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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第三十二話 城塞都市アーハンルドの闇 1
しおりを挟む「閣下!!」
そう言いかけつけてくるのはやはり、若いアルアドル卿。
頬が紅潮しているところを見ると、どうやら、彼が目覚めたらしい。
それを取り押さえていたのだろう。
衣服がところどころ、乱れていた。
「すまんな、アルアドル卿。
あれが目覚めたか?」
「は、はい。
イルバン卿、いえ、イルバンが‥‥‥悔しそうにしております‥‥‥」
「まだ、卿をつけたまえ、アルアドル卿。
彼はまだ、仲間だ」
そのシルドの発言に、アルメンヌとアルアドル卿は二人揃って顔を見合わせた。
「そんな、旦那様!?」
「閣下!?
まだ、あのような者をー???」
二人の悲鳴をシルドはさもありなん、と受け流す。
「まだ、仲間だ。
だって、裁判も何もしていないだろう?
アルメンヌに手を挙げたことは罪だ。
しかし、彼には彼の。
騎士として通した忠義がある。
それはアルアドル卿。
貴公でも、主人を侮辱されれば剣を抜くだろう?」
どうだ?
そう問われてアルアドル卿は何も言い返せない。
だが、いまの主人はシルドなのに。
そう言いたそうだった。
そして、アルメンヌは、
「ひどいわ、旦那様!
わたしを殺そうとしたのに!!」
と泣きそうな顔になっていた。
まあ、これもその通りだ。
「あと少しでも旦那様が遅ければ死んでいたのよ!?
それをー!!」
アルメンヌは衣装のことも気にせずに大股でシルドに詰め寄った。
「あー、なあ?
アルメンヌ?
その、ほら。
アルアドル卿がな?
目のやり場に困っているぞ?」
え?
あー‥‥‥!!?
「え、ちょ、嫌だーー‥‥‥!!」
慌てて足元を隠すがその魅力的な太ももにアルアドル卿は魅せられてしまったらしい。
若者らしく恥じらいながら、年上のアルメンヌを意識し始めていた。
ふん。
この辺り、面白い組み合わせになるかもな?
彼がどこから来てどういくか。
それに拠るが。
シルドは少しだけ先の未来を考えていた。
「すいません、アルメンヌ。
あなたを見る気は‥‥‥ありませんでした」
申し訳なさそうに、最近だろう。
見習いから騎士になった彼はそう視線をずらしてアルメンヌに謝罪する。
その素直さが、シルドには頼もしかった。
「いいのよ、気にしないでください。
これも、見せるために‥‥‥ええ、そう。
閣下の悪趣味な情婦を周りに自慢したいからと。
そういう、御趣味がおありなの、シルド大公閣下は。
ひどくない?
まあ、わたしも閣下が綺麗だと言われるなら‥‥‥いいけど」
「いえ、そんな、アルメンヌ。
あなたは悪くありません、あ、いや。
閣下の御趣味であれば‥‥‥仕方ないことですから」
シルドはニヤニヤとその二人のやり取りを楽しんでいた。
いいな、この光景は。
なるべくなら、アルアドル卿には誤解させたくない。
シルドはこの茶番劇のことを明かすことにした。
少年にあとから恨まれても嫌だし、何より、嫉妬ほど怖いものはないからだ。
「アルアドル卿、話がある。
少しだけいいかな?」
アルメンヌに待っていてくれ。
そう言い、シルドは出てきた室内に、アルアドル卿を連れ込んだ。
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