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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第五十八話 南方大陸の隠された秘密 3
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しかし‥‥‥、とシルドは唸っていた。
獣人たちの食欲、いやそれに圧倒されたのもあるのだが。
リムのダリアへの扱いが、一変しまるで下僕以下のように扱うさまがどうにも憐れでならなかった。
さて、どうしたものかとな。そう、頭を悩ませていた。
「まだ、食べれるか?」
いくらでもあるぞ?
そう安心させるように優しく膝上のリザに問いかけるシルドに、エイシャは面白くない。
不愉快だ!!
その怒りは自然とシルドではなく‥‥‥ダリアに向けられる。
つい先ほどまで獣人三人の主的な立ち位置だったダリアはそれだけエイシャを下に見ていた。
いや、シルドの記憶の限りでは殺そうとさえしていたはずだ。
リムを使って。
これは、天秤に載せる加減を間違えただけで共倒れになる。
しかし、そう思うのはシルドだけで、ポンポンッと頭に彼の手が置かれる度にリザはその耳と尾を震わせて怖がり、その恐怖は真横にいるエイシャにだって理解できる。
リムはそれを見るたびに苛つき‥‥‥エイシャに見える未来は今夜限りであの子。
そう、ダリアはこの双子に始末されるかもしれない。
この失態と妹へ与えた屈辱と恐怖の報復が待っている可能性があるわね。
そう、エイシャは踏んでいた。
どうしようかしら?
シルドには嫉妬に駆られた若い妻の妬みだと思わせておけばいい、最後に後始末をするのはこの発端を起こした自分なのだから。
彼にはまだ戻れる場所がある、王国のあの場所が。
ここに引き止めるのはあと数年だけで良い。
それからは、真紅の魔女ミレイアの再来と言われるようになろう。
エイシャはそう固く心に誓っていた。
そうなると‥‥‥?
この獣人たちの力が将来に渡って必要になる。
二百人?
嫌よ、その程度の手駒なんて。
彼に自分を諦めさせるには足らないじゃない。
せめて千人、いいえ‥‥‥南方大陸の全勢力よ。
アーハンルドにこんなに都合よく火種が点在する訳がない。
誰だろう?
エイシャは考える。
姉のユニス?
それとも、殿下御自身?
どうにも可能性が薄い、それに、その線なら‥‥‥帝国宰相は自分にこの座を与えないはずだ。
暗躍も可能な暗殺者にもなるそんな、爆弾を抱え込むはずがない。
ユニスの母親の生家、ベシケア高家だろうか?
でも、それなら彼女にとっても祖父になる人物は孫に被害を与えるだろうか?
東の大公、それとも、南の大公家?
誰かしら‥‥‥大きな混乱よりも、これは私怨のようにも思える。
帝室とこのハーベスト大公家に対する怨念があるように思えてならなかった。
多くを画策し、南方大陸の国家群のどれかとまで手を結んで謀略に走れる者?
権力とこの大公家の領土深くにまで自軍の牙を届かせれる存在?
「もし、あの子がこの何かを覆う影だとしたら、その向こうには‥‥‥???」
ふと、エイシャが呟いた一言がシルドの耳に入る。
だが、シルドはそれをダリアの境遇を言っているのだと勘違いして理解していた。
「可哀想、か?
秘密を共有する間柄になれば、何かを話してくれるかもしれんがな‥‥‥」
そうぼやく彼は、今夜の寝所にリザを迎えるような気がしてエイシャはふと虚しくなった。
シルドの考えや行動にではなく、自分が彼を愛しているのに巻き込んでいることに対して。
姉を差し置いて、彼を誘惑し誘惑された自分をエイシャは情けなく思っていたし、悲しんでもいた。
シルドが取った行動は彼女を救いたい気持ちからだったのに自分は身勝手に彼を巻き込んだのだから。
「旦那様、権力に身を任せると溺れますわよ」
「エイシャ‥‥‥?」
シルドは普段はそんな物言いをしない彼女に怪訝な顔をする。
どうした?
