140 / 150
新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第五十八話 南方大陸の隠された秘密 3
しおりを挟む
しかし‥‥‥、とシルドは唸っていた。
獣人たちの食欲、いやそれに圧倒されたのもあるのだが。
リムのダリアへの扱いが、一変しまるで下僕以下のように扱うさまがどうにも憐れでならなかった。
さて、どうしたものかとな。そう、頭を悩ませていた。
「まだ、食べれるか?」
いくらでもあるぞ?
そう安心させるように優しく膝上のリザに問いかけるシルドに、エイシャは面白くない。
不愉快だ!!
その怒りは自然とシルドではなく‥‥‥ダリアに向けられる。
つい先ほどまで獣人三人の主的な立ち位置だったダリアはそれだけエイシャを下に見ていた。
いや、シルドの記憶の限りでは殺そうとさえしていたはずだ。
リムを使って。
これは、天秤に載せる加減を間違えただけで共倒れになる。
しかし、そう思うのはシルドだけで、ポンポンッと頭に彼の手が置かれる度にリザはその耳と尾を震わせて怖がり、その恐怖は真横にいるエイシャにだって理解できる。
リムはそれを見るたびに苛つき‥‥‥エイシャに見える未来は今夜限りであの子。
そう、ダリアはこの双子に始末されるかもしれない。
この失態と妹へ与えた屈辱と恐怖の報復が待っている可能性があるわね。
そう、エイシャは踏んでいた。
どうしようかしら?
シルドには嫉妬に駆られた若い妻の妬みだと思わせておけばいい、最後に後始末をするのはこの発端を起こした自分なのだから。
彼にはまだ戻れる場所がある、王国のあの場所が。
ここに引き止めるのはあと数年だけで良い。
それからは、真紅の魔女ミレイアの再来と言われるようになろう。
エイシャはそう固く心に誓っていた。
そうなると‥‥‥?
この獣人たちの力が将来に渡って必要になる。
二百人?
嫌よ、その程度の手駒なんて。
彼に自分を諦めさせるには足らないじゃない。
せめて千人、いいえ‥‥‥南方大陸の全勢力よ。
アーハンルドにこんなに都合よく火種が点在する訳がない。
誰だろう?
エイシャは考える。
姉のユニス?
それとも、殿下御自身?
どうにも可能性が薄い、それに、その線なら‥‥‥帝国宰相は自分にこの座を与えないはずだ。
暗躍も可能な暗殺者にもなるそんな、爆弾を抱え込むはずがない。
ユニスの母親の生家、ベシケア高家だろうか?
でも、それなら彼女にとっても祖父になる人物は孫に被害を与えるだろうか?
東の大公、それとも、南の大公家?
誰かしら‥‥‥大きな混乱よりも、これは私怨のようにも思える。
帝室とこのハーベスト大公家に対する怨念があるように思えてならなかった。
多くを画策し、南方大陸の国家群のどれかとまで手を結んで謀略に走れる者?
権力とこの大公家の領土深くにまで自軍の牙を届かせれる存在?
「もし、あの子がこの何かを覆う影だとしたら、その向こうには‥‥‥???」
ふと、エイシャが呟いた一言がシルドの耳に入る。
だが、シルドはそれをダリアの境遇を言っているのだと勘違いして理解していた。
「可哀想、か?
秘密を共有する間柄になれば、何かを話してくれるかもしれんがな‥‥‥」
そうぼやく彼は、今夜の寝所にリザを迎えるような気がしてエイシャはふと虚しくなった。
シルドの考えや行動にではなく、自分が彼を愛しているのに巻き込んでいることに対して。
姉を差し置いて、彼を誘惑し誘惑された自分をエイシャは情けなく思っていたし、悲しんでもいた。
シルドが取った行動は彼女を救いたい気持ちからだったのに自分は身勝手に彼を巻き込んだのだから。
「旦那様、権力に身を任せると溺れますわよ」
「エイシャ‥‥‥?」
シルドは普段はそんな物言いをしない彼女に怪訝な顔をする。
どうした?
そう、問いかけてやりたいが今はこの獣人たちを放置するわけにもいかない。
その悩みが少しだけ、彼の頭に霞のようなものを張らせていた。
「ねえ、旦那様。
今夜は誰を選びますの?」
抱くならさっさと決めろ。
そんなふうに怒りをたたえた瞳でエイシャはシルドに迫る。
まずはこの厄介な獣人三匹。
これを攻略しない限り、自分たちに未来は来ないのよ、オーベルジュ!!
そう、叱咤されているような気がシルドにはしていた。
「ならー‥‥‥。
プロム、お前が決めろ」
お前?
君や妻やそんな言い方しか、その呼び名の後には付けないのがあなただったのに。
オーベルジュ‥‥‥
エイシャは嘆息すると同時に、なら、と指差したのは――ダリアだった。
「堕ちた獣の長は、それらしく扱ってやればどう、オーベルジュ?
妾とか側室ではなく、愛玩奴隷にでもすればいいじゃない。
あなたの得意な魔導で好きなだけ仕込みなさいよ‥‥‥夜を満足させる女にしたらいいわ。
道具のようにね」
指名された床に座るダリアが驚いたのは言うまでもない。
自分には満足な食事も与えて貰えず‥‥‥かつても仲間には堕とされる。
悲しいが、それでも生き残るためにはシルドの側にいるしか道はなかった。
いつかは、リムとリザの牙と爪がこの喉と下腹を食い破り、掻き切るだろうと想像にかたくなかったからだ。
「はい、奥様‥‥‥」
か細い声であの時の威勢はどこに行ったのやら、こっちにいらっしゃいとエイシャに呼ばれ、ダリアは立ち上がる。
可哀想に、与えられた最後の身分は愛玩奴隷なんてー‥‥‥。
そう、リムの嘲笑を背に受けながらダリアは歩き出していた。
「ねえ、シルド。
妻に選ばせたのだからさっさと行って頂戴。
ここはわたしたちの、わたしたちだけの‥‥‥寝所なんだから。
客間でもどこでも好きに使いなさいな」
エイシャにそう言われ、周囲にいる護衛やコックや侍女にまで冷たい視線を受けてシルドは困惑していた。
どうしたんだ、エイシャ。
いや、愛するプロム‥‥‥僕に何を求めている?
夫の視線はそう妻に問いかけていた。
エイシャはワインのグラスを軽く傾けると妖艶に笑って見せた。
「ねえ、オーベルジュ。
もう、聖者サユキはいないのねー‥‥‥」
そう、残念そうに言う妻は彼の知るエイシャではないような気がした。
何かを伝えようとしている?
いや、どこか諦めたその顔は――まるであの夜のアルメンヌのようだ。
今のエイシャは、彼にここを出て行けとそう強く迫っていた。
「わかった。
みなも、今夜はもういいぞ。
二度も済まなかった。
解散してくれ‥‥‥」
リザをリムのもとに返すと、シルドはダリアを抱き上げた。
逃がさないぞ?
覚悟しろよ、と静かに伝えて彼は部屋を後にする。
その後ろ姿を見届けると、エイシャは大きくため息をついた。
ありがたいことにこの部屋は特別製だ。
中でどんな話をしても、音を立てても‥‥‥漏れることはないようにシルドが丹念に魔導の結界を幾重にも張り巡らしてくれている。
あの扉も、一度締めればある方法を使わない限り開けれない、そんな防御壁になっていて――
「堅い守りは、堅固な牢にもなる、か。
ねえ、フェルナンド?」
食事の後片付けを侍女たちと共にしていたコックは呼ばれて振り返る。
あんな言い方を夫婦の間でしなきゃならんなんて。
なんて、貴族は不便なんだと思いながら作業していた彼は、エイシャの余裕の笑みに妙な不安を感じた。
「エイシャ‥‥‥いや、奥様。
あんな事はー‥‥‥」
大旦那様。
彼女の父親であるエシャーナ公も喜ばない。
そう彼は言いたかった。
しかし、エイシャはそれを遮ってしまう。
「いいの、いいのよ‥‥‥フェルナンド。
旦那様はいつも正しいの。
だから、なんの問題もないわ。
それより、その食事の余りを旦那様の寝室に届けてくれないかしら?
シルドの馬鹿、いつもはあれだけ食べる癖に‥‥‥今夜はこの子達に遠慮して何も口にしていないんだもの。
心配だわ」
なんだ、自分の心配は杞憂だったか。
フェルナンドはほっと胸を撫でおろし、それを承知した。
持って行くなら、温め直さないとな‥‥‥そうぼやきながら去って行く彼等を尻目に、エイシャはまだ残ろうとする護衛の数名に目を向けた。
「何しているの?
旦那様がもういいとおっしゃったのよ?
