突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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終章 終焉への幕開け

第七十六話 偉人の地図

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 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 探索に行く。
 そうは言いだしたものの、シルドには心当たりがあるのか?
 王国側での闇の牙を統括するルサージュ侯ですら追えないそれをどう探るのか。
 頼るならばシルドしかいない、しかし、その希望をどこまで賭けていいものか。
 ユニスは不安がないといえば嘘になる程度には疑っていた。
 対してシルドもこの義姉がどこまで自分たち夫婦をどこまで駒にするつもりか。
 ユニスがグレンを取り戻し、帝国内で大きな影響力を持てるのはあと十年。
 それが限界であり、自分たちの擁護される時間の終わりだろう。
 そう考えていた。
 ユニスはユニスで、いま周囲を動いているこの空間。
 自分たちが普段は触れない魔導という存在。その技を、天才と呼ばれる彼が全て編み出したのか。
 そこにも大きな疑念があった。
 どうせ、お互いに目的はおなじなら話せるものは早く解決したほうがいい。
 あの夜の恨みを幸せな光景を見せつけて晴らそうという当初の想いもどうも空回りしている。
 その辺りに最近の不機嫌な理由があることには気づいていた。
「シルド様。
 あの部屋からのこの場所への移動。
 外洋域からの、半島内へのまるで瞬間芸のような移動。
 これはすべて、あなたの創造した技ですか?」
 足元に描かれている紋様にしてもそうだが、もしそうだとすれば原型がどこかにあるはず。
 元になるものがなければ、無から有を産み出したことになる。
 それは、シェイルズでも出来ないと自身で語っていた。
 だからこそ、あの枢軸軍の大規模な転移魔導に驚いていた。
 しかし、この義弟はなにか別の世界を見ている。
 ユニスにはそう思える根拠がいくつかあっての質問だった。
 その質問は、シルドの根幹にかかわるものらしい。
 彼は珍しく、困った顔をしていた。
「その通り、と言いたいところですが。
 あと十年もすれば明るみにでることですから‥‥‥
 先に申し上げておくべきなのでしょうな」
 困ったように笑い、そして彼は語り出した。
「殿下。
 グレン殿下とブルングド大公はすでに探し当てることができたと思います。
 この今渡っている道の更にしたに張り巡らされた、古代の魔導の道を」
「古代の道ですか?
 それは、シェイルズが語っていた聖者が使ったとされる御業になにか関係が?」
 シルドは否定するように首を振る。
「御業ではありません、殿下。
 聖者は千年前。
 それよりももっと太古に誰かがこの道‥‥‥そうですな。
 帝国に王国、枢軸の三者がいま領土にしている土地の地下にありの巣のような。
 大きな魔導の川とその支流があるのです。
 聖者が伝承のように神や魔と戦ったかどうかまでは知りません。
 ただ、僕は‥‥‥その支流や細やかな道をさらに分岐させ、繋げることに。
 そこに現代の魔導の技法を応用したに過ぎないのです。
 気づけば、誰にでもできること。
 たまたま、見つけただけですよ」
 天才などではなく、単なる小手先の器用な三流魔導士にすぎません。
 シルドの発言は自虐的ではなく、たぶんその言葉は本心なのだろう。
 そう、ユニスには思えた。でも、なぜ十年なのか。
「その十年はエリオス様の成人に関係しての考えですか、シルド様?」
 少しは、そう言い義弟は付け加える。
「翌年のいまごろには、うまくいけばですか。
 殿下同士の御子も、シェイルズ殿の御子も。
 王国側では、我が旧友のエルムンド公の子もできるでしよう。
 若い目が育ち、その力が実るのが十年。
 殿下が為されたあの共同管理権もそうです。
 それに、エシャーナ公家、ハーベスト大公家の運用も慣れに余力が出てくる。
 そこまでに、グレン殿下はこの道にかんしての大きな運用方法もまた、考える。
 そう思えば、そこが我が家の生命線になり‥‥‥殿下もお気づきでしょう?
 まだ、戦いは終わっていないと。
