突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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第三章 開戦の幕開け

第五十七話 側室の誘い

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  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
  (ユニス視点)


 晩餐会よりやく一月がたちました。
 義父上様が公務に戻るために帝都へと足を戻されて二週間。
 殿下との婚約披露などの準備などもあり、それなりに忙しい日々を送っています。
 わたしは伯爵家の出身とはいえ、それほど大きな家柄でもありません。
 帝国貴族のなかでは、比較的、貧しい所帯でしたから大公家ほどの大きな屋敷は‥‥‥。
 正直、慣れないというか居心地の悪さを感じることが多々あります。
 貧乏性というわけではありませんがこの城内でいると、ふと実感できることがありました。
 それは、いまはシルド様の元にいるエイシャのことです。
 あの子は権勢や上流階級への憧れが強くそれが、あの晩餐会での問題のもとになりました。
 しかし、ここの暮らしぶりを体感すると、あの妹の想いや欲求もある程度理解できる。
 そう、思うようになりました。
 これが帝室入りした後に、更に豪華さと権勢が増すにつれて人というものは変わるのかもしれません。
 なるべく、自分がそうならないように戒めたいものです。
 そんなことを思っていたある日のこと。
 宝珠と呼ばれる魔導具の一つ。
 互いの見た目や声を届けれるその連絡用の魔導具を使って、義父上様から連絡がありました。

「ユニス、久しいな。
 婚儀の準備などはどうなっているのかな?」

 皇帝陛下のご無理な難題が多い、そうぼやかれる義父上様ですが壮健な顔色で安心しました。

「義父上様。
 こちらは仕度はほぼ整いつつあると、侍女長からは聞いております。
 披露宴の席次などの割り振りや、来賓の方々の禁忌の食材などの把握が大変だと。
 そう呟いてはいましたけど」

 お互いにそれは、侍女長や執事長に迷惑をかけている。
 そう笑い合った矢先でした。

「実はな、陛下よりご指名があるのだ。
 ユニスよ」

 陛下?
 皇帝陛下よりのご指名?
 この格下の単なる一子女に過ぎないわたしに?
 あるとすれば殿下との婚約がもし、ない場合は側室に。
 そういう話が通例ですが、それは今回はないと思いました。
 他に思い当たるとすれば、あの義父上様を困らせる陛下ですから。
 殿下のシェイルズ様に似た関係かもしれないと思い、何か悪戯心を出されたか。
 もしくは、わたしが義父上様に申し上げた王国の交易権の問題を耳にされたのかもしれません。
 最悪の問題としては、あの晩餐会の件で王国側からのなにか異議が出され、それによる叱責など。
 いろいろな可能性が、頭を巡りました。

「陛下が、わたしをご要望とはーー
 まさか、義父上様。
 王国とのなにか問題か‥‥‥」

「うん?
 なにか他に思い当たる節でもあるのか?」

「あ、いえ‥‥‥通例であれば側室への召し上げか。
 先程の問題での叱責か。
 それともご興味を持たれての単なる謁見か。
 そのどれか、かと、すいません」

 側室の件は余計な発言だった。
 そう思い、謝罪を入れますが、ああ、そうではないよ、ユニス。
 そう、宝珠のあちら側で義父上様は言われます。

「側室‥‥‥という、意味ではある程度、当たってはいるがな」

 なぜ、ため息交じりなのでしょうか?
 側室が関係するのであれば、殿下の問題?
 殿下にも多くの各国王族より正室としての声も多くあると聞きます。

「側室に下がれ、そう言われるのであればユニスはそれでも構いません、義父上様。
 殿下に救われた命、そこまでのわがままは申しません。
 ただ、そうなればー‥‥‥」

「うん?
 そうなれば、何かな?」

 この婚儀は取りやめになるでしょうし、いま忙しく準備に走り回ってくれている家臣たち。
 かれらに申し訳が無いのと、おそらくですが数年先の輿入れになるでしょう。
 正室に長男が産まれずにわたしが先に産んだ場合、あとあとの相続争いになるからです。
 早くて2年。遅くても5年はかかる。
 その間、たまにでも殿下が足を伸ばしてこの城へ来て頂けるならーー
 心は救われるかもしれません。
 それもありますが‥‥‥

「実家の、侯爵家への格上げはすでに行われていると聞きます。
 実父が降格になりはしないか、あとはこの婚約披露の準備に忙しい家臣団。
 彼らに申し訳がないことと、あの、ある約束が果たせないことがーー」

「約束?」

「はい、前回、実家からのシェス大河を通じて戻る際の、船長との約束です。
 それは申し上げたとは思いますが。あれはわたしが正妃になった際に、という約束でしたから。
 それを守れないのが‥‥‥」

 ふうん、そう義父上様は呆れたようにため息を。
 なぜ、そんな話しかでないのか。
 そんなことを言いたそうな顔でした。

「ユニス。
 自分のことは後回しにするのは、お前の美徳でもあるが。
 いまはそれは、わたしには言えばわがままになる。そんな顔をしているのはお前だよ?」

 見抜かれていました。
 でも、言えないこともあるように思います。
 実子でないだけの負い目も。

「それは、たしかにもし側室になれと言われれば、数年は待つことになると思います。
 側室が先に長男を産めばその子が可哀想です。
 でもそうなれば、殿下にお会いできる日は年に数度。
 もし、あちらから気にかけて頂けるのであれば。
 それ以上は、望めません。この大公家にもご迷惑がかかります」