そう、問いかけてやりたいが今はこの獣人たちを放置するわけにもいかない。
その悩みが少しだけ、彼の頭に霞のようなものを張らせていた。
「ねえ、旦那様。
今夜は誰を選びますの?」
抱くならさっさと決めろ。
そんなふうに怒りをたたえた瞳でエイシャはシルドに迫る。
まずはこの厄介な獣人三匹。
これを攻略しない限り、自分たちに未来は来ないのよ、オーベルジュ!!
そう、叱咤されているような気がシルドにはしていた。
「ならー‥‥‥。
プロム、お前が決めろ」
お前?
君や妻やそんな言い方しか、その呼び名の後には付けないのがあなただったのに。
オーベルジュ‥‥‥
エイシャは嘆息すると同時に、なら、と指差したのは――ダリアだった。
「堕ちた獣の長は、それらしく扱ってやればどう、オーベルジュ?
妾とか側室ではなく、愛玩奴隷にでもすればいいじゃない。
あなたの得意な魔導で好きなだけ仕込みなさいよ‥‥‥夜を満足させる女にしたらいいわ。
道具のようにね」
指名された床に座るダリアが驚いたのは言うまでもない。
自分には満足な食事も与えて貰えず‥‥‥かつても仲間には堕とされる。
悲しいが、それでも生き残るためにはシルドの側にいるしか道はなかった。
いつかは、リムとリザの牙と爪がこの喉と下腹を食い破り、掻き切るだろうと想像にかたくなかったからだ。
「はい、奥様‥‥‥」
か細い声であの時の威勢はどこに行ったのやら、こっちにいらっしゃいとエイシャに呼ばれ、ダリアは立ち上がる。
可哀想に、与えられた最後の身分は愛玩奴隷なんてー‥‥‥。
そう、リムの嘲笑を背に受けながらダリアは歩き出していた。
「ねえ、シルド。
妻に選ばせたのだからさっさと行って頂戴。
ここはわたしたちの、わたしたちだけの‥‥‥寝所なんだから。
客間でもどこでも好きに使いなさいな」
エイシャにそう言われ、周囲にいる護衛やコックや侍女にまで冷たい視線を受けてシルドは困惑していた。
どうしたんだ、エイシャ。
いや、愛するプロム‥‥‥僕に何を求めている?
夫の視線はそう妻に問いかけていた。
エイシャはワインのグラスを軽く傾けると妖艶に笑って見せた。
「ねえ、オーベルジュ。
もう、聖者サユキはいないのねー‥‥‥」
そう、残念そうに言う妻は彼の知るエイシャではないような気がした。
何かを伝えようとしている?
いや、どこか諦めたその顔は――まるであの夜のアルメンヌのようだ。
今のエイシャは、彼にここを出て行けとそう強く迫っていた。
「わかった。
みなも、今夜はもういいぞ。
二度も済まなかった。
解散してくれ‥‥‥」
リザをリムのもとに返すと、シルドはダリアを抱き上げた。
逃がさないぞ?
覚悟しろよ、と静かに伝えて彼は部屋を後にする。
その後ろ姿を見届けると、エイシャは大きくため息をついた。
ありがたいことにこの部屋は特別製だ。
中でどんな話をしても、音を立てても‥‥‥漏れることはないようにシルドが丹念に魔導の結界を幾重にも張り巡らしてくれている。
あの扉も、一度締めればある方法を使わない限り開けれない、そんな防御壁になっていて――
「堅い守りは、堅固な牢にもなる、か。
ねえ、フェルナンド?」
食事の後片付けを侍女たちと共にしていたコックは呼ばれて振り返る。
あんな言い方を夫婦の間でしなきゃならんなんて。
なんて、貴族は不便なんだと思いながら作業していた彼は、エイシャの余裕の笑みに妙な不安を感じた。
「エイシャ‥‥‥いや、奥様。
あんな事はー‥‥‥」
大旦那様。
彼女の父親であるエシャーナ公も喜ばない。
そう彼は言いたかった。
しかし、エイシャはそれを遮ってしまう。
「いいの、いいのよ‥‥‥フェルナンド。
旦那様はいつも正しいの。
だから、なんの問題もないわ。
それより、その食事の余りを旦那様の寝室に届けてくれないかしら?