さあ、下がりなさい。
さっきは‥‥‥暴力的でごめんなさいね」
「奥様‥‥‥」
てっきり、愛人問題で腹の中が煮えくり返っているもの考えていたのに。
彼等は勘違いしていたと受け止めてしまった。
エイシャの意図は別にあるのに、それを読み解けるほどの家臣はまだここにはいなかった。
「では奥様、我らはこれにてー‥‥‥」
そう、挨拶もほどほどに愛する家族の元へと帰宅しようとする騎士の一人にエイシャは声をかける。
「ねえ、その腰の剣。
おいていってくれないかしら?
明日の朝、また訓練に行きたいの。
お相手、お願いできるかしら?」
「ええ、奥様の方がお強いですがね‥‥‥」
若い騎士はどうすればそうなれるのか、知りたいほどです。
そう言いながらエイシャに腰の剣を渡して部屋を去っていった。
扉がきちんと閉められたのを確認して、エイシャは静かに何かを呟く。
それは知る者しか出来ない、この扉を鉄よりも堅い堅固な檻の入り口にするための、施錠の呪文。
そして、二人で満足気にソファーに座り、生還とダリアの奴隷になったことを喜びまたダリアを蔑む二人の獣人にその目を向けた。
「さって、と。
オーベルジュはあの子と一緒だし。
この扉はああ、窓もそうだけど。
壁もそう。
わたしを殺さない限り開かないわよ?
どう?
明日の朝まで語り合ってみる?
誰が、本当にシルドに相応しい女かを‥‥‥?」
静かに向けたその手元には、鞘から抜かれた剣先があり‥‥‥
それは、双子の獣人に向けて静かに開戦の合図を放っていた――
獣人たちの食欲、いやそれに圧倒されたのもあるのだが。
リムのダリアへの扱いが、一変しまるで下僕以下のように扱うさまがどうにも憐れでならなかった。
さて、どうしたものかとな。そう、頭を悩ませていた。
「まだ、食べれるか?」
いくらでもあるぞ?
そう安心させるように優しく膝上のリザに問いかけるシルドに、エイシャは面白くない。
不愉快だ!!
その怒りは自然とシルドではなく‥‥‥ダリアに向けられる。
つい先ほどまで獣人三人の主的な立ち位置だったダリアはそれだけエイシャを下に見ていた。
いや、シルドの記憶の限りでは殺そうとさえしていたはずだ。
リムを使って。
これは、天秤に載せる加減を間違えただけで共倒れになる。
しかし、そう思うのはシルドだけで、ポンポンッと頭に彼の手が置かれる度にリザはその耳と尾を震わせて怖がり、その恐怖は真横にいるエイシャにだって理解できる。
リムはそれを見るたびに苛つき‥‥‥エイシャに見える未来は今夜限りであの子。
そう、ダリアはこの双子に始末されるかもしれない。
この失態と妹へ与えた屈辱と恐怖の報復が待っている可能性があるわね。
そう、エイシャは踏んでいた。
どうしようかしら?
シルドには嫉妬に駆られた若い妻の妬みだと思わせておけばいい、最後に後始末をするのはこの発端を起こした自分なのだから。
彼にはまだ戻れる場所がある、王国のあの場所が。
ここに引き止めるのはあと数年だけで良い。
それからは、真紅の魔女ミレイアの再来と言われるようになろう。
エイシャはそう固く心に誓っていた。
そうなると‥‥‥?
この獣人たちの力が将来に渡って必要になる。
二百人?
嫌よ、その程度の手駒なんて。
彼に自分を諦めさせるには足らないじゃない。
せめて千人、いいえ‥‥‥南方大陸の全勢力よ。
アーハンルドにこんなに都合よく火種が点在する訳がない。
誰だろう?
エイシャは考える。
姉のユニス?
それとも、殿下御自身?
どうにも可能性が薄い、それに、その線なら‥‥‥帝国宰相は自分にこの座を与えないはずだ。
暗躍も可能な暗殺者にもなるそんな、爆弾を抱え込むはずがない。
ユニスの母親の生家、ベシケア高家だろうか?
でも、それなら彼女にとっても祖父になる人物は孫に被害を与えるだろうか?
東の大公、それとも、南の大公家?
誰かしら‥‥‥大きな混乱よりも、これは私怨のようにも思える。
帝室とこのハーベスト大公家に対する怨念があるように思えてならなかった。
多くを画策し、南方大陸の国家群のどれかとまで手を結んで謀略に走れる者?
権力とこの大公家の領土深くにまで自軍の牙を届かせれる存在?
