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193.大半の盛り上がった「思い付き」は、プランを練ってる間に‥沈下する。

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 コリンをアイドル(生贄)に仕立て上げなければいけない。
 観客は、かっての教会の同級生だ。
 別に「全国民の‥」にする必要は無い。
 観客は、既にコリンのことを知っている。
 つまり、「知名度をあげることから始めます」‥って作業はいらないってことだ。
 ただし、印象は悪い。
 実は「好きの裏返し」だとしても‥だ。その「実は好きだった」も忘れちゃってるかもしれないしね‥。
 ‥知名度からスタートする方が楽だったかも‥って作業なのかもしれない。
 それを乗り越えて、教祖クラスのアイドルに‥! ってどんな伝説の敏腕プロデューサーだ。

 全国民のアイドルポジションにいる人って‥どんな人か。
 皆が知ってて、
 好印象。恋愛対象ではなく‥「疑似恋愛」対象。
 憧れてたり、好きだったりするけど、「付き合ったりとか‥恐れ多い! 」って人‥。

 聖女様だ。

 そう言えば‥私たちが学んだ教会でも、聖女様は男子たちの憧れの的だった。

 大好き、っていうより、憧れね。告白したい! 絶対するぞ! とかじゃない。「憧れ」だ。
「結婚したい? は?! 聖女様はそういうのじゃないんだ。変な妄想するな、汚すな」
 っていう‥別格の人。
 普段「美人と結婚したい」とか「胸が大きい子が好き」なんて言ってるガキ臭い(失礼! )男子が、(聖女様がいらっしゃる)聖堂の前を通る時だけ、嫌に恰好や表情を意識するのを見て、女子たちは「やーねー」って揶揄ったもんだ。
 先生が騒ぐ男子を叱るときも、
「聖女様がご覧になられておられるかもしれませんよ」
 が一番効果がある「脅し文句」だったし、
 掃除場所も「聖女様がよくおいでになるお部屋」「聖女様にお会いできるお部屋(いらっしゃるお部屋ではなく‥あくまで、おいでになるかもしれない部屋だ。いらっしゃる部屋なんか‥私たちの掃除対象ではなかった。万が一にも間違いが起こったらいけないから‥だろう。因みに、私たちが在校中には、聖女様がおいでになったことは一度もなかった。一度、後姿をお見かけしただけで、男子も女子も感激して‥失神したっけ。それ以来、そのスポットの人気が高まったのは言うまでもない)」が男子に人気だった。
 ‥なんか、絶対「お近づきになれる」訳なんか無いのに、哀れなもんだった。

 そんな聖女様の顔をよく知っているか‥と言われると、少なくとも私は‥知らない。
 きっと、男子たちだって知らないだろう。
 聖女たちを見る機会なんて(協会側の努力のかいあって)なかったし、そもそも‥聖女様はいつも、深くベールをかぶっておられる。
 レースの薄いベールではない。光沢のある白い絹に、金糸の刺繍の入った美しいベールだ。
 聖女様は信者とお話をされることはない。ただ、微笑んで(口元は見える)すっと‥白く美しい手を「病める者」にかざし、聖属性の魔力でもって、傷や病を治療する。
 それだけだ。
 その間、信者は跪いて顔を上げることもない。
「もう大丈夫ですよ」
 と神官が言えば、立ち上がり、お辞儀してその場を立ち去る。
 数分間の夢の様な時間だ。
 
