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番外編
秘密の聖女様と物言わぬ神剣 4
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「は‥‥‥?」
大地母神は呆れて何言ってるのあなた?
そんな顔をハーミアに向けていた。
頬をケーキの生クリームで白く染めながら彼女は対面して座るハーミアを上から下まで往復して見ると、さらにさいどの大きなため息をつく。
「もう諦めたって言ってなかった?」
「はい、言いましたよ?」
「記憶の中で輝いている旦那様だけで満足していますって、言ってなかった?」
「はい、言いました」
「わたしの記憶を汚さないで頂戴って言ってなかった???」
「もちろん、言いましたよ????」
「なのに、なんで今更‥‥‥。
過去にすがるのはやめたの?」
「すがってなんかいません。
現実もちゃんと見えています。
だから、竜族からも離脱しましたし、帝国の皇妃の座も返上したんです」
「ふーん‥‥‥。
なぜ、それを返上したのか。
わたしを納得させれるだけの理由があれば、答えるわ。
あれは、成行きでそうしたわけではないのね?
皇妃になったのも、ある程度の打算が無ければするとは思わなかったからー‥‥‥アルバスとも止めないでおこう。そういう話をしていたのよ、あの時は」
数ホールのケーキをぺろりと平らげた大地母神は、頬をナブキンで拭くと最近では彼女専属にされてしまった若い従僕にワインを注がせた。
そのグラスをゆっくりと回し、香りを楽しむとラーディアナはふと、あることを思い出した。
「このワイン。
これも、あの子‥‥‥スィールズの好きなワインだったわねー‥‥‥」
はっとなり、大地母神は城のそこかしこと見える範囲に目をやる。
生け花や垣根の剪定から、この屋外にあるゆったりとしたポーチといい、どこもかしこも竜族や帝国軍に占拠された前を再現しているように見えた。
荒らされて壊れた外壁なども、かつての大地母神が知る限りの‥‥‥主がスィールズのだった時代のままにハーミアは戻そうと努力し、それを維持しているようにも見えた。
「理由はたった一つですわ、ラーディアナ様。
あの日、わたしのこのお腹にまさか爆弾とは思いませんでしたけど。
命が宿ったと勘違いしたあの時。
スィールズの、あの憎しみをたたえた怒りの視線はどこに向かっていたのか。
最初は、わたしのような幼女を嫁に迎え帝国と竜族の盟約によって魔族との防壁になっているその境遇か、それともわたし自身に落ち度があるものとずっとあの恐怖を忘れることができませんでした。
でもね、気付いたの。
彼は‥‥‥旦那様は自身がいずれ死ぬことを。
そして、竜神という古き神に操られている当時の竜王様とその配下として生きなければならない。
そんな自分に対して怒りを向けていたのではないか、と」
「ふうん、でもそれだけであの動きをしたの?
スィールズの死を悟っていたという点と、竜王や竜神の名を騙った誰かへの怒り。
今なら、ダーシェとエストだって言えるけど。
そこまで、スィールズが見通せていたのなら‥‥‥」
あんな死に方はしなかったはず。
そうラーディアナは言いたかった。
ルゲルと死闘を繰り広げているさなかに放り込まれた帝国の対竜族用兵器、紅蓮の王によって二人は瀕死の重傷を負い、魔王は進軍をあきらめざるを得なかったのだから。
「その騙った誰か、ですけど。
あの後に皇妃位を返上に帝都を訪れた際に言われましたの。
大公閣下からですけど、帝国は紅蓮の王の起動する核を作る技術まではーあの時点では再現できていなかったって‥‥‥」
「面白くない話になってきたわね、ハーミア?」
貴方はもうお下がりなさい。
そう、従僕に指示をして大地母神は飲んでいたワインのグラスを置いた。
竜神はなんて言っていたかしら。
もうここに軟禁されてしばらくたつ。
寂しいわねえ、そう言いながらその目は寂しそうにはハーミアには見えなかった。
まるで慈愛ではなく、圧倒的な力で全てを崩壊させる地震や濁流のような怒りを含んでいたからだ。
「アルバスが言っていたわ。
自分で伝えていないことが竜王に別の誰かの手によって伝わるようになったのが数百年前。
だけど、その正体をどうやって探ってもそれはわからなかったって。
あの火山の噴火もそうよ。
あれはわたしの意思でもなければ、他の大地の精霊王や妖精王、女王たちが関与したものでもなかったわ」
「ラーディアナ様?
