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第一章 婚約破棄と新たなる幸せ

第九話 新たなる舞台の幕開け

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「殿下はひどいお方です。

 余興なんてー‥‥‥。

 わたしはーー」

 と、そう言い涙を流すふりをしてみせます。

 そうすると、殿下は慌てて、そう。

 とても、大人の男性の。

 殿下と呼ばれていらっしゃる高貴な男性ではなく。

 一人の。優しい男性として。

「ユニス、本当にすまない。

 だが、君にした求婚はーー」

「求婚はー……なんでしょう?」

 と、わたしは聞き返してみます。

「この事態を収めるものだが、だが、わた、いや、僕の本心は間違いなく。

 君だけに向いている。本当だ」

 と。

 わたしの本当に欲しいお言葉を、気恥ずかしそうに言って下さいました。

 そうなると、わたしも泣いたふりをするよりも、どこか心に希望が湧いてしまいーー

「フフフっ‥‥‥」

 と、ついつい笑ってしまったのです。

 でも、殿下はなぜわたしが、くすりと笑ったことが理解できないご様子。

 ですから、ついついと、言ってしまいました。

「殿下。

 わたしも、そのお言葉の通り。

 殿下だけにこの思いを向けたいと、そう思います」

 --と。

 これを見て、泣きながら微笑むという。

 われながら気恥ずかしいはずの顔を殿下にお見せすると、殿下はあっけに取られます。

「参ったなあ、我が未来の妃は。

 泣きながら笑うなんて、珍しい特技をお持ちだ」

 そう言いながら、優しく涙をハンカチで拭いてくださいました。

「申し訳ございません、殿下。

 せっかくの化粧が流れてしまったやもしれません。

 このまま、あのーー」

 と、わたしは晩餐会の話題の中心にいる二人をそっと指差します。

「あそこにいくことは、殿下に恥をかかせることになるかと。

 わたしの考えが足りませんでした」

 そうお詫びを申し上げたが、殿下は笑いながら首を振られます。

「ハーベスト大公家公女ユニス殿。

 先程までの、あの凛とされた御姿はどこに行かれたのかな?

 まあ、大河はまだ冷たいとは思うが。

 そこで洗い流されたよりはましだと、私は思うがな」

 それにーー

 と殿下は白い絹製のハンカチを広げて見せて下さいます。

「ほら、そなたの涙は拭いても、化粧が落ちる程にはまだなってはいないようだよ。

 ユニス。

 なぜ、この下を目指そうとしたのかは、僕には理由がわかっている。

 君は、その身をもって、ハーベスト大公殿への恩に報いようとしたということもだ。

 僕に必要なのは、花や金銀や、綺麗な宝石などに目がいくご婦人ではないのだよ」

 わかるかい、ユニス。

 そう、殿下はわたしの頬に手をあてて、言って下さいます。

「僕に必要なのは、自分の命をかけてでも、たいせつな何かを守ろうとする。

 そういった、時には自分を捨てて生きることのできる人。

 そういう人なのだよ、ユニス」

 だから、あなたこそが僕には相応しい。

 そう、殿下は上からではなく。

 わたしと同じ視線で。

 言って下さいました。

 その想いはとても気高くーー

 とても愛情というものに溢れておりました。

 そして、殿下は続けて語られます。

「さて、ユニス。

 この晩餐会の主役を、王国のばか息子どもに渡したままではつまらないではないか」

「え!?

 殿下、それは何をーー」

 殿下は不敵に笑い、そして言われました。

「取り返すのだよ、ここはハーベスト大公家。

 君はその第一公女であり、我が妻になる女性だ。

 さあ、第二幕を開けにいこうではないか!」

 と。

 
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