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父の涙
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娘の名前を聞いた途端、お義父様(仮)の目つきが変わった。一転して、厳しい視線を俺に向けてくる。
「貴方は一体、何を言っているのです?」
「いえ、断じて、ふざけている訳ではなく、」
「では何なのですか。死んだ息子と、交際しているなどと……」
「は? 息子?」
「リオートは、私の息子です。娘のスノウの、弟として生まれるはずでしたが、妻と共にこの世を去りました」
娘の、“スノウ”。
初めて聞く名前に、俺の中で足りなかった情報が埋まった気がした。
“リオート”は、男性名である。
何故考えもしなかったのだろう。
俺の大切な女性は、最初から偽名を名乗っていたのだ。
胡乱な目をしたお義父様(仮)に対し、「事情が複雑なのですが」と前置きをして、俺は“スノウ”と結婚したいのだという事を説明する。
しかし、彼は警戒した様子で二歩ほど下がって、「結婚? 娘は……家を出て行ったきりですが」と、ちょっと距離を取った。
俺は慌てて、「今は俺の騎士をしているんです!」と娘の所在を明かしたが、このままだと追い返されてしまいそうだった。
本当に説明がややこしい。
今の今まで名前を間違えていたから、上手く伝えられる気がしない。
だが、「騎士」と聞いて、お義父様(仮)の警戒が少し緩んだ。
「……本当に、娘の居場所を知っているのですか」
「も、もちろんです! 俺の家に居ます! 来ますか!?」
焦るあまり、近くに停めてある馬車の方向を指差して、俺の家へとお誘いしてしまった。
いや、こんな怪しい奴の馬車に乗る訳が無い。
しかし、軽率な発言を後悔する俺を他所に、お義父様(仮)はさして悩んだ様子もなく、「連れて行ってください」と、俺の申し出を受け入れた。
間抜けな声で、「えっ、乗って下さるんですか」と聞き返してしまったが、お義父様(仮)は難しい顔をして頷いてくれた。
※
気まずい雰囲気で、無言のまま屋敷へ行く事になるかと思ったが、お義父様(仮)からは、馬車の中で色々な話を聞く事が出来た。
「ウォルク殿は、聞いていた印象と違いますな」
ぎくりとする。
今日の俺を本当の俺だと思わないで欲しい。
かなり、冷静では無かったのだ。
普段はもう少しキリッとしている。
「一生働かずとも暮らしていけるほどの、巨万の富を持ちながら、仕事一辺倒で……誰もが羨む美男子で、周囲に群がる人間を冷然と跳ね除ける、女性嫌いのウォルク殿から、まさか結婚の話が出るとは……」
え? 俺って女性嫌いだと思われているの?
「女性に優しく」が家訓の男だよ?
否、よく考えなくても心当たりしかなかった。
女性同士であわや殺し合いが起きるところだったから、あえて冷たい事を言って女性を遠ざけるようにはしていたのだった。
俺の騎士が、俺の嫁になるという事で頭がいっぱいで、すっかり忘れていたが。
「スノウは、昔から、良い相手と結婚して、私を支えようとしてくれていましてね」
俺は特に何もした覚えはないのだが、お義父様は俺に心を開いてくれたようで、ぽつぽつと、家族の事を語ってくれた。
「我が家がこんな状況ですから、だいぶ苦労をかけたと思います。でも私は……愛する妻と生き写しの可愛い娘を、他所に嫁がせたくは無かったのです。理由をつけて、娘を結婚させまいと、邪魔をしてしまいました」
彼が語る内容は、全くもって俺の予想通り過ぎて、何の驚きも無かった。
本当ならここでガツンと、「その愛情、娘さんに伝わっていませんよ」と用意した言葉を言ってやる所だが、それはまあ、後でもいい。
俺はもっともらしく頷いておく。
「スノウは、美しい子でしょう」
「はい。とても」
聞かれて、間髪いれずに答えた俺を、お義父様(確信)は眩しそうに見て、笑いを溢した。
ときめきで俺の胸を締め付けた、スノウの笑顔と、少し似ている。
「結婚なんてね、いつでも出来たのですよ。あの美貌ですから……我が家が困窮しているからと、そこに付け入るような縁談も、いくつもあったのですよ。でもスノウは、相手を選ばない。自分の幸せを全く考えようとしないのです。だから、私はいつも厳しい事を言ってしまった。結果、スノウは一人で……生きていくと……家を……」
語尾が途切れる。
お義父様は両手で顔を覆った。