シルドの馬鹿、いつもはあれだけ食べる癖に‥‥‥今夜はこの子達に遠慮して何も口にしていないんだもの。
心配だわ」
なんだ、自分の心配は杞憂だったか。
フェルナンドはほっと胸を撫でおろし、それを承知した。
持って行くなら、温め直さないとな‥‥‥そうぼやきながら去って行く彼等を尻目に、エイシャはまだ残ろうとする護衛の数名に目を向けた。
「何しているの?
旦那様がもういいとおっしゃったのよ?
さあ、下がりなさい。
さっきは‥‥‥暴力的でごめんなさいね」
「奥様‥‥‥」
てっきり、愛人問題で腹の中が煮えくり返っているもの考えていたのに。
彼等は勘違いしていたと受け止めてしまった。
エイシャの意図は別にあるのに、それを読み解けるほどの家臣はまだここにはいなかった。
「では奥様、我らはこれにてー‥‥‥」
そう、挨拶もほどほどに愛する家族の元へと帰宅しようとする騎士の一人にエイシャは声をかける。
「ねえ、その腰の剣。
おいていってくれないかしら?
明日の朝、また訓練に行きたいの。
お相手、お願いできるかしら?」
「ええ、奥様の方がお強いですがね‥‥‥」
若い騎士はどうすればそうなれるのか、知りたいほどです。
そう言いながらエイシャに腰の剣を渡して部屋を去っていった。
扉がきちんと閉められたのを確認して、エイシャは静かに何かを呟く。
それは知る者しか出来ない、この扉を鉄よりも堅い堅固な檻の入り口にするための、施錠の呪文。
そして、二人で満足気にソファーに座り、生還とダリアの奴隷になったことを喜びまたダリアを蔑む二人の獣人にその目を向けた。
「さって、と。
オーベルジュはあの子と一緒だし。
この扉はああ、窓もそうだけど。
壁もそう。
わたしを殺さない限り開かないわよ?
どう?
明日の朝まで語り合ってみる?
誰が、本当にシルドに相応しい女かを‥‥‥?」
静かに向けたその手元には、鞘から抜かれた剣先があり‥‥‥
それは、双子の獣人に向けて静かに開戦の合図を放っていた――
獣人たちの食欲、いやそれに圧倒されたのもあるのだが。
リムのダリアへの扱いが、一変しまるで下僕以下のように扱うさまがどうにも憐れでならなかった。
さて、どうしたものかとな。そう、頭を悩ませていた。
「まだ、食べれるか?」
いくらでもあるぞ?
そう安心させるように優しく膝上のリザに問いかけるシルドに、エイシャは面白くない。
不愉快だ!!
その怒りは自然とシルドではなく‥‥‥ダリアに向けられる。
つい先ほどまで獣人三人の主的な立ち位置だったダリアはそれだけエイシャを下に見ていた。
いや、シルドの記憶の限りでは殺そうとさえしていたはずだ。
リムを使って。
これは、天秤に載せる加減を間違えただけで共倒れになる。
しかし、そう思うのはシルドだけで、ポンポンッと頭に彼の手が置かれる度にリザはその耳と尾を震わせて怖がり、その恐怖は真横にいるエイシャにだって理解できる。
リムはそれを見るたびに苛つき‥‥‥エイシャに見える未来は今夜限りであの子。
そう、ダリアはこの双子に始末されるかもしれない。
この失態と妹へ与えた屈辱と恐怖の報復が待っている可能性があるわね。
そう、エイシャは踏んでいた。
どうしようかしら?
シルドには嫉妬に駆られた若い妻の妬みだと思わせておけばいい、最後に後始末をするのはこの発端を起こした自分なのだから。
彼にはまだ戻れる場所がある、王国のあの場所が。
ここに引き止めるのはあと数年だけで良い。
それからは、真紅の魔女ミレイアの再来と言われるようになろう。
エイシャはそう固く心に誓っていた。
そうなると‥‥‥?
この獣人たちの力が将来に渡って必要になる。
二百人?
嫌よ、その程度の手駒なんて。
彼に自分を諦めさせるには足らないじゃない。
せめて千人、いいえ‥‥‥南方大陸の全勢力よ。
アーハンルドにこんなに都合よく火種が点在する訳がない。
誰だろう?
