突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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終章 終焉への幕開け

第七十七話 聖者の塔

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  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 シルドと共にユニスが、彼が回廊と呼びならわしたあの空間。
 それを抜け出たときに目にしたのは、見慣れた帝国の軍が身に着ける軍服や騎士たちの鎧。
 そして法王庁に掲げられた、二頭の大鷲を模した帝国旗が風にひるがえる様だった。
 ユニスの視線はその帝国旗のぼぼ真横にあり、その足元と上にははるか頭上まで煌めくような階段。
 それが続いていた。
「これはどういうこと、シルド様?
 なぜわたしたちがここにいるのに。
 いま空を見上げた騎士の方もそう。
 我々に気づかないのですか?」
 ユニスは不思議そうに質問する。
 シルドはそういえば、この方は魔導にはまったくの初心者だったと思いだした。
「法王猊下の即位の際、天に仰ぐ。
 そういう話を聞いた事はありませんか?
 また、三日間の隠遁の間に籠る、とも」
「その話はあまり詳しくは知りません。
 隠遁も宗教的儀式だったのでは?」
「いいえ、義姉上。
 代々の猊下は四十代前半で交代します。その前の方は寿命間近まで。
 新しい方はその若さで。世界の多くの神殿の神官長を務め、王国の神官長から最後は猊下に。
 それが習わしです。その際には多くのこの世の現実を運ぶ、生きた書類。
 そんな存在になっているで。まるでだれかに報告するかのように。
 彼らはこの塔を登るのですよ。
 内側からは見えても、外からは見えないこの塔の上」
 そしてシルドは床を指差す。
「まあ、不思議なことに、チリやほこり。
 そういうものはどこにでも積もるものでしてな。
 ここにも、新しいのが二つ。
 それを追えばよい、という訳です」
 それを追えばいい。
 そう聞いてユニスは希望を抱くが、また、別な問題にも気づく。
「まさか、三日かけて登れ、と‥‥‥?」
 装備も携行食糧もそこまでの備蓄は持ってきていない。
 それならば、階下にいる帝国軍から探索の手を出す方が合理的だ。それに同行すればいい。
 そうユニスは考えていた。
 しかし、シルドは楽しそうにそれを否定する。
「義姉上。
 隠遁の間が開くのは猊下の即位の時のみ。
 それにこの螺旋階段、人二人が横になればもう狭い状態ながら、手すりすらない。
 法王が一人で登り、もし落ちたら。
 そんな配慮がまったくありませんな」
 この義弟も自分によく似ている。
 本題を一番最後にもってくるタイプだ。
 同じ同類が集まるとまるでなぞかけをしているようで不愉快になる。
 いまは時間が惜しいというのに。
「もういいです。
 シルド、結論だけいいなさい」
 やはり異母姉妹とはいえ、エシャーナの血は苛烈だ。
 シルドは妻を思い出してそう心で呟く。あれはもう少し優しくて可憐なのだけど、と。
「それはつまりーー」
 そう言い、シルドは階段から中空へと一歩を踏み出す。
「ちょっとーー」
 二歩目を踏み出して彼はゆっくりと上昇し、上の螺旋階段から降りてきた。
「つまり、こういうことです。
 三日かけて上まで徒歩で行き、報告をして帰るだけで十日はかかりますよ。
 偉人の知恵。
 利用させて頂きましょう」
 あきれた。
 ユニスはそう呟いていた。
 なぜ、この義弟はこうも早々に答えを見つけ出すのか?
 そしてユニスの中に生まれる一つの確信。
「シルド、あなたここに来たことがありますね?
 それも何度も」
 これにはシルドが驚いていた。
 トランプの手札を見ずに当てられた。そんな顔だ。
「なぜ、何度も、と?」
「あまりにも手慣れているからです。
 まさか、上には本物の聖者サユキ様が千年もの間おわして、あなたはアギトかゲフェトの身を変えた。
 そんな筋書きではないでしょうね?
