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秘密の聖女様、大公閣下と共謀する件 9
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「はあ‥‥‥なんでなのよ」
祖父の守り居座る南極の城に戻った時。
ハーミアは大きなため息をついていた。
「サーラのばか」
その呟きに呼応するように、城の大広間の奥からさらに大きなため息が聞こえてくる。
それは人間の数百倍は大きなものだった。
「戻ったか。
やれやれー‥‥‥困った子孫たちだ」
「おじい様。
大層な嫌味を言われるのですね?
それにしても、相変わらず寒いわ、ここ。
おじい様、氷竜でしたっけ?」
この一月、疑問に思いながらも聞けなかったことをふと、ハーミアは言葉にした。
こんな極北に居るのに、誰も部下がいない孤独の主?
変なおじい様。
ハーミアはそう思っていた。
「嫌味も言いたくなるわい、ハーミアよ。
さんざん報復だ、復讐だと言いながら出て行って、半日経たずと戻ってくるとはな。
我が孫にしては情けない限りだ」
「おじい様。
何かあればすぐに戻れと言われたのも、この――」
そう言い、ハーミアは右の二の腕に巻かれた祖父のウロコを差し出す。
「償還の腕輪を寄越されたり。
どれが本音なの?」
ハーミアは目の前にいる、夫のスィールズの数十倍は大きな古竜を見上げた。
彼は、天井が見あげても分からないほどに遠くにある建物の中に本来の姿で寝そべっていた。
「本音?
どれも本音だ。
孫は可愛く、しかし、大言壮語は面白くない。
己の立ち位置も知らない者を孫と呼ぶには、なんとも物悲しい。
かといえ、ただ死に場に行かすのは更に愚かな行為だ。
力ある者ならば、助力を与えるのは当たり前のこと」
人間の常識とはあまりにもかけ離れたことを易々と言って退ける。
この古竜を見て、ハーミアは小首を傾げた。
理解に苦しむ、そんな風にも見て取れる。
「なら、おじい様があの場に来られれば良かったじゃない?
おじい様だけでなく、八竜の長老の方々も共に。
あの場には竜王様もいましたわよ?」
竜族のことは竜族で解決して下されば、こんな揉め事に転じることもなかったのに‥‥‥。
そう、ハーミアはぼやいていた。
「そう言うな、孫よ。
竜には竜の、人には人の、魔には魔の理由がある。
何より、専横しようとしたのは人なのだからな?
この城の主が不在の間に、人も魔も‥‥‥大きくなりすぎた。
我らも、少しばかり長く眠り過ぎたな」
「眠り過ぎたって‥‥‥おじい様、父上様や母上様に看取られてつい十年程前に亡くなられたと――
ハーミアには幼過ぎて、記憶がありませんが」
記憶と異なることを言いだす祖父にハーミアと、会話の途中から帰参していたサーラは不思議そうな顔をする。
死んだ?
ハーミアの祖父、先々代のクルード公爵レグルスは面白そうに笑いだした。
「あれは単なる影だよ、孫よ。
それに、サーラ。
お前もわしの血脈。
古竜は多くの竜の祖先でもある。
この城を守る為に眠りながら時間を過ごして来ただけだ。
ただ、王の選定だけは誤ったようだがの‥‥‥」
「おじい様‥‥‥?
おじい様はどの古竜なの?
それにここは誰の城?
いつかの竜王様の城ですか?」
「ふーん‥‥‥?
知りたいか、ハーミア?
わしは、いまは殆どおらぬ虚竜の一つ。
虚空と闇を祖先とする存在。
この城はな‥‥‥」
魔神の妻、氷の女王が残した城だよ。
思わぬ真実を知り、ハーミアとサーラは驚いた。
祖父の守り居座る南極の城に戻った時。
ハーミアは大きなため息をついていた。
「サーラのばか」
その呟きに呼応するように、城の大広間の奥からさらに大きなため息が聞こえてくる。
それは人間の数百倍は大きなものだった。
「戻ったか。
やれやれー‥‥‥困った子孫たちだ」
「おじい様。
大層な嫌味を言われるのですね?
それにしても、相変わらず寒いわ、ここ。
おじい様、氷竜でしたっけ?」
この一月、疑問に思いながらも聞けなかったことをふと、ハーミアは言葉にした。
こんな極北に居るのに、誰も部下がいない孤独の主?
変なおじい様。
ハーミアはそう思っていた。
「嫌味も言いたくなるわい、ハーミアよ。
さんざん報復だ、復讐だと言いながら出て行って、半日経たずと戻ってくるとはな。
我が孫にしては情けない限りだ」
「おじい様。
何かあればすぐに戻れと言われたのも、この――」
そう言い、ハーミアは右の二の腕に巻かれた祖父のウロコを差し出す。
「償還の腕輪を寄越されたり。
どれが本音なの?」
ハーミアは目の前にいる、夫のスィールズの数十倍は大きな古竜を見上げた。
彼は、天井が見あげても分からないほどに遠くにある建物の中に本来の姿で寝そべっていた。
「本音?
どれも本音だ。
孫は可愛く、しかし、大言壮語は面白くない。
己の立ち位置も知らない者を孫と呼ぶには、なんとも物悲しい。
かといえ、ただ死に場に行かすのは更に愚かな行為だ。
力ある者ならば、助力を与えるのは当たり前のこと」
人間の常識とはあまりにもかけ離れたことを易々と言って退ける。
この古竜を見て、ハーミアは小首を傾げた。
理解に苦しむ、そんな風にも見て取れる。
「なら、おじい様があの場に来られれば良かったじゃない?
おじい様だけでなく、八竜の長老の方々も共に。
あの場には竜王様もいましたわよ?」
竜族のことは竜族で解決して下されば、こんな揉め事に転じることもなかったのに‥‥‥。
そう、ハーミアはぼやいていた。
「そう言うな、孫よ。
竜には竜の、人には人の、魔には魔の理由がある。
何より、専横しようとしたのは人なのだからな?
この城の主が不在の間に、人も魔も‥‥‥大きくなりすぎた。
我らも、少しばかり長く眠り過ぎたな」
「眠り過ぎたって‥‥‥おじい様、父上様や母上様に看取られてつい十年程前に亡くなられたと――
ハーミアには幼過ぎて、記憶がありませんが」
記憶と異なることを言いだす祖父にハーミアと、会話の途中から帰参していたサーラは不思議そうな顔をする。
死んだ?
ハーミアの祖父、先々代のクルード公爵レグルスは面白そうに笑いだした。
「あれは単なる影だよ、孫よ。
それに、サーラ。
お前もわしの血脈。
古竜は多くの竜の祖先でもある。
この城を守る為に眠りながら時間を過ごして来ただけだ。
ただ、王の選定だけは誤ったようだがの‥‥‥」
「おじい様‥‥‥?
おじい様はどの古竜なの?
それにここは誰の城?
いつかの竜王様の城ですか?」
「ふーん‥‥‥?
知りたいか、ハーミア?
わしは、いまは殆どおらぬ虚竜の一つ。
虚空と闇を祖先とする存在。
この城はな‥‥‥」
魔神の妻、氷の女王が残した城だよ。
思わぬ真実を知り、ハーミアとサーラは驚いた。
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