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148.ナナフルにとっては罪悪感でしかなかった経緯は、ザッカにとっては棚ぼただったらしい。

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「アンバーの肉も食べたし、そろそろ僕たちにアンバーがしようとしてること教えてくれてもいいんじゃない? 接触するすべがあるってことなんでしょ? 」
 コリンがスープをお代わりしながら言った。
 こくこくとフタバが頷く。
「私に内緒なんて水臭いですわ」
 ‥なんて、別にそんな仲でもない。
「分かったよ」
 アンバーが苦笑いして‥ため息をつく。

「事実だけ。
 奴らは、勿論まだこっちに気付いていない。
 だけど、俺たちが仕掛けたら、瞬時に動き出すだろうね。
 奴らの情報網は‥侮れない。
 ‥甘い話じゃないんだよ。
 放っておいた方がいい。関わらない方が幸せなんだ」
 冷たい視線をコリンたち全員に向ける。
「俺がここを出て行こうと思ったのは、何かあればまず俺から足がつくからだ。
 奴らは俺の裏切りに即座に気付き、コリンたち全員を殺すだろう。
 面倒なことなんてしない。
 関係者は全部殺す。
 そんな連中だ」
 ゴクリ‥
 唾をのんだのはロナウだった。
 ザッカは「まあ‥そうだろうな」って呟き、ナナフルもそんなザッカに頷く。
 フタバはアンバーを真剣な表情で見つめ返して
「だからと言って、アンバー様だけが犠牲になる必要は無いですわ。私たちを信用してくださいませ」
 って言った。
 ‥多分、NOプランだ。
 だけど、言わずにいられなかったんだろう。
 そしてそんなタイプはもう一人いた。
 勿論、コリンだ。
 コリンもフタバに同意して頷く。
 シークはいつも通りの無表情で‥アンバーの次の言葉を待っている。

「だけど、私はこのまま何もせずにいることは出来ないのです。
 私の母を殺し、‥ザッカの人生をめちゃくちゃにした父親‥正確には彼の妻を許せない。
 私の手で裁きを‥なんて思わないけれど、法律で裁かれることを望んでいる。
 ‥絶対に、逃がさない。
 義理の妹に罪はない。
 会ったことはないけど、‥これから先会うことも無いから関係ない。
 彼女の性格が悪かろうが、悪事に手を染めていようとも、‥これから先彼女が刑にとわれるようなことになろうとも‥私には関係はない。
 校正させようとかそんな気は、さらさらない。
 だけど、貴族の間で萬栄している不正、その後ろに常にある「魔薬」の存在。
 そんな悪を放っておくことは、ジャーナリストとして出来ない」
 ナナフルは、凛とした表情で真っ直ぐ前を向き、しっかりとした口調で言った。
 ザッカはそんなナナフルさんを支えるように‥後ろから肩を抱く。
「‥俺の人生をめちゃくちゃにした? 」
 ってナナフルを後ろから覗き込みながら首を傾げる。
 ナナフルがザッカを振り向いて、ちょっと‥泣きそうな表情をする。
「‥私を隠すために‥婚約者の振りをさせてしまった。私という偽の婚約者がいたから、ザッカはこの年まで結婚もできず‥」
 呟くナナフルを、ザッカが後ろから抱きしめ。
「俺は、棚ぼただって思ったけど? こんなこともなかったら、ナナフルを手に入れることは一生できなかった。だってナナフルは貴族の子供だったし、当時は‥当時から綺麗で可愛らしかったけれど‥もっと男らしかった。
 絶対に男の俺と結婚してくれる未来なんてないって思ってた」
 ミナさんのことはホントに‥
 ってぼそりと付け加えた。
 
 ミナさんのことは、本当に気の毒だとは思うけど。

 っていうような言葉を飲み込んだんだろう。‥まあ、言わないよね。そんなこと‥
 ‥まあ、ナナフルが「そんな気なんてない」ような頃から、ザッカには「そんな気」があった‥ってことだ。無邪気に遊んでた子供の頃でも「ませた」子供はいる‥ってことだろうか? コリンがザッカをチラリと見ると

「初めて会った時、運命だって思ったんだ」
 
 って照れたように‥笑った。
 うん、筋肉マッチョの照れ笑い、なんか‥キモイ。いつもの豪快な笑いの方が、僕は数百倍好き。
 なんて、思ったのは内緒だ。
 それに‥

 執着心がその頃から‥とか、ちょっと引く。

「良いと思ってしたことでも、結果的には悪いようになることだってあるし、悪いことがあっても、諦めなかったら良い様に転がることもある。
 ‥ナナフルとのことは俺にとっては「最良なこと」だったけど‥勿論ナナフルがどう思っているかは分からない。分からないけど、俺はナナフルのことを一生守り通すし、一生幸せにする。
 ナナフルに「これでよかったな」って思ってもらえるようにする。
 ナナフルがしたいって言うことなら、俺はなんだって力を貸す。それだけだ。‥別にアンバーがどう‥って話じゃない。
 コリンがアンバーを連れて来たときは、正直「厄介な‥」って思った。ナナフルに懸想したらコリンには悪いが‥こっそり消そうと位は思ってた。でも、アンバーはナナフルに惚れたりしなかったし、‥まあ、ナナフルも楽しそうだからいいかな‥って、まあじっさいは、そんな程度にしか思ってなかった。
 だけど、アンバーが俺たちの追っている事件に関係があるらしいってことが分かり、‥ミナさんの仇とも関係があったのは‥俺たちにとって都合がよかった」
 うん、「お前のことなんぞどうでもいいが、利用できるようだから利用する」って感じ? あと‥こっそり消そう発言も‥
 ‥ヤバい発言ですよね。
 おおよそ、「みんなのおとんザッカさん」らしくない発言ですよ。
 ‥人格疑っちゃうよ。今までの信頼返して。
 つまり、
 皆の平和も大事だけど、何よりも、ホント何よりもナナフルさんが大事ってことなんですよね。
 分かりました。

 ナナフルさんはあのヤバい発言に引いてないかな? ってチラリとナナフルさんを見たら‥
 真っ赤になって、ちょっと泣きそうな顔して
 感激してた。

 ‥いいならいいです。

「それっ位の性格の悪さ持ってなきゃ、ナナフルみたいな優しい子を守ってあげられないからな」
 ‥まだいうか。
 いいよ。勝手に二人の世界に入ってろ。

 だけど、ここで方針は決まった。

 魔薬をばらまく黒幕を引きずり出すのが最終目的で、最も大きな課題。
 伯爵夫人による、ナナフルの母・ミナの殺人(依頼)を告発。
 わざわざ名乗りを上げる気はないが、伯爵にナナフルの正体がバレた際は、(外見上の特徴が似ているのでバレる可能性もある)「自分は伯爵家を継ぐ気はない」と宣言する。
 妹は無視の方向で。

「‥つまり、俺はそのエサ的な存在って訳ね。‥芋づる式に見つかって奴らに処分されても自己責任ってことでお願いしますね」
 アンバーは
 何かをあきらめたような‥苦笑いを浮かべて言った。
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