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終章 終焉への幕開け
第七十八話 女大公の決断
しおりを挟む◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ユニス、なぜここに来た?
どうやって、君は‥‥‥そんなに泣きながら笑う特技をまだ見せるのか?」
驚き半分、申し訳なさと愛しさと。
そのすべてを詰め込んで、グレンは最愛の女性を抱きしめ返す。
「ええ、イズバイア。
そんな特技も含めて、もう二度と離さない。
そう言わせるために来ました」
どうやった?
そんな顔をするシェイルズにシルドは少しは見直したか?
そんな不敵な笑みを返してやる。
そして、義弟として、将来の義兄に‥‥‥ユニスが言えない一言を告げた。
「おい、将来の義理の兄上殿。
僕の妻の姉上はどうにも言い出せないようだから、妹夫婦と父上を代弁してエシャーナの者として言うぞ。
その抱擁が死ぬまで対等にあると、いま誓え。
側室だの、帝室の血だの。
そんなものでユニスを。義姉上を縛る気ならーー」
シェイルズが美味しいところを新参者に取られてなるものか。
そう口を挟む。
「東に西、南の大公家にくわえて俺のブルングド大公家。
南の高家連中。そろって帝室に牙を向くぞ。
グレン。
ニーエとその息子はもうお前を死んだものと考える。
そう決めて、ブルングド大公の名を継ぐことにした」
「おい、シェイルズ殿。
僕のセリフをーー」
「まあ、いいではないか。
どちらにせよ、グレン。いや、イズバイア。
もう帝位は諦めろ」
そのシェイルズの発言に驚いたのはその場にいた三人だ。
特にユニスが反発をしようとするが、それはグレンがそっと抑え込む。
「その代わり、ニーエとエリオスだったか?
俺の子供は。
お前が泥をかぶる気か?」
シェイルズの返事にシルドが言葉を重ねる。
「十年すれば、ハーベスト大公家は反乱を起こす。
それまでエシャーナの地で両殿下は世俗を離れていればいい。
どうせ、世間ではグレン殿下。
あなたはその女大公様の策略で死んだことになっている」
どこまで本題を後回しにする気だ。
これにはユニス以下三人が呆れかえった。
「なんだ、シルド殿。
それは帝国宰相殿と皇帝陛下の横槍もあるような気がするがな?」
「それはそうだろう、ブルングド大公殿。
僕と妻はそれで罪人としてエシャーナの地に幽閉。
それで静かに子供と三人か四人かは分からないが。
余生を過ごす。そういう手筈だ」
のんびりと話すシェイルズとシルドにグレンがちょっと待て。
そう声を上げる。
「ならなんだ、俺は十年も世捨て人か?
エリオスはどうなる?!
あれにも帝位継承権はあるはずだ。成人する年齢だぞ!?」
変わらず、馬鹿だな、この義兄は。
そうシルドはシェイルズに言う。
「抜けているところは変わらず鳩だから気にするな。
その武功を以ってグレン、お前は皇帝になるのだ。
ユニス様は皇后に。エリオスは俺から爵位を受け継いでブルングド大公に。
俺はハーベスト大公家になる。王国からきたシルド殿をいつまでも大公位におくのをよしとしない貴族は多い。
その盾にお前がなれ。
ライナは俺の正室に。ニーエはさて分からんが、同じブルングド大公領内に伯爵としている。
エリオスは帝位継承権を放棄するそういう考えだ」
グレンの顔色は少しばかり苛立っていた。
知らなかったとはいえ、妻子が人質のように扱われているからだ。
「それはお前の考えか、シェイルズ?」
違います、そう言おうとしたユニスを、しかし、シェイルズとシルドの視線が止めた。
「全員だ。
陛下も、帝国の重鎮の方々も。
誰もがそうしろというお考えだ。
話しただろう、半島を得た特権すらもなぜユニス様がお前に奏上するなどと言い出したかを。
このまま十万の軍勢に、東と南、果ては王国の勢力まで後ろ盾にして。
エリオスを奉じて陛下の側室になり、そのまま帝国を裏から操ることもできる。
そうしないのはなぜか。
もう、お前の負けだ」
グレンはユニスを抱きしめている手を緩めることが出来ない。
出来ないが、自分の過去の遺恨を。
妻子を放り出すことも出来ない。
そんな様にもユニスには見えた。
シェイルズは続ける。
「グレン。
ニーエは心の病だ」
「なんだと?」
「追い込んだのはお前だ。
エリオスが父親が死んだと。そう思うようになったにもそれが原因だ。
安心を与えてやれ。もう過去にはーー
あのころの四人には戻れない。
わかっているだろう?」
「それとグレン殿下」
シルドが追い討ちをかける。
「いまその手を緩めれば、義姉はその上にある窓から本当に飛び降りますぞ?
