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秘密の聖女様、大公閣下と共謀する件 8

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 ザイール大公が雷帝の園を発動し、大公家の一縁を外敵の侵入を防ぐ壁として張り巡らせた頃――
 そのはるかな先。
 帝都には入らないが、外縁部を守る外壁に連なる塔の一つに、二つの人影があった。

「あららーあんな古いものどっから持ちだして来たんですかね―――?
 それより、扱える人間なんてまだいたんだ‥‥‥」

「あんたねえ、その抜けた喋り方というか。
 わたしと年齢、変わらないのにはるかな古代を知るような言い方やめなさいよ‥‥‥」

「だって、奥様。
 あれ、相当な力使いますよ?
 わたしたちだって、捕えられたら抜け出すのに一苦労するくらい。
 あの時の、ウロコを焼かれた程度では済まないくらの傷を負いますからね――?」

 ああ、もううるさい。
 この、天然というかアホな侍女は人間でも竜の形態でも何も変わらない。
 もう一度、その全身を焼いてやろうかしら?
 お互い、あの忌々しい兵器が取り除かれた身。
 遠慮は要らない気がしていた。

「ねえ、サーラ?
 そのお気楽でオス狂いのお前の行動がそもそもの発端でしょ?
 天然の中身のない頭少しは使いなさいよ。
 大公様の財産なら、ミスリル鉱石なり、ブラウディア鉱石なり。
 思うがままに手に入るでしょ?」

「奥様‥‥‥そんな過去の話。
 もう終わったことじゃありませんか。
 サーラはただ、愛が欲しかっただけで――、それなら奥様だって何も変わらない‥‥‥」

 このバカ雷竜は‥‥‥
 ハーミアの額に青筋が立つ。

「あんたね、もう一回、仮死状態にしてやろうか?
 幼い頃からうちにいて、わたしより年上に見えたからレベッカより少しは下。
 四十年程度かと思ったら、年齢変わらないっておじい様が言うじゃない。
 呆れ果ててものも言えないわよ。
 十もいかないうちから男漁りだなんてー‥‥‥」

「そんな!?
 だって、竜のメスは産まれて二年もすればそりゃ‥‥‥」

 はいはい。
 良かったわね、あなたの最初の相手が竜王様、その御人で。
 そんな幼女に手を出す、アホな君主。
 おじい様並みの魔力があれば、焼き尽くしてやるのに――

「もういいから、で、どうなのよ?
 その竜の目から見て。
 大地母神の神殿は攻略できそうなの?
 それとも、いまのこのわたしたちだけでは厳しいの??
 この距離ではお前にしかはかれないのだから。
 きちんとなさいよ、サーラ‥‥‥」

 侍女はそんなことはもう終わっております。
 なんて、胸を張りながら報告を始めていた。

「神殿内には竜と人間、ともにかなりの魔力を使うのがいますねえ。
 総勢、百は下らないかと。
 中には奥様以上の力を持たれる方も数名。
 大公様のあの雷帝の園は、ある種賢明な処置かもしれません。
 内からは難しく、外からは――」

「更に強固な防御壁になる、か。
 まあ、ザイール大公様にしてはいいセンスしてるわね?
 まるで人が変わったみたい。
 そして、あの神殿では――」

 まだ、聖女が生きてるのにね?
 気が早いのではないですか、竜王様?
 聖女降誕の儀式。
 盛大に邪魔させて頂くわ――

「で、どうします、奥様?
 正面から行きますか?」

「ま、おバカは健在ね。
 それでいいわ。
 行くわけないでしょ。
 戻るわよ、おじい様のところに。
 それとも―――?」

 そう言い、ハーミアは大地母神の神殿の方角を指差す。

「お前の初夜の相手、竜王様に側室にしてください、とでも。
 頼みに行きたいんなら、邪魔はしないわよ?」

 そう言い、ハーミアは姿を消してしまった。
 側室‥‥‥?
 竜族の貴族の娘とはいえ、下級な自分が王族に?
 サーラは少しだけ考えてしまう。
 でも、その相手はこの胎内に黒い死を誘うものを置いて行った。

「ハーミア‥‥‥
 わたしにだって、ちゃんと恨みだってあるし、あなたに対する忠誠心だって‥‥‥。
 仕方ないじゃない。
 こんな間抜けな言動でもしなきゃ、下女のわたしがあの人に近づける時なんて――」

 あなた様のお側で愚かな侍女で居続けて、姉がグランとの婚儀を済ませ席が空いたその時こそが好機だ。
 あの夜にそう決めたんだから‥‥‥
 サーラは、憎しみを込めてその方角を見ると、静かに姿を消した。
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