おっしゃる意味が‥‥‥」
「そうね、分からないわね。
大地もそうだけど、海や空もそう。
大きな災害が起こる際には、自然そのものが溜めに溜めた力が限界を突破して発生するか。
それともー」
「誰かが作為的に行う?
神や魔や精霊や妖精のように、大きな影響力を持つ誰かが?」
その通りよ、ハーミア。
大地母神はうなづくと、でも、と疑問を口にした。
「あの当時、まだスィールズは生まれていなかったはずよね?
それに、ダーシェとエストが隠れていた魔都グレイスケーフそのものが存在していない時代だもの。
前竜王アールディアは帝国と組んで魔神の神殿を占拠させるために、フェイブスタークをさも手助けをするふりをして魔王の目を魔神の神殿から背けさせた」
「結果として、帝国はあの鉱山を占拠することに成功しましたけど‥‥‥」
「そうね、そしてアルバスは哀れだと思い、魔王の王女エミスティアの肉体をクリスタルで守ったわ。
それは、帝都あるわたしの神殿に奉られていたエレノアも同じ。
でも、それをうまく利用した者がいる。
あの噴火、もしかして魔神の力を宝珠で操作したんじゃないかしら?
聖女だったエミスティアにしかそれは出来ないと‥‥‥わたしは思うけれど?」
不思議なものね。
大地母神は悩ましく、頭を振ってそう言った。
あの聖剣デュランダルがあそこにあるのも‥‥‥おかしな話なのよ、と。
「そのデュランダル、一万年以上前の聖剣でしょ?
どうしてどこから出てきたんですか???」
そうだ、それもずっとハーミアの頭の中に疑問としてあったことだった。
だいたい、持ち主のカイネ・チェネブ神は元は大神ダーシェの‥‥‥聖女だったのだから。
デュランダルを創造したのがもし、ダーシェならその意思もそこには残っていてもおかしくはないのではないか?
そう、ハーミアは考えていた。
あまり隠された歴史の裏側を探るのは良くない事なのですけどね。
そう前置きをおいて、ラーディアナは話し出す。
「いいこと、ハーミア?
千年ほど前に、異世界の神からの侵略があったわ。
あの十二英雄の黒狼や、聖者サユキ、英雄王ラードリーの故郷からね?」
地球、だったかな?
ハーミアは乏しい記憶を探る。
そんな名前だった気もするが、その世界にはこちらに干渉できるほどの神がいるのだという事実が驚きだった。
「そんな驚くことないわよ。
夫の竜神だって地球からの流れ者だし。
カイネ・チェネブ神を手助けした月の女神と神狼も地球の神々だもの。
この世界、エル・オルビスと地球は数万年前から縁が深いのよ」
「驚きを通り越して、もう何も信じられない気になっていますわ、ラーディアナ様。
地球の神に食べられたんですか‥‥‥!?」
大地母神はあの時のことを思い出したようで、身震いをしていた。
あの巨大な時空を突き抜けてきた顎が自分を喰らいつくした時。
彼女はあまりもの恐怖に意識を失ったのだから。
「どうだったんですか、その神狼は‥‥‥???」
ハーミアは悪いことと知りつつ、ついつい質問してしまう。
大地母神はため息交じりに返事をした。
「後から聞いたけど、あれは天空に浮かぶ月をも食べた狼だったと。
そんな上位神に勝てるわけないでしょ‥‥‥あなたは、世界三大の剣の名を知っているかしら?」
「世界三大の剣?
あの、星斬りの剣や、炎の魔剣や、時空を裂く神剣‥‥‥ですか?」
「そう‥‥‥その炎の魔剣は世界を焼き尽くす剣。
神狼が使っていたわ。
時空を裂く剣は、月の女神が。
竜神が負けたのもその剣によ。
星斬りの剣は最高神の一人、万騎の王の剣の一振りね。
あの御方御自身が振るえば、星どころか一つの世界そのものが消滅する。
そんな恐ろしい敵に勝てるわけがなかったのよ。あの当時は、ね?」
でもーとハーミアは思い返していた。
魔女シェナを刺殺した神剣アージェスは英雄王の剣で、聖剣ロイデルはアシュリーのもので‥‥‥
「この世界の聖剣や神剣って‥‥‥弱いんですか???」
うぐっ。
痛いところを突かれたように黙り込む大地母神は‥‥‥涙目だった。
「弱いわけではないの!!
