突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~

第五十四話 真紅の魔女ミレイアの微笑 11

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 ああ、やりすぎだ。
 それはやりすぎだぞ、妻よ……
 シルドは嘆息する。
 まさか、演技とはいえここまでやるなんて。
 惨い。
 その一言に尽きた。
 余裕の笑みの下では、自分が妾にすると言って手に入れた三人にした約束は嘘のものである。
 そう、ダリアやリザに思わせるには充分なほどの仕打ちだ。
 これでは信頼どうこうの問題ではない。
 信用を得る第一歩を、シルド自ら(エイシャという代打ではあるが)行ったようなものだ。
 二人の片方。
 ダリアはその金色に近い瞳でシルドを見ていた。
 あの子爵邸で見せた怯えや悲しみよりももっと深い感情。
 憎しみと怒りと、信じたのに裏切られた。
 そんな、冷徹な視線だけがシルドを見据えていた。
(参った。
 野生の肉食獣が獲物を奪われまいとしているときの様な視線だ。
 これは、生涯をかけて報復に来るな……)
 獣人の家族や血族の団結力を見せる一面でもあったが……
「ミレイア。
 食事の前に聞くことがあるだろう?
 悲しみで何も言えなくなっては、元も子もないぞ?
 それにその二人。
 特に、リザ」
 涙に暮れていた少女は肩を震わせた。
 今更、なにを望むというのか。
 自分も殺してくれ。
 顔を上げた少女はそんな、表情をしていた。
「なん……です、か。
 ご主人様……」
 こんな場で、こんな仕打ちを受けても―……そう言わねばならない。
 言わなければ、次は自分かダリアだ。
 リザの目はそう語っていた。
「そうね、旦那様。
 聞くことがあるわね。
 どっちが先になりたい?
 一人だとせいぜい、一週間も楽しめないのよ。
 食料として。
 一人だけ生かしてあげるわ?
 アーハンルドに来た理由、そのすべてを話せばね?」
 いや、違うだろエイシャ!?
 懐柔するところだろう、そこは!!
 シルドの焦りを、エイシャはミレイアなんて呼ばないで。
 そう不機嫌な顔をしてぼやいていた。
 シルドが自分を、ミレイア、そう呼ぶときは決まって怒っているときだ。
 このまま悪女ぶりを続けるのはやめろ。
 そう言いたいのだろう。
 だが、エイシャは考えていた。
 この獣人たちの団結力や結束の力。
 それは人間社会では推し量れないものだ、と。
 味方につければこの上ない戦力にもなるし、長い友人にもなれるだろう、と。
 だが、その反対なら……
 帝国は崩壊する。
 こんな終戦から短期間で、おおやけにもならずに数百人単位で彼女たちは潜り込んできた。
 この、帝都に最短の距離にあるハーベスト大公領のその内陸部まで入り込んできたそれを看過するわけにはいかない。
「だって旦那様。
 実家の姉様にもおすそ分けをしなくては。
 まあ、こんな夜中ですからもう寝ているでしょうけど……」
 ああ、そうか。
 ユニス義姉様に早く知らせたい、そのための演技か。
 少々、悪趣味過ぎるが。
「そうだな。
 殿下が崩御され、ユニス義姉様も孤独の夜を迎えておられることだろう。
 珍しい珍味など――」
 シルドは先ほどからその視線を変えないダリアをふふん、と余裕の笑みで見返した。
 ダリアは牙こそむかないが、その指先の爪はソファーに食い込んでいる。
 また、執事に叱られるな。
 備品を粗末にした、と。
 後から、魔導で修繕しておかねば――
 まったく違うことを考えながらシルドはリザに視線を移す。
 こちらは、身分を考えておとなしくはしているが……
「今にも襲い掛かりそうだな、リザ?
 話せば、お前の姉妹。
 まだ、助かるかもしれんぞ?」
 ふと横合いから出されるシルドの助け舟。
「旦那様。
 そんなに簡単に甘い言葉をかけては……以後、調子に乗りますよ?
 この獣人どもは――」
 下等な生き物。
 そう見下げるエイシャはまるで真紅の魔女ミレイアのように冷酷だった。
 その怒りの中には、今頃……夫婦仲睦まじい夜を過ごしているグレンとユニスへの怒りも混じっているのか。
 すまない、エイシャ。
 この運命につき合わせた償いは必ずするからな。
 そう、シルドは心に固く誓うのだった。
 ただ、いまはこれ以上は言い出せない。
 シルドは、そう。
 エイシャの持つ、剣の刃が引き抜かれ自分に向かうことだけは……避けたかった。
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