「はあ……。
 なぜ、お前はもう少し凡才でいてくれないものか」

「あの、それは、どういうーー??」

「普通のお前の年齢で正妃が決まっていたのに、側室でしかも数年待て。
 もしかしたら、その可能性も消えるかもしれない。相手には通えとはいえない。
 そこまで、考えるものかね?
 最初の婚約破棄のことを聞いた段階で、泣き崩れてくれれば話もしやすいものを‥‥‥」

 と、いうことは。
 やはり、側室に格下げになれ。
 そういう話なのか、そう思いましたが。
 それならば、陛下からのご指名は必要がないはず。
 なかば用済みの女に、皇帝が声をかける必要は無いからです。
 そうなると、陛下の側室に上がれ。召し上げの話になる。
 そう思いました。大公家二家と縁が繋がるならば、嬉しいことだ。
 シェイルズ様が代弁されたあのテラスでの陛下のお言葉はそれでした。
 殿下でも陛下でも、帝室にいる男性の正室、もしくは側室になるのであれば、それは意味を成します。
 まあ、わたしが拒否できることではありません‥‥‥。

「では、陛下の側女に。
 側室に召し上げということでしたら、せめて、一度だけ。
 殿下に謝罪とあの夜のことのお礼だけは陛下に御許可を頂きたいと、そうユニスは思います」

「あのな、ユニス。
 そう、一人で決めて話をしないでくれ。
 そういう気の回りすぎるというか、頑固というか。
 本当に、若い頃のエシャーナ侯にそっくりだ。親子は似るというが‥‥‥」

 若い頃?
 そんな話は聞いたことがありませんが、数年、義父上様が年上とはいえ可能性はあります。
 まあ、いまは関係のないことですが。

「では、なにを陛下はお決めになられたのですか?」

「ああ、そういうところもあいつにそっくりだな。
 なぜ、陛下が息子の婚約者に興味を持ってお茶会程度のお誘い、程度に考えれんのだ‥‥‥」

 それはこちらが聞きたいと思うのですが。
 その程度の事で、皇帝陛下がこの緊迫時に遊ばれるはずがない。
 そうわたしは思っていたからです。

「ですが、義父上様。
 この三国間の問題が軋轢がひどいなかで、陛下がそのような些細な事を考えるはずがーー」

「ああ、もう。
 そうだな、わかった。若い頃のエシャーナ侯と陛下の三者でいる時のような気分になる。
 まったく、あの堅物の割に大胆不敵なあの者にな。
 わたしは陛下といい、エシャーナ侯といい、何度手を焼かされたことか。
 ああ、そういう話ではない。
 本題を遅らせる陛下の悪い癖まで、わたしについてしまったみたいだ。まったく。
 いいかね、ユニス。
 ラズは知っているか?」

 ラズ? 
 殿下の騎士団の駐屯地、そして城塞都市であり、高家の管理地。
 双子の方々のーー

「殿下のいま帰参されている騎士団のある場、とは聞いています」

「そうか。では、そこの高家の双子の子女の話は知っているかな?」

 ああ、なんとなく話が繋がりました。
 陛下が希望されている女性は、そのどちらか、だと。

「ニーエ様とライナ様とはうかがっています。
 あの、以前の伯爵夫人からですが。殿下とシェイルズ様とも仲が良く。
 御自身で海軍の指揮をなさるとか」

「ああ、そうか‥‥‥。
 あの老夫人め、耳年増には本当に困る。
 そのラズの当主が代替わりをするのだ。
 その際にな、まあ、言いにくいが。
 陛下がそのお話の際に、その子女の方々のことを耳にされてなーー
 あの御年で、側室というのも。まあ、良い。
 その代替わりの祝いの祝辞を述べる。その建前で、お前の目で見てきて欲しい。
 そう陛下は言われておる」

 見て来い。つまり、高家の普段は目の届かない高家の動向と、辺境の様子。
 そしてーー

「相応しいかどうか、ということでしょうか?」

「お前が男子であれば、当主にしてわたしはもう引退したいのだがな。
 女大公を名乗る気はないか?」

 それはー‥‥‥。
 殿下との婚約破棄をせよ、そのようにも受け取れました。
 もしわたしが正妃となった場合、帝室は、大公家四家の内の二家。
 西方のハーベスト大公家とエシャーナ侯家は間にあった帝室管轄地をエシャーナ侯家が拝領し、地続きに。
 そして実父は青い狼の主力である第二師団三万を手に入れ大公家は六万の私兵。
 十万近い兵力は、帝国軍の二割に当たる一大勢力。
 闇の牙と近衛兵団、ラズ高家の私兵、ベシケア大公家軍を入れれば、その約七割。
 これまで均衡を保ってきた帝国内の王国関係が一度に急変する。

「それを名乗れば、今度は、この大公家と実家が帝室から脅威とみなされますが。
 義父上様」

「ああ‥‥‥だから、その知見はもう出さなくてよい、ユニス。
 陛下とわたし、そしてエシャーナ侯は従僕の時よりの仲だ。
 さっきのは冗談だ。まったく、エシャーナ侯め。
 とんでもない実子を育てたものだ。
 もし、お前がいきなり、大公家の私兵を指揮して枢軸連邦や王国とことを構えても、わたしは驚かんだろうな」

「義父上様、そんな事は‥‥‥」

「まあ、とにかくだ。
 殿下にもご挨拶をして来なさい。
 もう一月も会っていないのだから。
 すまないが、明日には出て欲しいのだ。
 婚儀の席は少々、延びるかもしれん。
 それは陛下も御承知だ。よいかな?」

 それは少し寂しい気もしますが。
 殿下にお会いできるなら、と。
 わたしは、その翌日あの船長の指揮する船でシェス大河の支流をラズへと向かうことになりました。
 義父上様に無理を言って発布して頂いた、あの公用商人の認可書とともに。


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