突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~

第五十三話 真紅の魔女ミレイアの微笑 10

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 仲間を救って貰える。
 その一言が、青い毛並みを持つ獣人の少女ダリアの心を一瞬だが揺れ動かしていた。
 固く閉ざされた上位種からの命令に従わなければならないという本能。
 それを理性の一言が、変えようとしていた瞬間でもあった。
「まあ、そうは言ってもすぐには信用はされないわよね‥‥‥」
 エイシャはさて、どうしようかしら。
 こんな不測の事態、ユニスからも聞いていなかった。
 それにいまの時間、連絡を入れればまたあの――だらしないというか、夫婦揃ってシーツにくるまれた姿なんて見たくない。
「こっちは禁欲の日々だというのに‥‥‥!!」
 いささかの苛立ちを込めて、エイシャは立てかけてあった剣を手にした。
「いいから、ソファーに座りなさい!
 さあ、早く!!」
 まるで剣を引き抜く勢いで怒鳴るエイシャはグレンにその怒りを解き放ったユニス義姉様のようだ。
 シルドはこの姉妹がこうなった時には黙って過ごすのが一番賢いぞ?
 そう、数日だけではあるが共にエシャーナ公家で過ごした、義父であるエシャーナ公からそう教えを受けていた。
「あれらはな、母は違うがまあ、口より先に行動のところが良いというか、問題というか。
 わしも若い頃はさんざん、叱られたものでな‥‥‥」
 そう漏らす義父は相当苦労したのだろう。
 ため息交じりに、それでいて懐かしい過去と伴侶を得た二人の娘を見て微笑んでいた。
(ここはエイシャに任すか?
 いやしかし‥‥‥そうなれば、再度――)
 待っているのはだらしないだの、さっさと何とかなさいな!!
 そんな妻の不条理な怒りの矛先が向いてくることは分かり切っている。
 あのダリアはリザにリム。
 三人の獣人の少女がさっさと口を開いてくれればいいのだが、そうもいかないだろう‥‥‥
「はあ‥‥‥。
 お前たち、椅子に座るんだ。
 それとな、この帝国では正妻が一番の権力を持つ。
 僕よりも、な。
 分かったら、あるんだろ、ダリア?
 言いたいことが」
 問われたダリアはしかし、その口を開かない。
 まるで重い錠前がかけられているかのように、少女は表情を変化させなかった。
 しかしまあ、人間もそうであるかのように獣人の少女たちにもどこか表情なり表現方法に変化があるものでありダリアの場合は、尾がかすかに揺れているのは心の動揺を表しているのだろう。
 リムとリザの二人の尾はだらんと下がったままではなく、ダリアに視線を向けながらその尾は敏感な反応を見せるかのようにユラユラと小刻みに揺れていた。
 ふうん、そういうことか。
 三人で牽制しあっているらしい。
 秘密を洩らせば、どういう方法かはわからんが伝わるのだろう。
 彼女たちの飼い主?
 いや、平民と貴族のような間柄とでもいうべきか。
 その人物たちに。
 さて、それは魔導か、それとも、亜人や獣人特有の何か思念のようなものか。
「この部屋はな、ダリアにリムにリザ。
 ありとあらゆる魔導やそれに付随する干渉は遮られる。
 そういう作りにしてある。
 監視されているのがもし、魔導ならば‥‥‥いまの君たちは自由というわけだ」
 まあ、そう言われても信じられるわけもない、か。
 しかし、三人の反応は変わらない。
 おや?
 シルドは訝しんだ。
「もしかして、あなたたち。
 それぞれに監視するように命じられているの?
 それを破れば死でも与えるか、群れに戻った時に他の仲間から上に連絡が行く‥‥‥???」
 ああ、それならあり得るな。
 そう納得するシルドは、エイシャの発言を裏付けるようにピクリと一斉に耳を動かした少女たちを見て間違いないと確信した。
 彼女たちは恐れているのだ。 
 ここで秘密を語れば‥‥‥それは、即座にではないがいずれ近いうちに一族の破滅につながると。
「帰りたくない、か?」
 優しく問いかけるその言葉に、ダリアの尾は反応していた。
 しかし、エイシャはどうにもこれでは後々、甘えだけで願いを叶えてくれる。
 そう思われそうで嫌だった。
 やり過ぎかもしれないけど、恐怖を与えようかな。
 そう考えたエイシャは、ベルを鳴らし控えている近習を呼んだ。
 そして、彼女はシルドが想像もしない残酷な発言をする。
「コックを起こしなさい。
 その朱色の尾の亜人の子。
 調理しなさいと申し伝えなさい」
 リムの顔色が変わる。
 真っ青な表情になった彼女は、まさか殺されるだけでなく食べられるなんて!?
 そんな、声にならない悲鳴を上げて逃げ出そうとするが――
「逃げたり、抵抗すればそのリザも殺すわよ、リム」
 覚悟はいい?
 やってきた、衛士たちに抵抗もできず連れ出されていくリムは、一瞬だけリザに振り返り、今生の別れの笑みを寂し気に浮かべて消えて行った。
「さあ、料理ができたら。
 全員で、食事にしながら聞きましょうか?
 なぜ、アーハンルドにあなたたちがいたかを、ね?」
 シルドはあまりにものエイシャのやり方に非難の声を上げれなかった。
 帝国では正妻の方が強いと言ったばかりでもあり、制止の声などあげれない。
 リザは姉妹の死別に、涙を流していた‥‥‥

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