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秘密の聖女様、大公閣下と共謀する件 1
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侍女がその心の声でハーミアに伝えたその真相。
それを聞いた主は、悲しみに涙を流し頬を濡らした。
「そう‥‥‥わかったわ。
おやすみなさい、サーラ――」
もはや抵抗することすらできない侍女の喉元を締め上げた腕にハーミアは力を込めた。
鈍い音とともに‥‥‥サーラの全身は力を失いだらん、と糸が切れた人形のようになる。
妹の末路を見ていられないレベッカは思わず、手で顔を覆った。
グランはその顛末を注視し、ハーミアの次の言葉を待つ。
少女は辺境国国王として静かに彼らに命じた。
「グラン、レべッカ。
それに後続の馬車に乗るお前たち――竜王様の元へお帰り。
ハーミアは、王族から抜ける、そう伝えなさい」
続いてせめて妹の遺骸だけでも、とすがりつくレべッカを蹴り飛ばすとハーミアは馬車の扉を開けた。
天空に広がっているはずの結界はもう、その痕跡を消している。
やってくれるものね‥‥‥
すがりつくレべッカを再度、押し退けるとハーミアは馬車から中空へと浮かび上がって。
「レべッカ。
お前の妹に感謝なさい。
この遺骸一つで、お前たち全員の命と引き換えにできることをね‥‥‥。
親友を殺させたその報い、必ず受けさせる。
そう、お伝え‥‥‥卑怯者のお前たちの主にね!!」
もう、実家はダメだ。
城内には帝国だけでなく、竜族の精鋭すら駐留しているだろう。
サーラ‥‥‥最後に教えてくれてありがとう。
その命がある限り、この兵器は主の意のままになる、と――
「必ず、何千年かかっても報復してやる。
ハーミアを、クルード女公爵を侮った報いを楽しみに待てってね――さようなら、レべッカ。
グラン、幸せにね‥‥‥」
今更、慌てて結界を展開したところで遅いのよ、大叔父様。
このハーミアの力を甘く見過ぎてるわ。
侍女が用意した程度の兵器であの魔都や魔王がどうにかなるもんですか‥‥‥
「ねえ、サーラ‥‥‥。
良い風ね?
いつだったっけ、二人でこうやって飛んだの‥‥‥。
ごめんね、痛かった?
ねえ、苦しかった?
ごめんね、何年もそのことに気づいてあげれなくて‥‥‥無能な主でごめんね、サーラ‥‥‥」
侍女が持つものなんて、旦那様の全力にも及ばない。
ふっ――、とハーミアはサーラの亡骸を抱えながらみじめに笑っていた。
第二、第三の矢?
第二の矢の数倍の物を――
「この胎内に持っていることすら、あの魔王には見抜かれていたのに。
勝てるわけないじゃない。
まあ、それでも――」
そう、この二人分の兵器があれば‥‥‥
まだ、あれは叶う。
よくよく考えてみるべきだったのだ。
なぜ、大地母神の聖女を名乗らすように仕向けたのか。
なぜ、帝国の皇城の奥深くに大地母神の神殿があったのか。
なぜ、大地母神の大神官があの鉱山にいたのか。
「蓋を強化する結界じゃなかった。
転送していたのよ。
なんで気づかなかったんだろ‥‥‥。
いいわ、ついでに貰おうじゃない。
あのクズ皇太子殿下の残した最後の債権。
取り立てて、引きずり降ろしてやるわ。
帝国を、人類の盟主の座からね――!!!」
向かうべきは帝都。
協力者がいる――こんな時に思い出すなんて、なんて間が良いのか悪いのか。
あいにくとまだ、辺境国国王としての地位がある。
ヤクザ大公様‥‥‥手伝ってもらうわよ。
ハーミアは虚空へとサーラの亡骸と共に姿を消した。
それを聞いた主は、悲しみに涙を流し頬を濡らした。
「そう‥‥‥わかったわ。
おやすみなさい、サーラ――」
もはや抵抗することすらできない侍女の喉元を締め上げた腕にハーミアは力を込めた。
鈍い音とともに‥‥‥サーラの全身は力を失いだらん、と糸が切れた人形のようになる。
妹の末路を見ていられないレベッカは思わず、手で顔を覆った。
グランはその顛末を注視し、ハーミアの次の言葉を待つ。
少女は辺境国国王として静かに彼らに命じた。
「グラン、レべッカ。
それに後続の馬車に乗るお前たち――竜王様の元へお帰り。
ハーミアは、王族から抜ける、そう伝えなさい」
続いてせめて妹の遺骸だけでも、とすがりつくレべッカを蹴り飛ばすとハーミアは馬車の扉を開けた。
天空に広がっているはずの結界はもう、その痕跡を消している。
やってくれるものね‥‥‥
すがりつくレべッカを再度、押し退けるとハーミアは馬車から中空へと浮かび上がって。
「レべッカ。
お前の妹に感謝なさい。
この遺骸一つで、お前たち全員の命と引き換えにできることをね‥‥‥。
親友を殺させたその報い、必ず受けさせる。
そう、お伝え‥‥‥卑怯者のお前たちの主にね!!」
もう、実家はダメだ。
城内には帝国だけでなく、竜族の精鋭すら駐留しているだろう。
サーラ‥‥‥最後に教えてくれてありがとう。
その命がある限り、この兵器は主の意のままになる、と――
「必ず、何千年かかっても報復してやる。
ハーミアを、クルード女公爵を侮った報いを楽しみに待てってね――さようなら、レべッカ。
グラン、幸せにね‥‥‥」
今更、慌てて結界を展開したところで遅いのよ、大叔父様。
このハーミアの力を甘く見過ぎてるわ。
侍女が用意した程度の兵器であの魔都や魔王がどうにかなるもんですか‥‥‥
「ねえ、サーラ‥‥‥。
良い風ね?
いつだったっけ、二人でこうやって飛んだの‥‥‥。
ごめんね、痛かった?
ねえ、苦しかった?
ごめんね、何年もそのことに気づいてあげれなくて‥‥‥無能な主でごめんね、サーラ‥‥‥」
侍女が持つものなんて、旦那様の全力にも及ばない。
ふっ――、とハーミアはサーラの亡骸を抱えながらみじめに笑っていた。
第二、第三の矢?
第二の矢の数倍の物を――
「この胎内に持っていることすら、あの魔王には見抜かれていたのに。
勝てるわけないじゃない。
まあ、それでも――」
そう、この二人分の兵器があれば‥‥‥
まだ、あれは叶う。
よくよく考えてみるべきだったのだ。
なぜ、大地母神の聖女を名乗らすように仕向けたのか。
なぜ、帝国の皇城の奥深くに大地母神の神殿があったのか。
なぜ、大地母神の大神官があの鉱山にいたのか。
「蓋を強化する結界じゃなかった。
転送していたのよ。
なんで気づかなかったんだろ‥‥‥。
いいわ、ついでに貰おうじゃない。
あのクズ皇太子殿下の残した最後の債権。
取り立てて、引きずり降ろしてやるわ。
帝国を、人類の盟主の座からね――!!!」
向かうべきは帝都。
協力者がいる――こんな時に思い出すなんて、なんて間が良いのか悪いのか。
あいにくとまだ、辺境国国王としての地位がある。
ヤクザ大公様‥‥‥手伝ってもらうわよ。
ハーミアは虚空へとサーラの亡骸と共に姿を消した。
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