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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第六話 懐かしい香り
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「うっ‥‥‥これはひどいなー」
「まったくだ。
やはり下街というか‥‥‥こんな地方の都市では仕方ないか‥‥‥」
あれから三日ほど街道を南下し、最初にたどり着いたのは道の左側に大河シェスの支流を認めることのできる数世紀前から増築を繰り返されたアーハンルド城塞都市だった。
周囲を水路が二重に取り巻く構造は珍しいな。
シルドはそう思いしげしげと眺めてしまう。
外壁と内堀が交差するアーハンルドは尖塔の都と呼ばれるほどに、塔の多い都市でもある。
先程のうめき声に近い悲鳴は、アルム卿とイルバン卿の漏らした声だった。
「うん?
そうか?
古い街はこんなものだと思うのだがー‥‥‥?」
シルドは若い頃にさんざん放蕩を尽くしたフレイドルも似たような尖塔の多い海沿いの街だった。
懐かしい風景だ。
臭いも、あのゴミ溜めによく似ている。
「ここも、また似たような病気が多いかもなあ」
シルドのそんな声にイルバン卿がふと顔を上げる。
「病気、ですか?
この腐臭はそのー」
ふうん‥‥‥そうシルドは悩まし気な声をあげる。
「そうだな。
まあ、塔が多いのが要因、だろうが。
あそこは海からの海賊を尖塔からの砲撃と防壁に使われていたが。
この街は内陸部。
シェスの支流がそれなりに川幅と水量があるとはいえ」
そこで彼の声は途切れてしまう。
身なりもそうそう高い身分の人間が着るような服は着ていない。
「先に、馬を預け入れましょう。
それから宿にーー」
そうイルバン卿が進言したからだ。
宿、か。
街並みは古いが空からあれが降って来ない点はまあ、改善されているらしい。
どうもこの帝国の都市の進歩は、帝都や大公城の王都、各、高家の城塞都市に比べて内陸部の方が遅れているようだな。
帝国は東から南に長く領土を持ち海運都市はその恩恵を受けている。
内陸の平原部はシェスの支流でいくつかに寸断されている点が気候の安定をもたらし農業を繁栄させているのだろうが。
往来の行き交う人々はそれほど多くないな。
人口は三万はいると思ったのだがな?
シルドにはここには、ハーベスト大公領の悪い因習が多くあるようだ。
なんとなくそんなことを思いながら、部下に馬を預けて自分の荷物を担ぐ。
「あ、それは私が‥‥‥」
私?
従僕だと思っていた彼は彼ではない?
「そなた、女か?」
エイシャ、なにを考えている??
しかし、それにしてはユニス様並みの長身。
帝国のラズには女性の海戦部隊がいるとは聞いていたが、陸軍にでもいるのだろうか?
「あ、はい。
女大公様より申し付けられました。
女では‥‥‥ご迷惑ですか?」
ご迷惑ですか、とそう言われてもなあ。
考えてみれば、あの大公城を出てからずっとフードを被っていたまま馬を引いていた。
女の足には無理をさせたようだな。
「どのような経緯でこの一行に?」
ついでにフードを下げてはくれないか?
そう言うと、彼女はようやくそのフードを外した。
外套を軽く後ろにかわした彼女は帯剣もしており、体格も悪くない。
赤い髪に緑の瞳は南方の者の証だ。
「それはあまり言えないことでしてー‥‥‥」
言えない、なあ?
僕をそれほど信頼してない、そう言う意味合いではなさそうだ。
だとすると、僕への情婦。
そういった側面ではなさそうだな。
「傭兵、か?
にしては、だいぶ痛んだからだをしているようだ」
左足から腹部にかけて大きな裂傷を、シルドは他人には見えない目で見ていた。
(裸を見ているわけではないので、本人の尊厳のためにも付記しておく‥‥‥)
それを言うと更に彼女の猜疑心なのか、あくまで距離を保とうとする壁は広がりを見せたようだ。
「それは・・・・・・なぜ?」
「なぜ?
ああ、身体の各部を流れる気力というか。
そういうものを見れる魔導もある。
言っておくが服を透かして見たわけではないぞ?」
そう言うと彼女ーーというにはユニスと年齢が変わらないようにも見える。
「そう、ですか。
アルメンヌでございます、大公様」
「アルメンヌ、か。
なら、明日からは馬を用意させよう。
さ、夕食に行こうか。
明日からも頼むぞ」
軽く肩を叩いてシルドは自分とアルメンヌの荷物を抱えあげる。
「ああ、それと。
部屋は別に用意させる。
それでいいな?」
「部屋?!
いえ、それは。
私は荷馬車の番が‥‥‥」
見張り、か。
ふん。
なるほど。
「なら、こうしよう」
シルドは荷馬車二台の周囲を歩くとそのまま、片手を上げた。
「これがなにか?」
見た目には何も変わらない。
「触れてみるとわかるよ」
触れてみる?