「もし、あの子がこの何かを覆う影だとしたら、その向こうには‥‥‥???」
ふと、エイシャが呟いた一言がシルドの耳に入る。
だが、シルドはそれをダリアの境遇を言っているのだと勘違いして理解していた。
「可哀想、か?
秘密を共有する間柄になれば、何かを話してくれるかもしれんがな‥‥‥」
そうぼやく彼は、今夜の寝所にリザを迎えるような気がしてエイシャはふと虚しくなった。
シルドの考えや行動にではなく、自分が彼を愛しているのに巻き込んでいることに対して。
姉を差し置いて、彼を誘惑し誘惑された自分をエイシャは情けなく思っていたし、悲しんでもいた。
シルドが取った行動は彼女を救いたい気持ちからだったのに自分は身勝手に彼を巻き込んだのだから。
「旦那様、権力に身を任せると溺れますわよ」
「エイシャ‥‥‥?」
シルドは普段はそんな物言いをしない彼女に怪訝な顔をする。
どうした?
そう、問いかけてやりたいが今はこの獣人たちを放置するわけにもいかない。
その悩みが少しだけ、彼の頭に霞のようなものを張らせていた。
「ねえ、旦那様。
今夜は誰を選びますの?」
抱くならさっさと決めろ。
そんなふうに怒りをたたえた瞳でエイシャはシルドに迫る。
まずはこの厄介な獣人三匹。
これを攻略しない限り、自分たちに未来は来ないのよ、オーベルジュ!!
そう、叱咤されているような気がシルドにはしていた。
「ならー‥‥‥。
プロム、お前が決めろ」
お前?
君や妻やそんな言い方しか、その呼び名の後には付けないのがあなただったのに。
オーベルジュ‥‥‥
エイシャは嘆息すると同時に、なら、と指差したのは――ダリアだった。
「堕ちた獣の長は、それらしく扱ってやればどう、オーベルジュ?
妾とか側室ではなく、愛玩奴隷にでもすればいいじゃない。
あなたの得意な魔導で好きなだけ仕込みなさいよ‥‥‥夜を満足させる女にしたらいいわ。
道具のようにね」
指名された床に座るダリアが驚いたのは言うまでもない。
自分には満足な食事も与えて貰えず‥‥‥かつても仲間には堕とされる。
悲しいが、それでも生き残るためにはシルドの側にいるしか道はなかった。
いつかは、リムとリザの牙と爪がこの喉と下腹を食い破り、掻き切るだろうと想像にかたくなかったからだ。
「はい、奥様‥‥‥」
か細い声であの時の威勢はどこに行ったのやら、こっちにいらっしゃいとエイシャに呼ばれ、ダリアは立ち上がる。
可哀想に、与えられた最後の身分は愛玩奴隷なんてー‥‥‥。
そう、リムの嘲笑を背に受けながらダリアは歩き出していた。
「ねえ、シルド。
妻に選ばせたのだからさっさと行って頂戴。
ここはわたしたちの、わたしたちだけの‥‥‥寝所なんだから。
客間でもどこでも好きに使いなさいな」
エイシャにそう言われ、周囲にいる護衛やコックや侍女にまで冷たい視線を受けてシルドは困惑していた。
どうしたんだ、エイシャ。
いや、愛するプロム‥‥‥僕に何を求めている?
夫の視線はそう妻に問いかけていた。
エイシャはワインのグラスを軽く傾けると妖艶に笑って見せた。
「ねえ、オーベルジュ。
もう、聖者サユキはいないのねー‥‥‥」
そう、残念そうに言う妻は彼の知るエイシャではないような気がした。
何かを伝えようとしている?
いや、どこか諦めたその顔は――まるであの夜のアルメンヌのようだ。
今のエイシャは、彼にここを出て行けとそう強く迫っていた。
「わかった。
みなも、今夜はもういいぞ。
二度も済まなかった。
解散してくれ‥‥‥」
リザをリムのもとに返すと、シルドはダリアを抱き上げた。
逃がさないぞ?