ただ、相手が偉大過ぎたのよ―――!!!」
「そんな叫ばなくてもーそれを言うなら、人間の兵士と竜族の兵士が一対一で戦ったらどうなるか。
そういうのと同じじゃないですか‥‥‥」
「そうよ、同じなのよ!!
だから!!!
あの時、十二英雄や影の六王。
十八の力をもってしても‥‥‥敵わなかった。
一対一なら、魔王エリスは竜神と互角に戦えるほどに強いのよ?
それでも、撃退するのに犠牲がどれだけでたことか。
あなたもそれくらは知っているでしょ?」
ああ、もう面倒くさい。
そんな異界の、異世界のこととか歴史の裏側なんてわたしにはどうでもいいんです、ラーディアナ様。
早く答えて下さい、スィールズはどこにるんですか?
ハーミアはこの女神の愚痴が延々と続く前に、答えを知りたかった。
さっさとその場に行き、夫を救い出せるものなら救い出したい。
その思いが段々と心の中で大きくなっていた。
「あの!!
ラーディアナ様。
会いたいんです、スィールズはどこにいるんですか!?」
神に対して不敬なのは承知している。
自分がそれで断罪されても仕方ないことを。
それ以上に‥‥‥ハーミアは待ちつかれていた。
もう、いつまで待てばいいのかを‥‥‥知ることが怖くなっていた。
その前に心が折れそうで、壊れそうで、泣き出しそうな自分をずっと我慢しろ、頑張れと励まして生きてこれたのもースィールズはどこかに生きている。
そう、なぜか信じてしまえるような感覚が消えなかったからだ。
「もし、いないと言ったら‥‥‥あなたはどうするの?」
大地母神の言葉が胸に突き刺さる。
死にたい。
消えてあの人の魂を追いかけたい。
それは‥‥‥許されない?
涙するハーミアを、ラーディアナは席を立ち、側までいくとナプキンでその涙を拭ってやる。
「ちゃんと、答えるわ。
でも、その前に。
あなたは知らなければならない、ハーミア。
スィールズの心の裏側にあった何かが、彼があなたに向けた怒りと憎しみの感情が何かを。
知らなければならないわ‥‥‥」
大地母神は慈愛の女神。
ラーディアナはそう言うと、優しくハーミアを抱きしめていた。
大地母神は呆れて何言ってるのあなた?
そんな顔をハーミアに向けていた。
頬をケーキの生クリームで白く染めながら彼女は対面して座るハーミアを上から下まで往復して見ると、さらにさいどの大きなため息をつく。
「もう諦めたって言ってなかった?」
「はい、言いましたよ?」
「記憶の中で輝いている旦那様だけで満足していますって、言ってなかった?」
「はい、言いました」
「わたしの記憶を汚さないで頂戴って言ってなかった???」
「もちろん、言いましたよ????」
「なのに、なんで今更‥‥‥。
過去にすがるのはやめたの?」
「すがってなんかいません。
現実もちゃんと見えています。
だから、竜族からも離脱しましたし、帝国の皇妃の座も返上したんです」
「ふーん‥‥‥。
なぜ、それを返上したのか。
わたしを納得させれるだけの理由があれば、答えるわ。
あれは、成行きでそうしたわけではないのね?
皇妃になったのも、ある程度の打算が無ければするとは思わなかったからー‥‥‥アルバスとも止めないでおこう。そういう話をしていたのよ、あの時は」
数ホールのケーキをぺろりと平らげた大地母神は、頬をナブキンで拭くと最近では彼女専属にされてしまった若い従僕にワインを注がせた。
そのグラスをゆっくりと回し、香りを楽しむとラーディアナはふと、あることを思い出した。
「このワイン。
これも、あの子‥‥‥スィールズの好きなワインだったわねー‥‥‥」
はっとなり、大地母神は城のそこかしこと見える範囲に目をやる。
生け花や垣根の剪定から、この屋外にあるゆったりとしたポーチといい、どこもかしこも竜族や帝国軍に占拠された前を再現しているように見えた。
荒らされて壊れた外壁なども、かつての大地母神が知る限りの‥‥‥主がスィールズのだった時代のままにハーミアは戻そうと努力し、それを維持しているようにも見えた。
「理由はたった一つですわ、ラーディアナ様。
あの日、わたしのこのお腹にまさか爆弾とは思いませんでしたけど。
命が宿ったと勘違いしたあの時。
スィールズの、あの憎しみをたたえた怒りの視線はどこに向かっていたのか。
最初は、わたしのような幼女を嫁に迎え帝国と竜族の盟約によって魔族との防壁になっているその境遇か、それともわたし自身に落ち度があるものとずっとあの恐怖を忘れることができませんでした。
でもね、気付いたの。
彼は‥‥‥旦那様は自身がいずれ死ぬことを。
そして、竜神という古き神に操られている当時の竜王様とその配下として生きなければならない。
そんな自分に対して怒りを向けていたのではないか、と」
「ふうん、でもそれだけであの動きをしたの?
