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第一章 婚約破棄と新たなる幸せ
第二十七話 大河の二人
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それは、初めて体験する感覚。
普段は身体を大地に縛り付けている何か。
その重たいものから解放され、しかし、落下する速度とその恐怖にわたしは打ち勝てません。
悲鳴を上げたいのを我慢して歯を食いしばってみるけど、心は凍り付いたように動かなくてーー
「イズバイアー!!!
怖いですっー!!!!!」
もうそれが必死に喉の奥底から振り絞ることのできる最後の抵抗でした。
「大丈夫だ!
ほら、ニアム!!
見てみろ!!
大河が闇のようだ!! はっはー!!!」
もうこの方はどれほどの度胸をお持ちなのか‥‥‥
もう、無理です、そう言おうとした時でした。
ザッーーーー
いきなりの全身を覆う、冷たい感触!
そして、抗いようのない力に押し流される恐怖。
落下した恐怖とこの濁流に揉まれる恐怖。
二つが入り混じり、もう叫んでしまいそうになったその時ーー
「え……!?」
静かに。
そう静かに、水の押し流す力が緩まりました。
そして、わたしの周りには暖かい空気が上がってきます。
「イズバイア‥‥‥?
これは、魔法ーなの、です‥‥‥か??」
必死に閉じていた目を開くと、わたしたちはまるで泡のようなものに包まれていました。
泡は自然に淡い光を放っていて、わたしはイズバイアを、殿下を見ることができます。
足元からは、湯気のようでそうでないような、暖かな柔らかい風が吹き上げて来ます。
そして、そこに殿下は立たれていました。
殿下はわたしをそっと泡の底に立たせると、
「やあ、ニアム。
すまんな、一応、全身を濡らさないとーー」
と、そこで殿下がわたしから視線を逸らされました。
「どうか‥‥‥しましたか、イズバイア?」
「いや、その、な。
すまん、そこまで気が回らなかった」
と、殿下は上着を脱いでわたしの肩に。
気が回らなかった?
「あっ‥‥‥!」
わたしはその時、初めて気づきました。
冬用ならばともかく、これは夏用のドレス。
しかも南方貴族の生地は、温暖な気候のため、紗々や綿のような柔らかな薄い生地が使われています。
そう、わたしのドレスは水を吸ってしまい‥‥‥
「申し訳ありません、イズバイア。
このような恥ずかしい姿をーー」
と、全身のラインがくっきりと浮き出たその衣装はわたしを赤面させたのでした。
「ああ、いやーそれはその、な」
と、殿下は何かを言いづらそうなご様子。
「なんですか?
でも、こんなになるならわたしも何か、羽織るものを用意しておくべきでした」
と、申し上げたのですが、殿下はこちらを向いてくださいません。
「イズバイア?
もうお借りした上着の前は閉じましたよ?」
そう言っても、こちらを向きづらそうな殿下、いえイズバイア。
「いや、だからだ、ニアム。
それをする訳には、いかん、だろ‥‥‥」
殿下は殿方としての作法を守ろうと必死のご様子。
わたしは少し意地悪をしたくなってしまいました。
普段は身体を大地に縛り付けている何か。
その重たいものから解放され、しかし、落下する速度とその恐怖にわたしは打ち勝てません。
悲鳴を上げたいのを我慢して歯を食いしばってみるけど、心は凍り付いたように動かなくてーー
「イズバイアー!!!
怖いですっー!!!!!」
もうそれが必死に喉の奥底から振り絞ることのできる最後の抵抗でした。
「大丈夫だ!
ほら、ニアム!!
見てみろ!!
大河が闇のようだ!! はっはー!!!」
もうこの方はどれほどの度胸をお持ちなのか‥‥‥
もう、無理です、そう言おうとした時でした。
ザッーーーー
いきなりの全身を覆う、冷たい感触!
そして、抗いようのない力に押し流される恐怖。
落下した恐怖とこの濁流に揉まれる恐怖。
二つが入り混じり、もう叫んでしまいそうになったその時ーー
「え……!?」
静かに。
そう静かに、水の押し流す力が緩まりました。
そして、わたしの周りには暖かい空気が上がってきます。
「イズバイア‥‥‥?
これは、魔法ーなの、です‥‥‥か??」
必死に閉じていた目を開くと、わたしたちはまるで泡のようなものに包まれていました。
泡は自然に淡い光を放っていて、わたしはイズバイアを、殿下を見ることができます。
足元からは、湯気のようでそうでないような、暖かな柔らかい風が吹き上げて来ます。
そして、そこに殿下は立たれていました。
殿下はわたしをそっと泡の底に立たせると、
「やあ、ニアム。
すまんな、一応、全身を濡らさないとーー」
と、そこで殿下がわたしから視線を逸らされました。
「どうか‥‥‥しましたか、イズバイア?」
「いや、その、な。
すまん、そこまで気が回らなかった」
と、殿下は上着を脱いでわたしの肩に。
気が回らなかった?
「あっ‥‥‥!」
わたしはその時、初めて気づきました。
冬用ならばともかく、これは夏用のドレス。
しかも南方貴族の生地は、温暖な気候のため、紗々や綿のような柔らかな薄い生地が使われています。
そう、わたしのドレスは水を吸ってしまい‥‥‥
「申し訳ありません、イズバイア。
このような恥ずかしい姿をーー」
と、全身のラインがくっきりと浮き出たその衣装はわたしを赤面させたのでした。
「ああ、いやーそれはその、な」
と、殿下は何かを言いづらそうなご様子。
「なんですか?
でも、こんなになるならわたしも何か、羽織るものを用意しておくべきでした」
と、申し上げたのですが、殿下はこちらを向いてくださいません。
「イズバイア?
もうお借りした上着の前は閉じましたよ?」
そう言っても、こちらを向きづらそうな殿下、いえイズバイア。
「いや、だからだ、ニアム。
それをする訳には、いかん、だろ‥‥‥」
殿下は殿方としての作法を守ろうと必死のご様子。
わたしは少し意地悪をしたくなってしまいました。
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