突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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第三章 開戦の幕開け

第五十一話 若き二頭の鷹

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 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 (ユニス視点)


 あの晩餐会の夜から二週間が過ぎました。
 帝国には夏が終わり、冬との間の短い寒暖の差が激しい気候が続きます。
 大河の沿岸部の広くその領土を持つ我がハーベスト大公家領。
 上流から、帝国領の城塞都市エルムまでも間に3つの交易都市を持ち、最も北に位置するアベンス市へとわたしは来ています。
 アベンスは実家であるエシャーナ伯家の居城に最も近い街。
 陸路から大きく迂回するよりは、水路を利用しての一時的な実家への挨拶の旅でした。
 大公家へと養女入りした際に持ちだせなかった品々などもあるお陰で、それなりの支度に手間取りましたが。
 ようやくの大公家への帰参となります。

(大公家への養子縁組はあくまでも婚約が成立した場合に継続する。
 そういう建前だったので、多くの私物を持ち込むことはできなかったのです)

 廃嫡となったエイシャといいますか、実妹の行方はお父様も内実、心配のようでした。
 あれからシルド様始め、エルムンド侯に絡む噂はまだ耳にしておりません。
 社交界に疎かったわたしも殿下と共になんどか他家の晩餐会、パーティなどに招待を受けました。
 その席で語られるのは、やはりシルド様の奇行・蛮行とそれをいさめたエシャーナ伯の剣技。
 多くの王族・公侯家の当主・夫人のかたがたには殿下の冒険心が強すぎて大変でしょう?
 そう、心配をいただく始末。
 あの夜はとても情熱的な夜でしたが、なるほど、シェイルズ様が胃が痛いと言われていた理由も、再度の納得がいきました。


 そして、わたしはその数度目の晩餐会ではなく、昼食会の後。
 殿下とシェイルズ様と共に帰参する馬車の中で、少々、不機嫌でした。

「ニアム、いや違うんだ。
 僕は彼らが言うように遊びが過ぎる訳ではなくてだなーー」

「知りません、殿下。
 過去のことはわたしには関係がございません。
 そちらのシェイルズ様と仲良く、夜遊びなどなさっていたなど。
 何も聞いておりません」

「そんな話を誰からーー
 ああ、伯爵夫人か!?」

「いいえ、殿下。
 誰からも耳にはしておりません。
 風に流れてきた会話からお伺いしただけでございます」

 わたしはその日は冷たく、イズバイアからの会話を受け流すようにしていました。
 嫉妬をたぎらせるにはもう婚約までしていますし、大人げないからです。
 少しばかり、今後が心配です。
 そのような雰囲気を匂わせはしましたが‥‥‥。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ある日。
 某伯爵にご招待頂いた昼食会でのこと。
 御当主の伯爵は元、殿下が現在継がれている騎士団の団長補佐をされていたとのこと。
 騎士見習いとしての殿下の(そこにはシェイルズ様も含まれますが)遊び癖はなかなかのものだった。
 その一言がなんとなく気になった私は、奥方様にそっと尋ねてみました。
 奥方様もまた、殿下の若い頃によく面倒を見ていたとそう伺ったからです。

「あの、奥方様。
 殿下のお若い頃‥‥‥と言ってもまだお若いですが。
 どのくらいの時期をご存知なのですか?
 幼少の殿下のお話でしたら、是非、お聞きしたいです」

 多少白髪混じりの髪を飾り気のない羽帽子でまとめたこの老婦人は元商家から嫁がれて来た女性。
 社交界はいつまでたっても慣れれず、若い頃から御当主と共に戦地を転々とされたといいます。

「グレン様ですか?
 公女様、殿下は‥‥‥そうですね。
 あの頃は、これ、イズバイアと叱ったことも多い間柄でした。
 とはいってもまだ、6年もたってはいませんが。
 まだ騎士見習いころそう、ルサージュ侯令息のシェイルズ様はご存知?」

「はい、あの左目に特徴のある、殿下の悪友だと申されておりました。
 晩餐会の夜に初めてお会いしましたが。
 イズバイア、いえ、グレン殿下のお守りが大変だと嘆いてーー」

 軽く二人でそんなように笑いながら、このご婦人とは長く縁が深まればいい。
 そう思える会話が続く中、いろいろと殿下の過去の悪行も少しずつ教えて下さいました。

「そう、イズバイアと呼べる関係なのですね。
 あの方よりはシェイルズ様の方が、当時は若い令嬢方の憧れの的でした。
 なにせ、グレン様ときたら第二皇子としての重荷もあっのでしょう。
 今よりも堅苦しく、人を寄せ付けない雰囲気があってね。
 騎士団は王国東部の城塞都市ラズを拠点としていました。
 それはいまも変わりませんが、ラズはここよりも南方より。
 気候も暖かく、人も陽気な土地柄。
 女性陣もそれはそれは、積極的なところでね。あ、これはシェイルズ様には内緒にね?」