スィールズの死を悟っていたという点と、竜王や竜神の名を騙った誰かへの怒り。
今なら、ダーシェとエストだって言えるけど。
そこまで、スィールズが見通せていたのなら‥‥‥」
あんな死に方はしなかったはず。
そうラーディアナは言いたかった。
ルゲルと死闘を繰り広げているさなかに放り込まれた帝国の対竜族用兵器、紅蓮の王によって二人は瀕死の重傷を負い、魔王は進軍をあきらめざるを得なかったのだから。
「その騙った誰か、ですけど。
あの後に皇妃位を返上に帝都を訪れた際に言われましたの。
大公閣下からですけど、帝国は紅蓮の王の起動する核を作る技術まではーあの時点では再現できていなかったって‥‥‥」
「面白くない話になってきたわね、ハーミア?」
貴方はもうお下がりなさい。
そう、従僕に指示をして大地母神は飲んでいたワインのグラスを置いた。
竜神はなんて言っていたかしら。
もうここに軟禁されてしばらくたつ。
寂しいわねえ、そう言いながらその目は寂しそうにはハーミアには見えなかった。
まるで慈愛ではなく、圧倒的な力で全てを崩壊させる地震や濁流のような怒りを含んでいたからだ。
「アルバスが言っていたわ。
自分で伝えていないことが竜王に別の誰かの手によって伝わるようになったのが数百年前。
だけど、その正体をどうやって探ってもそれはわからなかったって。
あの火山の噴火もそうよ。
あれはわたしの意思でもなければ、他の大地の精霊王や妖精王、女王たちが関与したものでもなかったわ」
「ラーディアナ様?
おっしゃる意味が‥‥‥」
「そうね、分からないわね。
大地もそうだけど、海や空もそう。
大きな災害が起こる際には、自然そのものが溜めに溜めた力が限界を突破して発生するか。
それともー」
「誰かが作為的に行う?
神や魔や精霊や妖精のように、大きな影響力を持つ誰かが?」
その通りよ、ハーミア。
大地母神はうなづくと、でも、と疑問を口にした。
「あの当時、まだスィールズは生まれていなかったはずよね?
それに、ダーシェとエストが隠れていた魔都グレイスケーフそのものが存在していない時代だもの。
前竜王アールディアは帝国と組んで魔神の神殿を占拠させるために、フェイブスタークをさも手助けをするふりをして魔王の目を魔神の神殿から背けさせた」
「結果として、帝国はあの鉱山を占拠することに成功しましたけど‥‥‥」
「そうね、そしてアルバスは哀れだと思い、魔王の王女エミスティアの肉体をクリスタルで守ったわ。
それは、帝都あるわたしの神殿に奉られていたエレノアも同じ。
でも、それをうまく利用した者がいる。
あの噴火、もしかして魔神の力を宝珠で操作したんじゃないかしら?
聖女だったエミスティアにしかそれは出来ないと‥‥‥わたしは思うけれど?」
不思議なものね。
大地母神は悩ましく、頭を振ってそう言った。
あの聖剣デュランダルがあそこにあるのも‥‥‥おかしな話なのよ、と。
「そのデュランダル、一万年以上前の聖剣でしょ?
どうしてどこから出てきたんですか???」
そうだ、それもずっとハーミアの頭の中に疑問としてあったことだった。
だいたい、持ち主のカイネ・チェネブ神は元は大神ダーシェの‥‥‥聖女だったのだから。
デュランダルを創造したのがもし、ダーシェならその意思もそこには残っていてもおかしくはないのではないか?
そう、ハーミアは考えていた。
あまり隠された歴史の裏側を探るのは良くない事なのですけどね。
そう前置きをおいて、ラーディアナは話し出す。
「いいこと、ハーミア?
