43 / 150
第二章 王国の闇と真の悪
第四十二話 仮面の二人
しおりを挟む「おい、もういいのでがないのか?
俺の酒も切れそうなんだがな?」
時間をかけて念入りにミレイアの汚れを落としてやり、服まで着せてシルド彼女を抱き上げた。
エルムンド侯と対面する席に座らせると、大丈夫だ、と優しく妻に声をかけてやり手を握ってやる。
ミレイアは自分の舌を斬り落としたシルドの豹変ぶりに怯えていた。
「しかし、あの献身さといい、この気遣いといい。
あれか、やはり逝去された母御の影響なのか?」
そう、10年ほど前に死んだシルドの実母の話を出す。
他に愛妾を作り、家を良く開けていたフレゲード侯爵は、正妻である妻を振り返ることはなかった。
まだ騎士団見習いに上がる前だったシルドは、少ない心の知れたメイドたちと共に母親の世話をしていた。
「そうかもしれんな、母上はもっと動けぬ状態だった。
まだ、ミレイアは良い方だ」
「そうは言うがお前‥‥‥。
王子の命とはいえ、その娘ーいや、奥方の舌を斬り落としたのは、お前だぞ?」
まるで、罪滅ぼしのようだな。
そうエルムンド侯は言う。
「貴公もそれに加わったではないか。
今更、一人だけ罪がないような顔をするな、エルムンド侯」
やれやれ、とエルムンド侯は肩をすくめた。
同罪、か。
その表現は正しい。
シルド、お前は間違ってないよ。
そんな感じだった。
「で、いつになったら仮面をはがすんだ、エルムンド。
無骨なお前に、そんな嫌味な性格は似合わんぞ」
「それを言うなら、お前だってそうだろう、シルド。
なぜ、あんな真似をした?
わざわざ、王国や枢軸連邦にひびを入れるような真似を」
エルムンド侯のその瞳は、そうーー
あの大広間でユニスたちを睨みつけていた力強く、それでいて狙った獲物を逃がさない狩人のもの。
そんな様子に変わっていた。
「ふん、ようやくいつものお前に戻ったな。
なぜしたかだと?
どうせ、心当たりはあるだろうが?」
シルドもまた、愚かな元侯爵令息から、知性と優しさと、深い魔を潜ませた。
そんな目つきに変わっていた。
「そうだな、シルド。王子は多くを見ているーあのお方は東西双方の大陸を平らげる気だ。
三角洲は単なる交渉の材料でしかない。
なにせ、枢軸連邦はすでに大量のミスリル鉱石の眠る鉱山を手に入れている。
おまけに、法王庁はムゲル枢軸連邦の一角にあるときた」
我が王国の利権など、いまはないようなものだ。
エルムンド侯はぼやきながら話を続ける。
「しかし王国は神聖を名乗れる‥‥‥神殿と大司教閣下がいるからな。
法王庁のお墨付きがあるわけだ。
かたや帝国には神殿はあるが神官長のみ。格下の存在だ。
我が王国の繁栄は海運業だ。帝国のあの版図ははるか南方大陸の手前まで広がっている」
あるとすればーー
少し迷い、そしてエルムンド侯は言葉を続けた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった
賢人 蓮
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。
その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。
フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。
フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。
ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。
セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。
彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。
ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる