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117.恋に理屈はない。(ロナウの回想)

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 弱弱しいものに興味なんてない。
 守ってくれ? なんで僕が。
 守ってもらわなきゃならない様な「か弱い存在」でもないでしょ? 
 ライバルを蹴散らしたり、嘘言ったり、騙したり、立場が悪くなったら泣いて誤魔化したり。
 笑顔の下で何考えてるかわかんないのが‥一番怖い。
 強かだよね。貴族の女の子って。
 綺麗で、上品だけど、何考えてるかわかんない。
 ‥そうじゃなきゃやっていけないのは分かってる。
 なら、‥守ってくれなんて言わなきゃいいのに。「自分の事は自分で出来るわ」「同じ立場の人間として一緒にやってきましょう」って言ってくれるような子が僕はいい。
 ‥守る自信がない、とかじゃないよ? (言っとくけど! )だけど、誰かを守ってたら攻撃がおろそかになるでしょ? だからせめて自分の身ぐらい自分で守って欲しいんだよ。

 ‥そう思ってたんだよ。「あの時」までは。今思えば、どんだけ自分の事だけでいっぱいいっぱいだったんだって思うけど‥。
 まあ、でも今でも半分くらいそう思ってるけどね。
 ‥だけどもね、
 あ、‥守りたいって思うのは、自然な感情なんだな‥
 ってコリンを初めて見た時思った。

 守ってくれなんて言われなくても、「守りたい」「傍にいたい」って思った。
 そりゃもう、断られたって、傍にいさせて!! ってね。

 まあね、最初は一目惚れだった。
 女の子だって思ってたし。
 あんな可愛い子今まで見たことなかったから。
 着飾って可愛い‥じゃない。
 細工もされてない、裸の宝石や、自然に咲く花の様な可愛さだった。
 水浸しになってるのに、そんなことに気にすることなんてないって風に‥、キッ‥と前を睨み付けて、目にかかった前髪を乱暴にかきあげて、手の甲でグイって(そりゃもう男らしく)目をこすって、反撃するために駆け出して行ったコリン。
 そこに出くわした僕に「助けて」って言うことなんて、絶対考えてもいなかったな。
 ‥それどころか、きっと僕に気付いてさえいなかった。
 あの時のコリン、凛々しかったなあ。
 凛々しいって言って、暑苦しい感じじゃないよ?
 健気で可愛いの。
 涙をぐいって拭うってのが、いいじゃない。
 如何にも、負けず嫌いって感じで。
 ‥女の子じゃなかったけど‥
 しかも、あの時‥泣いてるって思ったけど、ただ、目に入った水で視界が狭まるから払っただけだってことが後に分かった。
 ‥睫毛が長いから、目に入って邪魔だったんだ。前髪と同じような感覚なのかな? 睫毛なんか申し訳程度にしかない僕には考えられないよね~。
 とにかく、コリンとの出会いは何もかもがキラキラして見えた。

 好き!! 
 絶対この子と結婚する!! 
 って‥決めたんだ。

 ‥男の子だって結構すぐ分かったけど。
 だって、同じ学年の同性の同級生だったらお風呂とか同じ時間だよね‥。
 初めて気づいた時には、流石に一日寝込んだよ。
 だけど、
 諦めきれなかった~。
 諦められないし‥、仕方が無いかな‥まあ、いっかな‥ってね。

「共同体だからって運命の人だとか‥テイナー君‥単純すぎるよ。お花畑過ぎるよ。あのね、恋人って、もっとお互いのことを知って‥色々話し合ったり、紆余曲折があったりとかしてなるもんだと思うよ」

 呆れた様なコリンの声も気にならない。
 久し振りに会えたのが嬉しすぎるから。
 そもそも、そんな呆れ顔すら可愛いって思っちゃう。

「確かに、一目惚れだったんだけど‥でも、僕にも色々あったんだよ? 思い込みだけでずっと‥ってわけじゃないんだよ? 勿論、僕なりに色々考えたし、悩んだりもした。やっぱりコリン君が男の子だって気付いた時には‥悩んだし。成績とか、コリン君に勝てるものが無いってのには、落ち込んだな~。顔だってこの通り平凡だしさ」
 つい、ちらっとコリンの仲間たちの顔を見てしまった。
 ワイルドなイケオジ(← ザッカ)と、やたら色っぽい超絶イケメン(← アンバー)と、優しそうなお兄様(← ナナフル)と、ガタイがいい‥如何にも肉体労働者って感じだけど、顔は平凡な表情筋死んでる兄さん(← シーク)
 ここ、イケメン揃いだ。
 ‥一人を除いて。何だろう。一人だけは、親近感在りまくりなフツメン‥。(背は高いけど‥)
 ‥彼になら勝てそうな気も‥? 少なくとも、僕のが若いし、愛想もいい。こういうの言うのは嫌なんだけど、きっと僕の方がお金も持ってる。
 つい、「勝った」って思ったのが表情に出たらしく、思いっきりコリンに睨まれた。
 そういえば、この人のことコリンは「恋人」って言ってたっけ? あれ、間違えだっけ? お色気イケメンの方だったっけ? 普通ならそっちを選ぶけど‥? どうだっけ。

 まあいいや。纏めて相手してやる。

「‥僕は人を顔で判断なんてしない。‥というか、シークさんは顔も含めて僕の好みど真ん中‥ってか理想そのものだ。シークさん以外、僕は好きにはならない」
 ‥真剣そのものの‥コリンの強い視線に、自然と、涙が浮かんできそうになる。
 そんな完膚なきまでに僕を‥僕の恋心を粉砕しないで‥。
「いや、‥まあ。今は‥そうかもしれない‥ね。だけど、これからはどうかわからないわけだし‥
 とにかく、僕が共同体だから‥ってだけでコリン君のこと好きだ、運命の人だって言ってるわけではないってこと、知って欲しいんだ」
 笑顔を、根性でキープさせた僕を‥僕だけは褒めてやりたい。
 頑張ってる、ロナウ。負けるな、ロナウ。
「‥言いたいなら言えばいいけど。聞いたところで、僕の意見は変わらないけどね」
 その、虫を見る様な目‥
 僕はもう、見慣れて来ちゃいましたよ。随分、僕の精神鍛えられてきたよね。
 ‥僕ってもしかして、ドMかな。
 この頃‥「そんな顔のコリンも、綺麗」とか、思い始めたよ‥。

 一目惚れして‥
 第二段階。知って行く上で、どんどん好きになった。
「‥コリンと僕は似ているって思ったんだ」
 コリンの瞳を見て、微笑んだ。
 ‥自然に。
 あの時の、感動がまるで昨日の事の様に思い出された。
「何が? 何がどう似てるって? 」
 ‥コリンと僕の温度差は相変わらず凄いけど、そんなことにへこたれてたらgame endだ。寧ろ聞いてくれてるだけ、良しとしよう‥。
「実は聞いちゃったんだ。コリンが親しくしている先輩に「兄たちに対して負い目を感じている」「早く一人前になって、少しでも追い付きたい」「未熟な自分がただただ恥ずかしいし、腹立たしい」って言ってるのを‥
 ‥あの時のコリンは‥先輩に「慰めて欲しい」って言ってるんじゃなかった。愚痴を聞いて欲しい‥っていうより‥「悔しい」「何とかしたい」「自分が情けない! 」って怒りをぶつけてた。
 泣いてたんじゃなくて、‥自分に対して怒ってた。
 コリンの原動力は、周りへの反発やなんかじゃなくて、自分に対する憤りだったんだ‥って分かった。
 っていうか、‥納得した。いままで、なんか‥違和感を感じてたんだ。
 勝手に言ってろ~。どうでもいいわ~ってタイプのコリン君が何故つまんない奴らの相手をしてわざわざ怪我してまで喧嘩するのかって、気になってたんだ。だから、その答えが分かって、「なる程納得」って。
 ‥丁度喧嘩を売られたから、ついでにストレス発散させとくか! って感じだったんだね」
 周りのみんなも、「あ! 」って顔をした。
 確かに、‥揶揄われて喧嘩売られても、コリンの性格だったら絶対零度の視線を向けて無視‥のほうが「らしい」‥。
「‥失礼な。八つ当たりしてたみたいに言うな。‥ただ、実戦練習の相手が来たな、って思ってただけだ。それと、誰彼構わず喧嘩を買ってたわけじゃないぞ。
 ‥ほっといたらしつこそうだな、ここらで痛い目みせとくか‥って相手の喧嘩しか買ってないぞ! 甘い顔見せたらつけあがられるから、格の違いってやつを見せとかないといけない奴‥とかはいるからな。
 ストレス発散に喧嘩とか‥人を何だと思ってんだ。脳筋の単細胞みたいにいうな。
 あとな、これは重要なんだけど‥
 怪我さしてもなんだから、あんまり弱い奴とは喧嘩してないし」

 ‥目が泳いでますけどコリンさん。
 めちゃ、図星だったんですね。
 あと、貴方は脳筋です。自覚なかったんですか? それが寧ろ驚きなんですけど‥。
 きっと、全員が全員そう思っただろうと思うよ‥? 
 だから、今、全員が全員同じ顔をしている。(心酔したような顔で思い出話をしているロナウと、(自分が脳筋であることを)絶対認めたくないコリン以外、だ)