エイシャは考える。
姉のユニス?
それとも、殿下御自身?
どうにも可能性が薄い、それに、その線なら‥‥‥帝国宰相は自分にこの座を与えないはずだ。
暗躍も可能な暗殺者にもなるそんな、爆弾を抱え込むはずがない。
ユニスの母親の生家、ベシケア高家だろうか?
でも、それなら彼女にとっても祖父になる人物は孫に被害を与えるだろうか?
東の大公、それとも、南の大公家?
誰かしら‥‥‥大きな混乱よりも、これは私怨のようにも思える。
帝室とこのハーベスト大公家に対する怨念があるように思えてならなかった。
多くを画策し、南方大陸の国家群のどれかとまで手を結んで謀略に走れる者?
権力とこの大公家の領土深くにまで自軍の牙を届かせれる存在?
「もし、あの子がこの何かを覆う影だとしたら、その向こうには‥‥‥???」
ふと、エイシャが呟いた一言がシルドの耳に入る。
だが、シルドはそれをダリアの境遇を言っているのだと勘違いして理解していた。
「可哀想、か?
秘密を共有する間柄になれば、何かを話してくれるかもしれんがな‥‥‥」
そうぼやく彼は、今夜の寝所にリザを迎えるような気がしてエイシャはふと虚しくなった。
シルドの考えや行動にではなく、自分が彼を愛しているのに巻き込んでいることに対して。
姉を差し置いて、彼を誘惑し誘惑された自分をエイシャは情けなく思っていたし、悲しんでもいた。
シルドが取った行動は彼女を救いたい気持ちからだったのに自分は身勝手に彼を巻き込んだのだから。
「旦那様、権力に身を任せると溺れますわよ」
「エイシャ‥‥‥?」
シルドは普段はそんな物言いをしない彼女に怪訝な顔をする。
どうした?
そう、問いかけてやりたいが今はこの獣人たちを放置するわけにもいかない。
その悩みが少しだけ、彼の頭に霞のようなものを張らせていた。
「ねえ、旦那様。
今夜は誰を選びますの?」
抱くならさっさと決めろ。
そんなふうに怒りをたたえた瞳でエイシャはシルドに迫る。
まずはこの厄介な獣人三匹。
これを攻略しない限り、自分たちに未来は来ないのよ、オーベルジュ!!
そう、叱咤されているような気がシルドにはしていた。
「ならー‥‥‥。
プロム、お前が決めろ」
お前?
君や妻やそんな言い方しか、その呼び名の後には付けないのがあなただったのに。
オーベルジュ‥‥‥
エイシャは嘆息すると同時に、なら、と指差したのは――ダリアだった。
「堕ちた獣の長は、それらしく扱ってやればどう、オーベルジュ?
妾とか側室ではなく、愛玩奴隷にでもすればいいじゃない。
あなたの得意な魔導で好きなだけ仕込みなさいよ‥‥‥夜を満足させる女にしたらいいわ。
道具のようにね」
指名された床に座るダリアが驚いたのは言うまでもない。
自分には満足な食事も与えて貰えず‥‥‥かつても仲間には堕とされる。
悲しいが、それでも生き残るためにはシルドの側にいるしか道はなかった。
いつかは、リムとリザの牙と爪がこの喉と下腹を食い破り、掻き切るだろうと想像にかたくなかったからだ。
「はい、奥様‥‥‥」
か細い声であの時の威勢はどこに行ったのやら、こっちにいらっしゃいとエイシャに呼ばれ、ダリアは立ち上がる。
可哀想に、与えられた最後の身分は愛玩奴隷なんてー‥‥‥。
そう、リムの嘲笑を背に受けながらダリアは歩き出していた。
「ねえ、シルド。
妻に選ばせたのだからさっさと行って頂戴。
ここはわたしたちの、わたしたちだけの‥‥‥寝所なんだから。
客間でもどこでも好きに使いなさいな」
エイシャにそう言われ、周囲にいる護衛やコックや侍女にまで冷たい視線を受けてシルドは困惑していた。
どうしたんだ、エイシャ。
いや、愛するプロム‥‥‥僕に何を求めている?