 この通り‥顔も、声も、分からない。勿論のことながら、性格も分からない。
 もしかしたら「これが仕事だし」っていう‥ビジネスライクな人かもしれない。(考えたくもないが。だけど、教会の卒業生もいるんだろうから‥それはあり得るはずだ)
 だけど、聖女様の前に立った時、人は「そんな俗っぽい考え方した自分は何て愚かで醜いんだろう‥聖女様に失礼だろう! そんなこと考えた、自分、死んで詫びろ! 」って反省する。‥反省させられる。そして、聖女様に手を翳されれば「何か清らかになった気がする。病気や傷が治った以上に、何かが生まれ変わった気がする‥」って気になる。「これから、心を入れ替えて頑張ろう‥」って気持ちになる。ぽーって‥なる。
 絶対的な憧れ‥尊敬? 信仰? ええと‥狂愛? 何だろ‥信頼でもないし‥
 兎に角‥
 絶対的loveって気持ち。
 この人の為なら、何でもできます。もし、貴女を守って死ねるなら、それ以上の誉れがあるでしょうか? いえ、あろうはずがありません‥っていう感じの‥「ヤバさ」

 あれは‥使える。

 コリンをその位置までもっていくこと‥それが理想‥。
 一部の男子には‥それは難しい作業じゃない。
 コリンに対して、周りの意見なんて気にせず、好き好き言ってた方々(その中でも一番目立ってたのは、ロナウだった。だけど、ロナウは目立ってはいたけど、害はなかった。目立たなかった「ファン」の方が危険だった。部屋に忍び込んだり、後をつけたり‥。そんな方々は、コリンが社会的制裁を加えたし、学校を退学になったりしたから‥もういない。‥どういう罰だったかは、聞かなかった)
 ‥害はなく、密かに見つめてた‥位の一途なファン。これは‥初めから戦力として使わせてもらうことにしよう。
 だけど‥こういう人たちは、もしかしたら‥「孤高なコリンが好き」っていう‥コアなファンかもしれない。だから、イメージチェンジを図ることによって「‥け、普通の奴に興味はねえ」って離れちゃうかも‥。う~ん。それは‥まあ‥仕方が無いか‥な。
 うん。ヤバい奴予備軍かもしれないし‥離れたら離れたで諦めよう‥。
 そうなんだよな~教祖的ポジションに仕立てあげたら‥そういう「ヤバい信者」が怖いんだよな~。
 理想の「見てるだけで幸せ」を超えて‥「僕の物にならないなら‥いっそ僕の手で殺してしまいたい‥」になっちゃうの‥それは‥こまるんだよね~。
 それが‥聖女とは違うところだ。
 「絶対的に遠いアイドル」聖女と違って、「身近にいるアイドル・コリン」は、恋愛対象になり得る‥。
 もしかしたら‥ワンチャンあるかも?! が‥想像できる。
 
 そもそも、全然違うんだ。
 聖女様は、雲の上のお方‥だから、日常生活なんて「端から想像もしない」恋愛なんて「在り得ない」。
 身近なアイドルは、「(日常生活を想像して)いや、ダメだ。アイドルはトイレとか行かない。いかないで欲しい。‥行くところを見られるべきではない」「恋愛もご法度だ。夢を売るアイドルが、それはあり得ないだろう」って‥いわば‥保護者の様に‥もしくは、製品管理をするように‥監視する‥っていう感じ? 
 で、監視して見つけた(きっと監視しなければ見つけられなかった)アイドルの小さなスキャンダルに対して「アイドル失格だ! 」って強く‥糾弾する。

 身近なアイドルは大変なんだよ‥。

「清廉潔白な暮らしとか‥性格が悪くって、粗野で脳筋なコリンには無理ですわね‥」
 ふう‥とため息をつき‥つい口にした言葉を拾ったコリンが「は? 」と眉を顰める。
「一人で長いこと考え込んだ末‥それって何。もしかして、今までずっと僕の悪口合戦を心の中で繰り広げてたの? (‥ちょっと引くんですけど‥)」
 ‥その、冷めた顔。
 ダメだ、この子にアイドルの資質なんて‥ないわ~。馬鹿なこと考えた‥。
 がくっと疲れるフタバだった。

 コリンには確かにアイドルの資質はない。だけど、フタバも「敏腕プロデューサー」ではないのだ。
 だから、フタバの想像もつかない‥思いもしない展開‥だってあることは‥普通にあり得るんだ。
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