76 / 150
終章 終焉への幕開け
第七十五話 空白の玉座
しおりを挟む
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
シェイルズがグレン探索に出向いて四日。
いまだにふたりの行方は掴めない。
二日前にエニシス半島の共同管理権の調印をすませたあとの二日間。
ユニスは不機嫌だった。
ほんとうなら再会と、二度目の結婚を祝してやりたい妹夫婦にすら会いたいと思えない。
黒でも白でも銀のふたりでも、だれでもいい。
その魔導の才能をじぶんにも分けて欲しい。
ユニスは何度、そう思ったことか。
愛するグレンのそばで彼を支えたいのに、その元婚約者はここにはいない。
もうこれだけの勲章が。
帝位継承権の譲渡だっていつでもできるのに。
大手をふって、帝都へと凱旋できるだけの駒は揃っているのに。
女王の座に自分はいる。だが、皇帝の座には誰もいない。
その下に就くべき人材だってあちらからやって来てくれた。
あとは彼だけ。
グレンだけが、イズバイアだけが戻れば‥‥‥
そうして、約束の四日目の夜がきた。
ユニスは自室の扉を開けると、侍女のアンリエッタの寝室の扉を叩いた。
はい、ただいま。
そんな返事がして、夜着のままの侍女が上着をはおり、扉を開く。
「殿下、こんな夜分に?
何かおいそぎの‥‥‥よう、ですね。
どうしますか、誰を?」
この一月あまりのつきあいで、頭の回りのいい侍女は何かをはじめる気らしい。
そう思ってくれたようだ。
「アルフレッドを起こして頂戴、それと闇の牙の騎士の方々も。
父上様とルサージュ候もお願い」
そんなに大勢?
軍議でもはじめる気だろうか?
そうなると、彼は?
アンリエッタの視線は通路の最奥。
爵位の高いものが休む部屋にそそがれている。
「あれはいいの。
どうせ、自分からきます」
ああ、まだ不機嫌がなおっていない。
アンリエッタは困った顔をしつつ、ただいま、と返事をして一度奥へと引っ込んだ。
しばらくして、眠たそうな面々が、テーブルの向こうに、宝珠の向こうに姿を現す。
「アルフレッドは?
アンリエッタ」
つい数日前、ニーエとライナの双子を帝都へと護送させたあとは戻ってきたはずだ。
「いえ、それが姫様。いいえ殿下。
あれはいま、お暇をすこしばかり頂いております」
「暇?
そんな許可はだした覚えがないけれど」
不思議そうに言うユニスに、闇の牙の副団長がわたしが許可をだしました。
そう発言した。
「そう、まあ近習のひとり休んでもいいでしょう。あの子もまだ若いから」
そう言いながら、自分もまだ十七だったことを思い出し、ひとり笑ってしまった。
アルフレッドと一歳も変わらない事実に気づいたからだ。
彼はだれか恋をする相手でもみつけたのだろうか?
もし、そうなら自分のようにならないですむ恋をして欲しかった。
この居場所は、闇の中だから。
「それで殿下。
このような夜半にこの面々でもお呼び出し。
次はどこを責めるお考えですか?
王国の王都はいま守りがかたく、東部の城塞都市は海軍の精鋭が消えております。
提督はロゼに戻りましたが、この城塞都市には兵力はほぼありませんが。
それでも、こちらに必要な三万の呼びもどしをしていますからな。
その艦船をそのまま外洋域へと進ませることもできますが?」
これはルサージュ候からの提案だ。
「もしくはこのまま、三万を一時的に上流域へと運び枢軸のミスリル鉱石の堆積した場を奪うのもありですな」
こちらは、アーベル商会のエド・アーベル船長。
「それとも、国境監視だけをおいて、南と北の大公軍と手引きし、枢軸を制圧。
これなら王国の陸軍も大部分は西側にいるはず。
背後をそのエニシス半島で守れば、はさみうちにあう恐怖は無くなりますが。
殿下、どうされますか?」
多くの提案が投げかけられるが、そのどれもが戦争のことばかり。
ユニスは軽くためいきをついた。
「みなさま、わたしのわがままに今夜までつきあい頂き感謝しております」
感謝?