千年ほど前に、異世界の神からの侵略があったわ。
あの十二英雄の黒狼や、聖者サユキ、英雄王ラードリーの故郷からね?」
地球、だったかな?
ハーミアは乏しい記憶を探る。
そんな名前だった気もするが、その世界にはこちらに干渉できるほどの神がいるのだという事実が驚きだった。
「そんな驚くことないわよ。
夫の竜神だって地球からの流れ者だし。
カイネ・チェネブ神を手助けした月の女神と神狼も地球の神々だもの。
この世界、エル・オルビスと地球は数万年前から縁が深いのよ」
「驚きを通り越して、もう何も信じられない気になっていますわ、ラーディアナ様。
地球の神に食べられたんですか‥‥‥!?」
大地母神はあの時のことを思い出したようで、身震いをしていた。
あの巨大な時空を突き抜けてきた顎が自分を喰らいつくした時。
彼女はあまりもの恐怖に意識を失ったのだから。
「どうだったんですか、その神狼は‥‥‥???」
ハーミアは悪いことと知りつつ、ついつい質問してしまう。
大地母神はため息交じりに返事をした。
「後から聞いたけど、あれは天空に浮かぶ月をも食べた狼だったと。
そんな上位神に勝てるわけないでしょ‥‥‥あなたは、世界三大の剣の名を知っているかしら?」
「世界三大の剣?
あの、星斬りの剣や、炎の魔剣や、時空を裂く神剣‥‥‥ですか?」
「そう‥‥‥その炎の魔剣は世界を焼き尽くす剣。
神狼が使っていたわ。
時空を裂く剣は、月の女神が。
竜神が負けたのもその剣によ。
星斬りの剣は最高神の一人、万騎の王の剣の一振りね。
あの御方御自身が振るえば、星どころか一つの世界そのものが消滅する。
そんな恐ろしい敵に勝てるわけがなかったのよ。あの当時は、ね?」
でもーとハーミアは思い返していた。
魔女シェナを刺殺した神剣アージェスは英雄王の剣で、聖剣ロイデルはアシュリーのもので‥‥‥
「この世界の聖剣や神剣って‥‥‥弱いんですか???」
うぐっ。
痛いところを突かれたように黙り込む大地母神は‥‥‥涙目だった。
「弱いわけではないの!!
ただ、相手が偉大過ぎたのよ―――!!!」
「そんな叫ばなくてもーそれを言うなら、人間の兵士と竜族の兵士が一対一で戦ったらどうなるか。
そういうのと同じじゃないですか‥‥‥」
「そうよ、同じなのよ!!
だから!!!
あの時、十二英雄や影の六王。
十八の力をもってしても‥‥‥敵わなかった。
一対一なら、魔王エリスは竜神と互角に戦えるほどに強いのよ?
それでも、撃退するのに犠牲がどれだけでたことか。
あなたもそれくらは知っているでしょ?」
ああ、もう面倒くさい。
そんな異界の、異世界のこととか歴史の裏側なんてわたしにはどうでもいいんです、ラーディアナ様。
早く答えて下さい、スィールズはどこにるんですか?
ハーミアはこの女神の愚痴が延々と続く前に、答えを知りたかった。
さっさとその場に行き、夫を救い出せるものなら救い出したい。
その思いが段々と心の中で大きくなっていた。
「あの!!
ラーディアナ様。
会いたいんです、スィールズはどこにいるんですか!?」
神に対して不敬なのは承知している。
自分がそれで断罪されても仕方ないことを。
それ以上に‥‥‥ハーミアは待ちつかれていた。
もう、いつまで待てばいいのかを‥‥‥知ることが怖くなっていた。
その前に心が折れそうで、壊れそうで、泣き出しそうな自分をずっと我慢しろ、頑張れと励まして生きてこれたのもースィールズはどこかに生きている。
そう、なぜか信じてしまえるような感覚が消えなかったからだ。
「もし、いないと言ったら‥‥‥あなたはどうするの?」
大地母神の言葉が胸に突き刺さる。
死にたい。
消えてあの人の魂を追いかけたい。
それは‥‥‥許されない?
涙するハーミアを、ラーディアナは席を立ち、側までいくとナプキンでその涙を拭ってやる。
「ちゃんと、答えるわ。
でも、その前に。
あなたは知らなければならない、ハーミア。
スィールズの心の裏側にあった何かが、彼があなたに向けた怒りと憎しみの感情が何かを。
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