殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女様、ブチ切れて皇太子殿下をぶん殴る件 10

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 スィールズ、もとい彼に意識を支配されているグランはふっ、とその怒りを鼻で笑い飛ばした。
 まるであなたが言われるのか、そう言いたそうにしていた。

「魔王陛下、外道と言われますがそれは陛下も同様でございましょう?
 魔神様との契約と地下世界への蓋を成したあの行為。
 魔族どころか竜族への裏切り行為をされたのは‥‥‥あなた様ではありませんか」

 睨みつけるその視線はどこまでも鋭く、己の主の友情を裏切った魔王を許せない。
 そう、魔王には見て取れた。

「竜王陛下はこの魔都を建設する際に、様々な助力をしたはず。
 伝説にある、魔王と竜王の決闘。
 大河を穿ち、山脈を割り、大地を開き‥‥‥すべて、この魔都の素地を作るための方便。
 なのにあなたは‥‥‥、魔神様を呼び覚まし封印の契約まで。
 あの火山の噴火は、魔神様がその力で抑えていた地脈が噴出したもの。
 地下世界、並びに風下にあった我が竜族の土地は数十年に渡り被害を被った。
 あなたは魔素が無ければ生きれないというデマを流し‥‥‥まんまとこの魔都の地下にある装置を手にされたではないですか!?」

 一気に畳みかけるかのように叫ぶスィールズは、それがさも正しいかのように言い切っていた。
 しかし、その周囲にいる勇者オーウェンからも、魔女シェナからも何も異論が上がらない。
 むしろ、何も知らないのだな。
 そんな視線を向けられて、スィールズは不穏な雰囲気を感じ取っていた。

「そんな誤解が竜王の考えにあるとはな‥‥‥。
 あの火山の噴火は誰のせいでもない。
 ましてや、父上とわしが慕う魔神殿が地脈を抑える意味などない。
 魔素は地下からにじみ出て地上を覆っているもの。
 その生み出している存在は‥‥‥我が母上。
 はるかな地下の最果ての地におわす、氷の女王。
 いや、いまは闇の女王というべきか。
 その命を削って産み出されているのを、そなたたちは知らんらしいの?
 なぜ、この魔都はあると思う、スィールズ‥‥‥」

 なぜ?
 それは――スィールズは言葉に詰まる。
 魔王は自分たち魔族だけが特権を得ようとしているはず。
 少なくとも、竜王はそう語っていた。
 ただ、その行動があまりにも性急で強硬派だったために八竜からスィールズに命令が下ったのだ。
 竜王を、なるべく動かすな、と。
 それ以外に、スィールズに思惑などなかった。

「何も知らんとは幸せなものよな、スィールズ殿‥‥‥」

 フェイブスタークがどう伝えようか。
 それを迷っている間に、魔女シェナが口を開いた。

「フェイブスターク。
 馬鹿には言ってもわからないんだよ。
 特に回りくどく言うのは逆効果。
 スィールズ、あなたは何も知らないのだよ」

 真実というほどのものでは無いけれど。
 説明してあげるんだよ、とシェナは言葉を続けた。

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