なにを今更。一同がそんな顔をする。
「シェイルズに与えた期限はすでに終わりました。
この期限は、わたしの女大公殿下としての期限でもあるとお考えください」
それは、と声を上げようとするだれかをユニスは手を挙げて制止する。
「どうかさいごまで、お聞きください。
ユニスは帝位継承権と半島の共同管理権をグレン殿下に奏上します。
全ての爵位を、帝位継承権と半島の管理権をグレン殿下に。
ハーベスト大公家には妹のミレイアを正式に迎えます。
ブルングドの領土はエリオス様のブルングド大公家に。
エシャーナ侯、父上様が枢軸側から得た土地を以って、エシャーナ侯はそのまま公爵に。
ブルングドの島にユニスが持っていた土地と女大公の権限でニーエ様に伯爵位を。
ライナ様には、ブルングド大公シェイルズとの婚儀を。
これらを皇帝陛下と帝国宰相にすでに報告してあります。
いまよりは大変、身勝手ですがーー」
「探しにいかれるのですな、殿下」
そう声を上げたのはエシャーナ侯、いや、エシャーナ公だった。
「もう殿下ではありません、単なるユニスです、父上様」
そう呼びたいところですが‥‥‥、そう言いだしたのはルサージュ候だ。
「殿下、使えるものは使うべきです。
大公に妹君が即位なされるのであれば、その夫もまた同位。
姉とはいえ、上になるには王族の中枢にいることが必要になりますぞ?
使いなさい、まだ王国から帝国への帰化も間もない。
その程度には使っても、我が皇帝陛下は文句など言われません」
「しかし、ルサージュ侯それではあまりにも私的な‥‥‥。
殿下二人に大公二人が消える可能性もあるのですよ?」
「良いのだ、ユニス。
あの枢軸からの逃亡の際など、いまの貴族連中のほどんどがそこにいた。
あの夜の怒りもまだ溶けてはいないだろう?
しっかりと義姉として妹夫婦の手綱をにぎるいい機会だ。
天才の名はまだ早すぎる。あの三人にはこれからの先がかかっているのだからな」
そう、エシャーナ公が言い、細くするようにルサージュ侯が、
「まあ、未来の女帝が誰かはもう見えたようなもの。
グレン殿下がまだ側室だのなんだのと言うならばそう。
そのアバルン城塞に幽閉してそのまま、第二の帝室を名乗ればいいのです。
殿下が二人、大公家も二人。更には南と東、最南端の高家まで縁戚関係は盤石。
それくらいのお覚悟でやって頂かなくては、参加したこちらも面白くないというもの。
過去の影はいまは帝都に。
もう殿下の手を離れたのです。
去るよりも、勝ち取りにいくべきではありませんか?
まあ、老人たちの愚痴ですがな」
「いや、わたしはまだ若いのだが‥‥‥」
そう勝手に老人にしないでくれと訂正するエシャーナ公の発言にその場は和む形になった。
「わかりました。
では、闇の牙も青い狼もそれで良い、そうお考えですか?」
両団ともに、エシャーナ公とルサージュ侯が手中におさめているようなもの。
どこからも異議は出なかった。
軍議を終え、自室で軽装に着替えるユニスを手伝いながらアンリエッタはぽつりと言う。
「姫様、アルフレッドはいま帝都にー‥‥‥」
と。
帝都?
あの子の実家はラズではなかったか?
ユニスはその意味を理解できなかった。
「まだ若いから、帝都で遊んでいる?
それとも、誰かから。シェイルズなどから密命でも?」
アンリエッタは首を小刻みに振るがどうにも言い出しづらそうだった。
「アルフレッドにはラズのお二人の警護を申してつけていたけど‥‥‥」
まさかと、ユニスがそう思ったのは当たったらしい。
「アンリエッタ、なぜそれを早く。
このままではあの子が、死罪になりかねない」
「本人からは言わないで欲しいと。
会うことはしないと、そう言っていました」
「会うことはしない?
