殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女様、大公閣下と共謀する件 11

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 黒髪の偉丈夫の姿を取った虚竜、先々代のクルード公爵レグルスは目を細めた。
 そんな秘策、あるわけなかろうが。
 可愛い孫よ、そんな顔つきだった。

「いいかい、ハーミア。
 このエル・オルビスが創世記より様々な神や人、魔が産まれ出でてその覇を競い合った。
 そのような良策があれば、あの数万年前の頃よりー‥‥‥。
 誰もが望むような楽園が地上世界にも地下世界にももたらされているはずだとは思わんか?」

「思わんかっておじい様。
 つまり、無策なのですね?
 それなのに、このハーミアを愚かだと言わんばかりに‥‥‥」

 実の祖父は人と魔、そして神の間に竜の一文字は入れなかった。
 それはつまり、竜がそのどれかに属する勢力。
 そういう意味のような気がハーミアにはしていた。

「無策ではないが、ハーミア。
 お前は賢い領主ではないな。
 それだけは、わしにも分かるがの?
 なんと、家臣を守らない情けない主だとな?」

「家臣を守らない!?
 このハーミアがですか!!???」

 十四歳で既に夫を持ち、二年もの間領主として辺境国を取り仕切り、その上あの魔王とまで対峙させる任務を竜王から与えられたこのハーミアが?
 少女は怒りに震えていた。
 そこまで言うならば、祖父様が先に立てば良かったではないですか。
 家臣に裏切られたのはわたしなのに、と。
 ハーミアは大きく怒りをあらわにしていた。

「だから、それが幼い、何よりも情けない。
 そう言うとるんじゃ、ハーミア。
 家臣に裏切られたのではなく、信頼されていないから全てを打ち明けてもらえんのだ。
 その結果が、あのスィールズとの謁見であり、このサーラの首を素手でへし折り、何より、グランという片腕から多くを伝えて貰えなかったのではないのか?」

「それはー‥‥‥だって、あの時はサーラを殺したいほどに憎んでいたし‥‥‥」

「それで、殺したではないか?
 人であれば、即死だったぞ、良かったなハーミア?
 裏切られた恨みを、自分の侍女で晴らすことができて、のう?」

 黒髪のレグルスの言葉がハーミアの心に突き刺さる。
 あの時は――誰もが敵に見えた。
 帝国への復讐しか脳裏になかったからだ。

「それもこれも、おじい様と魔王様が共謀したからではないですかー‥‥‥!!
 あの夜、グランに言うのではなく、この主たるハーミアに!!」

「言えば? 
 言えなどうなった?
 お前はそのまま、竜王の城か帝都へとまっしぐらに進んだであろうが?
 その程度にしか頭が回らんで、よくぞ主と言えたものだ‥‥‥」

 まあ、その怒りも分からんではないが。
 レグルスはそう言うと、一月前までハーミアとサーラの胎内に在ったあるものをどこからか取り出した。

「これだがの、ハーミアとサーラ。
 よく見ておいで?」

 二人を有無を言わさずに己の転移魔法に取り込むと、三体の人影は宮殿からはるかな海面の側へと移動する。
 
「変わらず、人を巻き込むんだから‥‥‥」

 ぼやきながら、寒さが苦手なハーミアは身震いしていた。
 お気楽なサーラは何が始まるんだろう?
 そんな興味津々な目でレグルスを見ていた。

「さて、これだが‥‥‥。
 もし、あの場。
 魔都で炸裂した際にお前一人で防げたものかな、ハーミア?
 天からは竜神、遠隔にて竜王。
 その側には、意識があるスィールズ。
 三者からお前たちを守っていたのは――」

 レグルスは何も力を入れないような素無りでその二個を海面へと放りだす。
 それは勢いよく天を翔けてゆき‥‥‥

「そんな――!?」
 
 ハーミアの小さな悲鳴の先にあったのは、魔都の規模より更に大きな氷塊。
 それが途方もない、想像以上の熱量により蒸発し、消えていく様だった。

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