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第一章 婚約破棄と新たなる幸せ

第二十六話  黒き鷹の受難

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「さすがだな、大公閣下は。

 これで、帝国はあの島に城を築ける領地を得たことになる。

 ニアム、君への輿入れの品はとんでもないことになったな!!!」

「イズバイア‥‥‥そんなに笑わなくても。

 でも、これで剣を抜いたことは収まりましたが。

 エイシャ、いえ元エイシャに関してはーー」

 と、殿下が不思議そうな顔をされます。

「おや、あんな目にあわされてでも、妹御を心配するのか、ニアムは」

 と、殿下が意地悪くおっしゃるので、わたしはついつい本音を語ってしまいました。

「いえ、心配など致しません。

 わたしは、あのような実妹に、恨みを向けるよりも。

 イズバイア。あなたとの幸せをみせつけてやりたいのです」

 と。

 すると、殿下はわたしの大好きな笑顔で、再度、抱きしめて下さいました。

「さて、しかし、困ったな」

 と、殿下が迷うようにおっしゃいます。

「なにを、御困りですか?」

「いや、このまま戻ったのでは、な。

 大公閣下やエシャーナ伯、シェイルズにあそこまで舞台を作り上げて頂いて。

 ああ、無事でした、というだけで少し力がない」

 この頃になると、わたしにも少しだけ。

 殿下の、イズバイアの悪戯心が、わかるようになってきました。

「では、イズバイア。

 まだ、大河は冷たいとニアムは思います」

 それでも、殿下が望むならば。

 と、わたしは殿下に抱き着きました。

 もう、どんな大河の流れにあったとしても離れないように。

「では、ニアム。

 シェイルズをさんざん怒らせてみよう」

 イズバイアは、殿下は本当に子供のように笑われます。

「ですがー‥‥‥それでは、ルサージュ侯があまりにも」

「あまりにも、何かな?」

 殿下は、楽しくてたまらない、といったお顔でわたしを見て言われます。

「あまりにも、可哀想、か?

 ニアム?」

「可哀想とは申しませんが、ご心労が大変だとはお察しいたします」

 まあ、それはいつものことだしなあ。

 と、殿下はこの悪戯をやめようという気は、まったく起こらないご様子。

「それでは、ルサージュ侯はいつも、イズバイアの」

 と、そこで殿下は渋い顔を、初めてなさいました。

「僕をひどい男だと思うかい、ニアムは?」

「いえ、それは・・・・・・」

 こんどはわたしが、困った顔をする番でした。
 
 殿下はそれを見られると、しばし思案なさっていましたが、やはり諦める気はないご様子。

 これはもう、最後までルサージュ侯に申し訳ないと、わたしは思いました。

「まあ、シェイルズはそう、うるさい男でもないからな。

 大丈夫だ、叱られるのは僕だから‥‥‥さてニアム」

 仕方がないのですね、とわたしは御止めすることを諦めて、返事をしました。

「はい、イズバイア」
 
 わたしのその返事を合図に。

「では、行こう。

 シェイルズを困らせに!」

 そう、殿下は楽しそうに宣言されました。

 そして、わたしたちはまだ冷たいであろう大河へと、飛び込んだのでした。
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