なら、なぜ会えないのにその土地へ?」
アンリエッタは寂しそうに言う。
「姫様と同じですわ。
彼は想いを残したまま去りたくなかったのでしょう。
戻ってくれば、もうそれで終わる。そんな恋もあります。
想うだけの恋も」
「ならせめて会えるようにだけでもーー」
駄目ですよ、そうアンリエッタは首をふる。
「姫様も御自身であの大河へと身を投じたはず。
アルフレッドは死などしないでしょう。
でも、誰かに横から大きな力で助けられることに、彼はそれを良しとするでしょうか?」
「それはー‥‥‥わかりました。
戻り次第、叱責にはしますからね。
では、わたしも行きます。わたしの想いを捕まえに」
そう言い、ユニスは向かう。
廊下の最奥、妹夫婦の寝ている部屋へと。
扉を叩こうとして、あちらから引かれてしまいユニスは多少、意表を突かれた。
空いた扉の奥には、ベッドで眠る妻を優しく見下ろす、シルドがいた。
「ようこそ、女大公殿下。
義弟としての最初のおてつだい。あの夜の愚行のあとしまつも含めて。
このシルドをお供に連れゆき下さい」
こんな礼儀正しい騎士は初めて見た。
そうユニスは思ってしまった。
「いいのですか?
愛する妻を未亡人にするかもしれませんよ?」
シルドはさみしげに笑い、そしてミレイアの頬をそっと撫でた。
「それを成して戻ってくるまでは、まだ籍は入れない。
そう言われましてな。半人前から一人前になる機会をぜひ、賜りたい、殿下」
「そう‥‥‥エイシャったら。もうあなたを自分の虜にしてしまったのね。
羨ましい限りですわ、シルド様」
どうかご勘弁を。
そう言い、シルドはユニスへと手を差し伸べる。
「もうなにをするかを、分かっていらっしゃるようね、義弟殿?」
嫌味を含んだ問いかけを彼は軽く受け流してみせた。
「これからは、ハーベスト大公家の天才魔導士。
そう、王国に恐れさせなければなりませんからな。
では、参りましょう我が君」
その手を取り二人の義姉弟は白と黒の鷹が待つ、未踏の地へと一歩を踏み出した。
シェイルズがグレン探索に出向いて四日。
いまだにふたりの行方は掴めない。
二日前にエニシス半島の共同管理権の調印をすませたあとの二日間。
ユニスは不機嫌だった。
ほんとうなら再会と、二度目の結婚を祝してやりたい妹夫婦にすら会いたいと思えない。
黒でも白でも銀のふたりでも、だれでもいい。
その魔導の才能をじぶんにも分けて欲しい。
ユニスは何度、そう思ったことか。
愛するグレンのそばで彼を支えたいのに、その元婚約者はここにはいない。
もうこれだけの勲章が。
帝位継承権の譲渡だっていつでもできるのに。
大手をふって、帝都へと凱旋できるだけの駒は揃っているのに。
女王の座に自分はいる。だが、皇帝の座には誰もいない。
その下に就くべき人材だってあちらからやって来てくれた。
あとは彼だけ。
グレンだけが、イズバイアだけが戻れば‥‥‥
そうして、約束の四日目の夜がきた。
ユニスは自室の扉を開けると、侍女のアンリエッタの寝室の扉を叩いた。
はい、ただいま。
そんな返事がして、夜着のままの侍女が上着をはおり、扉を開く。
「殿下、こんな夜分に?
何かおいそぎの‥‥‥よう、ですね。
どうしますか、誰を?」
この一月あまりのつきあいで、頭の回りのいい侍女は何かをはじめる気らしい。
そう思ってくれたようだ。
「アルフレッドを起こして頂戴、それと闇の牙の騎士の方々も。
父上様とルサージュ候もお願い」
そんなに大勢?
軍議でもはじめる気だろうか?
そうなると、彼は?
アンリエッタの視線は通路の最奥。
爵位の高いものが休む部屋にそそがれている。
「あれはいいの。
どうせ、自分からきます」
ああ、まだ不機嫌がなおっていない。
アンリエッタは困った顔をしつつ、ただいま、と返事をして一度奥へと引っ込んだ。
しばらくして、眠たそうな面々が、テーブルの向こうに、宝珠の向こうに姿を現す。
「アルフレッドは?