「娘に、あんな事を……あんな悲しい事を、言わせるために、育ててきた訳じゃない……!」
涙声のお義父様を責める事など、俺には出来なかった。
「貴方は一体、何を言っているのです?」
「いえ、断じて、ふざけている訳ではなく、」
「では何なのですか。死んだ息子と、交際しているなどと……」
「は? 息子?」
「リオートは、私の息子です。娘のスノウの、弟として生まれるはずでしたが、妻と共にこの世を去りました」
娘の、“スノウ”。
初めて聞く名前に、俺の中で足りなかった情報が埋まった気がした。
“リオート”は、男性名である。
何故考えもしなかったのだろう。
俺の大切な女性は、最初から偽名を名乗っていたのだ。
胡乱な目をしたお義父様(仮)に対し、「事情が複雑なのですが」と前置きをして、俺は“スノウ”と結婚したいのだという事を説明する。
しかし、彼は警戒した様子で二歩ほど下がって、「結婚? 娘は……家を出て行ったきりですが」と、ちょっと距離を取った。
俺は慌てて、「今は俺の騎士をしているんです!」と娘の所在を明かしたが、このままだと追い返されてしまいそうだった。
本当に説明がややこしい。
今の今まで名前を間違えていたから、上手く伝えられる気がしない。
だが、「騎士」と聞いて、お義父様(仮)の警戒が少し緩んだ。
「……本当に、娘の居場所を知っているのですか」
「も、もちろんです! 俺の家に居ます! 来ますか!?」
焦るあまり、近くに停めてある馬車の方向を指差して、俺の家へとお誘いしてしまった。
いや、こんな怪しい奴の馬車に乗る訳が無い。
しかし、軽率な発言を後悔する俺を他所に、お義父様(仮)はさして悩んだ様子もなく、「連れて行ってください」と、俺の申し出を受け入れた。
間抜けな声で、「えっ、乗って下さるんですか」と聞き返してしまったが、お義父様(仮)は難しい顔をして頷いてくれた。
※
気まずい雰囲気で、無言のまま屋敷へ行く事になるかと思ったが、お義父様(仮)からは、馬車の中で色々な話を聞く事が出来た。
「ウォルク殿は、聞いていた印象と違いますな」
ぎくりとする。
今日の俺を本当の俺だと思わないで欲しい。
かなり、冷静では無かったのだ。
普段はもう少しキリッとしている。
「一生働かずとも暮らしていけるほどの、巨万の富を持ちながら、仕事一辺倒で……誰もが羨む美男子で、周囲に群がる人間を冷然と跳ね除ける、女性嫌いのウォルク殿から、まさか結婚の話が出るとは……」
え? 俺って女性嫌いだと思われているの?
「女性に優しく」が家訓の男だよ?
否、よく考えなくても心当たりしかなかった。
女性同士であわや殺し合いが起きるところだったから、あえて冷たい事を言って女性を遠ざけるようにはしていたのだった。
俺の騎士が、俺の嫁になるという事で頭がいっぱいで、すっかり忘れていたが。
「スノウは、昔から、良い相手と結婚して、私を支えようとしてくれていましてね」
俺は特に何もした覚えはないのだが、お義父様は俺に心を開いてくれたようで、ぽつぽつと、家族の事を語ってくれた。
「我が家がこんな状況ですから、だいぶ苦労をかけたと思います。でも私は……愛する妻と生き写しの可愛い娘を、他所に嫁がせたくは無かったのです。理由をつけて、娘を結婚させまいと、邪魔をしてしまいました」
彼が語る内容は、全くもって俺の予想通り過ぎて、何の驚きも無かった。
本当ならここでガツンと、「その愛情、娘さんに伝わっていませんよ」と用意した言葉を言ってやる所だが、それはまあ、後でもいい。
俺はもっともらしく頷いておく。
「スノウは、美しい子でしょう」
「はい。とても」
聞かれて、間髪いれずに答えた俺を、お義父様(確信)は眩しそうに見て、笑いを溢した。
ときめきで俺の胸を締め付けた、スノウの笑顔と、少し似ている。
「結婚なんてね、いつでも出来たのですよ。あの美貌ですから……我が家が困窮しているからと、そこに付け入るような縁談も、いくつもあったのですよ。でもスノウは、相手を選ばない。自分の幸せを全く考えようとしないのです。だから、私はいつも厳しい事を言ってしまった。結果、スノウは一人で……生きていくと……家を……」
語尾が途切れる。
お義父様は両手で顔を覆った。
「娘に、あんな事を……あんな悲しい事を、言わせるために、育ててきた訳じゃない……!」
涙声のお義父様を責める事など、俺には出来なかった。
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