突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~

第五十七話 南方大陸の隠された秘密 2

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「で、どうやったんだ?」
 シルドは呆れて、エイシャが引き抜いてきたコック、フェルナンドといったか。
 彼に質問した。
 お前は、ここにいろ。 
 そう言い、シルドは不満げなエイシャを左脇に、不服と疑念はあるが黙っているダリアを右側に座らせていた。
 帝国では左側が上位、右側が下位となる。
 それでも、正妻と側室を同じ卓横に並べることは少ない。
 正妻は向かって真正面に。
 側室はその左側に並ぶのがテーブルマナーなのだが、この狭い部屋では致し方なかった。
 向かいのソファーには先ほどの生贄から脱出した、リザとそれを心底喜ぶリムが座っている。
 女性陣が沈黙を貫く中、装飾にしては悪趣味な、リザの毛先の束をいくつかまとめたものを添えておいたコックの手腕に、シルドは驚いていた。
「ああ、その、ね。
 あれですよ、ほら‥‥‥尾から少しばかり譲って頂きました」
 尾?
 見るとリザの尾はリムに比べてどことなく貧相というか。
 分量が足りないように見える。
「抜いたのか‥‥‥?」
 よく無事だったな、フェルナンド?
 シルドはさらに驚いていた。
 こんな短時間でそうも打ち解けれるものなのか、と。
「先に食事を好きなだけ、という条件で。
 その後は拝み倒しですねえ‥‥‥彼女たちの氏族も親元とも知らない仲ではないので」
 ふうん‥‥‥。
 シルドは自分を間にして無言の戦いというか、女の喧嘩というか、視線による火柱というか。
 そんな熱いものを交わしている、エイシャとダリアを見比べていた。
「フェルナンド、その親元というのはあれかな?
 この帝国でいう、皇室と大公家のような関係か?」
「まあ、似たようなものですかね。
 もう少しだけ、奴隷と主人のような色が強いですが」
「親の意思は完全に服従、そんなものか?」
「もう少し、濃い関係‥‥‥
 こら、ダリア。
 その敵意のこもった視線をやめないか。
 奥様がいまは主人様だぞ!?」
 叱られてダリアはなによ、この人間は!?
 そんな怒りの視線を、フェルナンドに向ける。
 喉奥で、静かなうなり声を上げながら。
「ほう、そうか?
 そんな態度なら、食事はなしにするぞ?
 まだ、リザの代わりが必要ですかね、大公様?」
 フェルナンドの悪質な嫌味に、ダリアはまさか?!
 そうシルドを振り向いた。
 その顔には明らかな、恐怖が混じっている。
「エイシャが一番だ。
 従えないなら、蒸し焼きでもいいな、フェルナンド?」
 蒸し焼き!?
 生きたまま‥‥‥???
 ダリアは恐る恐る、フェルナンドに視線をやる。
 黒髪にアゴヒゲを少しばかり蓄えたコックもまた、
「いいですね、蒸し料理ですか。
 ちょうど、いいサイズの大鍋が手に入りましてねー‥‥‥。
 縛ったまま、中に入れて茹でるのも悪くない」
「しょ‥‥‥っ」
「しょ? 
 なんだ?」
 シルドが意味ありげに頭にポン、と手を置くとダリアはかたまってしまった。
「食人‥‥‥はダメ、ですー‥‥‥」
「そうか?
 だが、考えてみればお前がリムに何か指示を出していたようだしな?
 リムにリザ。 
 あの二人だけを側においておく方が、二人も尽くしてくれそうだがな?」
 そこにフェルナンドにだけは心を許したのか。
 リムがリザに何かをそっと耳打ちしていた。
 それは、人間の耳には届かないほどに細い声。
 だが、ダリアの耳には問題なく届いていた。
 そろそろ、御主人様を独占してもいいんじゃない?
 そんな、意味だったのかもしれない。
「どう思う?
 二人は?
 ダリアの肉も美味しそうだがな?
 その尾から切るのも悪くない‥‥‥」
「ひっ!?」
 慌てて尾を抱き込むダリア。
 怯えるその視線の先にいる双子の姉妹は、まちがいなく下剋上を考える笑みを浮かべていた。
 ふむ。
 ならこうするか。
 シルドは先ほどまで死人を演じさされていたリザを指差す。
 こっちに来い、と。
 呼ばれてきたリザの代わりにダリアをその席と交替させた。
「これからは、リザを三人の中で一番にするとしよう。
 青よりは朱色の方が僕の好みだ。
 それに、妻の判断を責める気もない」
 その一言に、エイシャが救われたような表情を見せたのを確認して、シルドはリザを膝上にあげた。
「シルド!?」
 そこはわたしの‥‥‥愕然とするエイシャに、シルドは少しばかり冷ややかな視線を送る。
「悪趣味な展開はあまり好きではないぞ、ミレイア」
 戒めるようにエイシャに言い放つと、こちらもまた唖然としているリザを抱きしめながらシルドは悔し気なダリアを横目でみやった。
「リム、リザはもう死んだ者。
 僕の腹の中に入ったと考えて、ダリアを監視するんだな?
 生き返れるかどうかは、君次第だ」
「御主人様‥‥‥それは、リムが‥‥‥」
 もう涙も枯れ果てたはずの上に、更にまた流させたくないと膝上のリザは悲しそうにする。
 お前、何か忘れていないか?
 シルドは笑顔で言い放った。
 まだ、食卓の上にのる機会は何度でもあるんだぞ、姉と共にな?
 魔導を使い、リザにだけ届くように伝えてやる。
 エイシャが始めた狂気の祝宴。
 最後に悪役になるのは、シルドの務めだった。
 途端、真っ青に表情が変わる妹の様子を見て、リムはダリアに何かを舌打ちする。
 わなわなと震えながら、ダリアは行動でそれを示した。
 黙って床に降り、そこに座り込む。
「行動で示す、獣人の作法、か‥‥‥」
 どうしてこうも序列にこだわるのか。
 言葉と誠意で変えれないものか。
 そうして今度は、エイシャと視線で火花を散らすリザに頭を悩ますシルドだった。

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