アンリエッタ」
つい数日前、ニーエとライナの双子を帝都へと護送させたあとは戻ってきたはずだ。
「いえ、それが姫様。いいえ殿下。
あれはいま、お暇をすこしばかり頂いております」
「暇?
そんな許可はだした覚えがないけれど」
不思議そうに言うユニスに、闇の牙の副団長がわたしが許可をだしました。
そう発言した。
「そう、まあ近習のひとり休んでもいいでしょう。あの子もまだ若いから」
そう言いながら、自分もまだ十七だったことを思い出し、ひとり笑ってしまった。
アルフレッドと一歳も変わらない事実に気づいたからだ。
彼はだれか恋をする相手でもみつけたのだろうか?
もし、そうなら自分のようにならないですむ恋をして欲しかった。
この居場所は、闇の中だから。
「それで殿下。
このような夜半にこの面々でもお呼び出し。
次はどこを責めるお考えですか?
王国の王都はいま守りがかたく、東部の城塞都市は海軍の精鋭が消えております。
提督はロゼに戻りましたが、この城塞都市には兵力はほぼありませんが。
それでも、こちらに必要な三万の呼びもどしをしていますからな。
その艦船をそのまま外洋域へと進ませることもできますが?」
これはルサージュ候からの提案だ。
「もしくはこのまま、三万を一時的に上流域へと運び枢軸のミスリル鉱石の堆積した場を奪うのもありですな」
こちらは、アーベル商会のエド・アーベル船長。
「それとも、国境監視だけをおいて、南と北の大公軍と手引きし、枢軸を制圧。
これなら王国の陸軍も大部分は西側にいるはず。
背後をそのエニシス半島で守れば、はさみうちにあう恐怖は無くなりますが。
殿下、どうされますか?」
多くの提案が投げかけられるが、そのどれもが戦争のことばかり。
ユニスは軽くためいきをついた。
「みなさま、わたしのわがままに今夜までつきあい頂き感謝しております」
感謝?
なにを今更。一同がそんな顔をする。
「シェイルズに与えた期限はすでに終わりました。
この期限は、わたしの女大公殿下としての期限でもあるとお考えください」
それは、と声を上げようとするだれかをユニスは手を挙げて制止する。
「どうかさいごまで、お聞きください。
ユニスは帝位継承権と半島の共同管理権をグレン殿下に奏上します。
全ての爵位を、帝位継承権と半島の管理権をグレン殿下に。
ハーベスト大公家には妹のミレイアを正式に迎えます。
ブルングドの領土はエリオス様のブルングド大公家に。
エシャーナ侯、父上様が枢軸側から得た土地を以って、エシャーナ侯はそのまま公爵に。
ブルングドの島にユニスが持っていた土地と女大公の権限でニーエ様に伯爵位を。
ライナ様には、ブルングド大公シェイルズとの婚儀を。
これらを皇帝陛下と帝国宰相にすでに報告してあります。
いまよりは大変、身勝手ですがーー」
「探しにいかれるのですな、殿下」
そう声を上げたのはエシャーナ侯、いや、エシャーナ公だった。
「もう殿下ではありません、単なるユニスです、父上様」
そう呼びたいところですが‥‥‥、そう言いだしたのはルサージュ候だ。
「殿下、使えるものは使うべきです。
大公に妹君が即位なされるのであれば、その夫もまた同位。
姉とはいえ、上になるには王族の中枢にいることが必要になりますぞ?
使いなさい、まだ王国から帝国への帰化も間もない。
その程度には使っても、我が皇帝陛下は文句など言われません」
「しかし、ルサージュ侯それではあまりにも私的な‥‥‥。
殿下二人に大公二人が消える可能性もあるのですよ?」
「良いのだ、ユニス。
あの枢軸からの逃亡の際など、いまの貴族連中のほどんどがそこにいた。
あの夜の怒りもまだ溶けてはいないだろう?