覚悟しろよ、と静かに伝えて彼は部屋を後にする。
その後ろ姿を見届けると、エイシャは大きくため息をついた。
ありがたいことにこの部屋は特別製だ。
中でどんな話をしても、音を立てても‥‥‥漏れることはないようにシルドが丹念に魔導の結界を幾重にも張り巡らしてくれている。
あの扉も、一度締めればある方法を使わない限り開けれない、そんな防御壁になっていて――
「堅い守りは、堅固な牢にもなる、か。
ねえ、フェルナンド?」
食事の後片付けを侍女たちと共にしていたコックは呼ばれて振り返る。
あんな言い方を夫婦の間でしなきゃならんなんて。
なんて、貴族は不便なんだと思いながら作業していた彼は、エイシャの余裕の笑みに妙な不安を感じた。
「エイシャ‥‥‥いや、奥様。
あんな事はー‥‥‥」
大旦那様。
彼女の父親であるエシャーナ公も喜ばない。
そう彼は言いたかった。
しかし、エイシャはそれを遮ってしまう。
「いいの、いいのよ‥‥‥フェルナンド。
旦那様はいつも正しいの。
だから、なんの問題もないわ。
それより、その食事の余りを旦那様の寝室に届けてくれないかしら?
シルドの馬鹿、いつもはあれだけ食べる癖に‥‥‥今夜はこの子達に遠慮して何も口にしていないんだもの。
心配だわ」
なんだ、自分の心配は杞憂だったか。
フェルナンドはほっと胸を撫でおろし、それを承知した。
持って行くなら、温め直さないとな‥‥‥そうぼやきながら去って行く彼等を尻目に、エイシャはまだ残ろうとする護衛の数名に目を向けた。
「何しているの?
旦那様がもういいとおっしゃったのよ?
さあ、下がりなさい。
さっきは‥‥‥暴力的でごめんなさいね」
「奥様‥‥‥」
てっきり、愛人問題で腹の中が煮えくり返っているもの考えていたのに。
彼等は勘違いしていたと受け止めてしまった。
エイシャの意図は別にあるのに、それを読み解けるほどの家臣はまだここにはいなかった。
「では奥様、我らはこれにてー‥‥‥」
そう、挨拶もほどほどに愛する家族の元へと帰宅しようとする騎士の一人にエイシャは声をかける。
「ねえ、その腰の剣。
おいていってくれないかしら?
明日の朝、また訓練に行きたいの。
お相手、お願いできるかしら?」
「ええ、奥様の方がお強いですがね‥‥‥」
若い騎士はどうすればそうなれるのか、知りたいほどです。
そう言いながらエイシャに腰の剣を渡して部屋を去っていった。
扉がきちんと閉められたのを確認して、エイシャは静かに何かを呟く。
それは知る者しか出来ない、この扉を鉄よりも堅い堅固な檻の入り口にするための、施錠の呪文。
そして、二人で満足気にソファーに座り、生還とダリアの奴隷になったことを喜びまたダリアを蔑む二人の獣人にその目を向けた。
「さって、と。
オーベルジュはあの子と一緒だし。
この扉はああ、窓もそうだけど。
壁もそう。
わたしを殺さない限り開かないわよ?
どう?
明日の朝まで語り合ってみる?
誰が、本当にシルドに相応しい女かを‥‥‥?」
静かに向けたその手元には、鞘から抜かれた剣先があり‥‥‥
それは、双子の獣人に向けて静かに開戦の合図を放っていた――
0
あなたにおすすめの小説
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった
佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。
その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。
フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。
フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。
ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。
セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。
彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました
冬月光輝
恋愛
代々魔術師の名家であるローエルシュタイン侯爵家は二人の聖女を輩出した。
一人は幼き頃より神童と呼ばれた天才で、史上最年少で聖女の称号を得たエキドナ。
もう一人はエキドナの姉で、妹に遅れをとること五年目にしてようやく聖女になれた努力家、ルシリア。
ルシリアは魔力の量も生まれつき、妹のエキドナの十分の一以下でローエルシュタインの落ちこぼれだと蔑まれていた。
しかし彼女は努力を惜しまず、魔力不足を補う方法をいくつも生み出し、教会から聖女だと認められるに至ったのである。
エキドナは目立ちたがりで、国に一人しかいなかった聖女に姉がなることを良しとしなかった。
そこで、自らの家宝の杖を壊し、その罪を姉になすりつけ、彼女を実家から追放させた。
「無駄な努力」だと勝ち誇った顔のエキドナに嘲り笑われたルシリアは失意のまま隣国へと足を運ぶ。
エキドナは知らなかった。魔物が増えた昨今、彼女の働きだけでは不足だと教会にみなされて、姉が聖女になったことを。
ルシリアは隣国で偶然再会した王太子、アークハルトにその力を認められ、宮廷ギルド入りを勧められ、宮仕えとしての第二の人生を送ることとなる。
※旧タイトル『妹が神童だと呼ばれていた聖女、「無駄な努力」だと言われ追放される〜「努力は才能を凌駕する」と隣国の宮廷ギルドで証明したので、もう戻りません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる