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第二部 二人の帝位継承者
第三話 六つの大道
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ふと、先を行くシェイルズが歩みをとめた。
ふりかえると、グレンを見下ろすような形で不思議そうな顔をしている。
何かを思いついたようにグレンには見えた。
「どうした?
先になにかいるのか?」
「いや、そうではないんだが」
「? なら、何が?」
「さっき、言っていなかったか?
四十ほどに枝分かれしている、と?」
「ああ、言ったが‥‥‥?」
「おまえ、まさかその先にまで行っては、あるよな?」
そりゃな、とグレンはうなづいて見せた。
ある程度の大きな入り口出口は確認したと言ってみる。
シェイルズはその返事に、
「グレン。
なぜ、その時間を有効に使わないんだ?
こんな塔の存在など、どうでも良かっただろう?」
「だが、もし枢軸がこの道を使うとすればどこかで阻止しなければならないだろう、シェイルズ?」
「軍人としての返事は満点だ。
だが、夫になる身としては‥‥‥最低だな」
「僕はこれでも帝国軍人だ。
その前に、皇太子‥‥‥元だがな」
「まだ、皇太子だ。
いまは帝位継承者が二人もいる。
混乱する原因だよ、まったく」
「混乱はしないだろう‥‥‥いや、その可能性は薄いな」
「どういうことだ?」
シェイルズの脳裏には先週訪れたあの場所が浮かんでいた。
シルドにエイシャ、そしてエルムンド侯の三人がいた王国の北部のあの屋敷。いや、屋敷というにはこじんまりとした、下級貴族でも住まないような家屋だったがユニスがあの場でグレンが死んだと示唆していた。
むしろ、自分が殺害しその跡を自分が継ぐように見せかけていた。
「死んだ皇太子殿下ってことだよ、グレン。
殺したのはユニス様だと王国は考えたはずだ」
「はず?
そう見せかけたのか、ニアムが?」
「俺とユニス様の合作だ。
原案はあの御方だがな。
まあ、いい思いもさせてもらった」
ふふん、とシェイルズは見捨てられたなお前。
そうグレンを見下ろしてやる。
見捨てられた? いい思いとはなんだ?
まさか、なにを‥‥‥した?
グレンは唖然としてあり得ないと言いそうだった。
「ニアムに、なにをした?」
「俺はなにもしていない。
ただ、抱かれただけだ」
「抱かれた?!」
「ふん。
お前よりは頼りになるそうだぞ? グレン」
「それで嫉妬するほど知らない仲じゃない、ばかめ。
抱きしめる素振りをしなきゃいけない何かがあっただけだろう?」
「面白くないな。
騙すことも簡単にはいかない。
だが、ニーエにずっと騙されていたのが俺たちだ」
「シェイルズ‥‥‥言い方が悪いぞ。
僕たちがそうさせたんだ。いや、僕がな‥‥‥」
「理解しているなら、いいさ。
で、何を見たんだ?」
「誘導したな、お前。
筆舌しがたいものだ。
言い表しづらいものだ。見てはいけないものかもしれない。
それでも、聞くか?」
その勿体ぶった言い回し。
どうやらここに至り、さらに根源を見極めなければいけないなにか、らしい。
幼馴染でもあるこの皇太子殿下がここまで言葉を濁した物言いを聞いたのは久しぶりだったから、シェイルズには逆に新鮮な感触がしていた。
まあ、グレンの判断する基準にあるのは帝国にとっていいかどうかだけだ、多分。
そこにユニスやニーエたちが含まれていないだろうことに、黒き鷹はいささか不満を覚えた。
「グレン。
その話の中に、お前のまわりをこれから先、数十年にわたって支えてくれる存在を絡めてもう一度、考え直してくれないか?
それから聞くことにしたいのだがな?」
「支えてくれる存在?
ユニスやニーエのことなら既に含めて考えているさ」
「う、む‥‥‥本当か?」
「嘘を言っても始まらんだろう?
そこにはお前も含んでいるぞ?」
「嬉しい限りだな、皇太子殿下。
あの頃の賢雄たるお前ならば、の話だが。
愚鈍な様を知ったいまでは喜べん」
「すまん、シェイルズ」
「謝るな!
お前は皇族なんだ。
責任から逃れることは許さん」
グレンが少しばかりうっとなりつつ、しかし、と続ける。
シェイルズが侯爵家を継ぎ、そのままライナと結婚すれば王族への道を進むからだ。
「だが、お前もこのままいけば王家に入ることになるだろう?」
「王家を創るんだ。
意味がわかるか?」
「大公家か?
エリオスを奉じる、と?」
「第五の大公家を創り、そこに入ればいいだろう?
鳩がエサをもって待っていたからだ」
「僕をダシにするつもりか、お前は‥‥‥。
その前に、一つ二つ、紛争があるだろうな。
何より、皇帝陛下は帝位継承者だとしても僕をすぐには‥‥‥戻さないだろうな。
死亡説をこれとばかりに利用するだろう」
「ダシにでもなんでもするさ。
俺にはお前よりも、ユニス様とニーエたちが大事だ。
で、紛争とは?」
良い顔だ。
さっきまでの不満がくすぶったままの旧友から、軍人にその顔つきが変わったシェイルズを見てグレンはにやりと笑っていた。
「四十のうち、六本の大きな道がある。
これは帝都にも王都にも続いているようだった。
もし、これを大道と例えるとするよな?」
「ふん。
で?」
「残り四本のうち、一本はここだ。
というよりは、必ずこの場を中継するようになる。
この西の大陸の北部がここ。南部のベシケア高家付近が一本。
東の北西部。
そこが問題だ」
「東の大陸‥‥‥?
北西部はこの枢軸連邦のまだ圏内だな。
暗黒神と聖者、それに真紅の魔女が戦った主戦場もその辺りだろう?」
「そうだ。
しかも相手は地下世界に封じられていた魔族だ。
地上世界の覇権を狙ってしかけたものだと、されている」
つまり、あの雪崩の中から転移した軍勢の行き先は東の大陸か。
シェイルズは呻いていた。
そんな長距離を移動できるような転移魔導など聞いたことがない。
あの神話にある戦い以外には。
「また、聖者様の御意向、か?」
「いいや、それはわからん。
ただ、追いかけようとして‥‥‥」
「なんだ?」
「道が塞がれた」
「なんだと!?」
「つまり、人の仕業ではない、そういうことだろう。
とんでもない魔力の使い手がいる、僕たちでは敵わない相手がな」
「敵わないなんて言うな‥‥‥。
王国の銀鎖の影だけでも厄介なのに。
魔族なんぞという、魔法そのものを使う相手まで出てこられては、帝国は崩壊だ」
まあ、そうなった場合、王国もどちらかに付くかを決めるだろうな。
グレンはそう続けた。
「とりあえず、その先には行けなかった。
残念だ」
「まあ、いいじゃないか。
お前が生きていただけでもな。
逆に捕虜にでもなったら、遠慮なく巻き添えにできたんだが‥‥‥」
「本気か?
だが、あと一本あるのを忘れていないか?」
「なあ、グレン」
「‥‥‥なんだ?」
「東と西、そして、南方。
この三大陸はもしかしたら‥‥‥??
北の果てでつながっているのではないのか?」
「南まではわからん。
だが、西と東はシェス大河の最果てでつながっている気はするな」
気がする、か。
見てもいないのに、見たように言うな。
ということは、見てきたのか。
シェイルズはそう察した。
その光景を見れたのだろう、と。
「で、最後の一つはどうなんだ?
何があった?」
「これは推察なんだが、方角からして南方大陸の北部。
東よりの高山のはずだ。
船がな‥‥‥」
「船?
船とは?
海を往くあの船か?」
「あの船だ。
それがな‥‥‥信じろよ?」
「なにをだ?
帆も無く、魔導で動いていたか?」
いい推察だ。だが、正解じゃない。
グレンは見たままをシェイルズに伝えた。
「浮いていたのさ、宙に。
それもファイガ山脈を越えようかというほどに高い山脈の上を、な。
おまけにそれを操る相手がなあ‥‥‥」
「なんだ?
伝説の魔女でも見たのか?
ほうきで空でも飛んでいたとでも?」
「いいや、違うんだ。
耳がな‥‥‥」
「耳?」
「ああ、よくあるだろう、仮装というか。
耳と尾を祝いの日につけたような、あんなものが」
「それがどうした?」
シェイルズはグレンの言葉に耳を疑った。
グレンは言ったのだ。
「猫の耳を頭につけたような、そんな男女が船を動かしていたのだ。
それが、見えて‥‥‥な?
しかも、宙を浮くその船は戦っていた。
まるで見知らぬ世界を見てしまったよ」
グレンは自分でも信じられないと、否定したいができないように頭を悩まし気にふっていた。
ふりかえると、グレンを見下ろすような形で不思議そうな顔をしている。
何かを思いついたようにグレンには見えた。
「どうした?
先になにかいるのか?」
「いや、そうではないんだが」
「? なら、何が?」
「さっき、言っていなかったか?
四十ほどに枝分かれしている、と?」
「ああ、言ったが‥‥‥?」
「おまえ、まさかその先にまで行っては、あるよな?」
そりゃな、とグレンはうなづいて見せた。
ある程度の大きな入り口出口は確認したと言ってみる。
シェイルズはその返事に、
「グレン。
なぜ、その時間を有効に使わないんだ?
こんな塔の存在など、どうでも良かっただろう?」
「だが、もし枢軸がこの道を使うとすればどこかで阻止しなければならないだろう、シェイルズ?」
「軍人としての返事は満点だ。
だが、夫になる身としては‥‥‥最低だな」
「僕はこれでも帝国軍人だ。
その前に、皇太子‥‥‥元だがな」
「まだ、皇太子だ。
いまは帝位継承者が二人もいる。
混乱する原因だよ、まったく」
「混乱はしないだろう‥‥‥いや、その可能性は薄いな」
「どういうことだ?」
シェイルズの脳裏には先週訪れたあの場所が浮かんでいた。
シルドにエイシャ、そしてエルムンド侯の三人がいた王国の北部のあの屋敷。いや、屋敷というにはこじんまりとした、下級貴族でも住まないような家屋だったがユニスがあの場でグレンが死んだと示唆していた。
むしろ、自分が殺害しその跡を自分が継ぐように見せかけていた。
「死んだ皇太子殿下ってことだよ、グレン。
殺したのはユニス様だと王国は考えたはずだ」
「はず?
そう見せかけたのか、ニアムが?」
「俺とユニス様の合作だ。
原案はあの御方だがな。
まあ、いい思いもさせてもらった」
ふふん、とシェイルズは見捨てられたなお前。
そうグレンを見下ろしてやる。
見捨てられた? いい思いとはなんだ?
まさか、なにを‥‥‥した?
グレンは唖然としてあり得ないと言いそうだった。
「ニアムに、なにをした?」
「俺はなにもしていない。
ただ、抱かれただけだ」
「抱かれた?!」
「ふん。
お前よりは頼りになるそうだぞ? グレン」
「それで嫉妬するほど知らない仲じゃない、ばかめ。
抱きしめる素振りをしなきゃいけない何かがあっただけだろう?」
「面白くないな。
騙すことも簡単にはいかない。
だが、ニーエにずっと騙されていたのが俺たちだ」
「シェイルズ‥‥‥言い方が悪いぞ。
僕たちがそうさせたんだ。いや、僕がな‥‥‥」
「理解しているなら、いいさ。
で、何を見たんだ?」
「誘導したな、お前。
筆舌しがたいものだ。
言い表しづらいものだ。見てはいけないものかもしれない。
それでも、聞くか?」
その勿体ぶった言い回し。
どうやらここに至り、さらに根源を見極めなければいけないなにか、らしい。
幼馴染でもあるこの皇太子殿下がここまで言葉を濁した物言いを聞いたのは久しぶりだったから、シェイルズには逆に新鮮な感触がしていた。
まあ、グレンの判断する基準にあるのは帝国にとっていいかどうかだけだ、多分。
そこにユニスやニーエたちが含まれていないだろうことに、黒き鷹はいささか不満を覚えた。
「グレン。
その話の中に、お前のまわりをこれから先、数十年にわたって支えてくれる存在を絡めてもう一度、考え直してくれないか?
それから聞くことにしたいのだがな?」
「支えてくれる存在?
ユニスやニーエのことなら既に含めて考えているさ」
「う、む‥‥‥本当か?」
「嘘を言っても始まらんだろう?
そこにはお前も含んでいるぞ?」
「嬉しい限りだな、皇太子殿下。
あの頃の賢雄たるお前ならば、の話だが。
愚鈍な様を知ったいまでは喜べん」
「すまん、シェイルズ」
「謝るな!
お前は皇族なんだ。
責任から逃れることは許さん」
グレンが少しばかりうっとなりつつ、しかし、と続ける。
シェイルズが侯爵家を継ぎ、そのままライナと結婚すれば王族への道を進むからだ。
「だが、お前もこのままいけば王家に入ることになるだろう?」
「王家を創るんだ。
意味がわかるか?」
「大公家か?