 もし神でも、頭を垂れたりはしませんよ‥‥‥あの晩参会の屈辱といい。
 三国をうまく操る張本人としもべがここにいるなら、どの国も恨みも兼ねて刺し殺してやりたい。
 そんな気分です」
 そう言い、ユニスの手はもしもの為にと、騎士の一人から渡された帯剣に伸びている。
「その剣を使えるのですか?
 義姉上?」
 この狭い階段の中、先に上にいるシルドが有利だ。
 その剣技と魔導があればユニスはかなわないだろう。
 普通の貴族令嬢ならば。
「エイシャには受けなかったのですか?
 あの子なら、あなたのその物事を隠し、後から話す態度になんども怒りを向けたはず。
 剣とはいわずとも、ほうきか何かでうさ晴らしはしたと思いますが?」
 口は回るが、ここでは不利なのは変わらない。
 死を選ぶか、上手く階下まで逃げ延びるか。
「はあ‥‥‥。
 その件はなんどもされましたよ。
 エシャール公の直伝だとか。どこの世にほうきで夫やその友人を狙う貴婦人がいるものか‥‥‥。
 一人で三人前食べる獣が一匹いるのだから、家計が回らないなどと叱られる始末。
 義姉上もいずれは、グレン殿下をそう叱るのでしょうな‥‥‥」
 困り果てたようにシルドはぼやく。
 さっさと上に上がれと何度、はっぱをかけられたことか、と。
「まあ、あの子ったら。
 旦那様にそんな事をーー
 失礼ですね、シルド。 
 わたしはグレン殿下にそのようなことは致しません。
 それはあなたが不甲斐ないから‥‥‥いえ、やめましょう」
「いいのです。
 それを込みで僕をあの妻は気に入ってくれているのですから」
「これ以上、のろけを話すなら本当に斬りますが?」
「のろけではなく、真実を伝えているではないですか。
 そんな聖者と連携できるなら、なぜ我が妻をあんな田舎暮らしに追いやりますか。
 さっさと枢軸か法王猊下の元に送り、庇護を願い出ています。
 ここには数度、来たことはある。それは正しい。
 だから、こういった先程のことも知りえている。
 しかし、最上階は開きません。
 それに、あそこには彼らもいますからな。とりあえず、参りましょう」
 シルドが差し出すその手を、ユニスは渋々と受け取る。
 ゆっくりと昇る二人は、階段についた足跡がずっと続いていることに不信感を持っていた。
「これは殿下とシェイルズはこの道と言えば変ですが。
 まるで気づいていないようーー」
「気づいていても、使わなかったのでしょう。
 上や左右から槍ふすまにされたらそれこそ、終わりですからな。
 まあ、殿下が消え、シェイルズ殿が消え。
 この塔自体も人の足で三日では登れません」
「そんなに高いのですか?」
 ファイガ山脈まではいかないものとユニスは考えていた。
 しかしーー
「まあ、上に行けば分かりますが。
 天空に位置するあの月までではないにせよ、その程度には高い。
 その割に、身体に感じる重さも、空気も地上と問題なくあることが不思議なものですが」
 さて、あの二人がいるとすればそろそろ。
 疲れ果てているはず‥‥‥
 シルドがそう言い、辺りを見回した頃だ。
 上になにやらかすかに動くものがある。
「そんな、まさかーー」
 徐々に輪郭を露わにし、それに近付いた時。
「さあ、義姉上」
 その掛け声と共にユニスはその二人いる片割れに向かって思い切り押し出された。
「きゃっ!?」
 態勢を崩し、疲れ果てたように座り込むそれにユニスは倒れこむ。
「おい、なんだこれは‥‥‥なぜ?」
 戦場を幾日も彷徨ったようなグレンにユニスは抱き着いていた。
 いや抱きしめていた。
 もう二度と離さないように。
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