突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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第二部 二人の帝位継承者

第四話 異邦の争い

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 シェイルズは目を見開いてその話を聞いていた。
 親友であり、いずれは仕えるべき相手が目の前で語る異邦の問題。
 紛争が起こる?
 その引き金が誰かは‥‥‥いまでも明白だった。

「なあ、グレン。
 ユニス様を思い出すときはあるか?」
「なんだいきなり?」
「あるか、と。
 そう聞いている」
「ニアムをか?
 それはあるに決まっているだろう?
 忘れないように、指輪も揃えている」
「そうか。
 俺もある。
 ユニス様ではなく、ライナだがな。
 王国との確執が明らかになったとき、ユニス様と共に王国を訪れたとき。
 エニシス半島に軍隊を転移させたとき。どれもそうだ。
 勝ち負けよりもあれが泣くことのない世界を作りたいと、そう俺は願って戦ってきた。
 帝国よりも、ライナがいまは大事に思える」
「だから‥‥‥?
 結婚はするんだろ、シェイルズ?」
「当たり前だ。
 だがお前の頭の中にある判断基準は帝国だ。
 じゃあ、ユニス様の判断基準は何だと思う?」
「ニアムの基準、か。
 それは多分‥‥‥僕、だろうな」

 こいつ、臆面もなく言いやがった。
 一人の女性が愛を捧げて十万もの軍勢を用意するほどの智謀を見せたというのに、お前には帝国第一しかないのか?
 シェイルズは怒り半分、呆れ半分。もう少しだけ残った理性は軍人のもので、グレンの判断は正しいと判じていた。彼は、そう。
 いずれはこの帝国の頂点に立たなけらばならないのだから、と。

「帝室の血筋でなきゃ、ぶん殴ってやりたいほどだ。
 この、馬鹿皇太子め‥‥‥」
「あいにくと、軽々しく殴られる顔はないよ、シェイルズ。
 帝国第一が僕の生き方だと思っていないか?」

 シェイルズは意外そうな顔をした。
 それ以外になにがある、と。

「思ってるさ。
 それよりも、お前はすでに妻帯者。
 ああ、いや。
 見知った妻と見知らぬ息子がいるな。二つの華を両手に持つ気にはなれないのか?」
「皇帝にならなくてもそれは可能だな。
 正室に側室。たまに、愛人か?
 そのどれも貴族であれば可能だ。
 平民でも、商人でも裕福であればするだろう。豪農でもな?
 したければ、妻を数人持つことは帝国では違反ではない。たとえそれが最下層の人間であってもだ」
「お前な、その優柔不断が今回の問題を引き起こしたとは考えられないのか?」
「そんな無茶を言うな。
 まるで、世界がそれを望んだかのように僕の責任にすり替えるのか?」
「頭はおかしくなっていないようだな?
 なら、お前にとってのユニス様とニーエ母娘は世界に等しくないのかと、俺はそう聞いているんだ。
 あの二人のどちらも正妃には出来ないだろうな。
 そして、どちらもそれを望まない。違うか?」

 苛立ちを含めてシェイルズはグレンを見あげ、そう言った。
 グレンには大きな世界が二つある。
 そのどちらかを取っても‥‥‥。

「やめろ、シェイルズ。
 片方は西側の勢力、片方は南側の勢力。
 帝国を二分しかねないそんな‥‥‥女性たちになるなんて誰が思う?
 ニアムが、ユニスがそんな才覚を持っているなんて。
 どちらも選べないだろうが」
「そう予測も出来ないな。
 実際に俺もそうだった。
 エシャーナ侯と親父殿が裏で糸をひいていて、それはどちらの勢力も裏では陛下の把握されてるものだと思っていた。
 そういう意味では、ユニス様は逸材だ。 
 いつ、帝国の問題点として――」

 暗殺されてもおかしくないほどにその存在は特別だ。
 そう、シェイルズは言っていた。
 利用できなくなった時に守ってやれる存在は少ない。
 それはラズ高家から命を狙われているニーエ母娘も同様だった。
 
「護れるのは陛下。つまり父上だけか。
 嬉しくない現実だ」
「それか王国の国王だろうな。
 あとは、この塔の上にいる誰か、だけだ。
 お前はどれを望んでここに来たんだグレン」
「深読みしすぎだ、シェイルズ。
 ユニスは僕が守る。
 ニーエ母娘もだ。しかし、見知らぬ息子、か。
 因果なものだな」
「仕方が無いだろう、過去の亡霊はいつでもやって来る。
 過去を清算しなきゃ、何も始まらん。
 ‥‥‥ニーエとライナを俺に任せればいいんだ。
 そうすれば、後はユニス様だけになろうだろうが‥‥‥」
「矛盾していないか?
 どうやって守る気だ?」
「エシャーナ、そこに蒼い狼、おまけにレブナスとベシケアもお前につくだろう? 
 なら、ラズと東に北の大公家、黒き牙それに新しいブルングド大公家だ。
 両方の陣営が手を組めば、誰も傷づかないぞ、違うか?」
「呆れたやつだな。
 そうなると、帝国は三分割だ。
 次こそ、枢軸か王国に‥‥‥待てよ、シェイルズ。
 王国はいまどうなっているんだ?」

 さあな?
 俺が知る限りは話したぞ。
 シェイルズは肩をすくめた。
 調印がうまくいけばユニス様は嬉々としてお前を迎えに来るはずだ、と。

「その時に愛が離れていなければいいな、皇太子殿下?
 俺は失う気はないぞ」
「お前はひどい友人だ、シェイルズ。
 なぜ帝国のことだけを気にしているんだ?
 僕が見たことへの興味も関心も無いのか?」
「‥‥‥知る必要が無い。
 他国の問題に干渉することはいまの帝国にはないぞ。
 理解しているだろう、グレン。
 時間が無いんだ。
 貴重な時間を無駄にするな」
「時間は‥‥‥作るものだよ、黒。
 僕は双頭の鷹の片われとして言いたいね。
 異邦の争いだけはなぜかくっきりと体感できたんだ、とね」
「体感?
 見てきただけじゃないのか?」

 体感だ。
 グレンが嫌に自信満々にそう言ってのけた。
 体感?
 なにをどう学んだんだ、この浮気男は?
 シェイルズは頭は大丈夫かと、問いかけた。

「幻を見せられたんじゃないのか?
 塔の主。聖者様に‥‥‥?」
「もし、幻ではないとすればどうなる?
 この妙な枢軸の行動と帝国・王国の三者三つ巴の戦況が気に入らないのか、それとも何かの解決策を提示しているのか、と考えていた」
「やめろ、グレン。
 未来は読めない。
 俺たちには出来ることしか、出来ないんだ。
 お前はユニス様を選択するか、他を選ぶか。
 それだけを考えるべきだ」
「だが、シェイルズ!
 変えれるとしたら‥‥‥ダメなのか?
 僕は――」
「どちらも救いたいんだろ?
 だがそれは無理だ。
 だから使えよ、俺も帝国も。
 それがお前とユニス様に与えられた、帝位継承者って立場だろう、グレン。
 いや、イズバイア。
 そう呼んでくれる存在がいることは誇るべきだ。
 例え、お前が二人の女性に愛を同時に叫ぶ、都合のいい男だとしてもな」
「心が痛いよ。
 なら、助けてくれ」
 
 指しだされた手はしかし、シェイルズによって弾かれてしまう。
 その気にさせてみろ、まずはユニス様をどうするかを決めろ。
 そう言われた時、グレンが窓下に見たのは法王庁にすげ替えられた、帝国旗だった。
 そして、あの二人が塔にやってくるまでの少しの間。
 シェイルズはグレンに質問していた。

「で、どんな体感をしてきたんだ?
 その亜人族と」
 
 と。

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