殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女様、ブチ切れて皇太子殿下をぶん殴る件 13

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「おじい様‥‥‥彼らに任せるって言いながら。
 なんですか、この生き物は‥‥‥」

 ハーミアは氷の女王の城で、彼等と祖父が言う者たちから寄越されたとある生物を見て苦手だわ。
 そうぼやいていた‥‥‥

「まあ、そう文句を言うでない。
 帝都でも大公殿の守りも首尾よくできておる。
 鉱山の奪還も成功し、帝国・竜族の連合軍は敗走したという報告までな。
 お前の城も、臣下たちもみな、無事のようではある。
 まあ、一部、戦闘で負傷者、死傷者が出たのは否めんがの‥‥‥」

 レグルスはあの男性の姿のまま、寒い、寒いと小うるさい孫の為に城の内部気温を温めてまでその機嫌を取っていた。
 辺境国の領土を奪還した!?
 そんな馬鹿な話、あるわけないでょう、おじい様。
 ハーミアは、あり得ない。
 そう断言する。

「おじい様、冗談もほどほどに。
 帝国の騎士団に魔導騎士団、竜族の精鋭まで出て来て‥‥‥たとえ、魔王陛下でも一掃は難しいのに。
 そんなことを一体誰が成し遂げれると?」

 ん?
 そりゃ古い知り合いがの。
 そうレグルスはとぼけて返事を誤魔化していた。

「おじい様!!!
 わたしはそういうのが嫌いなんです!
 これ以上、真実を打ち明けて頂けないなら。
 もう、孫をやめますわよ!?」

 レグルスは孫が可愛い。
 竜になれないハーミアが誰よりも可愛い。可愛くて仕方がない。
 出来る事なら、スィールズはおろか、竜王もそうだし、あの皇太子殿下とやらもその牙で引き裂いてやりたいほどだ。
 
「お前‥‥‥その言葉にわしが弱いと――のう、ハーミア‥‥‥」

「知りません、そんな事。
 あの死んだ優しかった?
 記憶にないですけど、そんな祖父がいきなり分身で本体がこっちとか。
 数万年前の古竜だの、竜神だの。
 おまけにスィールズを‥‥‥二重スパイみたいな扱いをして!!
 あんなに優しかった旦那様が死んだ時、おじい様は来なかった!!」

 この一週間近くで、もう数十回はこの言葉で責められ、その都度、レグルスは閉口し、心を痛めていた。
 行きたかったのだ。
 いや、あの時点では‥‥‥すべてがうまく運んでいたのだ。
 あの紅蓮の王を、あの兵器を帝国側が転送するまでは。

「ハーミア。
 許しておくれ。
 お前に嫌われたら、わしはもう‥‥‥」

 数日、考えに考えた末の、祖父の謝罪だった。

「なら、おじい様。
 スィールズ様の、旦那様の罪だのなんだの。
 一切、不問で宜しいですね!?
 わたしの‥‥‥夫ですよー‥‥‥」

 はあ‥‥‥。
 まだ目が覚めないのか、孫よ。
 あの兵器を、妻に仕込めなどどわしが命じてないのに。
 それでも、まだ愛を語るのか。

「‥‥‥わかった。
 ハーミア、好きにするが良い。
 わしゃ、もう何にも言わん。
 その代わり――」

「その代わり?」

「変わらず、孫でいてくれるか?」

 はあ、そう嘆息するのはハーミアだった。

「いつもそう呼んでいるし、孫です。
 死んでも‥‥‥で、誰をどう使ったのですか!?」

 それを聞いてレグルスは調子を取り戻したらしい。
 ふふん、と得意気に鼻を鳴らした。

「十二英雄と影の六王の、生き残りにな。
 手助けを願ったのよ」

「じゅっ‥‥‥!!??
 千年以上前の――古代の神話の?
 あの方々が!!??
 なんでそれをもっと早くしなかったんですか、おじい様の馬鹿――!!」

 え、それはひどいぞ、孫。
 わし、そんなに悪いか?
 なんだか損した気分じゃの‥‥‥
 レグルスは涙目になりそうになるが、孫に何を言われても腹は立たない。

「まあ、とりあえず。
 それに乗って行っておいで。
 見た目は派手派手しいがの。
 それでも、神獣じゃ」

 ハーミアは眼前にいる、巨大な山ほどもある金色の、いや。
 全身が黄金で出来ている、ムカデに目をやってあり得ない。
 そう呟いた。
 これが神様の獣だなんて‥‥‥

「でも、これでどこにいくんですか?」

「知れたこと。
 帝都の地下には、魔王エリスの国がある。
 そこには、ほれ、お前が婚姻させた魔王の末子夫婦も逃れているわ。
 それでな、コボルト共に大公の屋敷の地下から大地母神の神殿の最下層まで通路を広げておるはずじゃ。
 まあ、行って来い」

 ドンっと押されて、ムカデの背に乗ったハーミアはそのまま‥‥‥

「あーあ、行きましたね。
 で、わたしはどうするんですか、先々代様?」

 サーラが間延びした声でこれからをレグルスに問いかけた。
 こいつは行けば必ず、竜王に復讐する。
 そう読んでいた彼は、サーラに近寄るとその身を抱き上げた。

「ちょっ!!??
 先々代様??」

「お前はの、サーラ。
 これからわしと結婚するんじゃ。
 命令じゃ、逆らうことは許さんぞ」

 さて、他の八竜の仲間がそろそろ来る頃かのう。
 幸せになろうか、サーラ。
 一人完結しているレグルスから逃れようと涙目でサーラは叫んでいた。

「奥様―――!!!!
 いや、いやです!!
 こんな老人なんて――――!!???」

「うるさいわい、お前ほっといたら竜王に復讐するじゃろうが。
 わしなら誰よりも大事にするわい。
 黙って従え」

「そんなあー‥‥‥拒否権はなしですか?
 わたしにだって恨みと選ぶ権利が‥‥‥」

「ない。
 若いオスなどと言いながら、お前には幸せなんぞやってこんわ。
 ほれみろ。
 仲間が来たぞ」

 氷の宮殿の天蓋が音もなく開き、七頭の勇壮な竜が舞い降りて来る。

「いいか、サーラ。
 復讐をしたければ、地位もいるんじゃ。
 竜王に匹敵する地位を手に入れてから、わしと行こう。 
 お前も可愛い、わしの孫の一人かもしれんでな‥‥‥」

 それを言われ、数十年ぶりの再婚か若いな、レグルス。
 そう、赤い古竜に言われ‥‥‥

「ぐうっ‥‥‥。
 なら、せめて。
 そのわし、だけはやめてください。
 先々代様、まだ若くいれるでしょ?」

 ふん?
 まあ、それならそれでいいがな。
 レグルスはならば、と言い方を変えた。

「では、俺のサーラ。
 寿命が共に続く限り、お前を守ると誓おう。
 結婚してくれるか?」

 ああ、もう逃げ場がない。
 若いオスは‥‥‥無理なのね。
 なんて不運なんだろ、わたし。
 サーラはそう悲しみ、渋々、うなづいたのだった。

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