しっかりと義姉として妹夫婦の手綱をにぎるいい機会だ。
天才の名はまだ早すぎる。あの三人にはこれからの先がかかっているのだからな」
そう、エシャーナ公が言い、細くするようにルサージュ侯が、
「まあ、未来の女帝が誰かはもう見えたようなもの。
グレン殿下がまだ側室だのなんだのと言うならばそう。
そのアバルン城塞に幽閉してそのまま、第二の帝室を名乗ればいいのです。
殿下が二人、大公家も二人。更には南と東、最南端の高家まで縁戚関係は盤石。
それくらいのお覚悟でやって頂かなくては、参加したこちらも面白くないというもの。
過去の影はいまは帝都に。
もう殿下の手を離れたのです。
去るよりも、勝ち取りにいくべきではありませんか?
まあ、老人たちの愚痴ですがな」
「いや、わたしはまだ若いのだが‥‥‥」
そう勝手に老人にしないでくれと訂正するエシャーナ公の発言にその場は和む形になった。
「わかりました。
では、闇の牙も青い狼もそれで良い、そうお考えですか?」
両団ともに、エシャーナ公とルサージュ侯が手中におさめているようなもの。
どこからも異議は出なかった。
軍議を終え、自室で軽装に着替えるユニスを手伝いながらアンリエッタはぽつりと言う。
「姫様、アルフレッドはいま帝都にー‥‥‥」
と。
帝都?
あの子の実家はラズではなかったか?
ユニスはその意味を理解できなかった。
「まだ若いから、帝都で遊んでいる?
それとも、誰かから。シェイルズなどから密命でも?」
アンリエッタは首を小刻みに振るがどうにも言い出しづらそうだった。
「アルフレッドにはラズのお二人の警護を申してつけていたけど‥‥‥」
まさかと、ユニスがそう思ったのは当たったらしい。
「アンリエッタ、なぜそれを早く。
このままではあの子が、死罪になりかねない」
「本人からは言わないで欲しいと。
会うことはしないと、そう言っていました」
「会うことはしない?
なら、なぜ会えないのにその土地へ?」
アンリエッタは寂しそうに言う。
「姫様と同じですわ。
彼は想いを残したまま去りたくなかったのでしょう。
戻ってくれば、もうそれで終わる。そんな恋もあります。
想うだけの恋も」
「ならせめて会えるようにだけでもーー」
駄目ですよ、そうアンリエッタは首をふる。
「姫様も御自身であの大河へと身を投じたはず。
アルフレッドは死などしないでしょう。
でも、誰かに横から大きな力で助けられることに、彼はそれを良しとするでしょうか?」
「それはー‥‥‥わかりました。
戻り次第、叱責にはしますからね。
では、わたしも行きます。わたしの想いを捕まえに」
そう言い、ユニスは向かう。
廊下の最奥、妹夫婦の寝ている部屋へと。
扉を叩こうとして、あちらから引かれてしまいユニスは多少、意表を突かれた。
空いた扉の奥には、ベッドで眠る妻を優しく見下ろす、シルドがいた。
「ようこそ、女大公殿下。
義弟としての最初のおてつだい。あの夜の愚行のあとしまつも含めて。
このシルドをお供に連れゆき下さい」
こんな礼儀正しい騎士は初めて見た。
そうユニスは思ってしまった。
「いいのですか?
愛する妻を未亡人にするかもしれませんよ?」
シルドはさみしげに笑い、そしてミレイアの頬をそっと撫でた。
「それを成して戻ってくるまでは、まだ籍は入れない。
そう言われましてな。半人前から一人前になる機会をぜひ、賜りたい、殿下」
「そう‥‥‥エイシャったら。もうあなたを自分の虜にしてしまったのね。
羨ましい限りですわ、シルド様」
どうかご勘弁を。
そう言い、シルドはユニスへと手を差し伸べる。
「もうなにをするかを、分かっていらっしゃるようね、義弟殿?」
嫌味を含んだ問いかけを彼は軽く受け流してみせた。
「これからは、ハーベスト大公家の天才魔導士。
そう、王国に恐れさせなければなりませんからな。
では、参りましょう我が君」
その手を取り二人の義姉弟は白と黒の鷹が待つ、未踏の地へと一歩を踏み出した。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる