殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女様、大公閣下と共謀する件 4

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 ハーミアがサーラの遺骸を連れて虚空へと消え去ったあと――
 グランは走り続ける馬車の中で、レベッカを抱き寄せていた。
 妹を主人に殺され、その遺体すらも置いて行ってもらえず‥‥‥
 レベッカは、涙に暮れて彼の胸で泣き明かし、グランはその悲しみを癒す言葉をかけてやらねばならない。
 しかし、グランからレベッカにかけられた声はまったく違うものだった。

「行ったか――?」

 魔法に疎いグランはハーミアが姿を消してその辺りにいるのではないか。
 そう、疑いの目を向けざるを得なかった。
 
「うーん‥‥‥多分。
 行ったはずよ、まあ、さんざん蹴られたわ――アザにならなきゃいいんだけど」

 そう言い、レべッカははあ、演技も楽じゃないわね。
 と、グランの胸から顔を上げる。

「演技の割には、涙のあとは本物のようだがな、レベッカ?
 サーラをああ扱われて、泣かない姉はいないだろう?」

 うーん?
 レベッカはそうでもないわよ、とああ酷い。
 こんなに腫れてる、などと手鏡で顔を確認しながらぼやいていた。

「ハーミアったら、手加減なしに蹴るんだから、ひどいもんだわ。
 まあ、あれはハーミアに本気で思いこませる必要もあったし‥‥‥サーラだって真実は知らないから。
 仮死状態に持ち込むにはあれくらいしてもらわないとね」

「仮死状態なあ‥‥‥竜族は脳と心臓にそれぞれ、二つ命があるだったか?」

「そう、だから人間の形をしている時は頸椎くらいへし折られないとね、そうならないのよ。
 あの爆弾だって、サーラが生きている間は竜王様の意思一つで起動できるわけだし。
 多分、バカだからあの子。
 サーラったら、本気で死んだ気になってるわよ?」

「どっちに対してバカと言っているのか分からなくなる言い方だな、レベッカ。
 まったく、先々代様も魔都に行く計画を始める前に現れるのだから――
 御主人様には、細部を隠して動かなければならないこちらの苦労も分かって欲しいものだ」

 グランは宰相としてそうため息をつく。
 先々代、つまり、ハーミアの祖父に当たる古竜か来たのは、魔都へと出る前のことだ。
 あの酔いつぶれた夜にフラり、と彼自身が辺境国王城に現れたのだから。

「酔いつぶれたハーミアの世話をサーラにさせておいて正解だったわね。
 あの夜にいきなり爆弾だのなんだの。
 そりゃこっちもびっくりするわよ‥‥‥しかもそれが、竜王様の御指示だなんて言われたら。
 アールディア様、現竜王様にはそりゃあ、忠誠心はあるけど。
 妹をそんなやり方で暗殺兵器の仕立て上げられたんじゃ、愛想も尽きるわ。
 ‥‥‥ハーミアの産まれる前からわたしたちは、あの公爵家に仕えてきたんだから」

 よしよし、良く我慢してくれたよ。
 グランは最愛の女性を抱き寄せて、その怪我の部分をそっと撫でてやる。


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