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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第五十一話 真紅の魔女ミレイアの微笑 8
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「だめ、ルイ。
だめ‥‥‥あなたが――死罪になる―‥‥‥」
ならなぜ誘ったんです?
アルアドル卿は困った顔を作り、そして言った。
「いいですよ、一夜の夢でも。
憧れの女性をこの腕の中で好きにできたなら、死んでもいい」
「ちょっと!?
本気!!??
わたしなんかを憧れの女性なんて呼ばないでよ!!!」
この返事にはアルアドル卿は困ってしまった。
「いや、本音ですよ?
誰よりも、この手にしたい。
それがいけませんか、アルメンヌ?」
そして、アルメンヌは思い出す。
あの時。
イルバン卿に殺されかけた時。
普通は、もうすでに倒れた相手に剣は向けない。
あのアルム卿すら、剣を抜かなかった。
だが、この少年?
いや、青年は――
「あなた、まさかあの時、イルバンに‥‥‥?」
剣を向け、殺そうとしていた殺意は本物だった。
シルドが止めなければ、イルバン卿はあの時死んでいたはずだ。
「ええ。
殺すつもりでした。
大事な女性に、いえ、好きになった女性を手にかけようと‥‥‥。
僕は許せなかった」
そう。
アルメンヌは申し訳ないことをした。
そう、悔やみ始めていた。
一人の未来ある正しい騎士として生きていけるはずの、アルアドル卿を篭絡しようとしたのだから。
まあ、本人にその気は――
「そういうわけですから、今夜は僕だけのアルメンヌ。
そう呼びますよ?
あなたを好きなように‥‥‥抱かせてもらいます。
誘ったのはそちら。
罪はこの命で明日の朝、償いましょう」
そう言い、アルアドル卿はアルメンヌの細やかな頬に手を当てた。
暖かい‥‥‥
心のぬくもりが伝わってくる、そんな優しい仕草だ。
このまま、彼を受け入れてもいいかもしれない。
本当は、ある程度からかって、それからシルドを一緒に助けて欲しい。
そう頼むつもりだった。
でも、男女の仲ならもっと上手く行く?
アルメンヌは思案する。
いや、それは無理だ。
アルアドル卿はもし、自分が恋人になればシルドへの嫉妬を募らせるだろう。
それはいつか、いつか必ず‥‥‥三人の仲を裂くはずだ。
特にもし、シルドが自分を本当に妾にした日には――彼は死ぬだろう。
そう思った時、出る言葉は一つしかなかった。
「いいわ、なら二つだけ。
朝になれば二人で死ぬか。
それとも、ここから今から二人で逃げるか。
どっちかを選んで」
その問いにアルアドル卿は意外そうな顔をした。
そんな二択した出せないのか?
そういう顔だった。
「では、僕の妻になっていただける、と?」
話が、思惑がすべて別の方向に逸れて行く。
二人でしたかった会話は、こんなものではなかったのに。
でも―‥‥‥と、アルメンヌは思う。
それでもいいのではないか、と。
追手がかかるかもしれない。
その時は二人で死ねば――
「はあ、やめましょう。
もう、演技には疲れました」
はい、と言いかけた時。
アルアドル卿はあっさりとアルメンヌを解放した。
止めた止めた、そう言い、隣のベッドに移動してしまう。
アルメンヌの側に、自分の腰にしていた剣を置いて。
「え、ちょっと‥‥‥ルイ、どういうこと?」
「どうもこうも、お互い、こんな話にしたかった訳じゃないでしょ?
シルド様を共に支えよう。そういう話をするつもりだったのでは?」
「そっー!!
それはー‥‥‥」
ベッドに半身を起こすアルメンヌに、アルアドル卿は背を向けてしまった。
「僕はあなたが好きですよ。
妻に欲しいくらいだ。
でも、それ以上にあなたが大事です。
傷を癒すだけの、そんな男になんてなりたくない」
「ルイ‥‥‥」
片手で彼は自分の剣を後ろ手に指差していった。
「その剣はあなただけの騎士になるという、その証です。
身体を抱かなくても、心は癒せますよ。
僕のアルメンヌ‥‥‥この旅が――」
「この旅が、なに、ねえ、ルイ!?」
「この旅が終わった時。
あなたがまだ誰の女性でもなく、自由な身なら。
シルド様の大業が待っていることはご存知でしょう?
それが終わってからなら‥‥‥あなたの側にずっといます。
これからずっと。
おやすみなさい」
剣は護身用に持っておいてくださいね。
あのイルバンが寝ぼけてくるかもしれないから。
そうアルアドル卿は顔を見せずに言うと、手早く装備をベッドの脇に固めてシーツの中に入ってしまう。
「ばか‥‥‥」
それって、結婚の申し込みそのものじゃない。
「そっち‥‥‥行っていい?」
心もとない問いかけに、アルアドル卿は何も言わないでいた。
もう、いいや。
行ってしまえ。
アルメンヌは無理矢理、ベッドの真ん中に寝る青年を押し出すようにしてその後ろに潜り込む。
「ちょっと!?」
アルアドル卿は思わず悲鳴を上げそうになった。
無理矢理、彼女の方に向かされてその目の前には――
「腕枕くらいしなさいよ?
あと二十年かかるかもしれないけど。
我慢できるなら、あなたの側にいるわ。
でも、なにもないけどね?」
なんてひどい仕打ちなんだ‥‥‥。
蛇の生殺し?
