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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第四十八話 真紅の魔女ミレイアの微笑 5
しおりを挟む金髪で寡黙な、ルイ・アルアドル卿。
それがシルドの彼に対する第一印象だった。
二十代かと思いきや、まだ十代後半。
そこは見誤ったかもしれない。
僕だけのアルメンヌ、と彼は言えるだろうか?
その言葉に相応しく、彼女を扱えるだろうか?
試すと言えば物言いはわるいだろう。
だが、アルム卿とシルドは今夜、あることに賭けていた。
アルメンヌはアルアドル卿でなくとも‥‥‥誰か、心の支えを求めている。
それがいまはシルドなだけであり、彼女がこの男性だ。
そう思える相手ができれば、シルドからは卒業するだろう。
孤独に生きて来て、死の恐怖すら与えたイルバン卿がその代わりになれる機会はもう去ってしまった。
恋人や結婚相手でなくていいのだ。
肉体関係など必要ない。
ただ、アルメンヌが自立できるまでの支えとなってくれるべき柱。
それを、シルドは探していた。
「さて、どうなるかな‥‥‥?」
ぽつりとつぶやく彼は、まだ愛情が足らないとむくれている妻を抱きしめてその髪に顔を埋めていた。
これが一番、落ち着くんだ。
お前のぬくもりが、このあたたかさが。
僕の戻るべき居場所なんだよ、プロム。
言葉にはしないがシルドは態度でそう現わしていた。
一方、エイシャは大きな飼い犬に懐かれているようで‥‥‥
嬉しいような、くすぐったいような。
そんな仕草よりも、もっと深いキスでもそれ以上でも受け入れる覚悟があるのに彼は迫ってこない。
「まったく‥‥‥。
男としては機能しているくせに。
あんな獣人‥‥‥スタイル良かったですわね、旦那様?
アルメンヌも胸が大きくて、抱き心地が良かったでしょう?
わたしはまだまだ‥‥‥」
そう謙遜する妻に、シルドは苦笑する。
姉のユニスはあれから見違えるほどに美しくなり、世の貴族子弟からはもっと早く求婚するべきだった。
そんな声が上がっている昨今だ。
母親が違うとはいえ、エイシャは美しい。
「心配するな、プロム。
あと二年もしてごらん。
君の周りには、愛を語る騎士だらけになるだろう。
誰よりも、美しくなる。
あのこの世の悪も、善もその身で見知ってきた君だ。
その才覚があるからこそ、宰相殿も君を大公家に迎えた。
君ほど、僕を惑わす存在はいないんだ」
「本当に、口だけは誰よりもお上手ですね、シルドは!!
で、どうするの、あの三人。
まだ戻ってこないけど。
‥‥‥本当に、妾にする気なの?」
確認、確認。
これでうん、なんて言おうものなら立てかけている剣が素晴らしい成果を残すだろう。
「いや、それはないな。
第一、おかしいんだ。
獣人のことは詳しくはないが、彼等は縦社会。
同じ氏族より上位の長が命じなければ、あんなに従順に従うはずがない。
それも二百もの数が、あの子爵家にいると聞いた」
「そう、ならシルド。
あなた、もしかして別のことを考えてる?
あの獣人一人で、どれほどの強さになるの?」
やはり、君は勘がいいな。
シルドはニヤリと微笑んだ。
「あの少女一人で、正規兵十人にはなるだろう。
つまり――」
「帝国内に、暗殺、もしくは奴隷と称して南方からの兵力を引き込めることに成功した。
そんな国がある?」
まあ、そういうことだ。
シルドはその線の可能性を捨てきれなかった。
二百人。
アーハンルドまでの往復の航路を確立させれば、帝都まではすぐだ。
知らず知らずのうちに、帝国は敵を引き寄せていることになる。
「あの、子悪党の子爵様は、利用されていることも気づいていないんだろうな」
それは良くないけど、とエイシャは言葉を続ける。
「なぜ、ここに連れて来たの?
アーハンルドに置いておけばよかったのに。
もしかしたら――」
この、ハーベスト大公家の城ごと、一夜にして崩壊する可能性だってある。
「習性を利用するのさ。
上からの命令で動く。群れの中でリーダーに従う。
なら、それ以上の存在になればいい。
僕がね」
「そのための妾、ですか‥‥‥。
あの三人だけ特別扱いして、二百の他の獣人に亀裂を与えるわけね。
でも、抱くつもりなの?」
そうしなければならないのであれば‥‥‥エイシャは仕方ないとも思っていた。
シルドは夫だ。
それに従うのも、また妻の役目。
それが貴族社会だからだ。
「いやーそれはご勘弁願いたいな。
彼女たちは繁殖能力が凄いらしい。
一度に四人も産むのだとか。そんなに血筋を残せば、必ず跡目争いになる。
それに、僕はそこには興味はないしな」
どうだか。
エイシャは拗ねた顔をして見せた。
そして思い出す事が一つ。
「ねえ、アルメンヌはどうしたの?」
と、そう聞かれシルドはそういえばー‥‥‥と記憶をたどる。
「もしかすれば、アルアドル卿といい関係になったかもしれんな?」
そうぽつりと彼が言った頃。
当の二人は、密室の中で‥‥‥初めての二人だけの夜を迎えていた。
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