突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

文字の大きさ
35 / 150
第二章 王国の闇と真の悪

第三十四話 王国の闇

しおりを挟む
*注)ここからは第三者視点での展開とユニス視点での展開が混じります。
   下の◇マークで人称が変わりますので、ご了承ください。
   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「さて、では我らも帰参するとするか、なあ、シルド」

 そう言ったのは馬車に乗りこもうとする、エルムンド侯だった。
 シルドは抱えていた元エイシャを馬車の床へと放りこむと、エルムンド侯を振り返る。
 広い室内には、他に数人の人影があった。

「ああ、帰参はいいが。
 どうする、エルムンド侯この荷物をーー」

 馬車の床には元エシャーナ伯令嬢エイシャが力なく伏せている。
 荷物のように放り出されたショックもあるのだろう。
 顔からは気力もなにもかもが失せていた。

「まあ、まだ大公家城内だ。
 多く語るのは中でしないか、シルド」

 そう言い、エルムンド侯は護衛の部下たち、銀鎖の影の騎士たちに出立の合図を送る。
 六頭建て、最大で10人ほどまでが乗り込めるその馬車には、三人以外にもう三人。
 赤い法衣をまとった人物と、二人の貴族風の男がいた。
 まず、口を開いたのは貴族風の一人だ。

「シルド殿。
 大した大舞台であの無様な失態。
 余興として楽しめたが、貴公も我ら王族に連なる存在。
 もう少し、知恵を絞れなかったのか?」

 しかし、それをもう片方の男がいさめる。

「ですが、王子。
 今回は、帝国側の問題もありましたしな。
 伯爵家令嬢が大公家の養女とは。
 場違いにもほどがある」

 大臣と呼ばれた樽のように肥えた腹をした、50代過ぎのこの男。
 貴族の礼装に王国の紋章が描かれた勲章を下げ、テカテカと光った見事なはげ頭を見せていた。
 王子は気に食わんとばかりにシルドの膝頭を蹴りつける。

「程があるとはいえ、それは事前にわかっていたことだ、大臣。
 この侯爵家令息殿の知恵の浅はかさには呆れしか出てこないぞ?
 任せろというからやらせてみればこの始末。
 王族の末端に籍を置くシルドだ。
 さぞや知恵を振り絞るかと思えばあの無様さ。
 思い出しても腹が立つわ!!!」

 王子と呼ばれたその人物は蹴っただけでは気が済まないのだろう。
 シルドを侮蔑の眼差しで見下すようにする。
 この険悪な雰囲気をおさめるように、黙っていた赤い法衣をまとった男が口を開いた。

「まあまあ‥‥‥王子。
 結果としては、形になったではありませんか?
 それでとりあえずは、良しとしませんか。
 まあ、フレゲード侯爵令息殿の愚行の責任と今後の処遇は考えねばなりませんがーー」

 王子はそれを受けて呆れたように大司教に言い返す。

「大司教殿。
 法王猊下の下、我が神聖ムゲール王国の神殿を統括されるあなた様がそれを言われますか?
 この、フレゲード侯爵令息の愚行を‥‥‥。
 二階で事態を見ていた、帝国あの気まぐれな皇太子。
 あれが妙なところで情けを出して妻にするなどど助け船を出し始末」

 と、シルドの足をさらに蹴り上げて王子は怒りを露わにする。

「いいかシルド。
 お前は適当に静かに婚約の破棄を相手側に伝えればよかったのだ。
 あのような南方女など、単なる田舎娘。
 嘆きにくれて彷徨うところを上手くバルコニーにでも呼び寄せれば良かったではないか。
 そのまま、お前の魔導で幻覚でも見せて、公女に身投げをさせればよかったのだ。
 お前は魔導の腕だけは、王国でも屈指だからなーー」

 まったく‥‥‥
 そうぼやくと最後の蹴りをシルドに入れ、王子は足を組み直した。
 
「あの場で、帝国のハーベスト大公が、うまくこちらの誘いに乗ってくれたから良かったがな。
 あのままでは、各国の戦争再燃ともなりかねなかった」

 しかし、大司教は平然とした顔つきでそれを受け流す。

「良いのですよ、殿下。
 そうなれば、法王猊下の代理のわたしが出ていき場をおさめればよかっただけのこと。
 まあ、あちらの皇太子殿下が大公公女との婚儀を言い出したのは‥‥‥
 多少、予想外でしたがな。
 帝国の皇族は、よほど南方女どもが好きと見えるーー」

 クククと、侮蔑の笑みを漏らす大司教のその顔は、とても神官のようには見えない。
 これにはエルムンド侯が渋い顔をした。

しおりを挟む
感想 130

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

賢人 蓮
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

処理中です...