 誰かが、その十年後に大きな責務を負わなければなりません。
 そう、寝る前にエイシャと話していたところです」
「その為には子を為さない、と?
 そうしないための、殿下への多くの奏上と帝室への奉公のつもりだったのですけど。
 どうもシルド様は、このユニスの考えだけでは足らない、そう言われたいように聞こえますが?」
 それは誤解ですよ、殿下。
 そうシルドは言う。
「この回廊といいますか、道といいますか。
 その存在を、知る人は知っているのです。
 ただ、僕のように大きな運用を避けていたのです。
 神話の伝承もあるし、誰も、見る。
 つまり道がどこまであるのかを確認する術を知りませんでしたから。
 それは、この二十年ほどで研鑽されてきたもの」
「つまり、グレン殿下とシェイルズはまだ人が見つけてはならないものを、探し当てた、と?」
「そうは言いません。
 あの枢軸の軍勢の移動にしてもそうですが、遅かれ早かれ。
 闇の牙か銀鎖のどちらかが先に見つけるでしょう」
 ユニスはシルドの言いたいことがおぼろげに理解できた。
 戦争の形が大きく変わる。
 この義弟はそれを案じているのだと。
 それならばーー
「では、枢軸側はすでにその戦略に対応するだけの準備ができている。
 そういうことですか?」
「いえ、それは違うと思います。
 それほどの使い手がいれば、どこかしらから聞こえてくるものです。
 また、魔導も大きな海のようなもの。
 どこかで誰かが大きな技法による波を起こせば‥‥‥分かる人間には伝わる。
 それは、あのお二人も同じ事。
 しかし、この数年。そんな気配はなかった。
 あの殿下がされた雪崩はまだかわいいほうです。
 ブルングド大公‥‥‥まあ、まだですが。宰相殿がされた大規模な狭い範囲での人員の大量転移魔導。
 僕がしたような天空への物体の移動と艦船からの人員の転送。
 どれも、補助をするミスリル鉱石があってできたこと」
 まるで神話の伝承のようだ。
 あの時、シェイルズはそう言っていた。
 聖者がしたようだと。
「まるで、シェイルズのように言うのね、シルド様は。
 聖者が甦ったかでものように」
 だからですよ。
 そうシルドは言う。
「だからあの二人はそれを確かめに行かれたのでしょう。
 何より、グレン殿下ほどの使い手がこんな僕でもどうにでも動ける場所で迷うはずがない」
 確かめに行った?
 それはいったいどこに?
 枢軸の中枢の央国?
 それともバレン卿などが政務を行う南側の諸王国?
 それともーー
 ユニスが思いついた場所。
「まさか、法王猊下の元へ?
 でも法王庁はせんじつの、南と東の大公家軍により陥落したはず」
 いいえ、殿下。
 シルドは上を指差す。
「法王庁の上には見えない、塔があるのです。
 その中でしょう」
「見えない塔?」
「ええ、見えません。でも、雪などはかかります。
 輪郭を見ることができる塔がありますよ。
 まあ、一部のものしかしりませんが」
「では、いまからそこへ?」
 はい。そうシルドは言う。
 ただし、その前に。そう前置きをつけて。
「殿下、あの夜の蛮行はお許しいただきたい。
 そのおかげで救われた人間もここにいます。ミレイアをエイシャを僕に与えてくれた。
 十年後の汚名は我が家で請け負います。
 義姉上、グレン殿下のためにとそれを被るのはないように。
 お願いしたい」
 そう先々を見抜いたような物言いはあまり好きではありません。
 ユニスはそう不機嫌を装う。
「背負い込むなら、エシャーナの血とそこに交わる者で背負えばいいのです。
 その為の、まだ与えられている、女大公殿下なんて肩書なんですから」
「その頑固さは、なるほど。
 姉譲りでしたか‥‥‥」
 妻のあの性格はどうやら、エシャーナの血筋らしい。
 この姉妹には生涯、頭が上がらない気がシルドにはしていた。
「頑固ついでに、もう一つ。
 わたしは殿下を、イズバイアをだれにも。
 もう我慢をするのはやめました。
 妹夫婦に先に幸せになられてたまるもんですか」
 その意気ですよ、我が義姉上。
 シルドは笑いながら、ユニスを抱き寄せた。
「しばし、ご無礼。
 では、参りましょう。
 偉人たちの作り上げたこの回廊の終着点。
 あの塔へと」

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