「はい、奥方様。
 もちろんです、ラズは海外との貿易も盛んな都市と聞いています」

 わたしは女同士の秘密ですね、そう密やかに会話を続けていた時ーー

「あなたも一度は行ってみるといいわ。
 ラズには特別自治領として、大公家ではないけれど、直高家というお家があってね。
 元々、帝国は南方から起こったでしょう?
 皇室の方々の髪の色や肌の色が、この土地のものではないのがその証だけど。
 直高家というのは、皇室が始まったころから仕えている特別な家柄なの」

 そうなのですね、わたしはその存在を初めて知りました。
 聞くと東部から南部の大公領の間にある8つの城塞都市をそれそれ、8つの高家が治めているのだとか。

「ラズは、都市と同名のラズ高家が治めていたの。
 シェイルズ様はそこの第二ご息女と仲が良くてね。
 いつも騎士団の演習に見学にいらしてたわ。
 この方がまた、御自身で帆船などを指揮するような勇ましいお嬢様で。
 グレン様とシェイルズ様はうまがあったというのかしら。
 そのご息女は双子の令嬢方だったから、いつも、演習後は船に乗られたり海で遊ばれたり。
 あの頃からね、グレン様が悪戯心を出されて、シェイルズ様を困らせたり。
 他のご令嬢方とも仲良く遊ばれていたのは。ほほほーー」

「そうですか、奥方様。
 そんな懐かしいお話を聞くことができて、とても嬉しいです。
 そのお二人の双子のご令嬢は、なんと言われるのですか?」

 この時、殿下はそばにシェイルズ様と数人の他家のご令嬢方と楽しく話をされていましたので。
 こちらには気づき出ないようでした。
 仲の良かった双子。
 その一言に何か気になるものを感じ取り、聞いたわたしに奥方様は笑顔で教えて下さいました。

「えーと、待ってね。
 確かあのお二人は‥‥‥ああ、そうそう。
 ラズ高家のニーエ様とライナ様。
 殿下はライナ様ととても仲が良くてね。
 あの頃からかしら。
 夜遅くまで、シェイルズ様と遊んで帰っては主人に怒られていたわね」

「そうなんですね、奥方様。
 殿下はその頃から、シェイルズ様を理由に遊ばれていたのでしょうね」

 わたしがシェイルズ様も大変な毎日だったでしょうね、そう言うと奥方様は笑っておいででした。

「あら、気にすることないわよ。
 あの頃はシェイルズ様も殿下を理由に、夜の街に遊びにいくことも多かったから。
 あら、いやだ。これは秘密にね?」

「はい、もちろんです、奥方様」

 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 このような会話を奥方様から頂いた後だったので、わたしは不機嫌にならざるを得ませんでした。
 ラズ高家第二令嬢ライナ様。
 殿下よりお二つ年下の、わたしよりは大人の女性。

「風に流れてきたとは言っても、あの時は‥‥‥」

 伯爵夫人とだけ話をしていたではないか。
 そう殿下は言われますが、それを認めては奥方様にご迷惑がかかります。

「いいえ、風に流れてきただけです、殿下。
 そういえば、シェイルズ様も殿下を理由に、夜の街でよくお遊びになられたとか?」

 わたしは馬車の中で、居心地が悪そうにしている、黒い鷹。
 ルサージュ侯令息シェイルズ様にも会話を投げかけてみました。

「まあ、確かに。
 イズバイアとはよく遊びには行きましたが。
 まだ若き頃の話。
 こいつの心はユニス様に向いておりますよ」

 帝国の黒い鷹はうまく会話をまとめてしまい、わたしはその言葉は嬉しかったのですが。
 それから、馬車が大公家に着くまでは殿下との会話はなるべく受け流すようにしました。

「ニアムは怒るとなかなかに扱いがーー」

「なにかおっしゃいましたか、イズバイア?」

「いや、なんでもない。
 では、気を付けて戻ってくるのだよ。
 旅の道中、気を付けてな?」

 そう言い残し、去られていく殿下の馬車。
 あのお二人には、多少なりともいい薬になったかもしれません。
 そんな事を思い出しながら、私は今から大公家へと戻ります。
 往復の水路での旅を楽しみながらーー
 
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