 笑っているような、困ってるような‥中途半端な顔、だ。

 ロナウの「コリン称賛」は続く。(皆を置き去りにして)
「そういう一歩先行く腹黒さ。
 ‥誰かを利用してやれ。利用して、自分の得になる様に‥とか、‥自分が楽できる‥とか、打算的なこと考えてない。
 誰かを頼る‥とかでもない。
 それどころか、当たり前の権利である「教師に相談する」ことすらせず、自分を高める為に、自分の悪い状況を逆に利用する‥。‥で、被害者なはずだのに、暴力沙汰の加害者って時々名前が上がったりしてた。なんせ、見た目に反してコリンの方が強いからね。
 ‥カッコイイ、って思った
 一緒に歩むことで一緒に成長できるような‥尊敬できる相手だって‥思ったんだ」
 ‥カッコイイかなあ‥。
 コリンはコリンで「それってどう」って思うけど、ロナウもロナウで‥ちょっと考え方が‥ヤバい‥。
「買い被り過ぎだよ。
 僕はそんな大層な人間じゃない。
 それこそ、打算的だし、僕を害する人のことなんて‥それこそ、虫けら位にしか思ってなかった。
 頼らなかったんじゃなくて、‥頼る程の知り合いがいなかったんだ。あの先輩は脳筋で、「ふりかかった火の粉は自分で払え!」って感じだったし‥。っていうか、‥そんな感じだから親しくしてたってのもあるし‥。
 ‥そうか、僕じゃなくって、あの先輩が脳筋だったんだ! 」
 ‥なにその、褒められてちょっと照れ隠しって顔。ロナウ、コリンのこと褒めたか? ああ‥カッコイイって言ってたな‥。コリン、ロナウの感覚がちょっと「あれ」なだけで‥全然褒められるような感じじゃないぞ?
 あと
「‥‥‥」
 ‥そんなに、脳筋って認めるの‥、嫌?
「恋とか‥そういうのに関係なく、先輩は僕という人間を評価して、叱咤し激励してくれた。
 志の熱いいい先輩だったけど‥そうか‥脳筋だから、僕を見てたらもどかしかったのかな?
 ‥とにかく、先輩は僕にとって学ぶことが沢山あった。尊敬して、兄さんの様に慕ってたって感じだった。僕のホントの兄さんっていうより、‥理想の兄って感じでさ‥。
 そうだな、先輩はロナウの言うところの「一緒に歩むことで一緒に成長できるような‥尊敬できる相手」だったかもしれない。
 でも、先輩は恋人にしたい人にはならない。
 テイナー君。恋愛初心者の君には分からないだろうけど、‥恋はそういうことじゃない。
 恋は‥恋愛はパッションだ。一緒にいたい。好きになってもらいたい。
 片思いが始まるのにきっかけはあるけど、‥恋愛に発展することが出来たら、そんなの全部どうでも良くなる。
 頼りなかろうが、カッコ悪かろうが、
 そんなの、どうでも良くなるのさ。
 君にはわかるかい? 」
 ‥コリン何言ってるんだ。
 力説しているところ、水を差すような真似したくないから、何も言わないけど‥
 何言ってるかさっぱりわからん。
「シークさんの全てが好き。
 顔が好き、
 声が好き、
 仕草が好き。
 もう、シークさんのこと考えたら、嬉しくって、愛しくって‥なんだか悲しい様な‥もどかしい様な‥そんな気持ちになるんだ。
 それで、顔を見たら、‥笑ってもらったら、泣きたくなる程愛しくって、抱き着きたくて仕方なくなるんだ。それが恋だ。
 ‥シークさんにも僕の事好きになって欲しい
 だけど、それが叶わないなら、僕はすっぱり諦めるよ。
 好きになるのも仕方が無ければ、好きになってもらえない‥嫌いになられるのも仕方が無いことだからね
ただ、僕という人間の嫌な印象が大好きな人の記憶に残るのは嫌だから‥」
 嫌な記憶として残る位なら‥見込みのない恋は諦めた方がいい。
 大好きな人を苦しめるし‥
 自分も‥自分の恋心も可哀想だ。

 アプローチしてる相手に、「見込みのない恋の諦め方」をレクチャーされる。
 君には爪の先ほども興味ない、どうしょうもないから、さっさと諦めろ‥とハッキリ言われ‥
 ‥ロナウ(ショックで)撃沈。
 シーク、赤面し過ぎて、‥恥ずかし過ぎて撃沈。

「あの頃‥学生時代からシークさんの事が好きだったの? だから‥」
 残った僅かばかりの気力を振り絞って、ロナウがコリンを見た。
 コリンが首を振る。
「いや? シークさんに会ったのは結構最近。あと、一目惚れだった」
 あ、そういえば、僕もテイナー君のこと言えないわ。ってコリンは思ったり‥。

 ロナウ今度こそ撃沈。
 コリンは眉を寄せて、困った顔で、蹲るロナウを見下ろす。

「‥悪かった。テイナー君の気持ちに応えられないから、今までわざと冷たくしてた。
 だけど、‥よかったら、友達になって欲しい。
 恋人‥って意味の特別にはなれないけど、共同体の仲間として、同級生の中で誰よりも君たちのことを特別だって思っている」

「コリン君‥」
 視線だけ上げてコリンを見たロナウの顔は、複雑な表情をしていた。
 泣きそうで、困ったような‥不安そうな‥そんな顔。

 ‥残酷だってわかってるけど‥
 今はそんなこと言ってる時ではないし、
 ロナウのテンションを上げる為に、気のある振りとかした方が‥寧ろ、残酷だって思うから。

 何より、不誠実だしね。
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