殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女様、ブチ切れて皇太子殿下をぶん殴る件 12

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 思い出すのはあの別れの瞬間だ。
 こんなに弱い女にはならないから、彼に帰れと。
 そう半ば無理矢理に、地球へと送り出したことを彼女は今となっては心のどこかで悔やんでいた。
 この若い竜族でも五指に入る実力者には、そんな気持ちを先の時代で味わってほしくない。
 もしかしたらいつか戻るかもしれない。
 そんな、ありえない願いを持つ虚しい日々がどれほど辛いか彼に伝えたかった。

「スィールズ。
 わたしの夫は異世界から二度召喚され、二度戻ったんだよ。
 三度目はもう来れない‥‥‥これは神剣で神の法則すら歪めるけど。
 もう、わたしにはそれを成す寿命がないんだよ。
 神剣は使う者の寿命を削る。
 オーウェンやアシュリーのような勇者は不老不死。
 彼等に頼めば夫は戻るかもしれない、でも、それはしたくないんだよ。
 理由はわからない?」

「愛する者に会えるのに、なぜそれを選ばないのですか。
 理解に苦しみますな‥‥‥」
 
 グランの口を借りて放たれる言葉は、限りなく愛情というものからかけ離れたものだった。
 だから、あなたはあんな惨いことができるんだよ‥‥‥
 シェナは思わずその剣で背後に眠るスィールズの本体を切り裂きそうになる。
 しかし、それはオーウェンによってそっと止められた。

「なあ、スィールズ殿。
 あんたはわからないのか。
 愛する者の望みをかなえてやりたい。
 それが、今生の別れになるとわかっていても、だ。
 分からないから、あんなものを妻に仕込めたんだろうがな‥‥‥」

「さて、それはどうですかな。
 勇者殿。
 愛の形は様々。
 妻は理解してくれていると、そう、このスィールズは信じていますよ。
 竜王陛下の問題もある。
 だが、すべては竜族のため。
 そして、竜神様のため。
 信じるものが違う、そういうことではないかな?」

 その竜神が本当にそう望んでいるのならばいいのだがな。
 魔王はどうにも見えない霞の向こうにある何か。
 それがあと少しで見えるのに、いいところで曇り空のようにかき消してしまう。
 一体、何が真実なのか‥‥‥

「のう、スィールズ。
 外道には外道の道がある。
 そう言うならばそれを貫けば良い。 
 だが、教えては貰えんか?
 我が娘、エミスティア以降、魔神殿の聖女は出ておらず。
 竜神殿の聖女はいまだ耳にしたことがない。
 大地母神の聖女はそなたの妻、ハーミア殿だ。
 だが‥‥‥大地母神の意識も、魔神殿の意識もすでに霧散して形になるほどのものではない。
 では、誰が選んだのかな、大地母神の聖女を。
 もしも、竜神殿が選んだのだとすれば‥‥‥のう、スィールズ。
 それは、本物の竜神殿の意思なのか?
 あれが、我が旧友の竜王が変わった時と竜神殿の復活は時期が重なる。
 これは偶然か?」

 魔王の問いかけにスィールズは苦い顔をして押し黙ってしまった。 


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