僕は助けにはいかない。シェイルズ殿もだ。
あなたも行けないだろう。
あなたは皇帝には向いているかもしれない。
常に帝国第一だからな。
しかし、女性を愛する男としてはまるでダメだ。
僕が妻に生きる意味や愛情を貰ったように。
あなたも学ぶべきだ。
憎しみの目はすぐには育たない。
十年の間に、数度はかつての妻子を訪れ、詫びをいう事だ。
その程度には、ユニス様も許されるだろう。
まあ、それよりー」
あとは任せたとシェイルズをシルドは見る。
なんだ、最後は俺か?
まるで、ユンベルト宰相のような役回りではないか。
そうシェイルズは呆れてしまう。
「死ぬなら、その窓から二人で落ちてくれ。
帝国は俺と彼とーーそのシルド殿の二人で貰う。
生きるのなら、さっさと言え、このバカが。
一言で済むだろうが?」
一言で済む?
しかしなにを言えと?
どういえば、この場がおさまる?
俺になにが出来ると??
グレンは困り果てるばかりだ。
しかし、その腕だけは意志に反してかユニスを抱きしめて離さない。
「義姉上。
そろそろ待つ女をやめてはどうですか?
エイシャはもう少し苛烈で強引でしたぞ?
その命をかけて口説くほどに」
そんな火に油を注ぐことを言うな!
シェイルズが慌てるがシルドはどこ吹く風と耳をかさない。
ユニスはもう限界だった。
「イズバイア。
殿下とはつけますが世間では死んだものと解釈されています。
グレン皇子でもよろしいかもしれません。
ならば‥‥‥あなたはいま、帝位継承権も持たない身、たんなる皇子。
女大公として、帝位継承権を持つ者として命じます」
「いや、命じますと言われてもなにを言う気だ、ニアム」
これはこの先、二度と逆らえない。
そんな予感がグレンの心に走る。
ユニスは悪魔のように微笑んで命じた。
「ええ、簡単です。
最初からこうするべきでした。
我が夫になりなさい、グレン・イズバイア・エルムド皇子。
拒否は死罪とみなします。
シルド、シェイルズ。
宜しいですね?」
はあ、結局は損な役回りだ。
シェイルズはため息をついて返事をする。
「かしこまりました、ユニス女大公殿下。
この五大公家の一つ、ブルングド大公が見届け人となります」
そして、シルドもまたそれに倣う。
「もちろです、女大公殿下。
五大公家の一角、ハーベスト大公家当主がこの件、承りました」
帝位継承権者に、帝国内の大公家でもある王家二家の当主の承認。
断れば、かつての妻子すらも会えない。
もう、そこにもこだわりたくないが、父親としてもそのケリがつかないまま。
何より、自分の為にここまで生きる女性は‥‥‥
「はあ。
わかった。
わかりました、女大公殿下。
ご随意のままに。
まったく、侯爵家令息から婚約破棄をされ、皇太子殿下から婚約を申し込まれるが自分から破棄を望み。
最後は女大公殿下となって単なる皇子に婚約を命じるのだから。
ニアム、君は偉大になったな。
僕にはもったいないほどだ‥‥‥」
その言葉にユニスは円満の笑みで答えてやる。
ここまでのさんざん、引っ張られ、心を揺さぶられ、涙を流さされた仕返しに。
「ええ、殿下。
もちろん、ユニスは殿下の御心のままに」
と。
そして、グレンは初めて気づいた。
「まさか、死んだという虚言も、帝位継承権返上と言いながらもーー」
ユニスとシェイルズはしてやったそんな笑顔で答えた。
「ええ、イズバイア。
あなたが死んだ。その話はわたしとシェイルズ、そして、シルドにより広めました。
陛下はまだあなたの帝位継承権をそのままにされています。
つまり、いま殿下と呼ばれる人間は二人いるわけです。
でも、わたしが帝位継承権を返上したのは事実。
ただ、陛下からのお返事はまだ頂いてはいません。
だってー」
「だって、なんだい、ニアム。
もう僕の負けなんだよ?」
グレンはこの面々になにもかも驚いていた。
なぜ、ユニスは自分で帝位につかないのか、とも思いながら。
「だって、わたしが一月だけの女王ですから」
すべてはあなたの為に。
その返事にはその意味が込められた。
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