。
 ここで第二の矢を放たれては――すべてが台無しになる。
 そういう視線だった。

「ふん、そう言うことであればまあ、我も多くを晒したに過ぎんしな。
 対等の同盟関係。
 どうか、我が軍がそちらの債権の鉱山にたどり着くまでに持ちこたえて頂かねばな。
 お前たち、そうそうに出陣の用意をおし。
 数年ぶりに、魔王軍の名を天下に知らしめてくるがいい――」

 配下の四将軍がそれの命令に従い、その場を去っていく。
 さて、来るのが帝国だけならば‥‥‥良いがな。
 アールディア。
 お前が陣頭に立つのであれば――
 エミスティア‥‥‥許しておくれ。
 目覚めた時、父はおらぬかもしれん。
 現竜王の名を心で思い描き、魔王は死出の旅たちの覚悟を決めていた。

「では、陛下。
 これにて、我らはー‥‥‥。
 御主人様、何か他には?」

 グランの問いに、レベッカとサーラに支えられて立ち上がる。
 少なくとも、魔族側からはそう見えているはずだ。
 魔王は分からないが‥‥‥

「いいえ、グラン。
 それでいいわ。ご苦労。
 魔王陛下。
 では、辺境国国王として陛下と魔族へ栄光と祝福を述べて‥‥‥同盟の樹立を喜びたいと思います。
 これにて、我らは帰参させて頂きたく。
 どうか、長きに渡り、その賢君たる治世が続くことを祈っております」

「ああ、辺境国国王殿。
 そちらもどうか末代まで栄光に輝く繁栄を期待しておるよ。
 魔族はそなたたちを歓迎する。
 どうか、無事な帰路をな――」


 こうして、妙な関係性を暴露しあった魔族と辺境国国王との共謀が始まった。
 帰途の途中、魔族の国境をこえ、辺境国の結界に入った時。
 まず、ハーミアがしたことは――
 侍女サーラの首を掴み上げ、天井高くへと片腕で締めあげたことだった。
 空いたもう片方の手には、サーラ程度を消滅させることのできる魔力を凝縮した光球が発生する。
 その行動を、共にいたグランもレベッカも止めようとはしなかった。

「この裏切り者!!
 さあ、言いなさいサーラ‥‥‥。
 あの場にスィールズがいたことも、あの魔力解放も。
 あの演技すらも最初から筋書きを描いてしていたというのに!!!
 お前のその胎内に、あの魔都すらも消滅させかねない程のブラウディア鉱石を変換させた。
 その爆弾を仕込んだのは誰!?
 わたしの可愛いお前をそのように扱った愚か者の名を言いなさい!!
 永遠の時間をかけてでも滅ぼしてやるわ。
 我が臣下をそのように扱ったことを後悔させてやる!
 あの場でのお前のその爆弾を作動させることを治めるためにわたしがどれだけの力を使ったか理解しているの?
 さあ、言いなさい、サーラ。
 このハーミアが恋する愚かな女を演じてまで成した魔族との同盟。
 それを望まなかったのは――誰!!??」

 ハーミアが締めあげるその片腕はサーラに泡を吹かせるほどに強く。
 もう片方にある光球は死への予感をひしひしと侍女に伝えていた。
 サーラは言葉にならない思念で、愛しい主へと犯人の名を告げる。
 この自分でも望まない、望んでいない。
 胎内にある爆弾を仕込んだ主。
 その名は――

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