エリオスを奉じる、と?」
「第五の大公家を創り、そこに入ればいいだろう?
鳩がエサをもって待っていたからだ」
「僕をダシにするつもりか、お前は‥‥‥。
その前に、一つ二つ、紛争があるだろうな。
何より、皇帝陛下は帝位継承者だとしても僕をすぐには‥‥‥戻さないだろうな。
死亡説をこれとばかりに利用するだろう」
「ダシにでもなんでもするさ。
俺にはお前よりも、ユニス様とニーエたちが大事だ。
で、紛争とは?」
良い顔だ。
さっきまでの不満がくすぶったままの旧友から、軍人にその顔つきが変わったシェイルズを見てグレンはにやりと笑っていた。
「四十のうち、六本の大きな道がある。
これは帝都にも王都にも続いているようだった。
もし、これを大道と例えるとするよな?」
「ふん。
で?」
「残り四本のうち、一本はここだ。
というよりは、必ずこの場を中継するようになる。
この西の大陸の北部がここ。南部のベシケア高家付近が一本。
東の北西部。
そこが問題だ」
「東の大陸‥‥‥?
北西部はこの枢軸連邦のまだ圏内だな。
暗黒神と聖者、それに真紅の魔女が戦った主戦場もその辺りだろう?」
「そうだ。
しかも相手は地下世界に封じられていた魔族だ。
地上世界の覇権を狙ってしかけたものだと、されている」
つまり、あの雪崩の中から転移した軍勢の行き先は東の大陸か。
シェイルズは呻いていた。
そんな長距離を移動できるような転移魔導など聞いたことがない。
あの神話にある戦い以外には。
「また、聖者様の御意向、か?」
「いいや、それはわからん。
ただ、追いかけようとして‥‥‥」
「なんだ?」
「道が塞がれた」
「なんだと!?」
「つまり、人の仕業ではない、そういうことだろう。
とんでもない魔力の使い手がいる、僕たちでは敵わない相手がな」
「敵わないなんて言うな‥‥‥。
王国の銀鎖の影だけでも厄介なのに。
魔族なんぞという、魔法そのものを使う相手まで出てこられては、帝国は崩壊だ」
まあ、そうなった場合、王国もどちらかに付くかを決めるだろうな。
グレンはそう続けた。
「とりあえず、その先には行けなかった。
残念だ」
「まあ、いいじゃないか。
お前が生きていただけでもな。
逆に捕虜にでもなったら、遠慮なく巻き添えにできたんだが‥‥‥」
「本気か?
だが、あと一本あるのを忘れていないか?」
「なあ、グレン」
「‥‥‥なんだ?」
「東と西、そして、南方。
この三大陸はもしかしたら‥‥‥??
北の果てでつながっているのではないのか?」
「南まではわからん。
だが、西と東はシェス大河の最果てでつながっている気はするな」
気がする、か。
見てもいないのに、見たように言うな。
ということは、見てきたのか。
シェイルズはそう察した。
その光景を見れたのだろう、と。
「で、最後の一つはどうなんだ?
何があった?」
「これは推察なんだが、方角からして南方大陸の北部。
東よりの高山のはずだ。
船がな‥‥‥」
「船?
船とは?
海を往くあの船か?」
「あの船だ。
それがな‥‥‥信じろよ?」
「なにをだ?
帆も無く、魔導で動いていたか?」
いい推察だ。だが、正解じゃない。
グレンは見たままをシェイルズに伝えた。
「浮いていたのさ、宙に。
それもファイガ山脈を越えようかというほどに高い山脈の上を、な。
おまけにそれを操る相手がなあ‥‥‥」
「なんだ?
伝説の魔女でも見たのか?
ほうきで空でも飛んでいたとでも?」
「いいや、違うんだ。
耳がな‥‥‥」
「耳?」
「ああ、よくあるだろう、仮装というか。
耳と尾を祝いの日につけたような、あんなものが」
「それがどうした?」
シェイルズはグレンの言葉に耳を疑った。
グレンは言ったのだ。
「猫の耳を頭につけたような、そんな男女が船を動かしていたのだ。
それが、見えて‥‥‥な?
しかも、宙を浮くその船は戦っていた。
まるで見知らぬ世界を見てしまったよ」
グレンは自分でも信じられないと、否定したいができないように頭を悩まし気にふっていた。
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