いや、お互いに化かしあった末にアルメンヌは勝った。
そういうことだろう。
アルアドル卿は根負けしたように黙って片腕を枕代わりに差し出すのだった。
だめ‥‥‥あなたが――死罪になる―‥‥‥」
ならなぜ誘ったんです?
アルアドル卿は困った顔を作り、そして言った。
「いいですよ、一夜の夢でも。
憧れの女性をこの腕の中で好きにできたなら、死んでもいい」
「ちょっと!?
本気!!??
わたしなんかを憧れの女性なんて呼ばないでよ!!!」
この返事にはアルアドル卿は困ってしまった。
「いや、本音ですよ?
誰よりも、この手にしたい。
それがいけませんか、アルメンヌ?」
そして、アルメンヌは思い出す。
あの時。
イルバン卿に殺されかけた時。
普通は、もうすでに倒れた相手に剣は向けない。
あのアルム卿すら、剣を抜かなかった。
だが、この少年?
いや、青年は――
「あなた、まさかあの時、イルバンに‥‥‥?」
剣を向け、殺そうとしていた殺意は本物だった。
シルドが止めなければ、イルバン卿はあの時死んでいたはずだ。
「ええ。
殺すつもりでした。
大事な女性に、いえ、好きになった女性を手にかけようと‥‥‥。
僕は許せなかった」
そう。
アルメンヌは申し訳ないことをした。
そう、悔やみ始めていた。
一人の未来ある正しい騎士として生きていけるはずの、アルアドル卿を篭絡しようとしたのだから。
まあ、本人にその気は――
「そういうわけですから、今夜は僕だけのアルメンヌ。
そう呼びますよ?
あなたを好きなように‥‥‥抱かせてもらいます。
誘ったのはそちら。
罪はこの命で明日の朝、償いましょう」
そう言い、アルアドル卿はアルメンヌの細やかな頬に手を当てた。
暖かい‥‥‥
心のぬくもりが伝わってくる、そんな優しい仕草だ。
このまま、彼を受け入れてもいいかもしれない。
本当は、ある程度からかって、それからシルドを一緒に助けて欲しい。
そう頼むつもりだった。
でも、男女の仲ならもっと上手く行く?
アルメンヌは思案する。
いや、それは無理だ。
アルアドル卿はもし、自分が恋人になればシルドへの嫉妬を募らせるだろう。
それはいつか、いつか必ず‥‥‥三人の仲を裂くはずだ。
特にもし、シルドが自分を本当に妾にした日には――彼は死ぬだろう。
そう思った時、出る言葉は一つしかなかった。
「いいわ、なら二つだけ。
朝になれば二人で死ぬか。
それとも、ここから今から二人で逃げるか。
どっちかを選んで」
その問いにアルアドル卿は意外そうな顔をした。
そんな二択した出せないのか?
そういう顔だった。
「では、僕の妻になっていただける、と?」
話が、思惑がすべて別の方向に逸れて行く。
二人でしたかった会話は、こんなものではなかったのに。
でも―‥‥‥と、アルメンヌは思う。
それでもいいのではないか、と。
追手がかかるかもしれない。
その時は二人で死ねば――
「はあ、やめましょう。
もう、演技には疲れました」
はい、と言いかけた時。
アルアドル卿はあっさりとアルメンヌを解放した。
止めた止めた、そう言い、隣のベッドに移動してしまう。
アルメンヌの側に、自分の腰にしていた剣を置いて。
「え、ちょっと‥‥‥ルイ、どういうこと?」
「どうもこうも、お互い、こんな話にしたかった訳じゃないでしょ?
シルド様を共に支えよう。そういう話をするつもりだったのでは?」
「そっー!!
それはー‥‥‥」
ベッドに半身を起こすアルメンヌに、アルアドル卿は背を向けてしまった。
「僕はあなたが好きですよ。
妻に欲しいくらいだ。
でも、それ以上にあなたが大事です。
傷を癒すだけの、そんな男になんてなりたくない」
「ルイ‥‥‥」
片手で彼は自分の剣を後ろ手に指差していった。
「その剣はあなただけの騎士になるという、その証です。
身体を抱かなくても、心は癒せますよ。
僕のアルメンヌ‥‥‥この旅が――」
「この旅が、なに、ねえ、ルイ!?」
「この旅が終わった時。
あなたがまだ誰の女性でもなく、自由な身なら。
シルド様の大業が待っていることはご存知でしょう?
それが終わってからなら‥‥‥あなたの側にずっといます。
これからずっと。
おやすみなさい」
剣は護身用に持っておいてくださいね。
あのイルバンが寝ぼけてくるかもしれないから。
そうアルアドル卿は顔を見せずに言うと、手早く装備をベッドの脇に固めてシーツの中に入ってしまう。
「ばか‥‥‥」
それって、結婚の申し込みそのものじゃない。
「そっち‥‥‥行っていい?」
心もとない問いかけに、アルアドル卿は何も言わないでいた。
もう、いいや。
行ってしまえ。
アルメンヌは無理矢理、ベッドの真ん中に寝る青年を押し出すようにしてその後ろに潜り込む。
「ちょっと!?」
アルアドル卿は思わず悲鳴を上げそうになった。
無理矢理、彼女の方に向かされてその目の前には――
「腕枕くらいしなさいよ?
あと二十年かかるかもしれないけど。
我慢できるなら、あなたの側にいるわ。
でも、なにもないけどね?」
なんてひどい仕打ちなんだ‥‥‥。
蛇の生殺し?
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そういうことだろう。
アルアドル卿は根負けしたように黙って片腕を枕代わりに差し出すのだった。
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