突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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終章 終焉への幕開け

第七十五話 空白の玉座

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 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 シェイルズがグレン探索に出向いて四日。
 いまだにふたりの行方は掴めない。
 二日前にエニシス半島の共同管理権の調印をすませたあとの二日間。
 ユニスは不機嫌だった。
 ほんとうなら再会と、二度目の結婚を祝してやりたい妹夫婦にすら会いたいと思えない。
 黒でも白でも銀のふたりでも、だれでもいい。
 その魔導の才能をじぶんにも分けて欲しい。
 ユニスは何度、そう思ったことか。
 愛するグレンのそばで彼を支えたいのに、その元婚約者はここにはいない。
 もうこれだけの勲章が。
 帝位継承権の譲渡だっていつでもできるのに。
 大手をふって、帝都へと凱旋できるだけの駒は揃っているのに。
 女王の座に自分はいる。だが、皇帝の座には誰もいない。
 その下に就くべき人材だってあちらからやって来てくれた。
 あとは彼だけ。
 グレンだけが、イズバイアだけが戻れば‥‥‥
 そうして、約束の四日目の夜がきた。
 ユニスは自室の扉を開けると、侍女のアンリエッタの寝室の扉を叩いた。
 はい、ただいま。
 そんな返事がして、夜着のままの侍女が上着をはおり、扉を開く。
「殿下、こんな夜分に?
 何かおいそぎの‥‥‥よう、ですね。
 どうしますか、誰を?」
 この一月あまりのつきあいで、頭の回りのいい侍女は何かをはじめる気らしい。
 そう思ってくれたようだ。
「アルフレッドを起こして頂戴、それと闇の牙の騎士の方々も。
 父上様とルサージュ候もお願い」
 そんなに大勢?
 軍議でもはじめる気だろうか?
 そうなると、彼は?
 アンリエッタの視線は通路の最奥。
 爵位の高いものが休む部屋にそそがれている。
「あれはいいの。
 どうせ、自分からきます」
 ああ、まだ不機嫌がなおっていない。
 アンリエッタは困った顔をしつつ、ただいま、と返事をして一度奥へと引っ込んだ。

 しばらくして、眠たそうな面々が、テーブルの向こうに、宝珠の向こうに姿を現す。
「アルフレッドは?
 アンリエッタ」
 つい数日前、ニーエとライナの双子を帝都へと護送させたあとは戻ってきたはずだ。
「いえ、それが姫様。いいえ殿下。
 あれはいま、お暇をすこしばかり頂いております」
「暇?
 そんな許可はだした覚えがないけれど」
 不思議そうに言うユニスに、闇の牙の副団長がわたしが許可をだしました。
 そう発言した。
「そう、まあ近習のひとり休んでもいいでしょう。あの子もまだ若いから」
 そう言いながら、自分もまだ十七だったことを思い出し、ひとり笑ってしまった。
 アルフレッドと一歳も変わらない事実に気づいたからだ。
 彼はだれか恋をする相手でもみつけたのだろうか?
 もし、そうなら自分のようにならないですむ恋をして欲しかった。
 この居場所は、闇の中だから。
「それで殿下。
 このような夜半にこの面々でもお呼び出し。 
 次はどこを責めるお考えですか?
 王国の王都はいま守りがかたく、東部の城塞都市は海軍の精鋭が消えております。
 提督はロゼに戻りましたが、この城塞都市には兵力はほぼありませんが。
 それでも、こちらに必要な三万の呼びもどしをしていますからな。
 その艦船をそのまま外洋域へと進ませることもできますが?」
 これはルサージュ候からの提案だ。
「もしくはこのまま、三万を一時的に上流域へと運び枢軸のミスリル鉱石の堆積した場を奪うのもありですな」
 こちらは、アーベル商会のエド・アーベル船長。 
「それとも、国境監視だけをおいて、南と北の大公軍と手引きし、枢軸を制圧。
 これなら王国の陸軍も大部分は西側にいるはず。
 背後をそのエニシス半島で守れば、はさみうちにあう恐怖は無くなりますが。
 殿下、どうされますか?」
 多くの提案が投げかけられるが、そのどれもが戦争のことばかり。
 ユニスは軽くためいきをついた。
「みなさま、わたしのわがままに今夜までつきあい頂き感謝しております」
 感謝?
 なにを今更。一同がそんな顔をする。
「シェイルズに与えた期限はすでに終わりました。
 この期限は、わたしの女大公殿下としての期限でもあるとお考えください」
 それは、と声を上げようとするだれかをユニスは手を挙げて制止する。
「どうかさいごまで、お聞きください。
 ユニスは帝位継承権と半島の共同管理権をグレン殿下に奏上します。
 全ての爵位を、帝位継承権と半島の管理権をグレン殿下に。
 ハーベスト大公家には妹のミレイアを正式に迎えます。
 ブルングドの領土はエリオス様のブルングド大公家に。
 エシャーナ侯、父上様が枢軸側から得た土地を以って、エシャーナ侯はそのまま公爵に。
 ブルングドの島にユニスが持っていた土地と女大公の権限でニーエ様に伯爵位を。
 ライナ様には、ブルングド大公シェイルズとの婚儀を。
 これらを皇帝陛下と帝国宰相にすでに報告してあります。
 いまよりは大変、身勝手ですがーー」
「探しにいかれるのですな、殿下」
 そう声を上げたのはエシャーナ侯、いや、エシャーナ公だった。
「もう殿下ではありません、単なるユニスです、父上様」
 そう呼びたいところですが‥‥‥、そう言いだしたのはルサージュ候だ。
「殿下、使えるものは使うべきです。
 大公に妹君が即位なされるのであれば、その夫もまた同位。
 姉とはいえ、上になるには王族の中枢にいることが必要になりますぞ?
 使いなさい、まだ王国から帝国への帰化も間もない。
 その程度には使っても、我が皇帝陛下は文句など言われません」
「しかし、ルサージュ侯それではあまりにも私的な‥‥‥。
 殿下二人に大公二人が消える可能性もあるのですよ?」
「良いのだ、ユニス。
 あの枢軸からの逃亡の際など、いまの貴族連中のほどんどがそこにいた。
 あの夜の怒りもまだ溶けてはいないだろう?
 しっかりと義姉として妹夫婦の手綱をにぎるいい機会だ。
 天才の名はまだ早すぎる。あの三人にはこれからの先がかかっているのだからな」 
 そう、エシャーナ公が言い、細くするようにルサージュ侯が、
「まあ、未来の女帝が誰かはもう見えたようなもの。
 グレン殿下がまだ側室だのなんだのと言うならばそう。
 そのアバルン城塞に幽閉してそのまま、第二の帝室を名乗ればいいのです。
 殿下が二人、大公家も二人。更には南と東、最南端の高家まで縁戚関係は盤石。
 それくらいのお覚悟でやって頂かなくては、参加したこちらも面白くないというもの。
 過去の影はいまは帝都に。
 もう殿下の手を離れたのです。
 去るよりも、勝ち取りにいくべきではありませんか?
 まあ、老人たちの愚痴ですがな」
「いや、わたしはまだ若いのだが‥‥‥」
 そう勝手に老人にしないでくれと訂正するエシャーナ公の発言にその場は和む形になった。
「わかりました。
 では、闇の牙も青い狼もそれで良い、そうお考えですか?」
 両団ともに、エシャーナ公とルサージュ侯が手中におさめているようなもの。
 どこからも異議は出なかった。

 軍議を終え、自室で軽装に着替えるユニスを手伝いながらアンリエッタはぽつりと言う。
「姫様、アルフレッドはいま帝都にー‥‥‥」
 と。
 帝都?
 あの子の実家はラズではなかったか?
 ユニスはその意味を理解できなかった。
「まだ若いから、帝都で遊んでいる?
 それとも、誰かから。シェイルズなどから密命でも?」
 アンリエッタは首を小刻みに振るがどうにも言い出しづらそうだった。
「アルフレッドにはラズのお二人の警護を申してつけていたけど‥‥‥」
 まさかと、ユニスがそう思ったのは当たったらしい。
「アンリエッタ、なぜそれを早く。
 このままではあの子が、死罪になりかねない」
「本人からは言わないで欲しいと。
 会うことはしないと、そう言っていました」
「会うことはしない?
 なら、なぜ会えないのにその土地へ?」
 アンリエッタは寂しそうに言う。
「姫様と同じですわ。
 彼は想いを残したまま去りたくなかったのでしょう。
 戻ってくれば、もうそれで終わる。そんな恋もあります。
 想うだけの恋も」
「ならせめて会えるようにだけでもーー」
 駄目ですよ、そうアンリエッタは首をふる。
「姫様も御自身であの大河へと身を投じたはず。
 アルフレッドは死などしないでしょう。
 でも、誰かに横から大きな力で助けられることに、彼はそれを良しとするでしょうか?」
「それはー‥‥‥わかりました。
 戻り次第、叱責にはしますからね。
 では、わたしも行きます。わたしの想いを捕まえに」
 そう言い、ユニスは向かう。
 廊下の最奥、妹夫婦の寝ている部屋へと。
 扉を叩こうとして、あちらから引かれてしまいユニスは多少、意表を突かれた。
 空いた扉の奥には、ベッドで眠る妻を優しく見下ろす、シルドがいた。
「ようこそ、女大公殿下。
 義弟としての最初のおてつだい。あの夜の愚行のあとしまつも含めて。
 このシルドをお供に連れゆき下さい」
 こんな礼儀正しい騎士は初めて見た。
 そうユニスは思ってしまった。
「いいのですか?
 愛する妻を未亡人にするかもしれませんよ?」
 シルドはさみしげに笑い、そしてミレイアの頬をそっと撫でた。
「それを成して戻ってくるまでは、まだ籍は入れない。
 そう言われましてな。半人前から一人前になる機会をぜひ、賜りたい、殿下」
「そう‥‥‥エイシャったら。もうあなたを自分の虜にしてしまったのね。
 羨ましい限りですわ、シルド様」
 どうかご勘弁を。
 そう言い、シルドはユニスへと手を差し伸べる。
「もうなにをするかを、分かっていらっしゃるようね、義弟殿?」
 嫌味を含んだ問いかけを彼は軽く受け流してみせた。
「これからは、ハーベスト大公家の天才魔導士。
 そう、王国に恐れさせなければなりませんからな。
 では、参りましょう我が君」
 その手を取り二人の義姉弟は白と黒の鷹が待つ、未踏の地へと一歩を踏み出した。
 
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