歌声は恋を隠せない

三島 至

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出来心

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 ミモザのなかで、様々な感情が渦巻いていた。
 多く考えていたのは、リナリアのことである。
 神様は不公平だ。
 不平を口にする時によく使う、月並みな表現だが、まさにそのような気持ちだった。

 大体にして、加護持ちとして生まれただけでも恵まれているのに、天は二物も三物も与え過ぎである。
 まずは、他に類を見ない美しい容姿だ。
 艶やかな亜麻色の長い髪は、輝くばかり。
 瑞瑞しい肌は、抜けるように白い。
 彼女は素顔のままで綺麗だ。
 髪の手入れも、化粧も、全く手を加えていない。
 むしろ邪魔にさえ思える。
 それから、麗しい声。
 高く澄みきった声は、言葉を発するだけで、音色を奏でるようだ。
 彼女とたわいない会話をするだけで心が躍り、ずっと聞いていたくなる声である。

 そして、歌声。
 いつからか、彼女は教会で歌うようになった。
 教会に響く声は、繊細で、優しい。
 神様に包まれているようだった。
 天使にしか見えない。
 自分の全てが浮き彫りにされて、切なくなる。
 でも聞いていたい。

 あれは仕方ない。
 魅了されても仕方がない。

 どうしてあの若さで、あれほど深みのある歌が歌えるのだろう。
 きっとあの歌声も、神様が与えたのだ。
 あんな風になりたいと思うことさえ、烏滸がましく感じた。
 生まれ持ったものが違いすぎる。

 最初は、妬ましいとは思わなかった。
 格が違いすぎて、端から諦めの気持ちがあって、その目を引く存在に、自分も惹き付けられていた。
 今からでは遅いだろうか。彼女と親しくなれないだろうか……
 そう思う頃には、彼女の信者が大半を占めていて、選ばれた仲良し組が出来上がっていた。

 リナリアはカーネリアンがお気に入りだ。
 そして、途中からカーネリアンに引っ付くようになったフリージア。
 よく割り込めたな、と思う。空気が読めないところは逆にすごい。
 リナリアのことは気になるが、あそこに向かっていく勇気は持ち合わせていなかった。
 色々と考え込んだが、ここまでは、なんと言うことはないのだ。
 誰もが魅せられる天使に、ランスが傾倒することが、許し難かった。

 ランスは信者の筆頭とも言えた。
 兎に角リナリアの歌声に感動したのだと言う。
 女神だ! と、すっかり彼女の信奉者になってしまった。
 口を開けば、リナリア、リナリア。たまに、カーネリアンの奴が羨ましい、と言う。

 ランスと一番多く過ごしていると思っていた。
 確かに、リナリアは魅力的だが、こんなに彼女の話題ばかりだと、辟易してしまう。
 ミモザはいつも気付くのが遅かった。
 リナリアと親しくなりたいと思うのも。
 恋心を自覚するのも。

 なぜもっとランスの関心を繋ぎ止める努力をしてこなかったのだろう。
 ランスが、リナリアに夢中になる前に。
 後悔してももう遅い。
 ランスがリナリアに向けるのは、恋愛感情ではないようだが、いつ恋に変わるとも知れない。
 この状態から巻き返すのは至難だ。
 それでも、ミモザは努力した。
 一番に話しかけて、人並みな容姿も、少しでも綺麗になろうと気を使って、ランスが楽しくなるような会話を心掛けた。
 いつか、リナリアの名前よりも、ミモザの名前のほうが多く呼ばれるように。



 神仕えとの話を聞いた時に、思ってしまった。
 リナリアは散々愛されてきたのだから、呪われるくらいでちょうどいい。
 長く燻る嫉妬が、以前感じた憧れを消し去った。
 家路についたミモザは、纏まらない感情のまま、ランスの言葉を聞いた。

「リナリア……可哀相に」

 ランスに対して割合従順なミモザは、

「そうだね」

 と返したが、少なくとも、気の毒に思う気持ちはなかった。
 むしろその言葉が決定打だったのかもしれない。
 その日の晩に、ミモザは教会で聞いたことを両親に話してしまう。

 噂好きの母が、街の女性達に口を滑らせてしまうことは、頭のどこかで分かっていた。
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