アルメンヌはそっと荷馬車に触れようとする。
するとそこには円形の見えない壁。
そんなものがあった。
「これは‥‥‥魔導?
でも、雨や風はー?」
「水筒の水を投げかけてみるといい」
革袋の水を注いでみるとそれは壁に沿って地面に垂れていく。
「摩訶不思議な‥‥‥」
「この帝国の出ではないのか?」
その質問には答えずに、アルメンヌは宿屋へと入って行く。
「うーん‥‥‥??」
なにをどうすればいい?
どうも会話がうまく成立していない気がする。
イルバン卿が部屋の用意が出来ましたよ、そう声をかけてきたからそこに向かうがーー
「おい‥‥‥。
イルバン卿、部屋は別にしてくれーー」
アルメンヌはシルドの部屋にいた。
「なぜですか?
女大公様からの許可は得ておりますが?」
エイシャの許可を得ている!!??
これは違う。
許可をしたという前提で、試されている。
シルドの首筋に汗が走った。
「‥‥‥わかった。
好きにしろ」
「はあ‥‥‥?
情婦として旅の慰み者にするのは別に貴族ならば普通ですぞ?」
イルバン卿はそっとシルドにささやくがーー
「あれは。
うちのは試しているんだ‥‥‥」
「お二人の仲のことをわたくし共に持って来られては、大公様」
アルメンヌが困ります。
そう言われては、まあそうだろうなあ。
これで別室にすると言えば、彼女は仕事を放棄したことになる。
「アルメンヌ。
ベッドで寝ていい。
イルバン卿、それではまた夕食に顔を合わせよう。
一時間前後はあるだろう?」
シルドはそう言い、彼を下がらせる。
「さてー‥‥‥」
その一言に、少女は肩を震わせる。
まあ、こういう経験が多かったのか。
それともーー
エイシャは戻れば話をしないとな。
「え、ちょっ‥‥‥!!??」
アルメンヌはシルドがとった行動に驚きの声を上げた。
「ん?
こういうのが王国の兵の間では当たり前でな?
これなら、どんな場でも安全に寝れる」
安全?
それはもしかして‥‥‥
アルメンヌはシルドの方に寄ろうとして、そこに馬車に張っていたものと同じ障壁があることを確認する。
何より、シルドの身体はまるで空中にハンモックがあるように寝そべっていた。
「旦那様‥‥‥どれほどすごい魔導士なのですか!?」
どれほど凄い?
難しいなあ。
シルドは少しだけ考えて、明確な返事を出した。
「王国、帝国合わせていま、四人の偉大なる天才がいる。
その一人だ」
と。
アルメンヌはそれを聞き、驚きでよろけてベッドに座り込んでしまった。
「まったくだ。
やはり下街というか‥‥‥こんな地方の都市では仕方ないか‥‥‥」
あれから三日ほど街道を南下し、最初にたどり着いたのは道の左側に大河シェスの支流を認めることのできる数世紀前から増築を繰り返されたアーハンルド城塞都市だった。
周囲を水路が二重に取り巻く構造は珍しいな。
シルドはそう思いしげしげと眺めてしまう。
外壁と内堀が交差するアーハンルドは尖塔の都と呼ばれるほどに、塔の多い都市でもある。
先程のうめき声に近い悲鳴は、アルム卿とイルバン卿の漏らした声だった。
「うん?
そうか?
古い街はこんなものだと思うのだがー‥‥‥?」
シルドは若い頃にさんざん放蕩を尽くしたフレイドルも似たような尖塔の多い海沿いの街だった。
懐かしい風景だ。
臭いも、あのゴミ溜めによく似ている。
「ここも、また似たような病気が多いかもなあ」
シルドのそんな声にイルバン卿がふと顔を上げる。
「病気、ですか?
この腐臭はそのー」
ふうん‥‥‥そうシルドは悩まし気な声をあげる。
「そうだな。
まあ、塔が多いのが要因、だろうが。
あそこは海からの海賊を尖塔からの砲撃と防壁に使われていたが。
この街は内陸部。
シェスの支流がそれなりに川幅と水量があるとはいえ」
そこで彼の声は途切れてしまう。
身なりもそうそう高い身分の人間が着るような服は着ていない。
「先に、馬を預け入れましょう。
それから宿にーー」
そうイルバン卿が進言したからだ。
宿、か。
街並みは古いが空からあれが降って来ない点はまあ、改善されているらしい。
どうもこの帝国の都市の進歩は、帝都や大公城の王都、各、高家の城塞都市に比べて内陸部の方が遅れているようだな。
帝国は東から南に長く領土を持ち海運都市はその恩恵を受けている。
内陸の平原部はシェスの支流でいくつかに寸断されている点が気候の安定をもたらし農業を繁栄させているのだろうが。
往来の行き交う人々はそれほど多くないな。
人口は三万はいると思ったのだがな?
シルドにはここには、ハーベスト大公領の悪い因習が多くあるようだ。
なんとなくそんなことを思いながら、部下に馬を預けて自分の荷物を担ぐ。
「あ、それは私が‥‥‥」
私?
従僕だと思っていた彼は彼ではない?
「そなた、女か?」
エイシャ、なにを考えている??
しかし、それにしてはユニス様並みの長身。
帝国のラズには女性の海戦部隊がいるとは聞いていたが、陸軍にでもいるのだろうか?
「あ、はい。
女大公様より申し付けられました。
女では‥‥‥ご迷惑ですか?」
ご迷惑ですか、とそう言われてもなあ。
考えてみれば、あの大公城を出てからずっとフードを被っていたまま馬を引いていた。
女の足には無理をさせたようだな。
「どのような経緯でこの一行に?」
ついでにフードを下げてはくれないか?
そう言うと、彼女はようやくそのフードを外した。
外套を軽く後ろにかわした彼女は帯剣もしており、体格も悪くない。
赤い髪に緑の瞳は南方の者の証だ。
「それはあまり言えないことでしてー‥‥‥」
言えない、なあ?
僕をそれほど信頼してない、そう言う意味合いではなさそうだ。
だとすると、僕への情婦。
そういった側面ではなさそうだな。
「傭兵、か?
にしては、だいぶ痛んだからだをしているようだ」
左足から腹部にかけて大きな裂傷を、シルドは他人には見えない目で見ていた。
(裸を見ているわけではないので、本人の尊厳のためにも付記しておく‥‥‥)
それを言うと更に彼女の猜疑心なのか、あくまで距離を保とうとする壁は広がりを見せたようだ。
「それは・・・・・・なぜ?」
「なぜ?
ああ、身体の各部を流れる気力というか。
そういうものを見れる魔導もある。
言っておくが服を透かして見たわけではないぞ?」
そう言うと彼女ーーというにはユニスと年齢が変わらないようにも見える。
「そう、ですか。
アルメンヌでございます、大公様」
「アルメンヌ、か。
なら、明日からは馬を用意させよう。
さ、夕食に行こうか。
明日からも頼むぞ」
軽く肩を叩いてシルドは自分とアルメンヌの荷物を抱えあげる。
「ああ、それと。
部屋は別に用意させる。
それでいいな?」
「部屋?!
いえ、それは。
私は荷馬車の番が‥‥‥」
見張り、か。
ふん。
なるほど。
「なら、こうしよう」
シルドは荷馬車二台の周囲を歩くとそのまま、片手を上げた。
「これがなにか?」
見た目には何も変わらない。
「触れてみるとわかるよ」
触れてみる?
アルメンヌはそっと荷馬車に触れようとする。
するとそこには円形の見えない壁。
そんなものがあった。
「これは‥‥‥魔導?
でも、雨や風はー?」
「水筒の水を投げかけてみるといい」
革袋の水を注いでみるとそれは壁に沿って地面に垂れていく。
「摩訶不思議な‥‥‥」
「この帝国の出ではないのか?」
その質問には答えずに、アルメンヌは宿屋へと入って行く。
「うーん‥‥‥??」
なにをどうすればいい?
どうも会話がうまく成立していない気がする。
イルバン卿が部屋の用意が出来ましたよ、そう声をかけてきたからそこに向かうがーー
「おい‥‥‥。
イルバン卿、部屋は別にしてくれーー」
アルメンヌはシルドの部屋にいた。
「なぜですか?
女大公様からの許可は得ておりますが?」
エイシャの許可を得ている!!??
これは違う。
許可をしたという前提で、試されている。
シルドの首筋に汗が走った。
「‥‥‥わかった。
好きにしろ」
「はあ‥‥‥?
情婦として旅の慰み者にするのは別に貴族ならば普通ですぞ?」
イルバン卿はそっとシルドにささやくがーー
「あれは。
うちのは試しているんだ‥‥‥」
「お二人の仲のことをわたくし共に持って来られては、大公様」
アルメンヌが困ります。
そう言われては、まあそうだろうなあ。
これで別室にすると言えば、彼女は仕事を放棄したことになる。
「アルメンヌ。
ベッドで寝ていい。
イルバン卿、それではまた夕食に顔を合わせよう。
一時間前後はあるだろう?」
シルドはそう言い、彼を下がらせる。
「さてー‥‥‥」
その一言に、少女は肩を震わせる。
まあ、こういう経験が多かったのか。
それともーー
エイシャは戻れば話をしないとな。
「え、ちょっ‥‥‥!!??」
アルメンヌはシルドがとった行動に驚きの声を上げた。
「ん?
こういうのが王国の兵の間では当たり前でな?
これなら、どんな場でも安全に寝れる」
安全?
それはもしかして‥‥‥
アルメンヌはシルドの方に寄ろうとして、そこに馬車に張っていたものと同じ障壁があることを確認する。
何より、シルドの身体はまるで空中にハンモックがあるように寝そべっていた。
「旦那様‥‥‥どれほどすごい魔導士なのですか!?」
どれほど凄い?
難しいなあ。
シルドは少しだけ考えて、明確な返事を出した。
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