夫の視線はそう妻に問いかけていた。
エイシャはワインのグラスを軽く傾けると妖艶に笑って見せた。
「ねえ、オーベルジュ。
もう、聖者サユキはいないのねー‥‥‥」
そう、残念そうに言う妻は彼の知るエイシャではないような気がした。
何かを伝えようとしている?
いや、どこか諦めたその顔は――まるであの夜のアルメンヌのようだ。
今のエイシャは、彼にここを出て行けとそう強く迫っていた。
「わかった。
みなも、今夜はもういいぞ。
二度も済まなかった。
解散してくれ‥‥‥」
リザをリムのもとに返すと、シルドはダリアを抱き上げた。
逃がさないぞ?
覚悟しろよ、と静かに伝えて彼は部屋を後にする。
その後ろ姿を見届けると、エイシャは大きくため息をついた。
ありがたいことにこの部屋は特別製だ。
中でどんな話をしても、音を立てても‥‥‥漏れることはないようにシルドが丹念に魔導の結界を幾重にも張り巡らしてくれている。
あの扉も、一度締めればある方法を使わない限り開けれない、そんな防御壁になっていて――
「堅い守りは、堅固な牢にもなる、か。
ねえ、フェルナンド?」
食事の後片付けを侍女たちと共にしていたコックは呼ばれて振り返る。
あんな言い方を夫婦の間でしなきゃならんなんて。
なんて、貴族は不便なんだと思いながら作業していた彼は、エイシャの余裕の笑みに妙な不安を感じた。
「エイシャ‥‥‥いや、奥様。
あんな事はー‥‥‥」
大旦那様。
彼女の父親であるエシャーナ公も喜ばない。
そう彼は言いたかった。
しかし、エイシャはそれを遮ってしまう。
「いいの、いいのよ‥‥‥フェルナンド。
旦那様はいつも正しいの。
だから、なんの問題もないわ。
それより、その食事の余りを旦那様の寝室に届けてくれないかしら?
シルドの馬鹿、いつもはあれだけ食べる癖に‥‥‥今夜はこの子達に遠慮して何も口にしていないんだもの。
心配だわ」
なんだ、自分の心配は杞憂だったか。
フェルナンドはほっと胸を撫でおろし、それを承知した。
持って行くなら、温め直さないとな‥‥‥そうぼやきながら去って行く彼等を尻目に、エイシャはまだ残ろうとする護衛の数名に目を向けた。
「何しているの?
旦那様がもういいとおっしゃったのよ?
さあ、下がりなさい。
さっきは‥‥‥暴力的でごめんなさいね」
「奥様‥‥‥」
てっきり、愛人問題で腹の中が煮えくり返っているもの考えていたのに。
彼等は勘違いしていたと受け止めてしまった。
エイシャの意図は別にあるのに、それを読み解けるほどの家臣はまだここにはいなかった。
「では奥様、我らはこれにてー‥‥‥」
そう、挨拶もほどほどに愛する家族の元へと帰宅しようとする騎士の一人にエイシャは声をかける。
「ねえ、その腰の剣。
おいていってくれないかしら?
明日の朝、また訓練に行きたいの。
お相手、お願いできるかしら?」
「ええ、奥様の方がお強いですがね‥‥‥」
若い騎士はどうすればそうなれるのか、知りたいほどです。
そう言いながらエイシャに腰の剣を渡して部屋を去っていった。
扉がきちんと閉められたのを確認して、エイシャは静かに何かを呟く。
それは知る者しか出来ない、この扉を鉄よりも堅い堅固な檻の入り口にするための、施錠の呪文。
そして、二人で満足気にソファーに座り、生還とダリアの奴隷になったことを喜びまたダリアを蔑む二人の獣人にその目を向けた。
「さって、と。
オーベルジュはあの子と一緒だし。
この扉はああ、窓もそうだけど。
壁もそう。
わたしを殺さない限り開かないわよ?
どう?
明日の朝まで語り合ってみる?
誰が、本当にシルドに相応しい女かを‥‥‥?」
静かに向けたその手元には、鞘から抜かれた剣先があり‥‥‥
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